第38話 新米貴族は炎王を下す
炎王の大剣が振り下ろされる。
何度目になるか分からない攻撃のため、癖は概ね掴んでいた。
オレは斜め斬りを紙一重で躱すと、側面から刃に肘打ちを当てる。
結果、大剣は半ばほどで折れて地面に突き刺さった。
「クァッ!」
炎王が短くなった大剣を振るってきたので、オレは前腕で受け止めた。
刃が食い込んで骨に達した瞬間、力を込める。
筋肉による引き締めで斬撃の勢いを殺した。
半ば以上が切断されたが、斬り飛ばされることはなかった。
オレは割れた大剣を見て鼻で笑う。
「軽いな。もっと気合入れろよ」
もう一方の手に握る剣を動かして、炎王の首を裂く。
噴き上がった鮮血がオレの顔にかかった。
高温で皮膚の焼ける痛みが伝わってくる。
それにも構わず、眼前の炎王を見据えた。
自らの血を燃やしながら、ついに炎王は崩れ落ちる。
置き上がる兆しは見られなかった。
腕に食い込んだ大剣を抜いていると、ラトエッダが歩み寄ってくる。
「圧勝だったな。さすがは狂戦士だ」
「当たり前だろうが。こんな野郎に負けるわけがねぇよ」
「大した自信じゃないか」
「ただの事実だ」
ラトエッダの無駄話に応じていると、そばで呻き声がした。
「ぐ、ごぁ……ぁああ」
炎王の声だ。
その身を異能に焼かれながらも、男は立ち上がろうとしていた。
燃える血を流してオレ達を凝視している。
冷静に見返すラトエッダは意外そうに述べる。
「驚いたな。まだ生きていたのか。手加減したのかね」
「してねぇよ。こいつがしぶといだけだ」
舌打ちしたオレは、炎王の顎を蹴って意識を刈り取った。
そのまま殺そうとして、ふと閃く。
(こいつは領地経営で役立つんじゃねぇのか?)
殺したところで大した得はない。
しかし上手く飼い慣らした場合、それなりに有能だろう。
上手く服従させれば、エリスの護衛役にも抜擢できる。
それに炎王が屈服したとなると、領内の各勢力も無視できないだろう。
オレにしては非常に平和的な考えであった。
昔では想像もできなかったに違いない。
エリスが色々と悩む様から少なからず影響を受けているようだ。
それについて不快感は特にない。
今後のための努力だ。
死にかけの男の命を奪ったところで面白味もない。
敗者である炎王にはちょうどいい仕打ちだろう。
「悪くねぇな、うん」
自らの案に納得したオレは、さっそく瀕死の炎王を担ぎ上げた。




