第39話 新米貴族は対話する
薄暗い一室。
酸味のある酒を飲んでいると、そばで呻き声がした。
「ぐぉ、あ……」
「まだ動くなよ。傷が塞がってねぇぞ」
オレはため息混じりに注意する。
暗がりの中、ベッドには大きな人影が横たわっている。
そこにいるのは包帯だらけの炎王だ。
満身創痍で、全身が火傷と裂傷と風穴だらけとなっている。
生きているのが不思議なほどに重傷だ。
炎の異能が彼を生かしているのだろう。
ラトエッダと共に村へ帰還した際、血の汚れを洗い落としたが、その身は出血でまた赤く染まっている。
本来ならしっかりと清潔にすべきだと思うものの、別に死ぬわけでもない。
いちいち取り換えてやるのも気に入らないので放っておいている。
ちなみにラトエッダは村長達に事情を説明をし、引き続き村の発展に従事している。
オレが看病なんて面倒臭い役目を担っているのは、目覚めた炎王を食い止められるからだ。
いくら死にかけとは言え、一般人ではとても敵わない。
拠点となった村を焼き払われては困る。
残念ながらオレが担当するしかないだろう。
「お前は……」
「ルード・ダガン。狂戦士と呼ばれている。よろしく」
オレは酒を置いて名乗る。
「炎王、あんたはオレに負けた。完膚なきまでにな」
「分かって、いる。忘れるはずが、ないだろう」
「そいつは良かった」
オレが皮肉で応じると、炎王の眼力が鋭くなる。
もっとも、知ったことではなかった。
敗北は敗北だ。
その事実をしっかりと突き付けて、反抗心を削がねばならない。
「なぜ、殺さなかった」
「利用価値があると思ったからだ。ロードレスの王なんだろう? どうせなら生かしてこき使った方がいい」
「糞が……」
炎王が忌々しげに毒づく。
しかし、その身体では何もできやしない。
仮に異能を全開にして暴れられたところで、オレなら一瞬で無力化できる。
自殺だって止められるだろう。
つまりここにいるのは、無力な炎男というわけだ。
オレは棚からグラスを取ると、酒を注いでから炎王に手渡した。
「ほら、飲んどけよ」
「…………」
「安心しな。毒なんざ入れてない」
オレは警戒する炎王に言う。
これは決して優しさではない。
無駄なやり取りをすることに辟易してしまったのだ。
酒で黙るのなら安いものである。
炎王は暫し無言で酒を睨み、やがて震える手を動かして受け取った。
酒に罪はない。
美味そうに息を吐く顔がその真理を物語っていた。




