第37話 新米貴族は底を見る
「畜生、がァッ!」
咆哮する炎王が横薙ぎの大剣を叩き込んできた。
近付くだけで焼けそうな一撃だ。
オレは上体を軽く反らして躱そうとする。
大剣が胸を掠めて、骨と肉が断たれる感触が走った。
オレは怯まずに体勢を戻し、その動きを利用して突きに移行する。
伸び上がる一撃が炎王の顎を頬を切り裂いた。
「ぐ、ぬがぁっ!」
怒り狂う炎王が強引な回転斬りを繰り出した。
俺の剣の当たる間合いが気に入らなかったらしい。
肉の剥がれた口元を晒して、血を溢れさせながら睨み付けてくる。
「見つめ合うより戦おうぜ? そんな顔をされたら惚れちまう――」
軽口を叩く最中に炎王が突進してくる。
互いの剣を衝突させながら攻防を展開させていく。
炎王は絶え間ない連撃を繰り返す。
対するオレは危なげなく防御し、或いは一瞬の隙を突いて回避した。
神経を使うやり取りだが、別に難しいことではなかった。
我流の剣術に加えて、優れた身体能力、そこに異能による攻守一体の動きが合わされる炎王は強い。
戦いが長引くほど相手を焼き焦がす特性上、常人ではとても敵わないだろう。
相手が幾千幾万の軍勢だろうと関係ない。
圧倒的な高熱を以てして蹂躙すればいいだけなのだ。
魔術的な防御など意味を為さず、相手の遠距離攻撃を封殺できる。
まさに一騎当千の怪物だった。
王に相応しい強さを持つ男と言えよう。
そんな炎王が劣勢に甘んじている理由は単純だ。
オレがそれ以上に強いからである。
(さすがにこれだけの異能者は珍しいがな……)
炎王の猛攻を受け流しながら、オレはラトエッダを観察する。
遠くに立つあの女は、なぜか携帯してきたワインを楽しんでいた。
なんとも優雅な態度である。
それが様になっているのが余計にむかつく。
演技ではない。
完全に気を抜いているようだった。
自分に被害が及ぶとは考えていないのだろう。
つまりオレの勝利を疑っていない。
舐めた態度は腹立たしいが、ラトエッダの考えは間違っていなかった。
(そろそろ決めるか)
ラトエッダを見て、なんとなく熱意が冷めてきた。
それに飽きも感じている。
炎王の底が見えてしまったのだ。
鍛練次第でまだまだ伸びるが、少なくともこの戦いでは望めない。
戦いを引き延ばしたところで期待には応えないだろう。
満身創痍でも決して諦めない根性は大したものだが、それだけである。




