第36話 新米貴族は圧倒する
オレは片手に握る剣を一閃させた。
振るわれた切っ先が炎王の腹を撫でていく。
「……ッ!?」
炎王が咄嗟に飛び退く。
僅かに鎧が裂けて血が飛ぶも、あれは浅い。
(悪くない反応だ)
常人なら腸を撒き散らしていたところだろう。
炎の異能がどう作用しているか知らないが、反応速度も強化されているらしい。
オレは大剣に割られた片手を見やる。
焼け焦げて炭化寸前だったが、既に再生を始めていた。
傷はすぐに塞がって、指も不自由なく動かせるようになった。
高熱で焼かれたせいか、いつもより心なしか治癒が遅い気もするが誤差の範囲だろう。
満身創痍だろうと平然と動けるのだ。
戦いの上では特に問題ない。
「どうなってやがる! なぜ俺様の炎が効かない!?」
「知るかよ」
炎王の叫びを一蹴したオレは疾走する。
距離を詰めて刺突を繰り出そうとするも、対する炎王の動きは速かった。
「焼け死ねェッ!」
激昂した炎王が同じく突きで対抗してきた。
火炎を散らす一撃だ。
人間どころか魔族すら屠れそうな勢いである。
だがしかし、この"狂戦士"に通じるとは限らない。
「涼しいな。その程度か?」
すれ違うようにして突きを躱し、そのまま踏み込んで刺突を命中させる。
刃は炎王の胸を貫いていた。
柄を捻ると傷が抉られて、鮮血が蒸発しながら体外に噴き出す。
「ぐ、おぉ……っ」
苦痛に呻く炎王が大剣を動かす。
それがオレの肩に載った途端、高熱に焼かれる音が始まった。
赤熱した刃が体内に割り込んでいく。
オレは顔色一つ変えず、炎王を嘲笑した。
「さっきまでの威勢はどうした? もっと根性見せてみろよ」
「この、仮面野郎がァッ!」
炎王が怒りのままに大剣を振り回した。
オレは斬撃を潜り抜けながら退避する。
少し肉を切り飛ばされたがすぐに再生を完了する。
体内を焼き斬られた痕跡は衣服だけとなった。
「ハァ、ハァ……クソ、が……っ!」
炎王が荒い呼吸を大剣を地面に落とし、胸に傷を鷲掴みにする。
手を離すと出血が止まっていた。
傷を焼くことで応急処置を施したらしい。
かなり強引だが、手慣れたやり方に見えた。
(意外としぶといな)
心臓を破壊したはずだが死ぬ気配がなかった。
炎による活性化が要因だろうか。
身体機能が強化されて、並外れた生命力を獲得したようだ。
さすがはロードレスの王である。
これだけ死なない相手は久しぶりだ。
まだまだ楽しめそうだった。




