↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/22

新しい仲間

 

 空を落ちていた。

 目の前に広がる大地がどれほどの高さかを物語っていた。

 次いで気がつく疲弊、僅かに体を動かすだけでも体に打ち付ける空気の壁と相まり、過去経験の無い程の辛さとイメージ通りに体を動かせないもどかしさを感じる。

 耳にはごぅっと風を切る轟音がやけに煩く響く。

 かつて無い程視界を埋め尽す高高度からの景色は絶景ではあるのだが、そんな余裕は微塵もなかった。


 ――右だ。

 

 自らの意思とは別にファラクは自分の体が動いているのを感じる。どこか自分のその行動を遠くから俯瞰するように感じながらもその視線の先を追う。

 

 絶景の大地を見るよりも優先するべき事、その右を向いた視線の先。

 一匹の巨大な物体が己へと向かっている。

 両目を失い。真っ黒な鱗を持ち、はためく翼は自らよりも何倍もの巨大相手だと気付かせる。

 見る間に近づくその巨大な物体――竜はファラク目がけて咆吼を上げ、頭部に備わった鋭利な角をファラクへと突き出し。

 

 ファラクを貫いた。


「――っ」

 

 びくんと体を跳ね起こし。周囲をきょろきょろと見渡す。

 身の内で鳴り響く心臓の音を聞きながら、自らの体を見る。

 至る所にできた傷。腹部には大きな穴が穿かれた跡。

 

 ――そうか、あの戦いの……


 どうやら自分は夢を見ていたらしいと気がつくとはぁ、と大きくため息をつき。周囲を改めて見てみた。

 

 テーブルに供え付けられた僅かな魔光装置が灯火のように辺りを薄暗く照らす。窓に下ろされたブラインドからは光が差さず、今が夜である事を告げる。

 

 ぼうっとしながら現状を確認していると、ぴくりと左手から伝わる感触。それと同時自らの手の平を包む暖かな温もりを感じる。

 みれば青く透き徹るような髪を持った少女がファラクの手を握り、ベッドに突っ伏すような形で椅子に座りながら眠っている。

 

 そっと手を解こうと、右手で彼女の手に触れると、逆にきゅっと手を強く握りしめられた。

 

 解くのは諦めた方がいいかと思っていると、その感触で起こしてしまったのだろう、暖かい手の持ち主は、薄く目を開かせた。

 

 呆けた顔で面をあげ、ファラクと目が会う。


「おはよう、リーゼロッテ」


 今が何時なのかは知らないが、やはり目が覚めた時はそういうのだろうと思い彼女に告げた。

 リーゼロッテはほっとしたのか、

 

「ご主人様……よかった」


 そういって泣きそうな顔をしながらも笑顔を浮かべた。

 安堵したその表情に、ん? と一人何の事か分からず思わず首をかしげたファラクは、彼女の手を握り返しながら答える。

 

「良かったって、何があったんだ?」

「ご主人様はオークション会場で気を失われて三日も眠ったままだったんですよ」


 どこか遠い昔のように感じられる。頭を巡らせてみるも、どうも気を失う前の記憶が飛び飛びで霧がかったように曖昧である。

 

「三日も? 人間そんなに眠るものなんだな」

「お医者様によれば過度の疲労と、回復魔法の使いすぎだろうとの事でした……でもずっと目が覚めなくて……ご主人様がもう目覚めないのかと……」

「あー……身に覚えがありすぎるな。そうか。心配をかけてしまったか」

 

 思えば何度となく回復を行い、まともに貰えば即死に直結しそうな戦いの中、日がな戦い続けていたのだから疲れていても無理はないのだろう。

 回復魔法は瞬時に傷を治す代わりに相応の体力を失う。ファラクの限界を超えてしまっていたのだろう。


 

 ファラクは納得すると共に彼女へと言葉を続けた。


「それでここはどこなんだ?」

「フィレンツェにある奴隷商館の一室です、ご主人様が目覚めるまで置いてくれるとの事です」


「そうか。だいたい分かった。だけど間に合ってよかった。これでお前も自由になれるな、これからは――」

「ご主人様」


 リーゼロッテに強く遮られ、ファラクは言葉を止める。

 何か言い淀むかのように一心にリーゼロッテは見つめてくる。


「どうしたんだ?」

「――すこし……待ってください」

 

 暫く待っていると、リーゼロッテはやがて決心するかのように面を上げ自ら着ている服に手を掛ける。

 

 二人の居る空間に衣擦れ音だけが響く。

 

 テーブルに置かれた魔光装置だけの照明が、服を脱いだリーゼロッテをうっすらと照らし出す。

 すらりと伸びる長い手足、真っ白できめ細やかな肌にファラクは息を呑むのを忘れて彼女に魅入られていた。


 リーゼロッテは髪留めに手を掛け、透き徹る髪を下ろす。

 ぱさりとその長く透き徹るかのような青い髪が胸元まで降りる。

 リーゼロッテの体を隠すものは最早下着のみであった。

 人となってあまり時間の経っていないファラクだったが、男として求める本能か、リーゼロッテの持つ女性としての美にファラクは目を奪われる。


 やがて俯き羞恥に染まる顔を上げ、リーゼロッテは両手を腹部の下で組み合わせもじもじとしながらも言葉を発した。 

 

「あ……あの……」

「……ん? あ……あぁ……なんだ?」 


 魂が抜けたかのように、彼女を見つめていたファラクははっとしたように彼女の呼びかけに応える。

 男とは違う、柔らかで艶のある体。量感のある二つの膨らみ、それでいてほっそりとした腕や足、腰回り。それら全てが彼女と言う美を作り上げていた。角や彼女の背後から伸びる尾があろうとも、同じ人型種族である彼女から目を離せないでいた。

 

「わ、私は……リゼはご主人様の物になりたいです。もし、もしご主人様が許してくださるなら……一生ご主人様の元で傍にいさせてもらないでしょうか? リゼの全てをご主人様に貰って欲しいです!」

 

 顔を赤く染め上げながら、リーゼロッテは懇願するかのように言う、緊張しているのか、どこか早口で告げる彼女の言葉を聞くファラクはまだその意味が理解できていないでいた。だが、何故か初めて見た時と全く違うその態度にようやく気付き、不思議に思いながらも、だがしかし彼女が傍に居たいという意思をファラクは呑む。


「ああ、良いぞ。傍に居ればいい」

「……嬉しいです」

 

 そういってリーゼロッテはベッドに上がりファラクはぎゅっと抱きしめられる。

 リーゼロッテの体温が直接ファラクを包み込み、女性特有の甘い匂いがファラクの鼻腔をくすぐる。

 僅かに脳髄が痺れるような、得も知れぬ感覚に襲われながらファラクは抱き返す。


 

 この後ファラクは、男女の仲について、自らの知識不足を嘆く事となる。 



 

 

 ブラインドから差し込む朝日が、うっすらと部屋の中を明るくしだした頃、自らの腕の中で眠るリーゼロッテをファラクは見ていた。

 得も知れぬ本能か、肌を重ねた彼女に昨日までよりも執着する自分に気がつく。

 

 ふと、彼女の髪に触れ、撫でてみる。

 リーゼロッテは薄く目を開け、ファラクを見上げると頬笑む。

 初めてあった時には考えられない程緊張を解き、幸せそうな顔だった。

 

「……ご主人様」


 ぎゅっと抱きしめられ、胸に顔を埋めるとリーゼロッテは声を漏す。

 

「どうした?」

 

 優しく柔らかな口調になっている事にファラクは気付いていない。

  

「昔の夢を見ていました、竜人の里で家族と一緒にいた頃の夢……」

「戻りたいのか?」

「前までは凄く……でももう里も無くなってしまっていますから戻りたくても戻れないんです……それに今はご主人様がいますから、傍に居てもいいって言って貰えましたから……」

 

「そうか」

「はい、これで私も……あっ!」


 何か思い出したかのようにリーゼロッテが声を上げると、毛布で自分の体を隠しながら身を起こしとそっと右手をファラクの手と絡める。


「あの、私の手に魔力を流して貰えるでしょうか?」

 

 言われたままに魔力を流す。リーゼロッテの手に刻まれた魔紋が淡く光りを放ち、やがて収まる。


 じっとその紋をリーゼロッテは見ると、きりっと表情を引き締め、ファラクを見る。

 

「これで、私……リーゼロッテはご主人様の奴隷になりました。これより私の全てはご主人様の物です。ご主人様の命の危機あれば、私が代わりにその命を差し出しましょう。ご主人様が行くのなら、どんな場所にでもお供いたしましょう。いつ如何なる時も私はご主人様の為に生き、ご主人様の為にこの命を使います」

 

 酷く重たい内容に、ファラクは一瞬ぽかんとすると、苦笑交じりにリーゼロッテの頭に手を置きがしがしとやや乱暴に撫でる。

 

「も……もう何するんですかご主人様」


 すこし拗ねるように口を尖らせるリーゼロッテを見て笑みを深める。


「気負いすぎだ。そんなご大層な誓いなんていらん、それよりも」

「それよりも……?」


 ぎゅるるぅと腹の虫が訴える。


「腹が減った。戻って飯を食おう」

 

 そう告げたファラクの顔はいつも通りののんびりした顔だった。


 

 館で寝かせて貰った礼を奴隷商の男に礼を告げると、ファラクは魔法陣を描くとリーゼロッテを連れてプロメシアに戻った。

 ぼろぼろになった服の代えで奴隷が着る服を借りていたのだが、リーゼロッテが主人にそのようなお召し物は……というので先にギルドへと戻った。

 その間、転移まで使えるのかとリーゼロッテが目を丸くしたが、「私のご主人様はやっぱりすごい」とぼそぼそとファラクに聞えない声で呟いていた。

 

 早朝のその時間まだエヴァンもシンディ、マリーもおらず、ファラクはいそいそと着替えるとキッチンへと向かう。

 

 じゅーじゅーと肉の焼ける匂いが香ばしく、空いた腹に刺激を受け思わず涎がでそうになる。

 

「あ! ご主人様もうすぐできますよ」

 

 そう呼べる事が嬉しいのか、リーゼロッテの言葉の隅々から喜びが感じられる。


「……服を買いにいかないとな――」

 

 とファラクはそんな事を言う。

 リーゼロッテが今着ている服はドレスではない、動きにくいからと希望され服を渡し、彼女が着た服。

 

 ファラクは女性物の服など持っている訳では勿論なかった。

 

 ぶかぶかであった。

 リーゼロッテの着るファラクのシャツ。

 女性としては長身の彼女ではあったが、シャツ一枚で太腿の下辺りまで隠れてはいるが健康的なむき出しの太腿に、丈幅が合っておらず片方にずれ、むき出しになった肩と鎖骨、なにやら倒錯的な魅力を感じ――とどのつまりは目の毒であった。


「今日は服も買いに行こう……聞いてるか?」

「……え? あ、はい分かりましたご主人様」


 ふむ、とリーゼロッテを見ながら告げたのだが、なにやらリーゼロッテはおたおた慌てながら応えてくる。『匂いが』とかなんとか良いながら顔を赤くしているが、何の事か分からないファラクはそのまま流した。腹が減っていたのだ。

 

 リーゼロッテは眩しい程の笑顔に上機嫌なのか時折歌など口ずさみながら料理を作ると食卓にならべる。

 朝から肉を用意して貰ったのはファラクの希望だ。

 通常なら朝から重たく、三日も眠っていた胃であれば普通なら受け付けないのだろうが、ファラクの体はこれでもかと言う程肉を求めていた


 一口食べる。

 その一口で、自らの体に活力が体中へと行き渡る。

 栄養という名の波が全身に行き渡るように感じる。戦いと無理な回復魔法に由り限界まで酷使した体が待ちに待った補給だと歓喜に震えたのか、

 その渇望が与える美味に無自覚にファラクは体の動きを止め茫然としていた。

 

「どうしましたか、もしかしてお口に合いませんでしたか?」

 

 ファラクは首を振って否定すると彼女に応える。

 

「いや、美味い。自分はこれほど飢えていたのかと気がついただけだ」


 美味いと言われ。リーゼロッテの顔がぱぁっと華が開くかのように笑顔になる。

 

「ああ、それよりもリーゼロッテは食べたのか? まだなら一緒に食べよう」

「主人と一緒に食べる訳にはいきませんから」

「言っただろ? 皆で食べる方が飯は美味い」

 

 すこし難色を示したが、ファラクが何度も言うと、諦めたのかリーゼロッテが正面に料理を運び、二人で食べた。

 

 美味い美味いと瞬く間に料理を胃袋に納めてめていくファラクを見てリーゼロッテは慈愛の籠もった目でファラクを見る。何度もお替わりを求め、いつしか優に10人前はあろうかと言う量を食べ尽くすとファラクはようやく食べる事を止めた。これにはリーゼロッテもしばし唖然としていたが。

 

 やがて、食事が終わり、リーゼロッテに入れて貰った茶を飲んでいると、

 

「ファラクさん……戻ってまし――」

 

 食事を終えたファラクにエヴァンが調理場へとはいってくる声をかけてきたのだが、リーゼロッテを見ると目をぱちくりさせ、ファラクを見る。

 

「その女性の服装はファラクさんの趣味で?」

「? 何がだ?」

「い……いえ、まぁですが……そうですかファラクさんはそういうのが趣味な人だったのですね」

「だから何がだ?」

「いえいえ、いいんです分かっていますよ。世の中にはメイド服を着せるのに執着するものもいますから」


 主に眼鏡を掛けた目の前の男の事であったが……一人で自己完結しているエヴァンに先を促した。突っ込めば深みにはまるような気がしたからだ。

 

「それで、用事は?」

「ああ、そうでした、用事は? ではないでしょう……もう。暫く見ませんでしたけど、ホールのあれについて聞かせてください」


「ああ、あれな。今いく」


 呼ばれ、調理場から出るとリーゼロッテもすぐ後ろで控えると言った形でついてくる。


 ホールへと出るとファラクの目の前にはエヴァン、シンディ、マリーが居た。いつものメンツだ。そしてエヴァン達はホールの一室に無造作に置かれているそれを見詰めている。


 ホールの一室に一際存在感を放つそれがあるのだから気になるのは無理なかったのだろう。


 マリーは一度後ろに立つリーゼロッテとその服装を見て驚いたようだが、すぐに気を取り直した、ホールに置かれたそれの方が気になったのだろう。


「ファラク、この素材と魔石は?」

 

 マリーが率先して口を開いた。

 ホールの一室を陣取っているそれを指さして。


 黒い鱗。白い牙、角。そして通常とは一線を画する巨大な黒魔石であった。


 金を作る為8割ほど目減りしたのだがそれでもまだいくらか残っているそれを見付けてしまったのか。いや、まぁ目立っていたから見付かって当然なのだが。


「タイラントの素材と魔石だ」


 しんとその場が静まり返った。


「ファ……ファラクサン……モウイチド……」


 エヴァンが我が耳を疑うかのように言う。


「だから、タイラントの素材と魔石だ」


 またもや訪れる静寂。

 

 エヴァン。口が開きっぱなしだ。涎がでるぞ。

 マリー。なんだやれやれと何故呆れる?

 シンディ。笑顔でぺたぺたと鱗に触れているが楽しいのか?

 リーゼロッテ。顔が赤いぞ。何故もじもじする?


 それぞれの反応に頭の中で感想を述べてるとマリーが口を開いた。


「ちょっと話を詳しく聴かせなさい」


 怒っている、これはかなり怒っているようだ。

 今回の事はギルドとは関係がないからと連絡をしなかったのが悪かったようだ。

 

 ファラクは順を追って説明した、リーゼロッテとの出会いから、タイラントを討伐に乗り出した事までをざっくりと説明する。


(ん? 何か忘れているような?)


 だがさっくりと頭のなかから流れた。

 ファラクは懸賞金を未だ受け取っていない。リーゼロッテを競り落とした代金はタイラントの鱗や牙を売りさばいて作った金だ、かなりの量になり驚かれたが、何店舗も回ればなんとか金策は可能だった。懸賞金はファラクがギルドに戻った時にエヴァンが居なかった為処理ができなかった為だ、またファラクは知らないが賞金を受け取るには所定の手続がいり、待っていれば間に合わなかっただろう。


「それは……大変な事をしましたね」

「何がだ?」


 ファラクは何か拙かったのか分からずエヴァンへと問い返す。


「タイラント討伐を一人でやった事が問題です」

「それの何が問題になる?」

「長年討伐されなかった凶悪な魔物を一人で打ち倒した、なるほど名誉なことですし一躍有名になるでしょう」

「それで?」


 エヴァンの言葉をマリーが引き継いだ。


「有名になりすぎるのよ、名前も知らないぽっと出のギルドからそんな事を為したものが現れれば……」



「これからファラクを引き抜こうとする者が引く手あまたになるわ、もし場合によってはギルドに取引を持ち掛けてくるような所も出てくるし、最悪脅してくる所だって現れるかも知れない」


 特に貴族は警戒すべきであった。彼等の一部は執拗だ。自分の家に引き入れようと躍起になるかもしれない。アリシアを助ける点だけを見れば有名になるのはいいが、ギルドの現状から言えばいただけない、二年を掛けてゆっくりと事を進めるつもりだったのだから。


「なら賞金の受取はしないと言うことにするのはどうなんだ?」

「ええ、出来る事はそれくらいでしょうか。素材を売り払った後では時間の問題かもしれませんが国を通さない方がいいでしょう」


「そうね、後はなんとか売り払った商会に根回しができるか……ファラク、素材を売った商会は分かる?」


 一つ一つ、ファラクは売った店を答える。幸いにして取り締まっている元締めは同様らしくそこだけに根回しをすれば済むと言うことだった。


「後は残った素材ね。さすがにこれ以上売りさばく訳にはいかないわね」

「お金は欲しいですけどね……」


 守銭奴のエヴァンはずり下がった眼鏡を正すと僅かに瞳が光る。


「そうね……」


 じっとファラクを見るとマリーが決心したかのようにファラクに尋ねてくる。


「ファラクは武器を失ったのよね?」

「あぁ、折れた」


「じゃあこの残った素材はファラクの武器を作るのに使いましょう。もし余ったら何処かで大切に保管して使う機会があるまで隠しておくのがいいかもね」


「そうですね……それがいいですね」


 残念そうな声なのはその場の者は気付いていた。が、誰も言わない。


「さて、大事な話も終わったし、それじゃあ……」


 ファラクのすぐ後ろで佇むリーゼロッテに視線を送るマリーが彼女に向きなおる。


「マリーよ、今の所ファラクとペアを組んでいるわ」

「リーゼロッテです。魔人ですか」


 ファラクと話していた声とはまるで違う。冷淡な声で答えるリーゼロッテ。


「マリーよ」

「人とはなれ合うつもりはありません」

「ちょ……ファラクも人でしょ」

「ご主人様は別です。それと――私のご主人様を呼び捨てにするな」


 かっと目を見開くマリーに冷徹な目を細めて視線が交錯する。


「け……けんかはっめなの」


 とシンディが二人の険悪なムードにぴょこぴょこと二人を窘める。マリーが視線を逸らし、リーゼロッテは目を瞑る。

 二人を見て目を丸くしていたファラクが気を取り直してリーゼロッテに告げた。


「リーゼロッテ、マリーは俺の仲間だ、俺がこっちに来てから最初に良くしてくれた者だ。喧嘩はしてほしくない、それとここは俺の所属するギルドだ、だからせめてギルドにいる者達には優しくしてくれないか?」


「も……申し訳ありませんご主人様……」


 余りにも激しい変化だった。ファラクの言葉を聞いたリーゼロッテは狼狽し捨てられた犬のように泣きそうな顔で何度も頭を下げる。


「マ……マリー様……失礼を」


 謝るリーゼロッテを見ながらマリーがやれやれとため息をつく。

 悪い子ではない、ただ人に襲われ、人(ファラク)に助けられた。

 その結果がこれなのだろうと。

 真っ直ぐに感情を表してくれるだけましだろうと、マリーは彼女に向き直る。


「呼び捨てでいいわ。ファラクの奴隷かもしれないけど私達に上下はないでしょう」


「あ……ありがとうございます、マリー」


 うんうんとシンディが微笑み、新たな仲間を祝う。

 因みに奴隷であってもギルドには入れる。主人の許可はいるが。そうしてリーゼロッテはギルドの登録を済ませる。カードは奴隷商人に手渡されている。因みに彼女のカードには金銭のストック機能が付いていない、奴隷専用のカードである。


 リーゼロッテの魔石の色は白、魔石を吸収した事はなかったが、平均が黄-と竜人の潜在ステータスの高さが覗えた。


「さて、リーゼロッテの登録も終えたし、出掛けるか」

「どこへ行くの?」

「服と……家を見に行くつもりだ、リーゼロッテがいる今、ギルドに仮住まいとは行かないだろう?」


 ファラクが寝床に使っている医務室にあるベッドは一つだけだ、それで無くとも最低限の衣食住を提供すること。そう奴隷商人から説明されていた。


 幸いにして、タイラントの素材を売り払ったお金は未だあまりがあった、家を手に入れることは必須であった。


「そうね、それじゃあ鍛冶屋に行くのは明日にしましょう。明日の朝、ギルドで」


 マリーに頷き、ファラクリーゼロッテを連れてギルドを後にした。

 後ろに付き従う形で歩くリーゼロッテを見てみる。外に出るため、再びドレスを着たリーゼロッテは押し黙ったままだが、ほんの少しだけ口元が緩んでいる。

 

 エヴァンに教わった不動産を扱う店へと進み、店の者と話し家を決める。

 ファラクとしてはあまり家に拘るつもりも無く、二人で住める家とギルドから近い家との条件で特に見も為ずに決めてしまった。


 すぐさま転移でギルドへと戻ると、荷物を運び込む。


 

 荷物を運び込み、再び外へと出るでると服屋へと足を運んだ。


 店へと入り店員にリーゼロッテの服を買う事を告げ、女性服の方へと案内して貰った。店員はなぜか少し驚いた顔をするも。営業用の顔へと戻る。


「あの、ご主人様……?」


 自らに着せられた服をきながら、何度も目瞬きをしたリーゼロッテは戸惑いながら尋ねてきた。


「なんだ?」

「あの……よろしいのですか?」

「何についてなのか分からん」

「いえ、私はご主人様の奴隷でこんなに上等な服を買って頂く訳には……」


 ミニスカートにチューブトップを着たリーゼロっテがもじもじと恥ずかしそうにしている。


「服は必要だしな。必要な分を買っておけ、それより。そんなに露出が多くて寒くないのか?」


 肩も足も丸出しなのだ。ファラクからすればそんな布で覆う部分が狭くて大丈夫なのかと思ってしまう。


「竜人は気候の変化に強いんです。それとこの尾と翼を生やす事を考えると大体こういう格好になるんです」

「そうか、まぁ俺も露出が多い方が好きみたいだからいいさ」


 実に素直な男であった。長身で切れ長の目。一目見て美人だと分かるリーゼロッテに周りの男達はちらちら見ている。主にその双丘をだが。

 普通であれば『ちらちら』程度であるが、ファラクはガン見だ。


 むしろファラクからすれば見たいものを見るのが何故悪い? とじっと視線が動いていないのだ。リーゼロッテが恥ずかしがっているのはそれが原因であった。

 そのままリーゼロッテの服をいくつか買い。当座必要な買い物をすませ、家へと戻ると頃には既に日が傾いていた。

 リーゼロッテが料理を作ると張り切り嬉々として厨房に立つ。


 そんな様子を見てファラクは不思議に思う。

 当初リーゼロッテと出合った時の態度、オークション会場からの彼女の態度、そしてファラク以外に対する者への態度。

 普段は、ファラクの後ろに付き従い表情を変えないのだが、家へと戻った途端眩しいくらいの笑顔になり、顔付きも幼くなる。

 

 人によってそこまで態度が変る様にファラクは面白いと捉え、一緒に暮らすリーゼロッテを歓迎する事にした。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。