第九節:伍の解散だ
かつて自分に鞭を振るわれ、奴隷同然に扱われていた俺が、今では大勢の人間を従えている。その姿を見る黄皮の目には、隠そうともしない嫉妬と悪意が燃えていた。
最初の数日、あいつは顔良将軍のことを思い出し、俺に対して多少の遠慮があったのかもしれない。
だが、何日たっても顔良将軍から俺を訪ねてくる者はなく、褒賞が届くこともなかった。
すると黄皮は、俺に対する遠慮をすっかり捨て去り、職場での嫌がらせを始めた。
最も重労働で、最も臭く、死体が最も多く転がっている戦場の中心部を、何が何でも俺たちの伍に押しつけてくる。毎日の食糧配給でも、俺たち五、六十人分の食事をわざと減らすようになった。
「おやおや、龍伍長。ずいぶん大勢を集めているじゃないか。謀反でも企んでいるのか? それとも山賊の頭領にでもなったつもりか?」
その日の早朝、俺は五、六十人の、名目上は同じ部隊に属する仲間たちを集め、兵舎の裏で話し合いをしていた。
そこへ黄皮が数人の従兵を連れ、嘲笑を浮かべながら近づいてきた。
その言葉はあまりにも下劣だった。まるで汚物の塊を、次々と頭に投げつけられているような気分だった。
俺は拳を強く握りしめ、胸の奥から湧き上がる怒りを必死に抑えた。
今はまだ、すべてをぶち壊すときではない。耐えなければならない。そう自分に言い聞かせる。
だが、黄皮の挑発は、すでに制御できないところまで転がり始めていた。
権力を手にした人間の傲慢さは、古今東西、変わらないものらしい。
「龍、お前はたかが五人を預かるだけのクズだろう。それが今では、どこの馬の骨とも知れない連中を周りに集めている。身の程をわきまえろ!」
言い終わるや否や、黄皮は一歩踏み込み、手にしていた見慣れた鞭を振り上げた。
風を切る音とともに、鞭が俺の顔めがけて容赦なく振り下ろされる。
前世でも今世でも、屈辱の象徴だったあの鞭を見た瞬間、俺の理性は怒りで焼き切れそうになった。
今すぐ、あの醜い顔面に拳を叩き込み、歯という歯をへし折ってやりたい。
だが、右拳を振り上げようとした、その瞬間だった。
心臓が激しく脈打ち、現代の平凡な人間として身についた本能的な恐怖とためらいが、俺の体を引き止めた。
ここは三国志の時代だ。人を殺しても罪に問われないことさえある、封建時代の軍営なのだ。
今ここで反撃すれば、黄皮は兵変や謀反の罪をでっち上げ、俺をその場で斬り殺すことだってできる。
俺は怒りと屈辱をのみ込み、反射的に腕を上げて鞭を受け止めた。
鋭い痛みが走る。腕には赤く血のにじむ一筋の傷が刻まれていた。
俺が反撃しないと分かると、黄皮はますます調子に乗った。
何度か罵声を浴びせたあと、醜悪な笑みを浮かべて言い放った。
「今日から、お前の周りにいる五、六十人は全員解散だ! 鉄牛は第一隊に回して前線勤務。顧墨は夜の汲み取り仕事にでも行かせろ。お前は……姓が陳のあのクソ野郎と一緒に、また死体の山を這い回っていろ!」
解散だと?
この五、六十人は、俺が生き延びるための大切な元手だ。この地獄のような場所で、ようやく見つけた唯一の生きる道なのだ。
「そんなことは認められない! 軍中の規則に反している!」
俺はとうとう我慢できず、一歩前に出て黄皮を睨みつけた。
そのまま激しい口論になった。
隣では穆鉄牛が刀の柄に手をかけている。両陣営の間に、今にも血が流れそうな緊張が走った。
「ダダダダッ!」
まさに双方が衝突しようとした、そのときだった。
遠くから、幾重にも重なる馬蹄の音が響いてきた。
数十頭もの大きな軍馬が、朝霧を踏み砕きながら、ゆっくりとこちらへ向かってくる。漂ってくるのは、戦場から運ばれてきたばかりのような、むせ返るほど濃い血の匂いだった。
軍勢の先頭では、一面の黒い軍旗が高々と翻っていた。
そこには、力強い筆致で大きく一文字――
「顔」
と記されている。
馬上にいるのは、一人の巨漢だった。
重傷がまだ癒えていないのか、顔色は青白く、いくらか憔悴している。それでも手綱を引き締め、馬上からこちらを見下ろしたとき、その目には、かつて幾多の名将を討ち取った猛将ならではの荒々しい威圧感が宿っていた。
死山血海をくぐり抜けてきた、河北屈指の戦神の風格。
今はまだ本調子ではなく、軍中での立場も失っているとはいえ、鉄塔のような巨体と、背後に控える歴戦の騎兵たちが放つ圧力は凄まじかった。
その場にいた誰もが、息をすることさえ忘れたかのように立ち尽くしていた。
「朝っぱらから何を騒いでいる! 大勢で集まって騒ぎ立てるとは、軍棍でも食らいたいのか!」
顔良の声はかすれていたが、腹の底に響く雷鳴のような迫力があった。
つい先ほどまで、あれほど傲慢に振る舞っていた黄皮の顔から、たちまち血の気が引いた。
そして次の瞬間、黄皮はその場に膝をつき、額を地面にこすりつけるようにして、何度も何度も頭を下げた。




