伍長の天幕
たった五人を率いるだけの下級伍長とはいえ、ようやく自分専用の天幕を手に入れた。
天幕はひどく簡素で、中には最低限の生活用品が置かれているだけだった。何より不満なのは、便器すら備え付けられていないことだ。
聞けば、もう一階級上の小隊長になれば、便器付きの天幕を与えられるらしい。
まったく、人と比べ始めたらきりがない。
とはいえ、いつ命を落とすかも分からないこの乱世で、他人と一緒に寝起きしなくて済む場所を手に入れただけでも、十分に恵まれている方だろう。欲をかきすぎても仕方がない。今はこれで満足しておこう。
伍長は軍の中でも最下級の役職だが、それでも正式な身分を得たことに変わりはない。五人の兵士を預かり、普段の遺体運搬や戦場の整理についても、ある程度は自分の判断で動けるようになった。
今の俺にとっては、このわずかな権限だけでも、以前よりずっと暮らしやすくなる。
そして、伍長に任命されて最初にしたことは、老陳を自分の配下に引き入れることだった。
考えてみれば、老陳は以前、俺がひどい目に遭っていたときには冷ややかに傍観していたものの、その後は何かと力を貸してくれた。今回、顔良将軍を救い出す際にも、彼なりに働いてくれた一人だ。
天幕の中で、老陳は俺の手にある伍長の軍牌を眺めていた。その態度は、以前とはすっかり変わっている。
「頭領……いや、これからは伍長殿とお呼びした方がいいですかね」
老陳は両手をこすり合わせ、愛想のいい笑みを浮かべた。
「いやあ、あんたは本当に大したもんだ。顔良将軍にまで恩を売って、大隊長の徐進様にも目をかけてもらえるとは。俺もようやく、ついていく相手を間違えなかったと思えますよ」
「お世辞はいい」
俺は新しく支給された佩刀を脇に置き、何でもないような顔をした。
「俺についてくるなら、余計なことは言わず、黙って働け。面倒を起こさなければ、食いっぱぐれることはない」
「もちろんです! 頭領が東へ行けと言えば東へ、西へ行けと言えば西へ行きますよ」
老陳は威勢よく答えた。
ところが、すぐに不満そうな顔になった。
「ただ……上の連中も、ずいぶんとけちですよね」
「どういう意味だ?」
「俺はてっきり、自分も伍長くらいにはなれると思っていましたよ。頭領なら、少なくとも小隊長くらいには昇進するものだと。ところが、結局は伍長止まり。しかも、相変わらず遺体運びのようなきつい仕事を続けさせられるんですから」
それを聞いて、俺は思わず太ももを叩いた。
「まああー!」
言われてみれば、その通りだ。昇進した喜びも、今の一言で半分ほど吹き飛んでしまった。
とはいえ、不満を並べていても仕方がない。今の俺にとって何より大切なのは、どうすれば少しでも長く生き延びられるかということだった。
俺一人の力だけでは、この場所でどうにもならないことは分かっている。
数日後、俺は与えられた役目を利用して、軍の中で見捨てられている者たちに目を向け始めた。
戦死者を運ぶ仕事をしていると、戦場には実にさまざまな人間がいることが分かる。まだ息があるのに、傷が重いというだけで死体同然に扱われ、片隅に放置されている負傷兵もいた。体格がよく力もあるのに、上官に取り入るのが下手なため、誰よりもきつい仕事ばかり押しつけられている兵士もいた。
俺にできることは、たいしたことではない。
人目につかないところで、まだ助かりそうな者に水や食べ物を少し分け与えたり、一時的に休める場所を探してやったりする程度だった。
そんな中で出会ったのが、穆鉄牛という男だった。
北方出身の大男で、背が高く、肩幅も広い。見るからに頑丈そうで、並外れた腕力の持ち主だった。
ただ、少し前にひどい傷を負い、戦場に倒れていたところを、危うく死体として埋められるところだったらしい。
俺がまだ息をしていることに気づき、老陳に手伝わせて風を避けられる場所まで運び、何とか傷の手当てをした。
この男、なかなかしぶとい。数日もすると、どうにか持ち直してきた。
「命を救ってもらった恩、俺、穆鉄牛は決して忘れません!」
目を覚ました彼は、最初にそう言って、傷だらけの体を起こし、俺に頭を下げようとした。
「いいから、いいから。まだ傷が治っていないんだ。無理に動くな」
その実直そうな様子を見て、俺は思わず苦笑した。
「それにしても、そんな大きな体をして、どうしてこんな傷を負ったんだ?」
「そ、それは……うっかり何度か斬られちまったんです」
彼は照れくさそうに頭をかいた。
俺は改めて、彼の体つきを眺めた。動きは少々ぎこちないが、骨格は太く、両腕には相当な力がありそうだ。きちんと鍛え、体に合った武器を持たせれば、いずれは一角の猛将になれるかもしれない。
もっとも、今すぐそこまで考える必要はない。
少なくとも、俺のそばに力自慢の男が一人増えた。それだけでも心強かった。
もう一人、思いがけない人物との出会いがあった。顧墨という男だ。
彼はもともと軍中で兵員の登録や名簿の整理を担当していたらしい。ところが、上層部の不正を隠すことに協力しなかったため、ある軍官の恨みを買い、最後には収尸隊へ左遷されたという。
初めて会ったときの印象は、正直あまりよくなかった。
痩せていて、口数も少ない。いつも何かを気にしているような、落ち着かない様子だった。
ところが、何気なく軍中の兵員や物資の登録方法について尋ねてみると、彼は驚くほど詳しく説明してくれた。
「以前は名簿を管理していたのか?」
「ええ。余計なことを正直に話したばかりに、こんなところへ回されましたがね」
彼は苦笑した。
「この軍の帳簿は、表向きはきちんと整っているように見えますが、実際には……」
そこまで話したところで、彼は急に口を閉ざし、周囲を警戒するように見回した。
俺はそれ以上追及せず、ただ頷いた。
なるほど。この男、どうやらいろいろと知っているらしい。
今すぐ何か大きなことを始めるつもりはなかった。とにかく、信頼できる人間を少しずつ増やし、この軍営の中で孤立しないようにしたかった。
老陳は戦場を知っている。穆鉄牛は力が強い。顧墨は名簿や帳簿に詳しい。
それ以外にも、少しずつ仲間が増えていった。
俺が戦場から助け出した者もいれば、老陳が紹介してくれた者もいた。中には、行く当てもなく、せめて食い扶持だけでも得ようと、俺たちのところへやって来た者もいた。
名目上、俺は相変わらず一介の伍長にすぎない。正式な配下の人数も、それほど増えたわけではなかった。
しかし、いつの間にか、俺の指示を聞き、俺たちと一緒に動く者は五、六十人にまで増えていた。
その中には負傷兵もいれば、古参兵もいる。軍中で冷遇され、行き場を失った兵士たちも少なくなかった。
全員が戦えるわけではないし、精鋭と呼べるような者たちでもない。
それでも、少なくとも彼らは生きている。
今の俺にとって、それは十分に大きな財産だった。
天幕の外で忙しそうに動き回る彼らの姿を眺めながら、俺は初めて、これまでとは少し違う確かな手応えを感じていた。




