第七節 収尸兵から伍長へ
一刻も無駄にはできなかった。
徐進大隊長と俺は協力して、顔良をあの古びた手押し一輪車に乗せた。
曹操軍の遊騎兵や、袁紹軍内部の他の派閥に余計なことを勘繰られないよう、徐進大隊長自ら馬を引いて車の横についた。俺と老陳が一輪車を押し、黄皮や徐進の護衛兵たちも、顔良がまだすぐには死にそうにないと分かると、次々とその周囲に集まってきた。
俺たちは人目につかない裏道を選び、敵の斥候を避けながら、いくつもの関門を通り抜けた。
途中、何度も冷や汗をかく場面があったが、どうにか難所を乗り越え、ようやく袁紹軍の中でも最も警備の厳しい本陣へとたどり着いた。
ところが、陣内の雰囲気は、俺たちが想像していたものとはまるで違っていた。
顔良が生きて帰ってきたのだから、少しくらいは歓迎されるものと思っていた。しかし、そこに漂っていたのは、祝いの空気どころか、肌を刺すような冷たさだった。
白馬の戦いに続き、延津でも大敗を喫したことで、袁紹はすっかり余裕を失っていた。かつての威厳も、名門袁家の当主としての度量も、今では見る影もない。
本陣の大幕が開かれると、袁紹は血まみれになり、もはや半身不随に近い状態となったかつての寵将、顔良を冷ややかに見下ろした。
その顔には、九死に一生を得て帰還した部下を迎える喜びなど、微塵もなかった。
あるのは、冷淡さと嫌悪感だけだった。
「大将軍ともあろう者が、兵を失い、将を失い、挙げ句の果てにはそのような無様な姿で戻ってくるとはな! お前の先鋒軍はすでに潰走した。それなのに、お前だけは生きて帰ってきたというわけか。天下の者たちに、我が袁本初を笑いものにさせるつもりか!」
袁紹の冷たい言葉が、鈍い刃物のように顔良の胸に突き刺さった。
大柄な男は、歯を食いしばったまま何も言わなかった。
握り締めた拳は、関節が白くなるほど力が込められていた。しかし、しばらくすると、その拳から力が抜け、彼は無言のまま手を下ろした。
袁家の大業のため、最前線で血を流し、命を懸けて戦ってきた。
その結果が、主君からの労いどころか、冷遇と侮蔑なのか。
顔良の胸中を思うと、さすがに気の毒になった。
前世で、責任を部下に押しつける無能な上司を嫌というほど見てきた俺は、心の中で冷笑した。
やはり袁紹という男は、この程度の器だったか。
こんな度量の狭さでは、官渡の戦いで敗れるのも当然だろう。いずれは自らの判断と人を見る目のなさによって、身を滅ぼすことになるに違いない。
袁紹はしばらく顔良を睨みつけていたが、やがて背を向け、郭図と審配を呼び寄せて何やら小声で話し始めた。
二人と何度か言葉を交わした後、袁紹は面倒くさそうに手を振った。
「もうよい。自分の粗末な兵舎に戻って、傷でも治しておけ。くれぐれも本陣の中で死ぬなよ。不吉でかなわん」
それが、かつて袁紹軍の先鋒を任されていた猛将に対する、主君からの言葉だった。
顔良が大幕の外へ運び出されるとき、彼は周囲の人間を一人ずつ見渡した。
そして最後に、その目が俺のところで止まった。
かつての傲慢さも、将軍としての威圧感も、そこにはもうなかった。
残っていたのは、深い絶望と冷たい諦めだった。
しかし、その眼差しの奥には、ほんのわずかな信頼と頼るような気持ちも感じられた。
長年忠誠を尽くしてきた主君に見捨てられた今、彼にも分かったのだろう。
この巨大で、虚飾に満ちた袁紹軍の中で、自分の命を本当に一つの命として扱ってくれたのは、最も卑しい身分の収尸兵である俺だけだったということを。
顔良のそばを離れる前に、俺は懐にしまっていた三七や艾葉などの薬草を、まとめて彼の担架の中に押し込んだ。
どこまで効果があるかは分からない。
それでも、何もしないよりはましだろう。
せめて、少しでも痛みが和らいでくれればいい。
その後、俺たちの働きは思いがけない形で報われることになった。
「顔良将軍救援」の功績を認められた徐進大隊長は、昇進を果たし、「折衝校尉」の称号を授けられた。さらに、全軍の収尸部隊を統括する千人長に任命されたのである。
そして俺も、ようやく毎日のように鞭で打たれ、砂の混じった薄い粥をすすっていた最下層の収尸兵から、異例の抜擢を受けることになった。
与えられた役職は、**「伍長」**だった。
たかが伍長。
大きな軍の中では、吹けば飛ぶような小さな役職にすぎない。
それでも、昨日まで自分の命すら満足に守れなかった俺にとっては、間違いなく大きな一歩だった。
一方、黄皮は相変わらず左軍の兵舎に残り、収尸隊の小隊長を務めることになった。
名目上は、今でも俺の直属の上司である。
……どうやら、昇進したからといって、あの男との縁まで切れるわけではないらしい。
まったく、世の中というものは思いどおりにはいかないものだ。




