地形探察
老陳は近くにいた黄河の漁民を一人探し出し、俺の天幕まで連れてきた。
俺はその漁民に、このあたりの地形について詳しく尋ねた。
話によれば、延津の渡し場から南へ向かう道は、細い小道が一本あるだけだという。その道は、曹操軍が陣を構えている斜面のすぐ脇を通っている。
そして、その斜面は一つの坂で終わるわけではなかった。
緩やかな丘陵が何度も折り重なり、いくつものV字形の谷を作りながら、南へと延びている。中原地方では珍しくもない、なだらかな丘陵地帯の地形だ。
その話を聞くうちに、曹操の意図がますますはっきりと見えてきた。
延津の渡し場から南へ抜ける道は、確かに存在する。しかし、その道を進もうとすれば、曹軍が陣取る斜面のすぐ横を通らなければならない。上から密集した矢を浴びせられ、さらに石まで落とされたら、まともに進軍することなどできないだろう。
仮に最初の斜面を突破できたとしても、安心はできない。
その先には、次のV字形の谷が待ち受けている。両側の斜面に伏兵が潜んでいれば、そこは敵を攻撃するには絶好の場所になる。進んできた軍勢は狭い谷に押し込められ、前後左右から攻撃を受けることになる。
三国演義に描かれた街亭の戦いを思い出した。
あの戦いでは、街道沿いにある小高い山が重要な場所となった。張郃はその山を包囲するように布陣し、馬謖の軍を追い詰めて撃破した。
だが、ここは街亭とは地形が違う。
目の前の丘陵は、南へ向かって延々と続いている。街亭のように一つの山を包囲すれば決着がつくという場所ではない。
むしろ、第二のV字形の谷に伏兵が潜んでいたら、こちらの軍勢は相当危険な状況に陥る。
俺はすぐに老陳を連れ、収屍総隊の千夫長である徐進のもとへ向かった。そして、漁民から聞いた地形の話と、自分が考えた曹軍の配置について報告した。
しかし、徐進の反応は予想したとおりだった。
「お前の言うことが正しいとしてもな……そんなことは、我ら収屍隊が考えることではないだろう」
彼は半ば笑いながら、俺の話を聞き流した。
「俺たちの仕事は、戦場で倒れた兵士を回収することだ。軍の作戦を考えるのは、将軍や軍師の役目だろう?」
その言葉に、俺は返す言葉を失った。
結局、何もできないまま天幕へ戻るしかなかった。
だが、どうしても眠れなかった。
横になっても、頭の中にはあの斜面と、幾重にも続くV字形の谷が浮かんでくる。もし、あそこに伏兵がいたら。もし、曹操がこちらの進軍を待ち構えていたら。
文醜の軍勢は、明日にも南へ向かって進もうとしている。
このままでは、顔良のときと同じことが繰り返されるかもしれない。
俺は何度も寝返りを打った末、とうとう天幕を出た。
文醜の中軍がある方向へ歩いていく。
周囲の陣営では、まだ兵士たちが酒を飲んだり、仲間同士で騒いだりしていた。中には、何かの拍子に口論となり、取っ組み合いの喧嘩を始めている者たちもいる。
一方、中軍の周辺は意外なほど静かだった。
文醜の天幕も、明かりがほとんど漏れていない。
近くにいた兵士に尋ねてみると、文醜は素朴な性格で、部下に対してもそれほど横柄な振る舞いはしないらしい。ただ、今日の長い行軍で疲れたのか、すでに休んでいるという。
俺は天幕の方を見つめた。
仮に文醜がまだ起きていたとしても、俺のような収屍隊の人間が、どんな理由で将軍の天幕を訪ね、自分の考えを申し上げることができるだろうか。
そもそも、文醜が俺の話を聞いてくれる保証もない。
今の文醜は、調子がいい。
顔良が白馬で敗れたことは知っているはずだが、袁紹軍全体の兵力は依然として曹操軍を大きく上回っている。明日の戦いも、こちらが圧倒的に有利だと信じているのだろう。
それは、袁紹軍全体に漂っている空気と同じだった。
曹操軍など、恐れるに足りない。
その自信が、文醜の軍にも満ちている。
目の前には、顔良の敗北という警告がある。それなのに、誰も本気でそこから何かを学ぼうとはしていないようだった。




