↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『Loser?!三国志の袁紹軍で死体拾いから天下を目指す~瀕死の顔良と文醜を仲間にして、第四の勢力を興す~』  作者: 倦犬Kenken


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/44

軍営に咲いた一輪の花――洛神の面影

顔良と俺は、一頭の馬と一頭の驢馬を連れ、袁紹軍の雑然とした各陣営の間を縫うように進んでいった。


十里あまり走っただろうか。ようやく、袁紹が黄河南岸に構える中軍の大営にたどり着いた。


まだ中軍の中へ入ってもいないというのに、俺はすでに、周囲の陣営とは明らかに違う空気を感じていた。


まず目に飛び込んできたのは、風にはためく無数の軍旗だった。


大営の周囲には厳重な警備が敷かれ、兵器はきちんと整えられている。軍帳も一つ一つが立派で、広い敷地に整然と並んでいた。大きな軍馬があちこちを行き交い、兵士たちは皆、体格がよく、鎧も鮮やかで、顔つきにも精気が感じられる。


道中で見てきた一般の軍営にいる兵士たちとは、明らかに様子が違っていた。


外から眺めているだけでも、この軍勢がどれほどの力を持っているのかが伝わってくる。


俺は周囲を見回しながら、思わず心の中で嘆息した。


袁紹よ、袁本初よ。


お前の手元には、これほどの財産があるではないか。


兵は多く、将も揃い、物資も豊富。普通の兵士にまで、他の軍勢とは比べものにならないほど立派な装備を与えている。


それなのに、どうしてこれほどのものを無造作に浪費し、まとまりのない指揮と場当たり的な判断で振り回してしまうのか。


これだけの基盤を持ちながら、最後には敗亡へと向かうのだから、何とも惜しい話だ。


そんなことを考えながら、顔良について袁紹の大営へ入ろうとしていた、そのときだった。


遠くから、一隊の軍勢がこちらへ近づいてくるのが見えた。


その装備は、道中で見かけた袁紹軍の兵士たちよりも、さらに上等なものだった。


何より目を引いたのは、騎兵たちが全員、白馬に乗っていることだった。


隊列は大きく、三千人を超えているように見える。兵士たちの鎧も武器も、馬具に至るまでよく整えられており、掲げられた旗も風を受けて大きくはためいていた。


遠目にも、十分に訓練された精鋭騎兵であることが分かる。


彼らは大営の前まで来ると、すぐには中へ入らなかった。まず隊列を素早く広げ、周囲に警戒の兵を配置していく。


もともと警備の厳しい中軍大営だったが、その一隊が到着したことで、周囲の空気はいっそう張り詰めたものになった。


やがて、隊列の中央から二台の馬車が進み出てきた。


どちらも四頭の駿馬に引かれている。馬の毛並みは美しく、体格も立派で、普通の軍馬とは明らかに違っていた。


馬車そのものも華やかな装飾が施され、車体も車簾も上等なものだった。周囲を行き交う軍用の車両とは、まるで別物である。


先頭の馬車の車簾がわずかに開いており、その隙間から中を覗くと、四十代ほどの中年の婦人が座っているのが見えた。


はっきりと顔までは分からなかったが、身に着けている衣装や、その落ち着いた佇まいからして、普通の家の女ではないことはすぐに察せられた。


後方の馬車は車簾が閉じられたままで、中に誰が乗っているのかは分からなかった。


その二台の馬車が大営の門を通ろうとしたとき、思いがけないことが起きた。


後方の馬車を引く四頭のうち、一頭の馬が、蹄で小石を踏んでしまったのだ。


馬の身体がわずかに傾き、驚いたように首を振る。


それにつられて他の馬の動きも乱れ、四頭の足並みが一瞬崩れた。馬車も激しく揺れ、車内にいる者たちも驚いたらしい。閉じられた車簾の向こうから、慌ただしい気配が伝わってきた。


周囲の護衛たちもすぐに緊張し、数人の騎兵が馬車へ駆け寄った。しかし、驚いた馬を落ち着かせるには、まだ間に合っていない。


そのとき、顔良が素早く前へ出た。


彼は迷うことなく、大きな手を伸ばし、驚いて暴れかけた馬の頭をつかんだ。


馬は最初こそ抵抗したものの、顔良の力に押さえられ、やがて動きを落ち着かせた。他の三頭も次第に静まり、激しく揺れていた馬車も、ようやく安定した。


ほんのわずかな時間の出来事だった。


車簾が少しだけ開き、中にいた人物が顔良のほうを見たようだった。


「将軍、ありがとうございました」


車内から礼の言葉が聞こえてきた。まだ少し驚きが残っているようだったが、その声には落ち着きと品があった。


顔良は軽くうなずいただけで、特に言葉を返さなかった。


俺はすぐそばにいたので、開いた車簾の隙間から、車内の人物の横顔を見ることができた。


その瞬間、思わず息を呑んだ。


驚くほどの美貌だった。


ほんの一瞬、横顔を見ただけなのに、目を奪われるほどだった。整った眉と目元には、どこか気品があり、優雅さと美しさが自然に漂っている。


まるで、刀や槍が飛び交うこの戦場には、似つかわしくないほどの美しさだった。


もっとよく見ようと思ったときには、すでに車簾が下ろされていた。


二台の馬車は精鋭騎兵に守られながら、ゆっくりと大営の中へ入っていった。


その一隊が完全に門を通り過ぎるのを待ってから、顔良は俺を連れて再び前へ進んだ。


ところが、俺たちが門に近づくと、二人の人物がこちらへ出てくるのが見えた。


一人は郭図、もう一人は審配だった。


二人は、先ほど馬車が通った場所の近くに立っていた。どうやら、あの一隊を迎えるために出てきたらしい。


そして、二人ともすでに顔良の姿に気づいていた。


だが、最初から最後まで、顔良に声をかけることはなかった。それどころか、視線すら向けようとしない。


郭図は少し声を張り上げ、周囲で警備に当たっている兵士たちに命令を下した。


「よく聞け! 本日、夫人と少夫人に随行してきた者たちを除き、その他の者は、誰であろうと袁紹様の大営に入ることを許さぬ!」


命令を受けた守備兵たちは、すぐさま返事をした。


郭図は指示を終えると、わざわざこちらに顔を向けた。


その視線は、決して偶然こちらへ向いたものではなかった。


俺は郭図を見て、それから隣にいる顔良を見た。


顔良の表情に、目立った変化はなかった。ただ足を止め、静かに前方を見つめている。


先ほどまで俺が感じていた袁紹軍の圧倒的な力。


その強大な軍勢の姿に、今はまた別の意味が加わったような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。