死人が語る情報
華陰や華安たちが医療救護の仕事に慣れてくるにつれて、顧墨も少しずつ医療救護小隊から離れられるようになっていた。
それまでは、負傷者の手当てや薬品の管理、医療道具の準備など、何かと人手が必要だった。だが、華陰と華安を中心に仕事の分担が整い始めると、顧墨が常にそこにいる必要もなくなってきた。
これでようやく、彼を本来任せたかった仕事に集中させることができる。
俺が顧墨に最初に任せたのは、情報の収集と分析だった。
戦場で手に入るものは、武器や食料だけではない。
敵から奪った物資、回収した書簡や文書、兵士たちの装備、身につけていた品々、さらには敵軍の編成や部隊の動きに至るまで、あらゆるものに情報が隠されている。
それらをできる限り調べ、少しでも価値のある情報を見つけ出すこと。
そして、重要な情報があれば、すぐに俺へ報告するように指示した。
もちろん、最初からすべてが分かるわけではない。
一通の書簡から敵の意図が読み取れることもあれば、兵士の装備や持ち物を調べることで、その部隊の所属や役割が推測できることもある。
時には、同じ場所から回収された複数の遺品を見比べることで、敵軍の移動経路や部隊の配置が見えてくる場合もあった。
戦場のどこに曹軍の伏兵がいるのか。
どの街道や分岐路を通れば、補給部隊が比較的安全に移動できるのか。
敵の部隊はどの程度の規模で、どのような装備を持っているのか。
こうした情報は、袁紹軍の上層部や軍師たちでさえ、意見を交わしながら何度も検討しなければならない重要な問題だった。
ところが、そうした情報の一部が、まず俺の前に集まるようになっていた。
死人の傷口と遺品は、嘘をつかない。
もちろん、それだけですべての真実が分かるわけではない。だが、戦場に残されたものを一つずつ拾い集め、調べていけば、生きている兵士たちの報告だけでは分からないことも見えてくる。
俺たちの天幕に置かれた粗末な木机は、もともと回収した物資の一つだった。死人の衣服で汚れを拭き取り、何とか使えるようにしたものだ。
その簡素な机の上に、いつの間にか書簡や記録、調査した物資の一覧などが並ぶようになっていた。
ある日のことだった。
顧墨が俺の天幕にやってきた。
手には数枚の文書を持っている。
「龍隊長、少し気になるものを見つけました」
「何だ?」
「曹軍の将校らしき者の遺体から回収した書簡です。二人とも、百夫長以上の立場にあった者ではないかと思われます」
顧墨はそう言いながら、二通の書簡を机の上に置いた。
俺はそれを受け取り、一通ずつ目を通していく。
最初の書簡は、郭德という人物から曹軍の方面軍大将である夏侯惇に宛てたものだった。
内容は、延津一帯の地形についてだった。
周辺の地形や道筋について、おおむね調査が完了したという報告である。
俺は一度、書簡から目を離した。
延津の地形を事前に調べていたのか。
そして、もう一通の書簡を手に取った。
こちらは、夏侯惇の配下と思われる人物が、曹操の軍師である荀彧に宛てたものだった。
差出人の名前だけでは詳しい身分までは分からないが、文面からは夏侯惇の部下であることがうかがえる。
内容は簡潔だった。
人手が足りないため、さらに一万人を必要としているという。
俺は二通の書簡を机の上に並べ、もう一度読み直した。
「……これは、少しまずいな」
思わず声が漏れた。
延津周辺の地形調査がほぼ終わっている。
さらに、曹軍は現地で何らかの準備を進めており、そのために追加の人員を求めている。
この二つを合わせて考えれば、曹軍が延津周辺で何かを仕掛けようとしている可能性は十分にあった。
おそらく、曹軍の延津での伏兵を含む包囲の準備は、かなり具体的な段階まで進んでいる。
一方の袁紹軍はどうだろうか。
少なくとも、俺が見ている範囲では、こうした事前調査や情報の整理が十分に行われているとは言い難かった。
多くのことが、その場の状況に応じて決められている。
誰かが思いつき、別の誰かが意見を出し、最後はその場の判断で物事が動き始める。
まるで、頭の中にある考えを十分に整理しないまま、慌てて行動に移しているようなものだった。
歴史上、袁紹は白馬と延津で曹軍を奇襲しようとした。
しかし、曹操はそれよりも早く軽騎兵を動かし、袁紹軍の動きを先読みしていた。
結果として、顔良も文醜も大敗を喫することになる。
もちろん、今ここにある二通の書簡だけで、曹軍の作戦のすべてが分かるわけではない。
だが、少なくとも曹軍が延津周辺で何らかの準備を進めていることは間違いなさそうだった。
俺は書簡を握り直した。
この情報を放置するわけにはいかない。
「顧墨、すぐに顔良将軍のところへ行くぞ」
「分かりました」
俺は二通の書簡を持ち、顧墨を連れて顔良の天幕へ向かった。
顔良は俺たちが訪ねてきたことに少し意外そうな顔をしたが、手にしている書簡を見ると、すぐに話を聞く姿勢になった。
「何か分かったのか?」
「はい。曹軍の将校の遺体から、こちらの二通の書簡が見つかりました」
俺は書簡を差し出し、発見した経緯と内容を簡単に説明した。
顔良は二通を受け取ると、順番に目を通した。
最初の書簡を読み、次に二通目を確認する。
しばらく考えた後、顔良は書簡を机に置いた。
「なるほどな」
しかし、その表情に大きな焦りは見られなかった。
「だが、これだけで曹軍が延津に陣を敷いているとは限らないだろう。曹軍も七、八万の兵を抱えている。周辺を移動し、地形を調べたり、人員を補充したりすること自体は、別に不自然なことではない」
「それは、そうですが……」
俺は思わず言葉を濁した。
確かに、顔良の言うことにも一理ある。
この二通の書簡だけで、曹軍の作戦を断定することはできない。
だが、俺にはどうしても気になるものがあった。
延津という場所。そして、地形調査の完了と一万人の追加要請。
歴史を知っている俺にとって、それらは決して見過ごせる情報ではなかった。
顔良は俺の表情を見ていた。
俺がこれほど急いで報告に来た以上、何か理由があるのだろう。そう考えたのかもしれない。
顔良はもう一度、机の上の書簡に目を落とした。
少し考えた後、ゆっくりとうなずいた。
「分かった。何にせよ、まずは主公に報告しておこう。お前も一緒に来い」
「はい!」
こうして俺たちは、袁紹のもとへ向かうことになった。




