銅鑼と戦鼓、猿の曲芸か
第二十八節 銅鑼と戦鼓(前半)
ここ最近、顔良の精神状態は以前より少しずつ落ち着きを取り戻していた。
相変わらず、大半の時間は自分の幕舎で過ごしており、自分から外へ出てくることは少ない。だが、時折幕舎を出ると、決まって私たち収尸総隊の訓練場の近くまで足を運ぶようになった。
といっても、訓練場のすぐそばまで来るわけではない。誰かに椅子を運ばせ、少し離れた場所に腰を下ろして、黙って訓練を眺めているのだ。
ある時は、訓練場の兵士たちをぼんやりと見つめているだけだった。別の日には、訓練の進み具合に合わせるように、座る姿勢をわずかに変えることもあった。
私は時折、そんな彼の表情を窺っていた。
ある兵士が長槍を手にしながら、基本の動作さえぎこちなく、あらぬ方向へ槍を振り回していると、顔良はかすかに眉をひそめる。また、誰かが刀を振るう姿勢を間違えているのを見ると、小さく首を横に振り、口元に苦笑を浮かべることもあった。
それでも、彼は訓練について私に何かを話すことはなかった。
私も、あえて意見を求めたりはしなかった。
今の顔良にとっては、こうして椅子に座り、ほかの者たちが懸命に訓練する姿を眺めているだけでも、以前と比べれば大きな前進なのかもしれない。
一方、私はここしばらく、収尸総隊の訓練を実戦に結びつけ、さらに総合的な能力を高めるにはどうすればよいか、考え続けていた。
これまでの訓練によって、兵士たちは基本的な規律や隊形の変更、そして小規模な連携行動を、ひと通り身につけつつある。
少なくとも訓練場であれば、私や上官が命令を出すと、彼らは自分がどこに立つべきか、隣の仲間とどう連携すればよいか、おおよそ理解できるようになっていた。
だが、所詮は平時の訓練にすぎない。
本当の戦場では、状況がまるで違ってくる。
そこには刀や槍がぶつかり合う音だけでなく、馬蹄の響き、兵士たちの雄叫び、負傷兵のうめき声、そして数え切れないほどの混乱が渦巻いている。
いざ両軍がぶつかり合えば、隊長や伍長が声を張り上げるだけで、全員に命令を伝えられるのだろうか。
それ以上に厄介なのは、部隊が各所に散らばり、互いに距離ができてしまった場合だ。指揮官は、次に何をすべきか、どうやって離れた兵士たちに知らせればよいのか。
転生したこの身体にも、そうした問題に関する記憶や実感が深く刻まれているようだった。
袁紹軍の戦場における指揮系統は、まさに大惨事と言ってよかった。ひとたび戦場に出れば、ほとんどの者が指揮の混乱に巻き込まれ、死の渦へと引きずり込まれていく。
数日考え続けた末、私は前世で講談を聞いていた頃の記憶を頼りに、いくつかの方法を思いついた。
命令を人の声だけに頼るのではなく、誰もが耳にし、聞き分けられる合図に置き換えるのだ。
最初に思い浮かんだのは、銅鑼と戦鼓だった。
銅鑼は撤退の合図、戦鼓は進撃の合図とする。
さらに、進む方向を間違えないよう、それぞれ三種類の異なる打ち方を定めた。
銅鑼の三種類の合図は、次の通りだ。
甲種――真後ろへ撤退。
乙種――左後方へ撤退。
丙種――右後方へ撤退。
一方、戦鼓の三種類の合図はこうだ。
甲種――全員、正面へ進撃。
乙種――全員、左前方へ進撃。
丙種――全員、右前方へ進撃。
そして、もう一つ重要な合図を設けた。
銅鑼と戦鼓を同時に鳴らした場合は、全員ただちに現在の行動を中止し、部隊の中央へ集合する。
この合図があれば、散らばった兵力を必要に応じて素早く集め直せる。混乱の中で各小隊が勝手に遠くへ離れてしまうことも防げるはずだ。
口で説明するだけなら簡単だが、実際に運用するとなれば、そう簡単にはいかない。
まずは、十分な数の銅鑼と戦鼓を用意しなければならなかった。
老陳を近隣の村や市へ派遣して、あちこち聞き回らせた。さらに夏天台にも頼み、こうした道具を製作したり、修理したりできる者を探してもらった。
あれこれと手間をかけた末、ようやく大きさも音色も異なる銅鑼を三種類、そして訓練に使える戦鼓を三面、集めることができた。
道具が揃ったところで、私は収尸総隊の兵士全員を前に、初めての信号訓練を実施することにした。
現在、隊の総人数はおよそ三百七十人。
そのうち、通常どおり動けて訓練に参加できる者は、二百七十人ほどだった。残る百人余りは、まだ傷が重く、こうした訓練に加わることはできない。今は陣営に残って療養を続けるしかなかった。
その日、私は訓練に参加できる兵士を全員集めた。
全体の動きを誰もが見渡せるよう、兵士たちをいくつかの区域に分け、それぞれ小隊ごとに整列させた。
すると、顔良の三千人余りの部下たちも、二千人以上が集まってきた。収尸中隊の訓練場は、たちまち周囲を兵士たちに取り囲まれ、身動きもできないほどの人だかりになった。
彼らの顔には、隠しきれない期待が浮かんでいた。
まるで、銅鑼の音に合わせて曲芸を披露する猿でも見物するかのような様子だ。いったいどんな珍騒動が始まるのかと、誰もが楽しみにしているようだった。
顔良もやって来ていた。
いつもの椅子に腰を下ろし、訓練場から少し離れた場所でこちらを眺めている。
私は彼に目を向けた。
すると、顔良も周囲の兵士たちと似たような表情をしていた。下唇を噛むようにして、歯が少し覗いている。どうやら、見られるものなら見ておこうという、見世物を前にしたような顔つきだった。
ただ、部隊全体を預かる立場として、あからさまに楽しそうな顔をするのは、さすがに気が引けるのだろう。
私は小さく息をつき、訓練の開始を告げた。




