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第二節:死体拾いの地獄、そして「顔」の旗

袁紹軍全体には、四つか五つほどの収尸大隊が編成されていた。各部隊は左右前後の軍営に分散して配置され、戦場で倒れた兵士の遺体回収や、武具・装備の収集を担当している。


全軍の収尸部隊を統括するのは、一人の収尸連隊千夫長。その下に大隊長、中隊長、小隊長、伍長といった指揮系統が設けられていた。


もっとも、立派な階級制度があるからといって、俺たちの待遇まで立派になるわけではない。


俺が所属する左軍の収尸大隊は、総勢三百人あまり。集まっているのは、身分の低い者、行き場を失った者、そして明日をも知れない命をつなぐためなら何でもするような、荒くれ者ばかりだった。


ここは、逃げ道のない軍営だ。


死人の懐から一口の冷や飯を奪い合い、まだ着られそうな衣服を取り合う。そんなことが毎日のように繰り返されていた。少しでも隙を見せれば、殴られ、蹴られ、時には血まみれになって地面に転がる。


生きている者同士が、死人の持ち物を奪い合う。


考えてみれば、ひどく皮肉な話だった。


指を折って数えてみると、俺がこの不運な最底辺の収尸兵の身体に転生してから、すでに十日あまりが過ぎていた。


そして、俺の境遇をさらに悪くしているのが、小隊長の黄皮という男だった。


五十人ほどの部下を抱えるこの男は、陰険で残忍なうえ、ひどく執念深い。立場上、俺たちの生死を左右することさえできる。少なくとも、食糧の配分や戦場での配置を握られている以上、逆らうのは簡単ではなかった。


どうやら黄皮は、俺が彼に媚びへつらわず、機嫌を取ろうともしないことが気に入らないらしい。


そのため、何かにつけて俺に嫌がらせをしてきた。戦場での回収作業となれば、決まって最も危険な最前線に送り込まれる。まるで俺を死なせる機会でも探しているかのようだった。


実際、何度も命拾いをした。


どこから飛んできたのか分からない流れ矢が、耳元をかすめて飛んでいく。そんなとき、俺にできることといえば、冷たくなった馬の腹の下に身を押し込み、息を殺してやり過ごすことくらいだった。


夜になっても、まともに眠ることはできない。


昼間の恐怖が頭から離れず、身体のあちこちには打撲や擦り傷が残っている。少し寝返りを打つだけでも痛みが走った。


食事もひどいものだった。配られるのは、砂粒の混じった薄い粥が一杯だけ。腹を満たすどころか、飲み込んでもすぐに空腹が戻ってくる。


武芸の心得など、俺には一つもない。


頼れるのは、前世で身につけた危険を察知する勘と、企業清算人として培った用心深さ、そして人間の裏表を見抜こうとする習性だけだった。


俺は死体の山の間を転げ回り、泥にまみれ、時には這いつくばりながら、どうにか生き延びる道を探していた。


幸いなことに、前世の記憶も思考力も、そのまま残っている。転生した身体も、まだ若く、思った以上に丈夫だった。


特にありがたいのは、胃腸が妙に丈夫なことだ。


砂の混じった粥だろうが、冷え切った飯だろうが、とりあえず腹に入れても腹を壊さない。こんな地獄のような環境では、それだけでも立派な長所だった。


もっとも、そんなことを喜ばなければならない境遇そのものが、すでにどうかしている。


隊の中には、「老陳」と呼ばれる古参兵もいた。


この男は、世渡りの術にかけては相当なものだった。誰かが殴られていても、誰かが食糧を奪われていても、いつも少し離れた場所から冷ややかに眺めている。


自分が生き残るためなら、他人の死体を踏み台にすることもためらわない。いつでも逃げ出せるように、周囲の様子をうかがっているような男だった。


新入りの俺に対しても、当然のように見下した態度を取る。


どうやら、俺がいつか死ぬことを、すでに決めつけているらしい。ひょっとすると、俺が履いている穴だらけの靴や、身につけている衣服の寸法まで、こっそり確かめているのではないかと思うほどだった。


俺が息絶えたら、真っ先に身ぐるみを剥ぐつもりなのだろう。


……なるほど。


福利厚生の不当な削減に、職場での陰湿な嫌がらせ。前世でも、こういう話なら嫌というほど見てきた。


無能な管理者ほど、部下を追い詰めることに熱心になる。そんな会社は、たいてい組織の内部から崩れ始めているものだ。


(もっとも、ここは会社ではない。俺の命を守ってくれる労働基準法も、労働組合も存在しない。)


俺は口元についた血を拭いながら、心の中で自嘲した。


「……さて、死ぬ前に俺にできることは何だ?」


答えはまだ見つからない。


だが、何も考えずに死ぬつもりもなかった。


転機が訪れたのは、転生してから十三日目の夕暮れだった。


その日、俺たちが向かったのは、曹操軍の奇襲を受けたばかりの、荒涼とした河岸だった。


雨はようやく上がったばかりで、辺りには火薬の煙と血の臭いが入り混じって漂っている。空の端には、焼け焦げたような赤い夕焼けが広がっていた。


地面には泥と血が混ざり合い、ところどころに水たまりができている。その中には、まだ乾ききらない血や、戦場から流れ込んだ汚物が浮かんでいた。


黄皮は皮鞭を振り回し、部下たちを怒鳴りつけていた。


「ぐずぐずするな! 使えるものは全部拾え! まだ動ける馬具も、武器も、鎧もだ! 何も持ち帰らなければ、飯抜きにしてやるぞ!」


俺は重たい丸太の棒を手に、足首まで沈み込む粘土質の泥の中を、一歩ずつ進んでいた。


棒は、遺体をひっくり返したり、崩れた装備をどかしたりするためのものだ。こんなものを持たされている時点で、俺たちがどれほど軽く扱われているかが分かる。


低い場所にある水たまりを通り過ぎようとした、そのときだった。


俺は突然、足を止めた。


前世で企業清算人をしていた頃、価値のある資産を見つけ出すことには、ある種の異常なほどの執着があった。誰もが見捨てた会社の中にも、まだ使える設備や、回収できる資産が残っている。表面だけを見て判断すれば、それらは簡単に見落とされてしまう。


そのときと同じ感覚が、俺の中で働いた。


俺の視線は、少し先にある、馬に踏み荒らされた岩場へと吸い寄せられていた。


そこには、鋼鉄製の重い鎧を身につけた兵士たちの遺体が、何十体も折り重なるように倒れていた。身につけている装備は、俺たちが普段回収する雑兵のものとは明らかに違う。袁紹軍の中でも、かなり身分の高い将兵を守る精鋭の護衛たちだろう。


そして、その遺体の中央に、異様なものが横たわっていた。


大火に焼かれ、半分ほどを失った巨大な黒い大纛――将軍の所在を示す大旗だった。


残った旗竿は、俺の太腿ほどの太さがあり、泥の中に斜めに突き刺さっている。旗そのものは焼け焦げ、ところどころ裂けていたが、そこにはまだ、かすかに文字の跡が残っていた。


黒く焦げた布地に、金糸で刺繍された一文字。


血に染まり、暗く変色してはいたが、目を凝らせば肉眼でも読み取れる。


――「顔」。


その一文字を見た瞬間、俺の胸の奥で、何かがざわめいた。

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