第十二節:まずは、命を救うことから
問題は山積みだった。
武器の回収、装備の修理、物資の整理、兵士の訓練――やるべきことを挙げ始めれば、きりがない。
だが、収尸小隊が最優先で取り組むべきことは、すでに決まっていた。
まずは、負傷兵の救助から始める。
そして、そのためには何よりも先に、負傷兵に対する人々の意識を変えなければならなかった。
袁紹軍には、上から下まで、ある種の風潮が蔓延していた。
どれほど勇敢に戦った兵士であろうと、ひとたび重傷を負い、戦場で役に立たなくなれば、もはや価値のない存在として扱われる。もちろん、全員がそう考えているわけではない。だが、軍全体の仕組みが、結果としてそうした考え方を生み出していた。
さらに厄介なのは、袁紹軍の理不尽な軍法だった。
重傷者を救助して後方へ運ぶ途中、息を引き取ってしまえば、救助に当たった者が責任を問われることがある。救助が遅かった、手当てが不十分だった、もっと早く運べたはずだ――そんな理由で責められるのだ。
しかし、戦場で重傷を負った者を運ぶのに、どれほどの危険と困難が伴うかなど、上層部はろくに考えていない。
その結果、兵士たちは負傷しても救助を求めなくなり、周囲の者たちも、助ければ自分が責任を負わされると考えて、見て見ぬふりをするようになった。
生き残る可能性がある者でさえ、誰にも拾われず、戦場の片隅で息絶えていく。
俺は、まずこの悪循環を断ち切る必要があると考えた。
その日のうちに、俺は三人の伍長――老陳、穆鉄牛、顧墨を連れ、顔良のもとへ向かった。
「将軍。収尸小隊として、今後の救助方針についてご報告があります」
顔良はまだ本調子ではない。寝台から身を起こす動作にも、痛みをこらえている様子が見て取れた。それでも俺たちの話を聞くため、姿勢を正した。
「申してみよ」
「これからは、救える者は必ず救います。身分や階級は問いません。将官であろうと一兵卒であろうと、負傷している者を見つけたら、可能な限り救助し、手当てを施します」
俺は一度言葉を切り、さらに続けた。
「ただし、現在の軍法では、救助した者が搬送途中で死亡すれば、救助に当たった者まで責任を問われかねません。これでは、誰も進んで負傷兵を助けようとはしません。将軍のお許しをいただきたいのです。救助の途中で命を落とした場合、その責任は救助した者ではなく、私たちの指揮系統で引き受ける。そう明確にしていただけないでしょうか」
顔良は、しばらく黙っていた。
やがて、迷いのない声で言った。
「よい。私の配下にある兵は、将官も兵卒も、皆、同じ袍澤だ。戦場で傷を負ったからといって、見捨ててよい理由にはならぬ」
そして、そばに控えていた者たちにも聞こえるよう、はっきりと命じた。
「私の指揮下にある三、四千の兵、その陣地にいる者はすべて対象とする。負傷者を見つけたなら、身分を問わず、全力で救助せよ。救助の途中で命を落としたとしても、その責任は私が負う。救助に当たった者を罰することは許さん!」
その言葉を聞いた瞬間、俺の胸の奥に、熱いものが込み上げてきた。
隣にいた老陳も、顧墨も、そして穆鉄牛も、顔を見合わせている。
特に鉄牛は、いつもの大きな声で俺に言った。
「頭儿! 俺はあんたに拾い上げてもらっただろう? あのときからずっと思っていたんだ。俺みたいに、もう死んだと思われて、まだ息が残っている奴が、ほかにも大勢いるんじゃねえかってな」
鉄牛は、自分の胸を拳で軽く叩いた。
「これからは俺も、あんたみたいに、そういう哀れな奴らを一人でも多く助け出してやるぜ!」
「頼もしいな。だが、まずは自分が怪我をしないようにしろよ」
俺がそう返そうとしたとき、背後から顔良の声が聞こえた。
「いや、私もお前たちの頭には礼を言わねばならんな」
俺たちが振り返ると、顔良は俺を見ていた。
「龍がいなければ、私もとうに死んでいた。収尸隊の者たちは、私が瀕死だと知っていながら、見て見ぬふりをしていたのだからな」
その言葉に、老陳の表情がわずかに曇った。
俺は何も言わず、部屋を出ようとする老陳の肩に手を置いた。
「老陳。お前は顔良将軍を見捨てたわけじゃない。夜中に粥を届けてくれたことも、俺は知っている。あのとき、お前はできることをしたんだ。今さら何を気にする必要がある?」
老陳は少し困ったような顔をした。
普段なら、すぐに損得を計算し、抜け目のない返事をする男だ。そんな彼が、珍しく取り繕うことなく、素直にうなずいた。
「頭儿……あんたを見ていると、俺もまだ変われる気がする。あんたについていけば、安心して仕事ができる。もう、余計なことに怯えなくて済みそうだ」
「なら、これからも頼むぞ」
俺は老陳の肩を軽く叩いた。




