第十一節 これからやることは山ほどある。まずは救護から始める
老陳、穆鉄牛、そして顧墨。
俺は天幕の入口から外を眺めた。
夕闇の中、果てしなく続く軍営の灯火が、遠くまで点々と連なっている。
これほど大勢の兵士がいるというのに、その中で自分たちの命を守れる人間は、いったいどれほどいるのだろう。
俺は三人を見回し、静かに口を開いた。
「今日、俺はもう少しで殺されるところだった」
三人の顔から、笑みが消えた。
「黄皮は、たぶん本気で俺を殺すつもりだったんだろう。お前たちが一緒に立ち向かってくれなければ、どうなっていたか分からない。助けてくれてありがとう。この恩は忘れない」
俺は一度言葉を切り、外の軍営へ目を向けた。
「袁本初が天下の覇者でいられる時間も、そう長くはないかもしれない。いずれ曹孟徳に、その座を奪われる可能性が高い」
顧墨がわずかに眉を動かした。老陳も、穆鉄牛も、黙って俺の話を聞いている。
「だが、俺たちはただ生き延びるだけじゃない。できることなら、もっと良い暮らしを手に入れたい。自分たちの力で、安心して生きていける場所を作るんだ」
俺は三人の顔を順番に見た。
「とはいえ、今の俺たちはあまりにも弱い。人数も少ないし、力も足りない。俺たちだけで何とかしようとしても、いずれ限界が来るだろう」
そこで、俺は少し声を落とした。
「だから、これからは軍の中で行き場を失った連中を、できるだけ仲間にしていきたい。理不尽な扱いを受け、上の連中の身代わりにされることを嫌がっている、意地のある奴らだ。そういう人間を一人ずつ集めて、俺たちの仲間にしていく」
「そして、できる限り多くの負傷兵を救うんだ」
俺は自分の腕に残る鞭の傷を見た。
「それは彼らを助けるためだけじゃない。俺たち自身を守るためでもある。救われた人間は、いつか俺たちの力になってくれるかもしれない。だが、それ以上に、俺たちは仲間を簡単に見捨てるような集団にはなりたくない」
三人の表情は真剣だった。
俺は最後に、もう一度念を押すように言った。
「これからやることは山ほどある。焦らず、一つずつ進めよう。まずは救護から始める」
老陳を筆頭に、三人は重々しく頷いた。
その夜、俺は三人に新たな役目を与えた。
老陳――陳不信。
穆鉄牛。
顧墨。
三人とも伍長に任命し、それぞれに佩刀を持つことを認めた。
俺は徐進に新しい刀を要求しなかった。
代わりに、これまで戦場で回収し、手入れをしておいた曹軍の鋼刀の中から、状態の良いものを何振りか選び出した。
その中でも、特に質の良いものを三本選び、俺自身の手で一人ずつ腰に佩かせた。
新品ではない。
だが、きちんと手入れされた、十分に実用に耐える刀だった。
「へへっ、俺も小官になったぞ!」
穆鉄牛は子供のように喜び、刀を抜いて何度か振ってみた。
ところが、すぐに不満そうな顔になる。
「うーん、ちょっと軽すぎるな」
その様子に、俺は思わず笑った。
「俺たちは収尸隊だぞ。それに、今は顔良将軍の配下でもある。お前が満足できる武器なんて、いくらでも手に入る機会があるさ」
「頭領がそう言うなら、俺にも鉄槌を一対作ってくれよ!」
穆鉄牛は待ってましたとばかりに言った。
「俺がこの前、前線に出たときのことだ。歪んだ槍を一本持っていたんだが、曹軍に許という姓の大将がいてな。そいつが、周りの兄弟たちをまるで草を刈るみたいに斬り倒しちまったんだ」
「許……?」
俺は思わず聞き返した。
「そうだ。俺はそいつと十合ほど打ち合ったんだぜ。ところが、こっちの槍が折れちまってな。あれがなければ、もっと戦えたんだ。ちゃんとした鉄槌を一対持っていれば、四、五十合は打ち合えたと思うんだがな!」
穆鉄牛は悔しそうに拳を握りしめた。
許姓の曹軍の大将。
しかも、並の兵士では太刀打ちできないほどの猛将。
まさか……許褚か?
俺は思わず、穆鉄牛の体を眺めた。
身長は二メートル近くありそうで、肩幅も広い。立っているだけで、まるで鉄塔のような体格だ。
あの体格と腕力なら、確かに普通の兵士とは違う戦い方ができるかもしれない。
俺は少し考えたあと、ゆっくりと頷いた。
「分かった。お前に合った武器を考えてやろう」
穆鉄牛は満面の笑みを浮かべた。
その顔を見ながら、俺は心の中で考えていた。
どうやら、俺たちの仲間には、ただ力自慢というだけではない、思いがけない才能を持った人間もいるらしい。
ただし、武器を作るにしても、まずは材料と職人が必要だ。
そして何より、俺たちにはまだ、救わなければならない人間が大勢いる。
天下を語るのは、その後でも遅くない。




