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愛だと思っていたもの

 その頃、久志はウキウキときららの待つ家へと向かっていた。


「困るのよね、そういうの」


「え?そういうのって……どういうことだ、きらら?」


 妻と別れたから結婚して一緒に暮らそうと思い、きららのアパートに来たわけだが。


「だからさぁ、奥さんとなんで別れちゃったわけ?今までずっと面倒見てくれてたんでしょ?なんで定年したからってアタシんとこ来るわけ?子供3人もいるのに、ひさちゃんの老後の面倒なんか見てられないよ」


「ろ、老後って、お前。俺は、お前のために長年連れ添った妻に別れを告げて!お前と結婚しようと思ってきたんだぞ!?」


「だーかーらー。それが無理だって言ってんのよ。アタシさぁ、これでも一応人妻なのよね」


「は……?」


「言ったじゃーん、昔にさぁ。アタシはひさちゃんのコイビトでいいからって。それで納得してると思ってたんだけどー?」


「な、な、なんだと?」


「この子たちの父親さぁ、今海外ツアー中なんだよね。それ終わったら一緒にアメリカで暮らそうって話してるし、もうさ、定年退職したおじいちゃんはいらないっていうかー」


「はぁ!?」


 子供たちは3人とも自分の子供ではなかったという事実が発覚した。


「えぇ?こんなモテ顔がひさちゃんの子なわけないじゃーん?」


 ケラケラと笑うきらら。モテ顔だから俺の子じゃない!?

 どういう了見だそれは?


 きららは、久志が通い詰めたバーで働いていた。当時きららは18歳。煌びやかでピチピチギャルで、甘えるようにしなだれかかるきららに、久志は夢中になった。50に手が届きそうになっていたが、俺もまだ捨てたもんじゃない、と。バイアグラも密かに注文してきららを喜ばせたはずだ。


 それが、実は結婚して夫がいた。しかも子供はそいつとの間の子で、俺の子じゃない、だと?!


「お、俺とあんなに楽しんでおきながら……!」


「ヤダァ、だってひさちゃん、ヤる度にお金置いていったじゃん。だからそういう割り切った関係だと思ってたもん、アタシ」


 もちろん避妊してたよ、当たり前じゃんそんなの。と、きららは困ったように笑った。


「そんな……俺は、18年もお前のために……」


「お前のため、お前のためって言うけどさ、ひさちゃんがこの家に来ると、食費もすっごいかかってるって知ってる?ひさちゃんは『俺が養ってやるから心配するな』とか言って月20万、置いてったけどー。今時月20万で子供3人含めて生活できるわけないじゃんね?そりゃちょっとは助かってるけどさぁ。なのにひさちゃん来ると高級なもの食べたがるしさぁ」


 子供3人育てるのってお金かかるんだよ?奥さんの方だって子供二人、一人で育ててたんでしょ?大変だったと思うよー?と言われて、愕然とした。


 俺の月の手取りが大体百万円。家に20万、きららに20万。残りは株と接待、小遣いとして使っていた。妻の恵理子は一度たりと文句を言ったことがない。子供の年齢に関わらず、ずっと20万渡し続けて、子供は二人とも大学を出た。バブル期に買った家があったから、家賃は払わずに済んだが、ローンは返済したはずだ。


 いや、返済終わったのか?ずっと恵理子が家計を見ていたから、気にしたこともなかった。


「ワイン一本○万円とかさ、普通の家じゃ考えられない出費でしょ。現実見なよ、ひさちゃん。そのままじゃすぐ退職金も無くなっちゃうよ?」


 とっとと帰って奥さんに頭下げた方が良いんじゃないの?ときららは、俺を追い出した。



65歳の男ですからね。死語もバンバン使いますよ。

本人気づいてないですよ、もちろん。

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