祈りの先にあるもの
本日二本目の投稿です。
異界の聖女 堕ちて神罰を招き
世は久しく闇に沈む
されど王 身魂を捧げ光と化し
魔を祓い 天は応えたり
ここにその偉業を刻む
「え、……これ」
石碑に彫られた碑文の内容が、するりと頭に入ってくる。
それと同時に記憶の中の、舞を踊る女性と騎士が重なる。
そしてその仲を引き裂いた王。
私の前に現れて消えた男。まるで、見てきたかのように。
点在した記憶が、繋がった。
「違う」
神隠しにあったスズと恋をした騎士。王を呪った聖女は、世界をも呪った。王のせいで、世界は滅びようとしていたのに。
神の怒りに触れたのは、誰。
「違う世界の話だろうけど、納得いかない。あの女性が可哀想すぎる。騎士と愛し合っていたのに、それを引き裂いた王が讃えられて、こんな……」
歴史は歪められる。それは、この世界でも同じ。知っている人がいないから。もう、生きていないから。
けれど、私が知ってる。
「悔しい……」
私は石碑を叩いた。
怒りは力だ。怒りは、気持ちを持続させるの。諦めさせてくれないの。あの女性と同じ。
「そうよね、スズ。あなたもまだ、怒ってる」
こんな嘘がまかり通っているから。真実が歪められているから。
石碑を睨む。
私には、これを書き直す力なんてない。だから、気持ちを吐き出すだけだけど。スズのためにも、一言言いたい。
「聞きなさい、そっちの人達!こんなのは、嘘っぱちもいいところよ。誰がこんな石碑を残したのか知らないけど、あなたたちの言う異世界から来た聖女はね、神様がそっちに連れてったんだから、神の怒りに触れるわけないのよ!怒りに触れたのは、王様の方よ。しかも神様じゃなく、聖女のよ。あと多分、騎士様の分も。神様はね、失敗しても怒らないのよ。困っていたら、ちょっとだけ助けてくれるの。私たちみたいなちっぽけな存在に、いちいち腹を立てたり罰を与えたりなんて、しないのよ。悔い改めなさい!自分達の非道を認めなさいっての」
ペチペチと硬い石碑を叩いて、悪態をついて、ちょっとだけ涙を流した。
鼻をすする。
馬鹿みたいなのは私だ。石碑に罪はない。この碑文を信じる人にも罪はない。知らなきゃ、信じるものだもの。しょうがない。
けど、無性に悔しくて。
聖女と呼ばれたスズが。
焼け付くような想いを残して踊ったあの女性が、悲しくて。
「どうか、そちらの世界の人が、正しい歴史を学ぶ機会がありますように」
彼方に生きる人々が、聖女と騎士様の悲恋を、王が何をしたのかを、知る機会がありますように。そう激しく祈るしか、できない私をどうか許して。
そうして顔を上げると、枯れていた木に花が咲いていた。満開に咲く、桃の花。次々と蕾をつけ、花開き、そして散っていった。
驚きと同時に。
これが、彼方の世界のものだと分かった上で。私が、どういうわけか。半分、彼方の世界に足を突っ込んでいるということも理解した。
誤解でも、気のせいでもなく。多分、あの不可解な現象は、あちらの世界につながっている。
気がついてしまった。
でも、まだ。
「私は、まだ。ここで生きてるのよ」
自分で歩いて、人生を見つめ直して。
半ば諦めかけてるけど、老後が不安で仕方ないけど。
「怒りも悲しみも、まだ無くしちゃいないのよ」
黒猫が目を細めて私を見る。その視線に気がついて下を見る。とても冷ややかな視線だった。
でも何も言わない。鳴かない。
だから、視線を外した。
気がつくと、風が吹いていた。
オオルリの声が耳に届く。
こんなところにもオオルリがいるんだな、と頭の端っこで思う。
無性に、一之瀬さんに会いたくなった。
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