愛の定義
暴力的・過激な描写が含まれます。苦手な方はご注意ください。
私は、その場に立ち尽くし、神の花嫁の悲痛な叫びを受け取った。
塚の上で踊っていたスズはきっと神隠しにあったのだろう。突然別世界へと連れ去られ、恋に落ち、引き裂かれ。
そして非業の死を遂げた。
悲痛な声が頭の中をぐるぐる回り、黒い感情が腹の中に溜まる。
「……愛にも、色々あるのよね」
きっと、昔も今も、愛に定義なんてない。誰も確固たる愛についてわかっていないのだ。神でさえも、あの女性の心を掴めなかったのだから。
「だとしても、辛いよね……」
だって、手に入れた筈のささやかな愛だった。あの二人が心から愛し合っていたのは見ていて分かった。
その時代の背景はわからないけれど、王政の時代は女性に権利なんてなかったんだろう。女は品物、戦利品のような扱いで。日本だって昔は、神の花嫁は生贄だったと言われる。村を救うための、国を救うための。
人間が、大抵は男が、勝手に決めた大義名分だ。
それでも彼女は愛を捨てなかった。愛を諦めなかった。世界を呪い、神を呪うほど、あの騎士を愛していたのだ。
なんて切ない世界だったのか。
あの王様は、彼女を愛していたのだろうか。どんなに力づくで女性を奪おうとも、体を奪おうとも、心は動かせなかった。虚しいと思わなかったのか。
それとも王様だから、欲しいものはなんでも手に入ると思っていたのだろうか。
女性は、感情が伴わなければ妊娠はしないと、昔、誰かが言っていた。気持ちが拒否して子が育たないのだと。今の時代、そんなことは嘘っぱちで、女性が拒もうが望もうが周期が合えば妊娠の可能性はあると、わかっている。
あの世界で、スズは妊娠したのだろうか。
穢らわしい男の子を産もうとしたのだろうか。そうすれば、愛する彼の元に行けると信じたのだろうか。
「私ならあんな王の言う事なんて信じることはできないわ……。穢されるのならいっその事、自殺した方がマシ」
神様は、スズを憎んだのだろうか。だから、彼女が最も嫌がる方法で彼女を傷つけたのだろうか。だったら、神様が愛するこの世界を、スズが呪ってやると思っても、仕方がないような気もする。
でも。
もし私がそうしたら、渉や日菜子はどうなる?かわいい孫たちは?兄さんは?
久志さんへの愛が偽物だったとしても、私の子供たちへの愛は本物だ。何があっても愛していると確信できる。兄さんのことも、兄嫁さんのことも。お義母さんやお義父さんも、私は憎んでいない。
「彼女には……他に護るべき人がいなかったのかな」
彼だけが全てで、彼以外は絶望だった。
「なんて、悲しい人生……」
ああ。願わくば。
私は塚の上に、扇子を戻した。
彼女は囚われてしまったのだ。思いが強すぎて、彼を取り戻せないところで。もがいて、もがいて、苦しんでいるのだ。
私は手を合わせ、目を閉じる。
「願わくばーーあなたの愛が、本物で。いつかの時代で、愛した騎士と巡り合い、どうか幸せでありますように。神様への恨みも、不条理なことにも、どうか何事にも煩わされず、ひたすらに、愛と自由を求めて生きられますように。その想いが成就しますように。自身に纏った鎖を解きほぐし、自由に天へと昇れますように」
そして、いつかその愛が昇華されますように。
私の信じる神様は、私の選択を拒まない。
むしろ応援してくれる。
干渉はしないけど、お守りくださっている。
時々現れて御供物を強請ったりするけれど。
無理強いはしない。
黒猫も。
たまに掃除をしろと強請るけど、強制はしないもの。
だって因果応報という言葉がある。
「ただ、見せつけてやればいいのよ。あなたが愛を得て幸せになることが、きっと、最大の仕返しになる」
こちらも短いのでもう一本投稿します。




