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俺だけ使える磁力魔法~追放された転生アニオタ貴族は最強魔法剣士になる~  作者: 橘まさと


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第6話 強くなるために

■イーヴェリヒト 冒険者ギルド

 スタンピード発生から一か月。

 鉱山都市イーヴェリヒトのダンジョンは地底湖以下はいったん封鎖されている。

 低階層の炭鉱階層が使えるだけだが、鉱石集めや低ランク冒険者の訓練場所にはちょうどいい状態だ。

 冒険者ギルドには中堅ランクである冒険者達が依頼を求めて集まっている。

 ダンジョンにも潜れないとなると結構暇を持て余してしまうのだ。


「依頼がまったくないなぁ……強くなるために実戦経験積みたいのに」


 俺らエターナルホープは先のスタンピードの功績があってBランクになっている。

 火竜をどうにかできなかったのだが、抑えてくれたことが評価された。

 ギルドマスター直々に言われたので、おとなしく従っている。

 なぜか、肩を強く握られたのだが、なぞだ。


「イーヴェリヒト周辺の他のダンジョンに行ってみるのはどうですの?」

「もっと強い敵とたかいたいのだ―!」

「ダンジョンでお宝さがししたいにゃー」

 

 エリカ、セリーヌ、リサが俺にべったりくっついてくる。

 周囲の視線がいたい。

 いや、ほんとにマジでいたい。

 殺気こもっている奴だっているし……。

 左腕と背中に柔らかいものの感覚がしていた。

 右腕からしないのは……察してくれ。


「周辺のダンジョンか……全然知らないからなぁ……」

「ジュリアン、今日は見せつけに来ているのか?」

「そういう意図は俺にはないんだ、アーヴィン」

 

 ため息を漏らしながら、俺はアーヴィンに周辺のダンジョン情報について聞いた。


「そうだなぁ、鉱山ダンジョン以外だと……近場なら、焔の神殿だな」

「炎系のモンスター類が出る場所か?」

「ああ、お前さんも火竜対策をしたいといっていたじゃないか、ちょうどいいだろ?」


 ほんとアーヴィンは俺の気持ちを分かってくれる。

 5年の付き合いはだてじゃないな。


「ありがとう、じゃあ行ってみるよ」

「徒歩じゃないといけないが、ふもとの村までは1日でいけて、山登りの準備はそこでも整えられる。気になったら行ってこい」

  

 ぐしぐしと力強く頭を撫でてアーヴィンはギルドの受付嬢と話をしはじめた。

 俺は乱れた髪を整えると引っ付いている3人に言う。


「レイナにも声をかけてから、いくか焔の神殿へ」

「「「了解!」」」


 俺は痛い視線を避けることもあって、そそくさっと冒険者ギルドを後にするのだった。


■イーヴェリヒト ストーンブレイカー錬金工房


 レイナは冒険者が本業ではないので、大体は工房でポーションづくりをしたり、回収した素材を研究したりしていた。

 俺達が工房に向かうと、工房には冒険者ギルドのギルドマスターがいる。


「おう、ジュリ坊じゃねぇか」

「ギルドマスターがなんでここに?」

「あん? おめぇ、俺の名前で気づかねぇのか?」

「ギルドマスターの名前はパトリオット・ストーンブレイカーだろ? で、ここはストーンブレイカー錬金工房だから……あぁ!?」


 俺はその時になって初めて気づいた、ギルドマスターとレイナって親類ってことぉ!?

 そりゃあ、ギルドマスターが俺に対して意味深な態度をとってくるわけだ。


「ああ、ジュリアン来てくれたんやな。今日はどないなようなん?」

「そのまた別のダンジョンに行くからどうかって話だったんだが、お取込み中か?」

「おとーちゃんのことは気にせんどいてーな。この辺のダンジョンいうたら、焔の神殿かいな?」

「その通りだ。一緒にいってくれるか?」

「ジュリ坊よ、おめぇさんのことは評価しているが、うちの娘を危険にさらしたことだけは納得できてねぇんだよ。何かあったとき責任取ってくれるんだろうなぁ?」

 

 俺の問いかけにレイナではなくギルドマスターが答えてた。

 話に聞く限り仕事のできる人と聞いていたんだが、娘がかかわるとダメになるタイプらしい。

 ギロリと俺を睨みつけて、肩をギリギリを掴んできてもい


「せ、責任とるから! 離してくれ!」

 

 とにかくダンジョンに行きたい俺はそれだけ返事をして、解放を求めた。


「だ、そうだ、レイナ」

「お、おとーちゃん!? 何を言わさせとんの!」


 レイナが顔を真っ赤にしているが、俺は何のことなのかさっぱりわからない。

 ただ、一緒にダンジョンに行けるならそれでよかった。


「ジュリアン! ウチはウチのためにジュリアンと一緒に冒険するんやから、気にせんといてな。ほれ、頼まれてた改造小手や」

「サンキュー!」

 

 俺はいまだに顔を赤くしているレイナをよそに俺は小手を受け取る。

 一見普通の小手だが、実はコイルを巻いた電気発生装置付きの代物だった。

 磁力自身が弱まってしまう状況でも戦いやすくするためのものである。

 電気の発生ができるようになれば磁力魔法の活用範囲はより広がるはずだ。

 また、誘導加熱についても実験していきたい。


「いい笑顔ですわね」

「ジュリ坊のそういう顔、あちし好きニャ」

「さぁ、ダンジョンへ冒険にいくのだー!」


 好き勝手にワイワイする女子たちと共に俺は焔の神殿に向かう準備を整えるのだった。


◇ ◇ ◇


■魔法都市ルミナエア ローレライ邸 魔導具保管庫


 私が重い扉を開けると、静かな部屋の中に様々な魔導具が並んでいる。

 その価値は様々で、高価なものからネタとしか思えない効果がないため低価格なものまであった。

 ローレライ家はそれらを収集、管理、研究をして新しい魔導具開発を行うことで公爵の地位を得ている。

 私は10歳の誕生日から、ここの管理をお父様から任されていた。


「定期管理くらいなら慣れたものよね」


 一か月に1度倉庫内に異常がないかを見回るだけの簡単な仕事。

 それでも大切なことを任されたことがとっても嬉しかった。

 指輪の並ぶ棚の中で、一つだけ空いたところを見て、私の顔は曇る。

 その指輪はアイゼン家に渡されたもので、今日、壊れてしまったとアイゼン家の当主と共に謝罪があった。

 あの時のフレデリックは反省しているというよりも、《《もっと強い何か》》を抱いていたように思う。


「お陰で婚約破棄にはなったけれど……でも、ジュリアンともう一度とはならないんだろうな……」


 コツンと棚に頭を当てて私はため息をついた。

 フレデリックより前に婚約者となっていた彼のことを今でも考えてしまう。

 でも、ジュリアンは貴族ではなくなってしまっていた。

 ただ、イーヴェリヒトで冒険者として有名になっている話がここまで届いてきてい

る。

 立派になった彼に今の私は釣り合うのだろうか……公爵家という家柄をとってしまった私は才能があると言われていても自信がなかった。


――コツコツコツ


 私のものとは違う足音が聞こえてくる。


「誰!?」


 足音の方を振り向くが、そこには誰もいなかった。

 いや、《《いないように》》見える。

 魔力の波が変わっているので、誰かが倉庫に入っているのは確実だ。

 私は魔導具を守るために防壁を張る。


〈土魔法:土の繭〉(テラ:アースコクーン)


 地面から湧き出た土が繭のように棚を包み込んで、守った。

 侵入者を感じた私は、続けて使い魔も召喚する。 


|〈使魔召喚:影の猫〉《サモンファミリア:シャドゥキャット》


「誰! 今なら、何もしていないので不法侵入だけで許すわ」


 姿の見えない侵入者に向けて私は声を放った。

 返事は来ない。

 代わりに、薔薇の香りが部屋中に広がってくるのを感じる。


「しまった! これは……」


 私の意識が薄れてゆく。

 香りを使った魅了魔法を風魔法で遠くから部屋へ流し込む合わせ技だ。

 こんなことができるのはあいつの仲間だけ……。


「じゅり……あん……たすけ……て」


 信じることのできる、ただ一人の名前を告げて、私は意識を失い、ガクリとその場に倒れた。


◇ ◇ ◇


「謝罪のタイミングをこの時に合わせて正解だったな……クックックッ」

「フレデリック様、お探しのものを見つけてください。見つかったら御父上のお叱りだけではすみませんよ」

「もとよりオレに退路はない。大きな成果を得るためにはより強い魔導具が必要なんだ」


 オレに従うカスパーが倉庫の外を警戒しながら、追い立ててくる。

 

「フレデリック様にこんな女はあいませんわ。わたくしの魅了魔法で下僕に調教してさしあげますわよ?」

 

 丁寧な口調ながらもアリシアを見下しているセレナがオレに微笑んできた。

 この二人は魔法学園で長く付き合っている貴族のもので、オレがいろいろなことをやってきたにもかかわらずついて来てくれた奴らである。

 もっとも、オレ自身がこいつらに対して、虚言を伝えていいように伝えているだけなのだが……。


(使えるバカを手元に置いていたが、役立ってくれるな)


 心の中のどす黒い感情を表に出さないように笑う。

 しかし、カスパーのいうように早く済まさなければいけない。

 父上を待たせている合間に魔導具を持っていかねばいけなかった。

 目録は以前、アリシアに見せてもらっていたのでわかっている。


「【炎魔神の心臓】を手に入れるぞ。アリシアが魅了状態で操れるのならば、場所を聞き出して封印を解く」

「かしこまりましたわ。さぁ、炎魔神の心臓の場所を教えなさいな」

 

 俺の言葉に従ってセレナがアリシアを壁にもたれかかせて魅了魔法で操る。

 

「地下……室、最……奥」

 

 うつろな瞳で虚空を見つめるアリシアが場所をつぶやいた。

 指刺す方向には床に扉があり、魔法陣での封印がされている。


「開けてもらおうか」


 オレはアリシアを抱きかかえて連れていき、床の封印を解かせた。

 魅了魔法が解けかかっているのか、アリシアの動きがだんだん鈍くなる。

 時間の猶予はなさそうだ。

 地下に伸びる階段を下りていくと、暗い部屋の中にたどり着く。

 指に火をともして明りを付けると、封印された魔導具の数々が姿を見せた。

 入るだけで、震えるほどの魔力の強さを感じる。

 封印されているのに、これだけの魔力の波動を感じるのだから、解放されたときはどうなるのか楽しみだ。


「これが……【炎魔神の心臓】か」


 神々しいほどの赤い光を放つ大きな鉱石の塊のようなものを目の前に、オレの口元が弧を描く。

 これを手にして、焔の神殿のイフリートを解放すればオレこそが最強になれるのだ。


◇ ◇ ◇


■焔の神殿付近 野営地


 山の中にある焔の神殿もイーヴェリヒトの冒険者組合で管理しているダンジョンであるため、見張りがいたり、近くには少数パーティが野営できる場所があった。

 イーヴェリヒトから3日かけて移動し、夜に野営地に到着した俺達「エターナルホープ」はキャンプを張って、最後の休息をとっている。

 明日からは焔の神殿に潜る手はずだ。

 俺はテントを男用の小さなテントと、女性陣のための大きなテントを張ってから、情報収集のため見張りの男と話をしに動く。


「ここのダンジョンは人の出入りはどうなんだ?」


 俺は銀貨1枚を渡して、見張りから話を聞く。

 酒場と一緒でただで話してくれるなんてことはない。

 情報がネットなどで溢れていないこの異世界では情報の価値は高いのだ。


「鉱山都市イーヴェリヒトは鍛冶でも発展した街だからな、職人などが訪れて祈りをささげているよ。神殿の最奥にある扉からダンジョンに入れるが、古代魔法なのか実力不足の冒険者は入れないようになっている。だから、俺らは神殿の一番の入口を見守っているってところだな」


 銀貨を受け取った見張りの男はそう語ってくれた。


「じゃあ、最近俺達以外にこの神殿に来たのは?」

「男二人と女一人のパーティが来たけど……冒険者だった、かな? あれ、いまいち記憶が……」


 見張りの男はこめかみを手で押さえて、目を閉じ記憶を探ろうとしている。

 しかし、記憶がはっきりしないのか答えがでてこなかった。

 俺は背筋がゾクリとする。

 嫌な予感がした。

 はっきりした理由はわからないが、大体のアニメ等ではこういうとき先行している奴らが怪しい儀式を始めたりしているものである。


「おい、みんな! 野営は中止だ。急いで潜るぞ、嫌な予感がする!」

「ええ!? ジュリアンさんのご飯楽しみでしたのに」

「せやせや、腹は減っては~といつもいうとるやないの」

 

 俺が急いでテントの場所まで戻り、声をかけるとエリカとレイナは不満げな声をあげた。

 この二人は俺の飯を楽しみにしている腹ペコ組である。


「ジュリ坊のいう嫌な予感はあちしも何となく感じてるにゃ」

「うむ、急ぐ必要はありそうなのだ」


 俺から見張りから聞いた情報を受けたリサとセリーヌは装備を整え、出発準備に入る。

 命の危険にさらされた環境ですごしてきたこの二人は、俺の説明で異常な部分に気づいてくれた。

 リサとセリーヌも異常に気付いてくれたおかげで、エリカとレイナも出発準備をはじめてくれる。

 俺のパーティはだいぶ救われてるな……って、セリーヌはいつの間にかパーティメンバーに登録していたんだよな……副リーダーにしているエリカの采配なんだろうが、俺に相談してほしかった。


「急ぐぞ! 焔の神殿の奥へ!」


 いろいろ言いたいことのあるメンバーだが、信頼できる仲間たちだ。

 磁力が弱まる炎の環境だが、このピンチを何とか乗り越えて見せる!


◇ ◇ ◇


■魔法都市ルミナエア 上空

 

|〈風魔法:高速飛行〉《ヴェントス:ハイフライ》


 月と星の灯だけが見える夜空を鳥よりも早い速度で、私は飛ぶ。

 向かう先は鉱山都市イーヴェリヒトの近くにある焔の神殿だ。

 後ろを向けば魔法都市ルミナエアの街の明かりが夜空の星のように小さなものになっている。

 私は前を向き、唇を噛んだ。


「お父様には言伝だけになったけれど、私の責任だもの……私が取らなきゃ……」


 私が正気に戻った時は魔導具管理倉庫の呪物地下庫の中だった。

 お父様に抱きかかえられたが、うつろな気分だったのを覚えている。

 【炎魔神の心臓】がなくなっていることに気づいたお父様は盗人探しをはじめ、私にも管理責任ができなかったことを責めた。

 タイミング的に怪しかったが、フレデリックのアリバイは完璧で問題ないとされている。

 でも、《《完璧すぎるアリバイ》》が私にはことさら怪しく感じていた。


「もし、フレデリックが【炎魔神の心臓】を奪っていったのならば、やることはジュリアンへの復讐しかないよね……」


 指輪を壊した謝罪に来ても、心底謝った様子のない彼は双子の兄であるジュリアンを恨んでいる。

 自分の責任を人のせいにて逃げようとしている男なのは明らかだった。


「でも、お父様はフレデリックに責任がないとなれば私のミスであり、家の警備の問題だったとして、私を外に出すことをしなくなった……」

 

 その間に【炎魔神の心臓】の情報を調べたことで、犯人に目星をつけて私は動き出した。

 2,3日時間をロスしてしまったけれど、飛行魔術を使えば少しは短縮できる。


「たとえ、取り戻してもたくさん叱られちゃうな」


 私は戻った後のお父様の反応を思い出しては苦笑した。

 そうだとしても、私は貴族の務めとして、自らの失敗は自らで果たすべきだと動いている。

 そしてもう一つ。


「ジュリアンに会いたくなったというのもあるかも……」


 気を失うような魅了魔法にとらわれた時に思い出した姿。

 5年前のものだけれど、忘れられない人……。


「聞いている磁力魔法が炎に弱いなら、フレデリックと戦うのは不利になる……助けなきゃ!」


 私は急ぐように加速した。



◇ ◇ ◇


■焔の神殿 ダンジョン部 灼熱通路


 焔の神殿奥にある、古代魔法で封じられた扉に俺が触れるとゴゴゴゴと音を立てて開く。

 中に入れば、通路の両端がマグマの海となっており、火柱が通路をまたぐように飛んでいる空間だった。


「あっちぃなぁ……」

「ウンディーネで結界を貼りますわ」


|〈精霊魔法:水流結界〉《エレメス:ウォーターバリア》


 俺達パーティを包む水の結界が広がる。

 隊列を広くとることはできないが、この暑さの中で戦い続けることで集中力を削られたり、疲労がたまるのだけは避けたかった。


「先に進んでいったのは、ジュリ坊の弟なんか?」

「多分な……なんとなく、そんな気がしている」


 アーカナム古戦場での出来事、そしてイーヴェリヒトダンジョンでのスタンピードの発生事件、その二つに双子の弟であるフレデリックは関わっている。

 俺として、俺なんか無視して真面目に後継ぎとして頑張ってほしいと思うんだが、あいつはどうにも俺に執着しているようだった。


「聞いている話やと、フレデリックは火の魔法使いで魔力量100万というエリート魔法使いやろ? 火竜と戦うのと同じくらいジュリアンと相性わるない?」


 苦戦していたことを思い出したのか、レイナが不安げな声を俺の背中にかけてくる。

 その不安は当たっていた。

 あいつの最大火力である|〈獄炎魔法:煉獄〉《ヘルフレア:プルガトリオ》などを打たれれば俺では防ぐことはできない。


「だから、エリカのウンディーネを結構頼りにしてる」

「当然ですわね。けれども限界はあるので、状況を有利に運ぶ必要はありますわ」

 

 俺がサムズアップをしてエリカにウィンクを飛ばすと、エリカは頬を赤く染めて答えてくれた。

 水魔法を使うのがエリカ一人だけだとしても、兄弟として俺が止めなきゃならない。


「むむ、炎の人型がでてきたのだ」

「簡単なエンチャントを行いますわ」


| 〈精霊魔法:水撃付与〉《エレメス:エンチャントアクアストライク》


 俺とセリーヌ、リサの武器に水の膜のようなものがまとわりつく。

 近づいてくる炎の人型に対して、俺達は剣を振るった。

 一閃で真っ二つにでき、次々と出てくる敵を俺達は屠っていく。


「いい感じだ。一撃で倒せる!」

「うむ、これならば進むのが楽になりそうなのだ」

「まだくるにゃよ、油断しないでいくにゃ」


 俺達は灼熱の通路を突き進んでいくと、溶岩の川で通路が分断されていた。

 通路の分断は自然で起きたものではなく、魔法で破壊されたようである。


「追っ手を潰すためにワザとやったか……」

「ここを越えて渡るのはどうするにゃ? 飛べれば別にゃけども……」

「よし、飛ぶぞ! 熱くはあるが、今はまだ磁力の低下は感じないし、魔力の消耗はしていないから全力を出せる!」


 俺はリサの言葉に従い、全員の鉄製装備を確認する。

 リサはナイフ、セリーヌはグレートソード、エリカはショートソード、レイナはハンマーを持っていることを確認できた。

 これならば行ける。


「一気に行くぞ、着地の準備だけはしろよ!」

「え、ジュリ坊、ちょっと待つにゃ!? 早まるにゃ!」


 俺は目を閉じて集中し、魔力と磁力の流れを感じはじめた。

 魔力を使い、マグマの川を弧を描くような磁界を発生させていく。

 スタンピードから2週間、魔力の使い方をリリアンに今一度特訓してもらったことで、複数の対象を操ることができるようになった。

 立ち止まらずに成長するため、ドラゴンに勝つために!


〈磁力魔法:跳躍〉(マグネス:ジャンパー)


 俺達5人の体がフワリと浮き上がり、ヒュンと音を立ててマグマの川を飛び越えて、通路へと降り立った。


「むぎゅ……荷物のお陰で、着地できんかったわ」


 着地に失敗したのは……レイナだけのようである。


「悪い、だけど、急ぐぞ! レイナ!」


 俺はレイナを起き上がらせると、灼熱の通路を進んでいった。

 通路を塞ぐなんてことをしだしているなんて、かなりヤバい状況である。

 

「フレデリック、早まるなよ……」


 取り返しのつかない状況になる前に、あいつを止めなくてはならないと俺は心に誓った。


◇ ◇ ◇


■焔の神殿 ダンジョン部 溶岩の祭壇


 ダンジョンの中腹部にある溶岩の祭壇に3人の魔術師の男女の姿があった。

 祭壇の一角に腰を下ろして休憩をしている。


「フレデリック様、わたくしが魅了魔法で聞いた情報ですと、ここが中腹ですわね」

「そうか……イフリートが封印されている祭壇はまだ奥か……」


 水を飲んだオレは汗をぬぐい、ダンジョンの先を見ていた。

 懐には【炎魔神の心臓】があり、それを使ってイフリートの封印を解くのが目的となる。

 イフリートの封印を解いて使役することはこの心臓があればできるので、火竜の時のような失敗はない。


「兄貴……次こそは俺が勝つんだ……」


 だが、こういう時、あの兄貴が邪魔しに来る予感がしていた。


◇ ◇ ◇


■焔の神殿 ダンジョン部 溶岩の祭壇

 

 巨大な溶岩ゴーレムが俺達の前に立ちはだかっていた。

 エリカのウンディーネも随分と長く連れていっているため、 疲労のようなものがうかがえる。

 エリカ自身も、契約を魔力をウンディーネに与えているためレイナが持ってきている魔力ポーションを飲んでいた。

 

「ウチもここらで活躍せんとな! そうら、これでもくらいや!」


 レイナが背負っているリュックから水色のポーションを取り出して溶岩ゴーレムに投げつけた。

 溶岩ゴーレムにぶつかって割れた水色の液体がゴーレムを包み込んで、氷漬けにしていく。


「火竜を倒したいと思っているのはジュリアンだけやないで! 氷結ポーションや!」

「熱くなくなったのならば、やれるのだ!」

 

 レイナが大声で、自分のポーションの完成度に拳を握って満足していると氷漬けになった溶岩ゴーレムの体をセリーヌが駆け上がった。

 両手でグレートソードを持ちながらも、素早い動きを出せているのは既に|〈強化降霊:狩猟豹〉《シャーマニックブースト:チーター》で敏捷性を高めているからである。

 グレートソードを振りあげながら溶岩ゴーレムの肩を力強く踏み込んだセリーヌは、蹴り上げて大きく飛んだ。

 上空から狙いを定め、溶岩ゴーレムの頭上からまっすぐにグレートソードを振り下ろす。


|〈強化降霊:大猩猩〉《シャーマニックブースト:ゴリラ》


 ズバァァァンと腕力の高めた一撃でもって、溶岩ゴーレムを一刀両断した。

 着地していたセリーヌが立ち上がると、放漫な胸がぶるんと大きく揺れる。

 ビキニアーマー姿でも溶岩ゴーレムの近くは近寄れないほど熱いようだ。

 まぁ、当然といえば当然か……。

 溶岩ゴーレムのコアなど、素材をレイナに回収してもらいながら、ダンジョンの奥へと進路を向けた。


「エンチャントって便利にゃね、あちしでも炎の人型くらいならすぐに倒せるにゃ」


 先行していくリサが露払いをしてくれるお陰で、戦力を温存しながら進めていけるのは助かっている。

 

「もう少し進んだら、『鍛冶神の試練の間』と呼ばれる場所になるでー。おとーちゃんに連れられて昔いったことあるんや」

「試練の間とかついているということは、中ボスがいるんだな?」

「チュウボスってなんなのかわからんけど、炎の戦士とやりあって認められるのがイーヴェリヒトでの一流鍛冶師の試練となっとるよ」


 走りながら伝えられるレイナの言葉に俺はそこで足止めしていてくれればと少し期待をしていた。

 だが、鍛冶神と試練の間にたどり着いたとき、淡い期待は崩される。


「フレデリック!」

 

 俺は炎の戦士を何かのアイテムで吸収しているフレデリックの姿を見かけて叫んだ。


■焔の神殿 ダンジョン部 鍛冶神の試練の間


 先ほどまでの溶岩地帯が広がる中に石造りの円形闘技場に近いものが立っていた。

 中央には聖火台のような炎が立ち上っているものがあり、聖火台のようなものの周りにはフレデリックと知らない男女が一人ずついた。


「クソ兄貴……やっぱり来ていたんだな」

「そのアイテムはなんだ! お前は何をしようとしている!」

「兄貴に言う必要はない。オレの邪魔をしないでくれ!」


 フレデリックに問いかけるも、俺の言葉は否定されてフレデリックはさらなる奥へと向かおうとする。

 

「兄弟喧嘩に口をはさむのもにゃーとは思うけど、ジュリ坊のことを気にしすぎてるにゃね。フレ坊は」

「フレ坊!? フレデリック様、あの無礼な女を許してはおけませんわ!」


 リサの言葉にフレデリックのそばにいた女がヒステリックな声を上げた。

 服装からすれば貴族の子女だろう。フレデリックに付き従っているというか心酔か崇拝に近い何かを感じる。

 

「炎の戦士がいればオレも一人でこの先は大丈夫だ。お前たちはここで足止めをしろ」

「かしこまりましたわ。すぐに片づけて追いかけます」

「僕も同じです。下賤な平民冒険者など、すぐに片づけます」


 フレデリックが指示をだすとヒス女と無礼男が俺達の進路をふさいだ。

 なんというか、完全にアニメやラノベの悪の親玉みたいな動きをしているぞ、フレデリック!

 

「俺達は人に手を上げることはしたくないんだ。おとなしくしてくれ」


 ため息をついた俺は口ではそういいながらも剣と盾を構える。

 悪の幹部みたいなやつらは口でいってもどうしようもないんだ。


「ウチは人相手の方がやりやすいにゃ」

「気が合うのだ、私もだぞ!」


 俺の両隣にリサとセリーヌが立つ。

 二人とも胸囲装甲の厚さではパーティの1位と2位だ。

 無礼男の方が鼻のしたを少し伸ばしたところを、ヒス女が小突く。

 ヒス女の方は己が洗濯板なのをわかっているのか、怒りを止めるようなことはしていなかった。


「男はフレデリック様以外は下衆なのよ! わたくしの魔法でまとめて蹴散らしてさしあげますわ。わたくしの高貴な名を覚えておきなさい。 セレナ・ド・ヴェルサイユの名を!」


 貴族らしく名乗りを上げたヒス女あらためセレナは薔薇の花びらを宙に舞わせる。

 周囲に散った花びらが消え去ると、セレナと無礼男、そしてフレデリックの姿が消えた。


「どこに行っ……くっ!」


 俺が二人の姿を探そうとすると、風の刃が俺の体を斬り裂いていく。

 ふざけた二人ではあるものの実力者ではあることを俺は感じた。



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