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俺だけ使える磁力魔法~追放された転生アニオタ貴族は最強魔法剣士になる~  作者: 橘まさと


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4/8

第4話 剣闘都市グラディオ

■シュタイン商館・食堂

 

 アーカナム古戦場での依頼から数日が過ぎた頃、朝食を食べていた俺にヴィルヘルム父さんが手紙を一枚持ってきた。


「父さん、この手紙は?」

「ああ、知り合いがね……ジュリアンを闘技場へ招待したいとのことで招待状をもらってきたんだ」

 

 剣闘都市グラディアは今いるイーヴェリヒトから乗り合い馬車で5日間ほど行った場所にある街だった。


「あら、面白そうな場所ですわね」

「あちしも参加できるならしてみたいにゃね~」


 朝食を一緒に食べている俺とヴィルヘルム父さんとの話にエリカとリサが混ざってくる。

 この街に今、フレデリックがいて古戦場の件から見つかると絡まれたりして面倒くさかった。

 それならば、俺らの方から街を少し離れてみるのもいいだろう。


「レイナはどうだ?」

「うちは工房があるから、長期で離れるのは問題やねん……別に冒険者として依頼で動くわけでもないなら、うち抜きでいってくるとええで」

 

 確かにレイナのいうように冒険者の仕事としていくわけではないなら、パーティにこだわる必要はなかった。

 回復はエリカの水の精霊でもフォローできるし、アンデットと戦うわけではないならポーションも過剰に必要はなくなる。

 ただ、俺としてはここ数か月一緒に飯を食って、依頼を受けてきたので寂しいことには寂しかった。

 これは恋とか愛とかなのだろうか……彼女いない歴の長かった俺には判断がつかない。


「なんや、ジュリアンはうちが一緒にいかなくて寂しいんかぁ~?」


 ニヤニヤと笑いながらレイナが俺を見つめてきた。

 見た目ロリッ子の癖に中身は大人なので、ドワーフは厄介である。

 エリカくらい見た目が年上ならば、俺としても納得できた。


「べ、別に寂しくなんてねーよ。ヴィルヘルム父さん、せっかくだから行ってくるよ」

「お昼頃に馬車がでていくから、準備をしたら乗っていくといい……私の知り合いは闘技場の管理者であるルーカス・ブレイザーだよ。私の名前を出せばいろいろ協力してくれるだろうから、頼るといい」


 ヴィルヘルム父さんに感謝をしながら、朝食を食べ終えた俺とエリカとリサは保存食をなどを買いに商業区へと出向くのだった。


■乗合馬車停留場

 

 食料を買い込んだ俺らは馬車の停留場へと向かうとグラディア行の馬車へと乗り込んだ。

 先客として身長が180cmはあろうかという大男が一等席に座っている。

 男の両隣にはこれまたガタイのいい男がいた。

 男くさくてあまり近寄りたくない。


「俺らは二等席にするか」

 

 俺の気持ちを察したのか、エリカとリサは俺を挟むようにして二等席に座った。

 ぽろぽろと人が入り、乗合馬車は定員になり走り出す。

 イーヴェリヒトを出て、グラディアに向けて馬車はゆっくりと進んだ。

 野宿や村で泊りながらの5日間の旅である。


「お前が……エターナルホープのジュリアンか?」

 

 馬車で揺られている中、一等席の筋肉男が俺に話しかけてきた。


「そうだけど……それが?」

「俺は奴隷商人のグレン・ガイアクルスだ。噂はかねがね聞いているよ」


 奴隷商人は初めてあったが、商人でもこんなムキムキなのがいるんだなと変に関心してしまう。


「そりゃどうも……グラディアには奴隷探しとかか?」

「イーヴェリヒトで鉱山奴隷を下ろして、グラディアには剣闘奴隷を見に行くところだな……そっちは何をしに?」

「闘技場から招待状が来たので、見に行ったりする予定かな」


 俺らは情報交換をしながら、馬車の旅を続ける。

 奴隷商人って、もっと嫌な感じの奴だと思っていたが、話してみると理性的で話しやすい感じだった。

 見た目がゴリゴリのマッチョなのに意外である。


「グラディアは良くいくから、案内してやるよ。あそこは屋台飯がうまいんだ」

「あらあらあら、おいしい屋台があるのです? それはとっても期待してしまいますわ!」

 

 ご飯の話がでたのか、エリカが俺とグレンの会話に混ざってくる。

 本当にエリカは花より団子派だ。

 ほほえましくて、思わず俺は笑ってしまう。


「ジュリアンさん、なんで笑うんですの! 失礼じゃありません?」

 

 プンプン怒っているエリカを宥め、俺はグレンと話を続けた。

 グレンは元々、裕福な商人の家に生まれたが、若い頃に家族を失い、過酷な生活を強いられてきている。

 彼自身も一時期は奴隷として売られる寸前まで行ったが、自らの機転と知恵で逃げ延びたようだ。

 アラサーらしいが、人生の厚みが俺とは違う。


「グレンさんは立派な奴隷商人ですのね。わたくしが知っている奴隷商人とは違うイメージですわ。同族の中でもさらわれて奴隷にされたという話もありますのに」

「あちしみたいな獣人も奴隷として狩られたりしているにゃね」


 エリカはエルフだ。

 美人が多いエルフは奴隷としての価値が高いというのは異世界ファンタジーあるあるだ。

 イーヴェリヒトやルミナエアでは奴隷について触れたり、知る機会はあまりなかったが、この世界全体でみると奴隷がいたるところで活用されている。


「俺は今の奴隷制度を否定するわけじゃないが、不当な扱いを受ける奴らを減らしていきたい。だから、買い付けて適材適所で売り払っていっているんだ」

 

(まるで、転職エージェントとかだなぁ……ブラック企業の社員はある意味奴隷だし)


 俺は前世でのことを思い返しながら、目の前の男に協力したいと思った。


「俺達でできることがあれば手伝わせてもらうよ。もちろん、タダじゃないけどな」

「そいつはありがたい。冒険者であり、大手シュタイン商会のお坊ちゃんとのコネは大金に値する」

 

 ガハハと笑うグレンと俺は握手を交わす。

 なんだかんだで、楽しい旅になりそうだった。


◇ ◇ ◇


――オレは間違っていない

――オレは間違っていなかったんだ!


■数日前 イーヴェリヒトのとある宿屋

 ジュリアンがイーヴェリヒトからグラディアへ旅立ったと聞いたオレは今のうちにダンジョン攻略を進めることをダンテ先輩やエリオット教授に進言した。

 エリオット教授の部屋で相談するためにみんな集まっている。


「大体の内容はわかったから、溶岩地帯まで進むのは十分ありだと俺も思います」


 ダンテ先輩はエリオット教授を見て、話にのっかった。

 ジュリアンにいいところを奪われたことにダンテ先輩は引っ掛かりを感じているようである。

 もっとも、オレも先輩よりも火魔法での実力は上なので、オレに対しても思うところはあるだろうが……。


「ダンジョンでの進み方も慣れてきましたし、深い階層にいくのはいいでしょう。保存食なども持って、ダンジョン内部で一泊をするつもりで準備していきましょう」

「エリオット教授! 二泊以上は私したくないです」

「私も避けたいですね。今回は一泊だけで、慣れたら次をどうするか考えていきましょう」


 話を黙って聞いていた、唯一の女性であるセシリア先輩が手を上げて抗議の意思をしめしている。

 ダンジョン内に風呂などはないので、長期間の滞在は汗臭くなるので嫌だということだった。

 オレとしては目的はジュリアンの成績を超えることなので、奥深くまで行ければそれだけでいい。

 あの《《無能な兄》》よりオレが負けている現状に納得がいかないだけだ。


「あとはギルドでポーターを雇いましょう。テントなどの道具はポーターに持たして僕たちは両手の自由を確保するのが先決ですね。費用は僕が持ちますから、安心してください」


 エリオット教授が話をまとめると、その場は解散した。


■イーヴェリヒト鉱山ダンジョン・結晶洞窟階層


|〈灼熱魔法:爆炎〉《バーニング:エクスプロージョン》


 オレが呪文を唱えると右手の中指にはまっているフレイム・ルビーの指輪が赤くまぶしい光を放つ。

 火魔法では倒しづらいとされるクリスタルゴーレムが、オレの魔法に包まれ轟音を鳴らした。

 

(やはりつよい、オレはアニキとは違うんだ)


 ジュリアンよりも先の階層へ通り、階層主であるクリスタルゴーレムの屠れる実力がある。

 どちらがすごいかなど火を見るより明らかだった。

 結晶洞窟階層の主を倒したので、しばらくはここも安全だろう。


「テントで一泊したら、下の溶岩階層へいきましょう。しっかり休むことも必要です」


 エリオット教授にそういわれたら従うしかないので、オレはポーターが組み立ててくれたテントの中に入って目を閉じる。

 その時オレは指輪に小さな亀裂が入っていることに気づかなかった。


■イーヴェリヒト鉱山ダンジョン・溶岩階層


 ダンジョン内ということもあり、溶岩階層は熱気がこもって暑かった。

 

「溶岩地帯ですから足元に注意しながら進んでください」


 ぐつぐつと燃え滾る溶岩の中をオレたちは進む。

 ポーターの足取りが遅いが、計画を実行するには好都合だった。

 オレの目的は火竜を従魔化することである。

 火竜は知恵者であり、炎の力強さによって従うと聞いていた。


(オレの火魔法の強さであれば、火竜を屈服させるなど造作もないことだ)


「火魔法が中心の僕たちパーティは長居せずに抜け出すのが一番ですからね。階段のほうへ進みましょう」

 

 だが、エリオット教授はこの階層の早期離脱を考えている。

 それではいけない、ここでオレははぐれた振りをして、下層へ続く階段から火竜の巣穴に進路を向けて進んだ。


■火竜の巣穴

  

「すごい……これをオレが従えれば、学園での評価もアニキの評価も全てが塗り替えられる!」


 巣穴でうつ伏せで寝ている火竜を前に、オレは興奮が止められない。

 まずは起こすところからだ。


|〈灼熱魔法:爆炎〉《バーニング:エクスプロージョン》


 得意の灼熱魔法を火竜へと放つ。

 火竜の体が炎に包まれるが悲鳴などは起きない。

 この程度では傷つかないことは織り込みずみだった。


『貴様はなんだ……我に何を求める』


 起きた火竜がオレを見ながら、威厳のある低い声で語りかけてくる。

 

「要求は一つ、オレの従魔になれ。契約の証として炎を見せつけよう」

 

 オレは事前に調べた通りに火竜へ右手の指輪の力で強化された魔力の灯を見せつけた。


『ほほぅ、思った以上に強い魔力と炎を持っているようだ。だが、我より弱ければ話にならんぞ』


 火竜は息を吸い込むと、炎のブレスを吐き出す。

 指輪が光り、自動防御を行うための炎の障壁がオレを包んだ。

 10歳の誕生日にローレライ家からもらった指輪の性能に驚くしかない。


(ローレライ家は利用していきたいな。アニキの元婚約者のアリシアも手に入れたい)


 火竜のブレスを塞き止めていた指輪の障壁が指輪にはめられていた宝石がくだるとともに消えた。


『道具頼みとは片腹痛い……貴様に私を従える資格などないわ』


 火竜のブレスが俺を包むかと思ったら、砕けたフレイム・ルビーの指輪から膨大な魔力があふれだして炎の濁流となって広がってく。

 指輪の能力としてあったオレの魔力を蓄えておく力が一気に解放されたのだ。

 オレは今では100万を超える魔力量を持っており、指輪は常に身に着けて魔力を影響がでないように吸わせ続けていたので、封じられた魔力の量は考えられない。

 あふれだした魔力の濁流はブレスを飲み込み、巣穴を破壊して広がっていった。


『ふははは! 面白いぞ、これだけの魔力があふれたのであれば我がこの階層に縛られている結界さえも砕くであろう。外の世界へと出て蹂躙しようぞ』


 火竜はそういって砕けた巣穴にできた大きな穴より翼を広げて飛び出した。

 

「これは、オレのせいじゃない……この指輪のせいなんだ……」


 巣穴に取り残されたオレは静かにつぶやく。

 その言葉をだれも聞いてはいなかった。


◇ ◇ ◇


■街道沿いの野営地


 5日の馬車移動の中、4日目の野営をする際には俺とグレンはだいぶ打ち解けていた。

 グレンと一緒にいる男の護衛達は二人とも奴隷であり、赤黒い肌に頭部に黒い角が生えているオーガという種族らしい。

 男性用を俺とグレン、女子用をエリカとリサがテントを張っている中、オーガの二人は周囲を警戒していた。

 

「あと1日でグラディアに到着か……」

「最後の野宿だから、だいぶ手慣れたもんだ」


 パパっとテントを立てると、食事の用意をしはじめる。

 今日は野宿も最後なので食料を使い込んでしまおうと俺は考えていた。


「具材たっぷりシチューで決まりだな」

「ジュリアンさんのシチューはとってもおいしいのですわよ。わたくしも大好きですわ」

「あちしもジュリアンの料理は好きにゃ~」

 

 食材を確認していた俺がメニューを決めていると、エリカとリサが背後から俺の手元を覗いてくる。

 覗いてくるだけで、二人は手伝わない……いや、俺が手伝わせない。

 一度エリカに料理をさせてみたら、ゴミくずが出来上がったし、リサに物を切らせたら、大雑把にしかきれなかった。

 顔は二人ともいいのに、メシマズ女子で残念である。

 ミツキはメイドでもあるから、料理が上手いし俺の料理の先生もミツキだった。

 

「ん! 周りを囲まれ始めてるにゃね……影を通して動いているかもしれにゃいから、ダークウルフかもにゃ」


 リサの表情が真剣なものになり、腰のナイフ入れからナイフを二本抜いて両手で構えた。

 

「ダークウルフとなれば、集団行動を行っていますわ。今日は満月ですから、狙ってきているのかもしれませんわ」

 

 エリカは光の精霊(ウィル・オ・ウィプス)と木の精霊(ドライアド)を呼び出し、襲撃に備える。

 

「馬車の守りは俺とオーガの兄弟に任せてくれや。エターナルホープの実力も見てみたいしな」

 

 グレンは戦う素振りを見せず、馬車のあたりに陣取った。

 震える御者を巨体に隠して、傷つけないようにしている。

 同じ馬車に乗っていたものもいるが、俺達とグレン達以外は非戦闘員のようなので、戦力にカウントできない。


(もっとも、今の俺は料理中だし金属武器を持っていない敵相手だと磁力魔法はあまり活用できないんだよな……)


 場所が金属反応の多数ある鉱山や、古戦場などでは対象として指定できる存在は多いが、ここは森だ。

 |〈磁力魔法:磁界探知〉《マグネス:マグネディテクト》でサーチしても、俺らが持っている武器くらいしかヒットしない。

 あとは鍋やフライパンなどの調理器具類だ。

 使えなくはないが、敵の数が圧倒的に多いので、いざという時の保険だろう。


(ゴーレムを召喚できるレイナがいてくれたら数の不利は多少はなくなるんだろうけどなぁ……)

 

「エリカ、リサ……今回、俺は料理を守るだけが精いっぱいになりそうだから、頼んだ」

「遠慮せずに、お姉さんを頼るといいですわ」

「あちし達に任せるのにゃ」

 俺が二人に頭を下げると、二人は嬉しそうに笑って、迫ってきたダークウルフたちを迎撃にでる。

 

|〈光の精霊:閃光〉《ウィル・オ・ウィプス:フラッシュ》


 数の有利を生かすために一斉にとびかかってきたダークウルフ達を最初に迎撃したのは眩い光だった。

 ダメージを与える効果はないが、目くらましには十分である。

 

「キャゥン!?」


 驚きのあまりに地面へと落下したダークウルフの喉元をリサが確実に二本のナイフで斬り裂いていった。

 それだけでは追いつかないので、エリカが木の精霊にも指示をだす。


 |〈木の精霊:根の槍〉《ドライアド:ルートスピア》


 木の根を槍にする能力を発揮して、倒れ伏しているダークウルフを貫きだした。

 数がどんどん減っているのを見て、俺は自分が驕っていたことを恥じる。

 実はもっと苦戦するんじゃないかと思っていたのだ。


「兄者、思ったよりも楽だな」

「そうだな」

 

 馬車のほうをみれば、オーガの兄弟が巨大な金棒でエリカとリサの攻撃をよけてきたダークウルフを屠っている。

 一撃で軽々とはじいている二人はグレンの護衛だけあって強そうだ。

 冒険者ランクでいえば俺らと同じか上かもしれない。


 そうこうしているうちに数を大きく減らしたダークウルフ達の中で、一際大きなものが姿をみせた。

 群れのリーダーだろうか、ゆっくりと近づき咆哮を上げる。


「ウォォォォォッ!」


 耳をつんざくような声に、戦闘態勢をとっていた全員が委縮した。

 攻撃意思のあるものに影響するスキルのようなものだろうか?

 幸い俺には影響がなかったので、実験的な磁力魔法を試してみることにする。


|〈磁力魔法:磁界地雷〉 《マグネス:マグネティックマイン》


 ダークウルフリーダーの足元に起動型の魔法を仕掛けた。

 委縮しているほかのメンバーを仕留めようとゆっくりとダークウルフリーダーが足を踏みだすと魔法が発動する。

 グレンの胸にしこんでいたナイフ、エリカの背負っていた矢、リサのナイフ、俺が料理に使っていた包丁がダークウルフリーダーの周囲に発生した磁界に引き寄せられて、ものすごい勢いで飛んでいった。

 ダークウルフリーダーは迫ってきた刃物たちの雨に身をひるがえしてよけようとしたが、ダークウルフリーダーを磁石にしているようなものなので、逃げることなど不可能である。


 ザシュザシュザザザ


 ダークウルフリーダーがハリネズミになり、息絶えた。


「ジュリアンさんに結局いいところを持ってかれてしまいましたわ」


 エリカがぷぅと頬を膨らませている。


「ごめんて、お肉たくさんシチューに入れてやるから許してくれよ」

「大きいお肉にしてくださいな」


 俺は不満を持つエリカに料理の肉でごまかすことにした。

 チョロ可愛い奴である。


 ■剣闘都市グラディア


「おう、起きろよ。ついたぜ」

「ああ、悪い……デッケェ闘技場だなぁ……」


 昨夜は飯時にダークウルフが襲ってきたため、その後も交代の警戒をしたりであまりよく眠れなかった俺は揺れる馬車の中で眠っていた。

 グレンに起こされて馬車から外に出てみれば、外壁の上から飛び出す大きさの闘技場が街の中央にそびえ立っているのが見える。

 衛兵に入門手続きをして、街に入ると雑多なメインストリート目の前に広がった。

 メインストリートの両脇には試合を告知するポスターのようなものが貼り出されている。


「イーヴェリヒトの繁華街もすごかったが、こっちはもっとすごいなぁ」

「こういうところではスリに気を付けませんとね」

「にゃんで、あちしをみていうのにゃ……その件はもう許してほしいのにゃ」

 

 俺が街並みに感心していると、エリカはリサとの出会いのことを持ち返してきていた。

 随分前のようにも思えるし、つい最近だった気もする不思議な感じがする。

 リサも随分丸くなったなと思う。


「お土産は後で買うとして、まずは招待状のもとへ行くとしよう。おすすめの宿屋とかもそこで聞けばいいし」

「その招待状に押されている印はフレイザー伯爵家のものじゃないか、闘技場の管理者から直々に呼ばれる実力者だったんだなぁ。まぁ、昨日の戦いを見ればそうか」


 俺が招待状を確認していると、グレンがひょいと取り上げて確認してから返してくれた。

 別の街にいるはずの俺に声がかかってくるなんて、父さんが何か話していたりしていたのかなと思いながら、グレンにたずねる。


「グレンは奴隷を見に行くのか?」

「ああ、だからここでお別れだ。フレイザー伯爵はだいたい闘技場の管理局にいるそうだから、この道をまっすぐ進んで闘技場を目指すといい。試合もみてみろよ」

「ありがとう。まずは行ってみるよ」


 拳をグーにしてぶつけ合う、男同士のあいさつをグレンとかわした俺は闘技場へと向かった。


■剣闘都市グラディア・闘技場


 ワァァァという歓声が闘技場の受付の位置まで聞こえてくる。

 試合の観覧は立ち見以外になかったので、まずは用事を済ませるために受付に来ていた。


「お待たせいたしました。ルーカス様がお会いになられるそうです」

 

 受付嬢に案内されて、闘技場内の執務室へと案内される。

 室内は石造りではあるものの豪華に装飾されていて、貴族の威厳を保つために派手な様相を呈していた。

 部屋の隅に置かれている壺などもかなりの値段がすることだろう。

 一緒に来ているエリカとリサは所在なさげにキョロキョロしていてちょっと恥ずかしかった。


「ようこそ、ジュリアン・シュタイン君。ヴィルヘルムからいろいろ聞いていたよ」

「この度はご招待いただきありがとうございます。具体的なお話内容はなかったのですが、どのような要件でしょうか?」

「立ち話もなんだから、座ってくれ」


 ルーカスに案内されてふかふかのソファーに俺達3人は座った。

 エリカとリサはテーブルに置かれたお菓子を一口食べると、あまりのおいしさに夢中になって食べている。

 恥ずかしいからやめてほしい……リサは育ちからしてわかるが、エリカは……食いしん坊だからしかたなかったか。


「え、ええと……改めて要件のほうを……」

「ん、そうだね。この闘技場で1つ試合を頼みたいんだ。相手は闘技場の覇者である【セリーヌ・フランベルジュ】だ。大会の本戦前のエキシビジョンマッチをやってもらおうと思っている」

「どうして俺……なんでしょうか?」


 闘技場のチャンピオンと戦うのが闘技場なんか参加したことのない、Cランクになりたての冒険者というのは興行的に面白いのか俺にはわからない。


「ヴィルヘルムから聞いているけど、君は面白い魔法を使うらしいね? だから、セリーヌの刺激になるかと思ってね」

「そこまで持ち上げられても……困るのですが……」

「本音をいうとだね、セリーヌはこのあたりでは強すぎて、最近増長してきているんだ。だから、ちょっと新しい世界を見せてあげようとね」

 

 ルーカスが苦笑しながら俺に話してきた。

 父さんの手紙に直接かける内容じゃないのは確かである。

 先日のダークウルフ戦のこともあるが磁力魔法は対人戦に強い。

 闘技場という環境でどこまで通用するのか試すのは悪い話じゃなかった。

 ただ、相手が闘技場チャンピオンということでもあり、死なないにしても危険度は高い。


「わかりました。報酬はどうなるんでしょうか?」

「お金でもいいけれど、君の希望はどうかな?」

「アダマンタイトの武器、防具があればほしいんですが、さすがにエキシビジョン一戦の報酬としては高すぎますよね」

「さすがにそれは無茶というものだよ……報酬のほうはエキシビジョンの盛り上がりしだいとしようか」

「そうですね、それでお願いいたします」


 俺はルーカスと握手をして、エキシビジョンマッチの申し出を受けることにした。


■闘技場挑戦者控室

 ウワァァァと盛り上がる声が響く。

 今日の大会も満員御礼のようで、盛況のようだ。


「さて、装備はこんなものか……」


 いつもの鉄の剣にバックラー、鉄製のガントレットにブーツと装備を確認していく。

 今回のエキシビジョンマッチは魔法の使用もありの10分1本勝負とのことだ。

 装備も持てるだけもっていいとのことだったので、投げナイフを腰のベルトに仕込む。


「こういうときになると、アイテムボックス系のスキルや道具が欲しくなるなぁ。鉄球とかいくらでも持っていきたい」


 闘技場で戦うことにならなければ、今の自分の足りないところに気づけなかったので、試合を受けたのは良かったのだろう。

 

「ジュリアン選手、入場をお願いします」

「わかった」

 

 スタッフに促されて俺は両手で顔をたたき気合いを入れた。

 控室には俺以外にもリサとエリカがいる。

 特にリサは俺以上に気合いが入っていた。 


「ジュリ坊、エキシビジョンマッチだからと手を抜くのはなしにゃ。全力でいくにゃよ! そして、勝つにゃ!」

「ジュリアンさん、無理はなされないように……この人が勝てといっているのは賭けているからですわ」

 

 リサの気合のネタばらしをエリカから受けた俺はちょうどよく緊張がほぐれる。


「まぁ、せっかくなんで全力でやってみるよ。対人戦は冒険者になるための試験以来だからな、楽しみでもあるんだ」

 

 あの頃は〈磁力魔法:加速〉しか使っていなかったので、今の呪文パターンで対人戦は初めてだ。

 相手が闘技場のチャンピオンだったとしても、胸を借りるつもりで挑みたい。

 俺はわくわくした気持ちで控え室を後にした。


■闘技場


 闘技場の中央舞台にでていくと、一際大きなブーイングが沸き上がった。

 司会の男が俺について説明をしているようだが、チャンピオンに子供をぶつけたことに観客は不満らしい。


「子供が相手とはな、実地訓練なのか?」


 不満なのは観客だけでなく、バルンと大きな胸を揺らしたビキニアーマーのチャンピオン――セリーヌ・フランベルジュ――も同じようだ。

 はっきりいって、目のやり場に困る!

 巨乳というか爆乳を申し訳程度に抑えているアーマーに意味があるのか小一時間ほど問い詰めたい。

 いつのまに俺はエロゲーの世界に来てしまったのだろうかと悩むほどである。


「俺に胸を貸すつもりでお願いしますよ、チャンピオン」

「胸を貸す……私の体が目当てだったのだな! 破廉恥な奴め、グレートソードでぶった切ってやるのだ!」


 闘技場のチャンピオンは脳みそまで筋肉らしい。

 ルーカスの話では訓練教官をしていると聞いていたが、そんなことができるタマなのか甚だ疑問だった。


「破廉恥なのはチャンピオンの恰好だと思いますけどね……」

「私はシャーマンでもあるからな、身体強化のための入れ墨を見せるために露出が多いのだ!」


 自分の手の内を軽々と話すのは、実力があるが故かおバカなのか……ディフェンディングチャンピオンであるため前者だと思いたい。


「両者、準備はいいですね?」


 雑談が続きそうだと思ったのか、審判が俺達二人に確認をしたことで武器を構えて試合開始の合図を待った。


「エキシビジョンマッチ、はじめ!」


|〈強化降霊:狩猟豹〉《シャーマニックブースト:チーター》


 試合開始の合図とともに、両足の入れ墨が光ったかと思うと、俺の目の前にセリーヌの爆乳がぶるんと揺れて現れた。


|〈磁力魔法:斥力〉《マグネス:リパルション》


 爆乳に見惚れていたら、斬られると思った俺はすぐに盾を構えてセリーヌの剣と俺の盾を反発させる。

 

「な、なんなのだ!? 斬れない? 見たことがない魔法なのだ!」


 自分の横薙ぎに振るうために使ったパワーが急に反対方向に向いた。

 しかし、セリーヌは驚きながらもバランスをとって、両足を踏みしめる。


「子供と思って油断していたのは認めるのだ。今の一撃で、大体終わるのだが、お前はそうじゃないようなのだ」


 ニコリとセリーヌは笑い、グレートソードを地面に突き刺した。

 

「次はこれで! どうするのか見せるのだ!」


 何をするかと思ったら、再び間合いを詰めてきて、今度は素手で殴りかかってくる。


|〈強化降霊:大猩猩〉《シャーマニックブースト:ゴリラ》


 右腕の入れ墨が光り、鋭いパンチが飛んできた。

 相手はガントレットを付けておらず、磁力魔法の対象外なので、普通に盾で受けてみる。

 ゴインと鈍い音と共に盾がつぶれ、勢いはそのままに俺を吹き飛ばす。

 衝撃に目の前をチカチカさせながら、俺は舞台の上に転がった。

 

「グハッ、はぁっ、ウォエッ……」


 血と共に胃液を吐き出し、俺は立ち上がる。

 受けてみようなんて軽々しく思っちゃいけなかった。

 俺の体はまだまだ10歳の子供でもあることを、忘れがちになっている。

 これが闘技場の試合でなかったら、追い打ちをかけられて死んでいただろう……。


「今の一撃で気絶しなかったのは褒めてやるのだ。はやく降参しないと、もっと痛い目みるかもしれないぞ?」


 コキコキと首を鳴らして、セリーヌは素手で構えた。

 パンチがいい当たりをしたことで、グレートソードよりも有効だと気づいたのだろう。

 装備は動きやすさを重視した革製のものだろうからか、俺の磁力魔法では捉えることはできなかった。


「盾は使えないが、腕からも……抜けない」 

 

 ひしゃげてしまった盾を捨てたいが、腕を挟めるようにひしゃげたので、取り外せない。

 だが、磁力魔法で《《盾を操作はできる》》。


(腕が使えないと油断させるのはいい手だな……)


「左腕が動かせないほどならば、降参するのだ。無駄な戦いは私もしたくないのだ」

「これくらい、平気ですよ……利き腕が残っているなら、どうとでもなる!」


 今度は俺の反撃の番だった。


 キンキンキンと舞台の上で、拳と剣がぶつかりあう音が響く。

 セリーヌが素手なのに金属音が響くのは一重に|〈強化降霊:穿山甲〉《シャーマニックブースト:パンゴリン》で肉体を鋼のように強化しているからだった。


「俺の磁力魔法もたいがいだが、強化降霊もたいがい……だなっ!」


 セリーヌの攻撃を左腕の盾を〈磁力魔法:加速〉(マグネス:アクセラ)で素早く動かしてはじいていく。

 だが、同じく〈磁力魔法:加速〉(マグネス:アクセラ)で剣を動かした攻撃もいなされてしまうので、互いに決定打がない状況だった。

 いや、10分一本勝負ということなので、時間ギリギリまで動けばスタミナの量で俺のほうが不利である。


「どうしたのだ? 余裕がないようなのだ」


 ニマニマと笑いながら攻めてくるセリーヌに俺はいらだちを得た。

 舐めプされている。

 ルーカスがいっていた増長しているというのはこういうとこなのだろう。

 強いが故にライバルがおらず、弱い相手を侮り、嘲り戦う姿は実力的にチャンピオンでも続けば人気が低迷していくのは予想ができた。


「相手に敬意を払わないのは……嫌われるぜ!」

「けーい? 何それ、おいしいものなのか?」


 腕っぷしの強さが全てを決めるアマゾネスという種族で、身体強化できるシャーマンの素養のあるセリーヌに人間らしい感覚はないようである。

 だが、相手のことばかり考えているわけにはいかなかった。

 体のいたるところが悲鳴を上げ始めていて、疲労による集中力の低下は磁力魔法の精密なコントロールにも影響がでる。


『残り3分です。挑戦者、意外ともちますねぇ』

『いや、これはチャンピオンがいつも通り遊んでいるからでしょう』


 制限時間の話を解説者と実況者が話していた。

 3分で勝負をつけるなんて、光の巨人かよ……。

 だけど、やらなくちゃならなかった。

 俺のためにも、そして戦っているセリーヌのためにも……。


「何かあるようなのだ。いい目なのだ」

「見透かされるのはやりづらいよ……モンスター相手のほうがかなり楽だ」


 俺の気持ちを汲み取ったのか、セリーヌは俺との間合いを開けて仕掛けてくるのを待っていた。

 セリーヌに向かって俺は駆け出す。

 

〈磁力魔法:収束〉(マグネス:ストリング)


「何か仕掛けると思ったがつまらないのだ」

「そうでも……ないぜ!」


 やれやれとあきれているセリーヌに俺は剣を振るいながら、セリーヌの背後からセリーヌが地面に突き刺していたグレートソードをぶつけようと磁力で引っ張った。

 俺の剣とグレートソードの間に磁力の帯でのつながりを感じる。


「面白いのだ!」


 セリーヌは俺の剣を正面から受け止め、背後から迫っているグレートソードを蹴り上げて挟みうちを防いだ。

 だが、これらも俺の最終手段の前座に過ぎない。


「ああ、やばい……意識が途切れそう」

 

 複数の状況を魔法で操作するのは集中力がいる。

 魔力の消耗も激しいので、一瞬のスキを全力で狙わなければならなかった。


「理論はできていたけど、ぶっつけ本番。血液を磁力で操る!」


 俺は《《自分の血液》》の流れを操作して鋭い蹴りをセリーヌに放つ。

 

「うぐっ!」


 ようやくまともに入った一蹴に俺は精一杯の笑みを浮かべた。


「終わり、だ!」


|〈磁力魔法:斥力〉《マグネス:リパルション》


 放った蹴りの威力を高めるために、《《セリーヌの血液》》と俺のブーツの間に斥力を発生させて蹴り飛ばした。

 残った魔力を斥力発生に使って、蹴りの入った1点から注がれた力でセリーヌの体が場外に吹き飛んで転がる。

 斥力で血液を動かしたこともあり、貧血のような状態になってセリーヌは起き上がることもできなかった。


「試合終了! 場外のため、勝者はジュリアン!」


 試合開始前と違い、ワァァァアと歓声が俺を包む。

 片手をあげてそれに答えたところで、俺の意識が消えた。


■闘技場・選手控え室


 俺が目覚めると、目の前には大きな二つの山が見えた。 

 その先には猫耳が生えたリサの顔がある。


「ジュリ坊、おはようにゃ」

「おは……よう……」


 起き上がろうとした俺をリサが止めて、寝かせてきた。

 やわらかい太ももの感覚が後頭部に蘇る。


「ジュリアンさんは勝者宣言の後に気絶されましたわ。大勝負に限っていつも最後は気絶されますのね」


 控室の一角で水を用意していたエリカが俺のほうに近づいてきた。

 確かに苦戦した際は気絶している。

 しかたないじゃないか、魔力が無限大にあっても消費量が多ければ体に不調がでるものなのだから……。

 特に今回は血液もコントロールしたので、その影響もあるだろう。

 

(血が赤いのは鉄が含まれているということで、磁力魔法でやれるかと思って試してみたが、めちゃくちゃ反動がでかい……多用はできないな)


 血液ほどの小さな金属反応は普段は磁力の感知ができない。

 集中してようやく対象にできるので、その集中力と消費魔力はここぞという時にしか使えるものじゃなかった。

 コントロールも自分で何度も試さないと怖いレベルである。


「失礼するのだー!」 


 控室の扉があき、元気な声と共にセリーヌが入ってきた。

 

「なんのようですの? ジュリアンくんは安静にしなきゃいけない状況ですのよ?」

 

 セリーヌに対して、エリカがジト目で釘をさす。


「ルーカスから、今回の報酬についての報告を任されたのだ。よろこべ、お前の報酬は私なのだ!」

「は?」


 何を言っているのかわからない。

 目の前の脳筋爆乳は細かい説明ができないやつだ。

 俺はセリーヌの後ろにいるマネージャー風の男に視線を向ける。


「私の方でご説明させていただきます。かねてよりセリーヌ嬢は『私より強い奴と出会う』為にルーカス様と闘技場の選手として契約をしていました」

「なるほど、さすが脳筋」

「そんなに褒めても何もないのだぞ」

 

 ケラケラと笑うセリーヌだったが、俺は褒めたつもりはない。

 マネージャー風の男に説明の続きを促した。


「今回、セリーヌ嬢はエキシビジョンマッチとはいえ、気絶させられるほどの敗北をしたことで、ルーカス様との契約終了を宣言。ジュリアン様にはセリーヌ嬢と奴隷契約をしてもらうことを報酬代わりとして提案されたというわけです」


 確かにセリーヌは強いし、爆乳だし仲間にするのは悪い話ではなかった。

 だからと言って奴隷契約というのは話が違うのではないだろうか。

 報酬を未定にしていたら、こんな目にあうとは……まさか、ルーカスにはめられたのか?


「奴隷契約云々については今は決めれない……しばらくお試しで預かるじゃだめか?」

「私はそれで大丈夫なのだ。お前のそばにいれれば何の問題もないのだ」

 

 ぶるんと爆乳を揺らしてワハハと笑うセリーヌは何も考えていないようだ。

 マネージャー風の男もそれで問題がないようで、頷いてくる。

 この人からしばらくセリーヌの取り扱いについて聞いておきたかった。


「ジュリアン! まずいことが起きたわ!」


 俺がいろいろ悩んでいると、再び扉が開きなぜか、リリアンが出てくる。


「リリアンさん!? まずいことって何が?」

「イーヴェリヒトでスタンピードが起きたわ! すぐに戻らないと町が大変なことになる!」


 どうしてリリアンがここにいるのかなど聞きたいことはあったが、それらが吹き飛ぶほどの問題だった。

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