第3話 共同依頼
■イーヴェリヒト・冒険者ギルド
初のダンジョンアタックから2か月ほどたった。
俺たちのパーティ『エターナルホープ』はダンジョンに潜ったり、薬草採集やモンスター討伐の依頼を受けて実績を積んできている。
俺以外のメンバーもDランクに上がり、そろそろCランクへランクアップの依頼を受けてみたいところだった。
「はい、今日の依頼も完璧ですね。お疲れ様でした」
エミリアさんに依頼完了の報告を終えた俺たちは併設された酒場で打ち上げをしに向かう。
ちょうど4人掛けのテーブルが空いていたで座って、飲み物と適当な摘みを注文をはじめた。
「よぅ、ジュリ坊。最近絶好調じゃないか、綺麗な花に囲まれてうらやましいしよ」
ウリウリと俺の頭を小突いてきた先輩冒険者を手を振って払う。
「そういう粗野なところが女性冒険者を引きついてないと思いますわ」
「エリカ、しーっ。そういうこというたらあかんて」
小声でエリカとレイナが何かを言っているが、騒ぎになりそうなので黙っておいた。
酒場の喧騒はこういう時ありがたい。
「先輩に聞きたいんだけど、DからCにランクアップするにはランクアップ依頼がいるって聞いたけど本当?」
「ああ、ランクアップ依頼ってのが存在しているわけじゃないが『一つ上の指名依頼』ってのがそれにあたるな」
双剣士である先輩冒険者は無精ひげの生えている顎に手を当てながら、俺の質問に答えてくれた。
人からの指名を貰うというのは実力を上げていたら貰えるとのことだから、そのうちくれるだろう。
「情報ありがとう先輩。一杯おごらせていただきます」
俺は情報量として銀貨を取り出し、ウェイトレスに飲み物を注文した。
「10歳の割には手馴れてるにゃ」
「ほんまやね」
一連の流れを見ていたリサがお酒を飲みながら、感嘆の声を上げる。
もう放っておいてほしい。だんだん10歳の演技をするのが面倒になってきたのだ。
そうしていると、エミリアさんが受付カウンターから離れて俺たちのテーブルにやってくる。
「お食事中のところごめんなさい。ジュリアンさんにCランクの指名依頼がきました。こちらは他のパーティとの合同依頼になります」
「合同依頼? 珍しいパターンですね」
演技はめんどくさいといったが、エミリアさんには敬語で話したくなる。
大人の魅力というやつがそうさせてしまうのだろうが、その態度の差をパーティの3人はじとーっとした目で見てきていた。
「はい、指名されている冒険者パーティは『エターナルホープ』で、ほかにも教会関係者から神殿騎士団遊撃隊が参加することになります。もう一つ、魔法学院から、優秀な魔法使いが参加ですね。場所は国境付近の古戦場で、ノーブルク村に1週間後に集合となっています」
エミリアさんが依頼書の内容を俺に伝えてきた。
「わかりました……あとで、いきます」
《《魔法学院の優秀な魔法使い》》という言葉に俺の顔が強張る。
「ジュリアン……大丈夫ですの?」
心配げに眉根を寄せたエリカが俺の顔を覗いてきた。
「体調が優れないのなら依頼書の方はわたくしがやっておきますわ。これでも最年長者でサブリーダーですもの」
えへんと膨らみかけの胸を張るエリカの姿に俺は少しだけ気がまぎれる。
「ありがとう……じゃあ、頼むね。先に家に戻ってるよ」
俺は酒場をあとにして、重い足取りで自分の部屋へと戻っていった。
■シュタイン屋敷・ジュリアンの部屋
ぼふっと、着の身着のままの姿でベットにダイブしてから寝転がる。
「優秀な魔法使いといったら、来るよな……フレデリックやアリシアが……」
天井を見上げて俺はつぶやいた。
5年前に別れてから、そのままになっていた過去と向き合うときが来たのだろう。
「磁力魔法を使いこなせているけど……あいつらはもっと派手な魔法の技術をもっているだろうな」
合同依頼だから、戦うことはないだろうが互いの成果を見せ合うことにはなることは確かだ。
生意気だったフレデリックの顔がはっきりと思い浮かぶ。
忘れようと思っていても、俺の心にはあの日のフレデリックの姿が焼き付き対抗心を燃やしていた。
「今の俺の実力をあいつに見せてやろう」
古戦場であれば、磁力魔法で操作できる対象は多いはずだ。
これから向かう依頼のことに頭を巡らせていると、眠気がすっ飛んでいく。
「訓練所で磁力魔法の練習をしてくるかな……」
眠気が飛んでしまったこともあり、着替えてもないのでベッドから降りて部屋からでたら、ドアの前でどうしようかと迷っているミツキがいた。
「ジュ、ジュリアン様。お加減はいかがですか? 顔色が悪かったので、お薬などを持ってきたのですが……」
「体調は大丈夫。心配かけたね。これからちょっと訓練所で体動かしてくるから、終わった後でのお風呂の準備と夜食用意してくれると助かる」
ミツキに心配かけまいと微笑みを浮かべると、俺は自分の部屋をあとにする。
まだ1週間あるのだから、準備を進めていこう……どんなことが起きても後悔はしたくない。
■ノーブルク村の酒場
依頼を受けて1週間後、ノーブルク村の宿屋兼酒場には俺たち『エターナルホープ』が一番乗りで到着していた。
1週間の準備期間は各自の自由行動にしていたので、俺はパーティメンバーの状況確認をする。
「この1週間どうしていた?」
「ウチはねぇ、聖水を買って、錬金術で作れないか試しとったわ。あとは長期で工房あけるから、納期の前倒ししたりしてたなぁ」
「アンデット系が多いから、聖水は必須だよな。俺たちのメンバーには神聖魔法を使うのはいないから火属性になるし、そうなるとエリカの負担が大きいしな」
俺はレイナの用意してくれたアイテムを受け取り、感謝する。
磁力魔法も基本物体を動かすだけなので、そのアイテムが聖別されてなければアンデットやデーモン、ゴーストなどには効果が薄いのだ。
「それで錬金術で生成できるようになったのか?」
「ばっちりや! 教会で売られているものよりかは効果は劣るけどもすぐに生成できるから、いざというときはまかしとき」
ぐっと親指を立ててレイナは笑顔をみせる。
職人として実に頼もしいし、錬金術師をパーティに入れたのは間違いじゃなかったと改めて思った。
「わたくしの方は古戦場の情報収集ですわね。詳しいアンデットの種類などをギルドでの聞き込みなどをして調べてましたわ。大まかには兵士にゾンビ。次点でゴーストですわね。気になる情報としましてはデュラハンを見たという話がありましたわ」
「デュラハンか……ランク的にはBランク級のモンスターだよな。出ないでほしいが、出てきたときのことを考えておくべきだろうなぁ……」
俺はエリカの情報にうなった。
金属鎧に大剣を持っているモンスターだけに俺の磁力魔法との相性は悪くないが、初のダンジョンアタックで油断して死にかけた経験が警戒を解かせない。
配下でゴースト系を召喚するので、そのあたりの対処が俺単体では難しいのもネックだった。
神聖騎士団や魔法使いたちと連携して対処にあたるべきだろう。
(神聖騎士団の方はともかく、魔法使いのほうがうまく行けるかな……)
心配の種はあるが、そこは状況次第だ。
「あちしはいつも通り昼寝して、ご飯食べて、妹たちと遊んでたにゃ」
「リサはリサだよなぁ……」
依頼があればやるが、真剣に挑むという方向ではないのがリサだ。
戦闘やダンジョンアタックであれば頼れるところも多いが、その分普段は何か言わない限りゴロゴロするのが彼女である。
特に盗みをしなくても結構な報酬が入りだしているので、仕方ないともいえなくはないの、か?
「そこにいるのは誰かと思ったら……『落ちこぼれ』じゃないか」
俺がリサのことを考えていたら、不意に後ろから声がかかった。
忘れることのできない声、振り向けばそこには5年以上前に別れた双子の弟がいる。
「《《はじめまして》》、貴族様。冒険者パーティ『エターナルホープ』リーダーのジュリアンです」
俺は努めて冷静に貼り付けた笑顔で、フレデリックに握手を求めが、別の男の手が伸びて俺と握手を交わす。
俺よりも背が高く、体格もいいし顔も悪くない。
モテそうな奴だ。
「魔法学院の側のリーダーは俺だ。”インフェルノ”ダンテ・テオバルトという。エターナルホープは最近イーヴェリヒトでは注目株と聞いているので期待しているぞ」
上から目線なのは貴族だからだろう。
それでも誰かと違って嫌味がないからましだった。
二つ名もちということもあり、実力者なのは言うまでもない。
フレデリックはチッと舌うちをしながら俺を睨んでいた。
「神殿騎士の方々も到着したようなので、今回の依頼の説明をさせていただきましょう。僕はエーテリオン魔法学院教授のエリオットだよ。今回の依頼主といったところだね」
俺が魔法学院の面々と応対している間に残りの神殿騎士も来たので、代表者だけが酒場の個室へ移動して打ち合わせを始める。
◇
「今回、このような依頼となった理由は二つです。一つは魔法学院の実技試験を行うこと。もう一つは古戦場のアンデットが異常活性化しているとの報告がこの村に届いたので、調査をすることがあります。」
エリオットの説明に俺はなるほどと頷いた。
表向きのメインは魔法学院の実技試験だが、実際はアンデットの異常活性化についての調査と対処が本当の目的だろう。
貴族の自尊心を傷つけずに、俺たち冒険者や神殿騎士が補佐という名目なのだ。
「この古戦場は確かにアンデットが定期的にあふれるが、対処しきれない数ではないはずだが……それが変わったということだな? 外的要因は何もないと?」
神殿騎士団遊撃隊のリーダーであるセリオスという金髪のおっさんが確認をした。
「事前情報ではつかめませんでした。それを調べることも依頼内容に含めています」
「あいわかった。範囲が広いゆえ、手分けして行動したいがどうかな?」
「エターナルホープは問題ない」
「魔法学院側も問題ないが、俺たちは炎の範囲魔法を得意としているので、広い範囲を任せてもらって構わない。サーチ&デストロイでいくので、巻き込まれないために気を付けてもらいたい」
ダンテが広げた地図に自分の対応範囲を書き込んでいく。
やれやれ、面倒そうな相手だと俺は肩をすくめたい気持ちになった。
それはセリオスも同じだろうか、目と目が合い、どちらともなく苦笑する。
「中心部から広範囲に魔法学院のチームで、そこから東西に分かれて神殿騎士とエターナルホープで対応しよう」
俺が意見をまとめると、全員が頷き作戦が開始された。
「面倒なことにならなきゃいいけどな……」
この一言が現実になってしまうのはそう遠くない未来である。
■アーカナム古戦場・西側
古戦場という名の通り、荒れ地となった平原に鎧や兜、剣や槍などがあたりに散らばっていた。
腐った死体はなく、白骨死体ばかりである。
「こうなると出てくるのはゴーストやスケルトンだよな」
俺は盾を構えて戦闘に立ち、周囲を警戒していた。
いつもなら斥候などで活躍するリサが、不気味な古戦場の雰囲気に気おされて、俺の後ろにいる。
体格差からいけば、俺の方が小さいのでリサは隠れれないのだが……あと、ちょうど豊満な胸が頭上に来るので動きづらいことこの上なかった。
「リサ、動きづらいから離れてくれると助かるんだけど……」
「あ、あちしは! 不安なジュリ坊をフォローする役目にゃ!」
どっちがどっちをフォローしているのか全く持ってわからない。
こんなところで戦力外が一人増えるなんて予想外だ。
「おばけはナイフで斬れないから、いやなのにゃ!」
ガタガタと小刻みに震えているリサを守るように俺は盾を前に突き出した構えをとり、目を閉じて集中する。
新しく編み出した磁力魔法を使うときだ。
|〈磁力魔法:磁界探知〉《マグネス:マグネディテクト》
俺の周囲に磁界を発生させ、金属反応を感じ取る。
魔力を使う練習を、イーヴェリヒトに帰ってきていたリリアンにお願いして学んだことで使えるようになった魔法だ。
大半の金属反応は動きの無いものだが、一部動いているものがある。
効果範囲は半径500mくらいで今は使っていた。
もっと広範囲も俺の無限大の魔力量であれば可能だが、消耗ペースが激しいので、体に不調を起こすので避けている。
リリアンがいうには魔法を使いならしていけば、体が慣れてくるとのことだった。
(そのためにもいろんな魔法を使っていくしかない)
俺が使えるのは磁力魔法だが、磁力にかかわることは何でもできる。
応用の幅が広い魔法なので、実践と訓練を繰り返していくだけだ。
「北西の方から動いている存在を感知。おそらくスケルトンだろうな」
「わかりましたわ、サラマンダーの火球で焼いてしまいましょう」
エリカがサラマンダーを召喚して、待機させる。
迎撃準備が整ったらゆっくりと北西へ移動していくと、骨がカラカラとなる音が聞こえてきた。
ボロボロになった鎧兜に鉄の剣を装備しているスケルトンの集団が姿を現す。
「ジュリアン、聖水はどないする?」
「ゴーストが出てからのほうが重要だから、今はいらない。それよりも燃えるポーションは作れたか? そっちの方が期待したい」
「ああ、できたでー。どないしたら、あんなん思いつくんや?」
「そこは企業秘密だ」
レイナが援護に入ってきたので、頼んでいた人工石油を錬成してもらう。
水と二酸化炭素に可燃物の油を混ぜる人工石油という存在を知っていたので、この世界で応用して作ってもらったのだ。
さっそく作りだされた人工石油の入った缶をスケルトンの集団の真ん中へ磁力魔法で撃ち込む。
〈磁力魔法:加速〉
ブオンと空気を切る音と共に缶がスケルトンに迫った。
スケルトンは手に持った剣で缶を空中で両断すると、人工石油がスケルトン達にかかる。
〈火の精霊:火炎弾〉
続いて、レイナがサラマンダーに火炎弾を吐かせてスケルトンを業火に包んだ。
スケルトン達との距離はあるものの、風が熱を運んできて熱さを感じる。
「燃えるポーションは成功だな」
人工石油が錬金術で生み出せたのはうれしい誤算だ。
前世の科学知識を概念をうまく伝えれば錬金術で再現できるとわかれば、いろいろと行動の幅が広がるものである。
「スケルトンが動かなくなったにゃ」
業火と石油で焼かれたスケルトンが灰になったのを確認すると、次のエリアの索敵を行うべきく動き出した。
◇
「嫌な予感がしますわ。ゴーストなどが来ているのかも」
しばらくすると、エリカが手を挙げて進軍を止める。
精霊と繋がっているエリカはエリカなりの勘のようなもので、危機を伝えてきていた。
「闇の精霊のノクトが周辺の影が怪しいといってますわ」
エリカの背後に黒い体に赤い瞳が浮かんだものが姿を見せる。
ノクトが姿を現したとき、古戦場の地面に広がった影から、剣を持った騎士のような影が浮かび上がったかと思えば、すぐに剣を振って攻撃を仕掛けてきた。
「シャドウナイトですわね。このようなモンスターまでいるとは聞いておりませんでしたわ。魔法攻撃が効かないので物理攻撃ですが、アンデット系と同じく銀武器や聖別でないと大きな効果は望めません」
| <精霊魔法:闇の盾> 《エレメス:ダークシールド》
急襲してきたシャドウナイトの攻撃をエリカがノクトでバリアを貼って防ぐ。
パリンと砕けたが、こちらが攻撃をするチャンスが生まれた。
「だったら、レイナ! 聖水をこっちに投げてくれ」
「はいな!」
レイナから聖水の小瓶を投げ渡された俺は盾をぶつけて聖水を割る。
聖水の力が盾に付与されて、淡く光った。
「そのまま吹き飛べっ! シールドバッシュ!」
〈磁力魔法:加速〉
光る盾を磁力魔法で加速させて、体当たりをかました。
シャドウナイトが構えた影の剣をへし折り、弾丸のようにシャドウナイトを貫いて、シャドウナイトの背後へと転がる。
「いてて、これは技としてはいけるけど着地が難しいな……」
盾での体当たりを加減速でうまくコントロールするにはまだ時間がかかりそうだ。
「こっちは順調に進んでいるが、フレデリック達のほうはどうなんだろうな……」
敵を排除しながら調査を進めている俺の心配が当たったのか、フレデリック達の作戦エリアである方向から巨大な炎を柱が上がるのが見える。
「すさまじい魔法ですわね。あれだけの攻撃を仕掛けているというのはそれだけ何かあったのでしょうか?」
「どないするん、ジュリアン」
「もちろん……様子をみにいくさ」
エリカとレイナに声をかけられた俺は、作戦行動とは違う動きを提案した。
あまり会いたくない弟ではあるが、弟なんだから寝覚めの悪いことは避けたい。
それが本心だった。
■アーカナム古戦場・魔術師チーム担当区域
「ちっ、コイツに魔法は効かないのか? そんな敵が出るなんて聞いていない!」
フレデリックが青ざめた顔で、シャドウナイトの姿を見つめていた。
火属性系統で、上位にあたる|〈灼熱魔法:爆炎〉《バーニング:エクスプロージョン》を唱えて、スケルトンとゴーストの集団を一掃したはずだった。
しかし、その中に紛れていたシャドウナイトらは無事であり、不意を打って放たれた飛翔する斬撃を先輩のダンテは受けて、地に倒れている。
「落ち着いてください、まずはこの場を離れましょう。魔法が効かない相手では私たち魔術師は無力です。回復魔法の使い手もいませんので、ポーションでの応急処置が限界です」
血を溢れさせて倒れているダンテにポーションをかけながらエリオットはフレデリックを諭した。
チームメンバーのセシリアが炎の壁を作り、かろうじてシャドウナイトの攻撃をふさいでいるが立ちすくんでいてはいずれ破られる可能性が高い。
「移動力を上げる補助魔法をかけます。怪我人がいるので、神殿騎士団がいる方へむかいましょう」
エリオットがそう指示をだすと、魔法を唱えた。
フレデリック達を優しい光が包み、体が軽くなる。
「ダンテさんは私が背負いますので、セシリアさんは防御をフレデリックさんは進路の確保をお願いします」
エリオットの指示をセシリアは頷いて答えたが、フレデリックは苦虫をかみつぶしたような顔を見せた。
「この中で一番の魔術師はオレなんだ……だから、リーダーはオレが向いているんだ。兄貴のように……」
ブツブツと呟きだしたフレデリックの肩を軽くたたく。
「確かに能力はフレデリックさんが一番高いでしょう。ですが、あなたには経験が圧倒的に足りません。様々な経験を経たとき、立派なリーダーへとなれますよ。
「……わかった」
「さぁ、行きましょう。スケルトンやゴーストが集まってきたら、移動も難しくなります」
再度、エリオットに促されたフレデリックは杖を構えなおして、東に進路をとった。
◇
アーカナム古戦場には隠れて落ち着けるような場所はないため、休憩もなく移動し続けるしかなかった。
そのため、体力の消耗が激しい。
シャドウナイトとは距離をあけれたものの、ゴーストやスケルトンがあちこちから襲い掛かってきて対処をするので、神経も使っていた。
身も心もだいぶボロボロである。
「すさまじい火柱が上がったのを見たので、来てみましたが大分疲れているようですな」
疲れていた魔術師チームの耳に低い男の声が聞こえてきた。
神殿騎士団のリーダーのセリオスである。
「助かりました、負傷者1名います。ポーションでの応急処置をしましたが、意識は戻っていません」
「それは早く対応せねばな……アイリス、回復魔法をかけてやってくれ。その他は周囲を警戒しながらホーリーフィールドを貼るんだ」
「「了解」」
セリオスの指示で神殿騎士がフレデリック達を囲むように陣取ると、十字架を握りしめて魔法を唱える。
|〈神聖魔法:聖別領域〉《ディヴァイン:ホーリーフィールド》
白い幕のようなものが広がり、全体を包み込んだ。
アンデットたちが侵入できない空間が作りだされたことで、魔術師チームは一息つく。
「本当にアンデットの数が多いが、いまいち原因の特定には至らないな」
「そうですね。異常発生としか言いようがないですが……瘴気は濃くなっているのもありそうです」
「広範囲での浄化が必要となれば、神殿騎士よりも司祭以上を読んで儀式魔法を使うしかあるまい」
エリオットとセリオスが情報交換をしている間、フレデリックやセシリアは疲労の濃い顔のまま体育座りでうずくまっていた。
そのまま、眠ってしまおうかと思っていたとき、ホーリーフィールドに衝撃が走る。
「攻撃を受けた? どこからだ?」
セリオスが立ち上がり、周囲を見回すがアンデットの姿はなかった。
だが、視線の先、古戦場の小高い丘のようになっている場所に瘴気が集まっている。
ホーリーフィールドが受けた衝撃は、瘴気に惹かれたゴーストたちがぶつかったのだとセリオスは理解した。
瘴気の塊が甲冑姿の形どったが、その首はない。
「デュラハンだ……厄介なものが生まれたものだ」
セリオスは独りごちると盾と剣を構えてデュラハンの方を睨んだ。
デュラハンが大剣を上空に掲げると、デュラハンの足元からは大きな黒い馬、その周りにはフレイムファントムが多数姿を見せている。
「フレイムファントムまで呼び出すとは厄介な……ホーリーフィールドの維持はアイリスだけに任せて、残り二名は俺と共に敵の迎撃だ」
セリオスがデュラハンに向かって踏み出していくと、呼応するかのようにフレイムファントムがセリオスに向かって進んた。
両者が加速しながら迫る中、大きな声が響く。
〈磁力魔法:回転〉
「ちょうでんじぃぃぃ、ゴマァァァ!」
セリオスが声が聞こえてきた方を向くと、剣を横に持って高速回転しているジュリアンがフレイムファントムの集団に突っ込み、すべてを一撃のもとに斬り裂いた。
剣は聖水で聖別されているのか、フレイムファントムらは再生をすることなく消えていく。
「遅れてとうjy……うぉぇっ!」
回転が止まり、地面に滑るように着地したジュリアンだったが、あまりの回転に吐き出した。
緊張した空気が壊れた瞬間である。
だが、それでもセリオスは頼もしい援軍だと思うのだった。
フレイムファントムを蹴散らした俺はふらつく体を剣を地面に突き刺して支えた。
敵から攻撃を受けたわけじゃないのに、ふらついているのは先手の一撃のせいである。
慣れないと乱発はできそうもなかった。
「グゥォォォォ!」
デュラハンが声を上げると、再びフレイムファントムが召喚される。
数が減れば無制限に出てくるのであれば厄介なことだ。
「セリオスさん、作戦はどうする?」
「フレイムファントムには炎属性魔法は効かないので、魔術師チームはデュラハンへの攻撃くらいだな……君らが来てくれたので、デュラハンへ向かってもらいたい。フレイムファントムは我々神殿騎士が受け持とう」
セリオスが神殿騎士達に指示をだして、デュラハンを囲うように展開しながらも、それぞれがフレイムファントムと戦い始めた。
武器を魔法で聖別化していることで、フレイムファントムの炎の体を斬り落としていく。
「フレデリック達は遠距離から魔法による火力支援を頼む。デュラハンはマヒ攻撃をしてくるから、盾も持ってないのが近づくなよ」
「オレに指図するな! 巻き込まれないようにするんだな!」
俺はフレデリックに一言告げると、一人デュラハンへと突き進んだ。
一足先に《《文字通り》》飛んできたので、俺しかこの場にはいない。
(倒すことよりも、被害を減らす方向でまずは動くか、どれだけスキルを持っているかも確認しなくちゃいけない)
デュラハンが大剣を俺に向かって振り下ろしてきた。
|〈磁力魔法:斥力〉《マグネス:リパルション》
巨大な鎧騎士のデュラハンの全力で振り下ろされた一撃であったが、俺の盾との間に斥力を発生させてその衝撃を緩める。
相手が鉄製の装備を持っている限り、磁力魔法の有効性は揺るがなかった。
デュラハンなんかは鎧騎士なので、俺一人でも足止め程度ならば十分動ける。
「グゥゥゥォォォ!」
振り下ろすどころか反発して持ち上がる大剣にデュラハンは無理やりにでも俺に攻撃を当てようと力を込めだしていた。
〈磁力魔法:引力〉
俺は横にそれて一撃を交わすと、デュラハンの体を目標に引き付ける磁力魔法を仕掛けた。
古戦場に散らばっている鎧兜や剣、槍、盾、斧など武器防具がデュラハンに向かって集まっていく。
それらは強い磁力を当てているので、どれもが銃弾のような勢いを持っていた。
ドガガガガと金属がぶつかる音が響き、デュラハンが鉄くずの塊のような姿になっている。
「いまだ、フレデリック! ありったけの魔法を叩き込め!」
「だから、オレに指図するな、《《クソ兄貴》》!」
|〈獄炎魔法:煉獄〉《ヘルフレア:プルガトリオ》
フレデリックの持っている杖に灼熱の火球が現れ、巨大化した。
膨大な熱量と質量をもったそれを杖を横になぐことでデュラハンに向けて飛ばす。
デュラハンは防御したり、援軍を呼ぼうにも全身を古戦場に散らばっていた武器防具が引っ付いて、動きが制限されていた。
魔法をよけることもできないデュラハンは火球をもろに浮けて爆発炎上を起こす。
「あっつ! うわっつ!」
俺は盾で爆風を防ごうとしたが、円形盾、いわゆるバックラーなので防御性能は低かった。
離れてはいるものの、まばゆい光と共に、熱が俺を襲ってくる。
それでも、デュラハンとの距離は取りたくなかった。
完全に死ぬまで油断できない……。
「あいつ……生きてやがる!」
フレデリックの最大火力の魔法を受けたデュラハンだったが、鎧の一部が溶けながらも、俺に向かって動いてくる。
デュラハンが乗っていた黒い馬と身動きを制限していた武器防具が消滅していた。
動きは鈍いので、無効化されているわけではない。
「やるしかないか……」
磁力魔法を使いすぎて、体が熱くなってきていた。
鼻血まで出始めたら、倒れるまで時間はかからないことをこれまでの経験からわかっている。
「一撃だな……」
爆風を防いで、変形したバックラーを捨てて、両手で剣を構えた。
デュラハンも大剣を同じように構えて、足を止める。
「いくぞ!」
俺はまずはふつうに走り、デュラハンとの間合いを詰めた。
デュラハンは先ほどとは打って変り、横なぎに大剣を振るう。
ブオンと空気を斬る音がして、刃が俺に迫った。
「横なぎはチャンスだ!」
〈磁力魔法:回転〉
磁界を操り、デュラハンの大剣を無理やりその場で横向きに回転させた。
デュラハンは握っていた柄を離し、その腕を大剣が斬りさく。
「グゥォ!?」
驚きの声が上がり、大剣の柄が俺の方を向いたところで回転が止まった。
目の前にある柄を握り、レイナからもらっていた聖水をデュラハンの大剣に振りかけて、聖別させる。
「こいつでトドメだ!」
大剣の柄を両手で握り、デュラハンに切っ先を向けると聖別武器から逃れようとデュラハンが距離をとった。
フレイムファントムを呼び出そうと手を上空に掲げるが、セリオスたちがデュラハンを囲んでホーリーフィールドを発生させているのでデュラハンの増援はない。
〈磁力魔法:加速〉
重量があって重いはずの大剣を俺は腕力と、魔法による加速で横なぎに振りぬいた。
デュラハンの体が横一文字に斬れて、サラサラと灰になっていく。
フレデリックの魔法で生き延びたが、瀕死のようだった。
「チッ……クソ兄貴め……」
魔法を使いまくりで疲労困憊の中、フレデリックの声だけがやけにはっきり聞こえてくる。
(出番うばっちまったな……この後の話し合い参加したくねぇ~)
デュラハンにトドメをさしてから、依頼の本来の目的を思い出した俺は頭を抱えるのだった。
■ノーブルク村の酒場
デュラハンを倒したあと、神殿騎士たちが出現場所を念のために簡易浄化した後、報告と古戦場の完全浄化のための人員を呼ぶために教会本部へと旅立った。
そのため、酒場にいるのは魔法学院の生徒達と依頼主であるエリオット……そして、俺ら『エターナルホープ』である。
「ええっと、依頼主としては今回の展開はどう見ているん……でしょうか?」
俺は努めて丁寧にエリオットへ訪ねた。
別に尊敬などがあるわけではなく、いち早く依頼の成果を決めてもらいイーヴェリヒトへ帰りたいだけである。
「実技試験としての側面は戦闘も十分ありましたから、大丈夫です。最後のデュラハンのトドメはそちらですが、獄炎魔法をつかえたことは評価にあたいします」
エリオットはいつの間に書いていたのか、本を取り出してメモを確認しながら答えてくれた。
聞いている限り、依頼主としては問題ないようである。
そう、依頼主としては……。
「納得いかねぇな……」
「オレも納得いかない」
ムスッと不機嫌を顔に合わらしている二人が一緒にいるテーブルの雰囲気を悪くしていた。
片方は上級生にもかかわらず、シャドウナイトにボコボコにされたダンテで、もう片方は俺の双子の弟でもあるフレデリックである。
いいところがなかった(いや、フレデリックはあったと思うのだが)二人には俺が目立ったことが気に食わないようだ。
貴族らしい貴族の態度ともいえよう。
俺は前世がただのアニオタ高校生なので、体裁とか、面子とかは気にしなかった。
「そうですね……ちょっと学園に確認をとる必要がありますが、イーヴェリヒトまで足を延ばしてダンジョンに潜る実技評価を行うのはどうでしょうか?」
エリオットが不満げな二人に対して提案した。
確かに、イーヴェリヒトの鉱山跡地でのダンジョンアタックであれば、魔法使いだけでもモンスターを蹴散らして評価を得ることは可能である。
「俺らエターナルホープは地底湖までしか進められてないので、その先にいければ冒険者ランクでいえばC以上の実力になるでしょうね」
さらにいいところをとられたと思っているだろう二人にたいして、俺は進行中の階層について伝えた。
これで、フレデリック達がダンジョンへもぐって活躍してくれれば変に突っかかれないだろう。
「そういうことなのですが、いかがですか?」
二人は頷きで答え、炎の壁を張っていた、女魔法使いも渋々といった様子で頭を下げた。
「では、学院に連絡をとりますので、しばらくはこの村に待機ですね。皆さんもゆっくりやすんで、周辺のモンスター討伐などもしてみるのもいいかもしれません」
エリオットがそういって、話し合いは解散となった。
打ち上げをどうしようかと、パーティメンバーと話そうとしたとき、エリオットが俺に声をかけてくる。
「ジュリアンさんとは二人きりで少し話したいことがあります。この後いいですか?」
「わかった……じゃあ、先に始めてて」
俺とエリオットは事前打ち合わせにも使った個室へ入っていった。
◇
向かい合って、椅子に腰かけるとエリオットはいつもの優しい笑みを抑え、真剣なまなざしで俺を見てくる。
「ジュリアンさんですが……もしかして、転生者ですか?」
いきなりな質問に俺は言葉を失い、心臓がドクンと大きくなった。
なんでそんなことを聞いてくるのかわからない。
「ああ、大丈夫ですよ。他言はしませんし、あくまでも僕の研究者としての興味です」
俺が黙っているのを見たエリオットが慌てだした。
その表情や言動には嘘はなさそうである。
「話すのはエリオットが初めてだけど……俺は異世界からこちらに転生してきた。だから『磁力』という現象の存在について知っているんだ」
「なるほど、ジリョク魔法を使いこなせているのはそういう理由からですか……もしくは磁力魔法が授けられたが転生者だからかもしれませんね」
俺の言葉をすんなりと受け止めて、エリオットは納得したように頷いた。
もっと疑ったりとかするかと思ったが拍子抜けである。
「エリオットは他の転生者とかについても知っているのか?」
「僕が知っているのは記録に残っているものだね。直接あったのは君が初めてだよ」
『エルフで研究者だからね』とエリオットは話を続けた。
「ジリョクって概念は初めて聞いたし、今日も初めてみたけど……冒険者向けの魔法だね。付与魔術に近い扱い方になりそうだと感じたよ」
「金属……主に鉄なんですが、それらを移動させたり反発させたりするのが磁力の概念の一部です。本当はもっと複雑なんですが、今はこの辺で……」
いつしか、俺はエリオットに対して敬語で話はじめている。
尊敬できる人間には敬語で話したくなるのだ。
「そうなんだね……金属を引っ張ったり動かしたりできる魔法……か」
エリオットはメモを取りながら、考えこんでいる。
「俺もまだ、この魔法の全容を使いこなしたりできているわけじゃないので……魔法学院の教授としての知見をえたいです」
「おそらくしばらくイーヴェリヒトにいることになりますから、その時はよろしくお願いいたします」
エリオットに頭を下げてから、俺は部屋をあとにした。
転生のことについて話せたのは心の負担が減る。
(フレデリックのことで嫌な気分だったが、楽になったな……打ち上げ楽しもう)
部屋をあとにして、俺はパーティメンバーの集まるテーブルへ向かうのだった。
◇ ◇ ◇
■魔法都市ルミナエア・アイゼン伯爵家カトリーヌの部屋
「定時報告感謝いたします」
「いえ、奥様。私は仕事をしているだけでございます」
ジュリアン様の近況を書いた書類を受け取った女性――カトリーヌ・アイゼン――は目の前にいる私に金貨の袋を渡した。
この部屋にいるのは私と奥様、そして定期的に商談に来ているヴィルヘルム様の3人です。
「ジュリアン君はこの5年あまりすごい成長をしています。私も養子として迎えられてよかったですよ」
ヴィルヘルム様がニコニコと笑いながら紅茶を口につけました。
私もそろって紅茶を飲みますが、茶葉がいいのか淹れ方がいいのかとてもおいしいです。
入れてくれたメイドに詳しく聞かないといけません。
「あの子が無事に育ってくれているのであれば私も安心ですね」
「ジュリアン様は伸び伸びと冒険者をやられております。冒険者としては私はついていけないので、常に心配しているのですが」
「あの子は貴族よりもその方があっていたのかもしれませんね……」
カトリーヌ様はジュリアン様の現状について、納得なされているようでした。
フレデリック様と双子でしたから、離れるのは心配だったことでしょう。
ですから、私が世話係としてついていくことになり定期報告をしています。
「ヴィルヘルム様はどうして、ジュリアン様を養子になされたんですか?」
「私は商人ですから”先行投資”の意味合いが強いですかな……私にはリリアン嬢という伝手がありますので」
私が聞くとヴィルヘルム様は細めていた目を開きました。
確かリリアン様は〈魔力感知〉というスキルを持っているとのこと……だからこそ、ジュリアン様の実力をあらかじめしれたということでしょうか?
「リリアン嬢に気になるといわれたので、食客という形でもいいので入れておきたかったのですが、思っていた以上に冒険者としての実力を高めてくださいました。別の街の闘技場などに連れ出してみてみたいですね。聞いている限り、彼の魔法は《《対人戦》》に向いていますから」
ヴィルヘルム様がいうのは磁力魔法の効果のことでしょう。
私も見たことは少ないですが聞きかじっている限り、確かに闘技場などでは活躍することは想像に難くありません。
「あとは戦争……ですね」
カトリーヌ様の言葉に私は先日の古戦場での戦い、金属鎧などを大量に動かしたと聞いたことを思い出しました。
戦争などではジュリアン様の力はかなり発揮されることでしょう。
けれども、それは人殺しをジュリアン様にやらせるということ……私としては、そういう道に進んでほしくはありません。
けれども、この先どうなるかはわからないので最後までついていけるように私も何かしていくべきでしょうか……。




