第2話 仲間を集めよう
■イーヴェリヒト・冒険者ギルド
「これがDランクのカードよ。ジュリアンくん、おめでとう」
「エミリアさん、ありがとうございます」
初依頼を終えた俺はFランクからDランクへ二段階アップしていた。
冒険者としてパーティリーダーになる権利もついてくる。
カードの発行に1週間かかるということで、すでにあれから1週間たっていた。
「パーティを作って活動できるようになりましたから、メンバー募集の掲示板を見て
みてくださいね」
「はい!」
俺はパーティメンバー募集の掲示板を眺めにいく。
初依頼の翌日、鋼の守護者のパーティに入りたいと相談したが、アーヴィンさんに断られた。
理由は俺の能力的に大きな仕事をしていくことになるので、年齢とランクが近いメンバーを探したほうがいいといわれる。
「合同依頼などがあれば受けてくれるし、何かあれば頼ってくれるということだからそれでいいかな」
話そうかどうか迷ったが、俺は磁力魔法について話をした。
磁力という概念を伝えるのが難しいので、今は金属物を動かすことができるとだけ説明している。
異世界から転生していることはまだ話すことはできない。
話す機会が本当にあるかは今はまだわからない……。
「せっかくの異世界だから、エルフとか人間以外の種族とパーティ組んでみたいよな」
そういってメンバーを見ていると錬金術師のレイナというドワーフの少女が目についた。
ドワーフといえば鍛冶だが、錬金術も得意なのは当然だ。
実にイーヴェリヒトらしい人である。
連絡先はイーヴェリヒトの工房とのことなので、挨拶ついでに色々聞きたかった。
「よし、エミリアさん、ちょっと行ってきますね。あとでソロか二人で受けに来ます」
「はい、行ってらっしゃいませ」
俺はエミリアさんに手を振ってギルドを後にした。
■イーヴェリヒト・工房街
ギルドに掲示されていた紙に書いてあった工房の名前を工房街から探す。
油のにおいや、金属を叩く音などが聞こえ、前世でいうところの下町の工場街のような感じだった。
「ストーンブレイカー錬金工房、ストーンブレイカー錬金工房……あった」
探していた工房が見つかり、中を覗く。
薬品の香りがただよう店内に、カラフルなポーションが並んでいた。
「ポーションか、MP回復系は俺はいらないかな」
「いらっしゃい、ウチの店に何の用?」
やってきたのは小学生くらいの少女……下手したら幼女だ。
ただ、耳がちょっととがっていて、肌は赤褐色である。
茶色いショートカットの髪型で、ゴーグルを頭につけていた。
その姿は似顔絵のままで、彼女が錬金術師のレイナだということがわかる。
「合法ロリ? いや、まだそうと決まったわけじゃ……」
「何? なんかごっつ失礼なこと言われた気がするんやけど……」
ジトーとした目でレイナが俺を見上げてくる。
背丈は小さいが顔の作りは俺よりも年上っぽい。
「ええっと、パーティメンバーを募集しているジュリアンです。レイナさんに興味があってきました」
「へぇー、錬金術師をパーティに入れたいなんて変わってとるよね。まぁ、応募しているウチがいうもんでもないけど」
敬語で正解だったようだが、この世界のドワーフの女性はロリらしかった。
幼女に敬語で話さなければいけないのは前世の知識からすると妙な感じではある。
「俺は特殊な魔法を使うんだ。簡単にいうと金属を移動させたりぶつけたりできるというものなんだ」
俺は手に持っていた剣を抜くと魔法を使う。
〈磁力魔法:加速〉
ヒュンヒュンと剣を加速させて飛行させると手の中に戻した。
「今はこうやって操ることもできるから、ポーションを鉄の容器なんかに入れてくれれば渡したりできるし、燃えるポーションとかあれば敵に投げつけて爆発させたりだってできるから戦闘の幅が広がるんだ」
俺が一例を出して説明すると、レイナは目を輝かせて詰め寄ってきた。
「そりゃ面白いわ! ええな! ぜひ、ウチはアンタのパーティに入ってみたいわ」
「わかった。お試しで一緒の依頼を受けてみませんか?」
「ええなぁ。ほないこか! ウチの錬金術も見せたるわ」
ニィと笑ったレイナと共に冒険者ギルドへと戻る。
さっそくと俺はレイナのポーションの材料を探す依頼を受けよう張り紙をはがして
受付のエミリアさんのところへ持って行った。
「こちらの依頼ですね。ジュリアンくんと……あ、あなた……様、は……コホン。いえ、お二人での依頼確かに受理いたしました」
エミリアさんはレイナを見るといつもの笑顔から、青ざめた顔に一瞬なったが、レイナがウィンク一つすると咳ばらいをして、いつもの笑顔へと戻る。
一体なんなんだと思いながらも、薬草採取のためイーヴェリヒト周辺にあるエメラルド草原へと俺たちは足を向けるのだった。
■エメラルド草原
俺は目の前に広がるのは宝石のエメラルドのような緑の草原だ。
日の光を浴びて、鮮やかに輝いているようにも見える。
「綺麗な景色だ……こんな場所があったんだね」
「せやでー。ウチがHP回復ポーションを作るときに使っているエメラルドリーフの採取場所や緑色の葉に白い斑点があるのが特徴やから、覚えときー」
徒歩で現場に向かう間に色々話したおかげか、俺はレイナと打ち解けた。
今日はこの草原の近くで野営して、帰る一泊二日の日程である。
「わかった、あとはエメラルドリーフを狙う、ホーンラビットに注意だったね」
鉄の円形の盾を左腕に装備してから、エメラルドリーフを探して採取していった。
目標は籠一つ分。
乾燥させて煎じるので結構な量がいるらしいが、ここまで集めるのは大手工房で量産して、魔法都市など大きな街へ売り出すためとのことだ。
良質なエメラルドリーフが生えているのはイーヴェリヒト周辺らしく、ポーションづくりも貴重な産業とのことである。
「レイナ! 危ない!」
エメラルドリーフを探してしゃがんでいるレイナの背後の草むらが揺れて、ホーンラビットが飛び出してきていた。
俺はレイナとホーンラビットの間に割り込んで盾で、鋭い角による攻撃を防ぐ。
「よっと!」
攻撃を防いだら、カウンターで鉄の剣を横なぎに振るいホーンラビットを切り裂いた。
「あんがとなー。頼りになるやないの」
「どういたしまして、夕飯はホーンラビットを美味しく食べるとしよう」
べしべしとレイナに叩かれた俺は倒したホーンラビットの解体を行っていく。
夕暮れまでに目標の数量を回収でき、野営の準備を整えるのだった。
■エメラルド草原・野営地
ジュウジュウとフライパンの上で肉の焼ける音が夜の草原に響く。
味付けは塩コショウとチョットしたハーブだけというシンプルなものだ。
「ああ、醤油が欲しい……」
「ショーユってなんなん?」
俺のぼそりとした呟きにテントの設営が終わったレイナがくりくりッとした瞳で見つめてくる。
「あー、何だろう。大豆という豆を使った液体の調味料かな? 東の国にはあるみたいなんだ、知り合いが知っていたからさ」
「へー、東方と物流はここはないからなぁ、でもシュテルン商会の坊ちゃんならしってるか……美味しくなるん?」
納得したレイナはできあがったホーンラビットのソテーを固いパンと共に食べ始めた。
ウマウマと満足そうにレイナが笑顔を浮かべていると、ザワザワと草むらが揺れる音がきこえる。
「何か来ている」
俺はフライパンを火から離しておいて、盾と剣を構えた。
ザワザワという音が大きくなると、そこには背が高い緑色のマントを付けた銀髪の女性が姿を見せる。
「あ、怪しいものではありませんわ! その……美味しそうなにおいがしたものでして」
長い銀髪の髪から覗くとがった耳。
陶器のような白い肌。
そして、弓矢を背負ったスレンダーな体をしたエルフだった。
エルフの女性のお腹がクキュゥとなった。
「お腹が減っているのですか?」
お腹の音に頬を赤く染めたエルフのお姉さんはコクリと頷く。
うん、カワイイ。
俺としては出会ってきた女性の中で一番のストライクだった。
「ホーンラビットの肉はまだありますので、良かったらどうぞ」
「本当ですの? 助かりましたわ、名乗り遅れて申し訳ありませんわ。エルフの弓使いエリカですわ」
「俺は人の戦士のジュリアン、こっちはドワーフの錬金術師でレイナだ」
自己紹介をすますと、ホーンラビットのソテーを前にわぁいと子供っぽく喜んだエリカはものすごい勢いで食べていく。
どれだけお腹が減っていたんだろうか心配になるくらいだ。
◇
「エリカはどうしてこのエメラルド草原に?」
「薬師でもありますので、その材料を個人的に集めに来ていましたの。採取に集中しすぎて、気が付いたらお昼から何も食べていない状態でしたの」
今日狩ったホーンラビットの肉をほぼほぼ食べつくしたエリカと夜の見張りついでに俺は話をする。
エリカはどうやらドジっ子+腹ペコらしかった。
お嬢様口調とのギャップがエリカをより魅力的にしている。
「エリカは弓以外にどんなことができるの?」
「そうですわね、いわゆる精霊魔法というのが使えますわ。貴方たち人種が使う四属性魔法は元素魔法という分類になりますが、それとは別種ですわね」
「精霊魔法と元素魔法か……精霊魔法は精霊と契約をして力を使う感じなのか?」
「そうですわ。例えば……我の呼びかけに答えたまえ、光の精霊:ウィル・オ・ウィプス!」
エリカがそういって手をかざすとその上に光るマリモみたいなものが浮かんだ。
「わたくしが契約している精霊は光、闇、火、水、風、木、地の7つですわ。これはわたくしの住んでいるエルフの里でも上位の数なのですわ」
エリカはふよふよと浮かび漂う、ウィル・オ・ウィプスを見つめながらフンスと慎ましい胸を張る。
「そっか、エリカみたいな人がパーティにいてくれたらイーヴェリヒトのダンジョンとか行くのが楽そうなんだよな」
「あら、ジュリアンはパーティメンバーを探していますの?」
「うん、先日Dランクになったばかりだからパーティリーダーになりたてで、今メンバー募集中」
焚火に木を投げこみながら俺は答えた。
エリカの精霊は純粋な魔法使いよりも汎用性が高そうである。
できれば、メンバーに加わってくれると嬉しいが、ドストライクな綺麗なエルフのお姉さんをナンパできるほど俺は人間できちゃいない。
前世+今世合わせて30年に満たない人生経験=童貞年齢でもあるので、なおさらだ。
「わたくし、エルフの里から出てきたばかりで、まだ冒険者にもなっていませんの。イーヴェリヒトで冒険者登録をしようと思っていたところですから、ジュリアンがよければ一緒にパーティ組みましょう。ルミネも懐いているようだから、悪い人には見えませんし」
ウフフフとエリカが笑う。
彼女の言う通り、俺の周りをウィル・オ・ウィプスがふよふよと漂いまとわりついていた。
聞けば精霊は魔力を代償に契約者から吸い取っているので、強い魔力の人間を好むらしい。
(その話が本当であるならば、俺の予想は正しいか……ここの文化にアラビア数字はあっても《《アレ》》はないということだな)
5年前に魔力量がザコレベルといわれた俺だったが、磁力魔法を使いこなしているうちに魔力量の表示がバグっていたことに確証を得ていた。
もちろん、このことをアイゼン家に言ったりするつもりはない。
追放された貴族の家に戻るよりも、今、イーヴェリヒトで冒険者しているほうが楽しいのだ。
「おーい、エリカ、ジュリアン交代やでー」
「わかりましたわ。私も泊めていただき感謝いたしますわ」
「俺もか? でも、レイナだけだと不安なんだが」
仮眠から起きてきたレイナがエリカと交代をしていく。
俺はレイナ一人だけにするのが不安だったが、すぐにそれが杞憂なことを理解した。
〈錬金術:クレイゴーレム召喚〉
呪文を唱えて、レイナが地面に手を当てると、地面からズモモと土人形が生えてくる。
10分後、1mくらいの土人形がガッツポーズをした。
おいおい、●人28号かよ。
錬金術はこんなこともできるのかと驚くとともに、アイアンゴーレムが作れるのであれば俺の磁力魔法との相互作用が多そうだと考えた。
「ゴーレム召喚できるなんて、教えてくれよ」
「1日の使用制限があんねん。大きさによっては時間がかかるしなぁ。コイツも見張りにつけるから、おこちゃまはゆっくり寝るんやで」
「子供扱いするなー!」
見た目は子供だけど中身は大人なんだ。
子供扱いは本当に勘弁してほしい。
■イーヴェリヒト 商店街
冒険者ギルドでエリカの冒険者登録と依頼の報告を終え、俺たちは商店街で買い出しを行っていた。
ホーンラビットの角や毛皮も買い取ってもらったので、そこそこの収入になっている。
「次はダンジョンに行きたいから、松明はたくさんあったほうがいいのかな?」
「あかりでしたら光の精霊に頼めばいいので、大量に買い込む必要はありませんわね」
パーティメンバーに加わったエリカとレイナを連れて街中を歩くのはデートっぽくていい。
イーヴェリヒトの商店街はどの時間でも人が多く、にぎわっている。
屋台では肉を串に指して焼いているため、いい匂いがしてそちらへエリカがふらふらっと動き出した。
エリカで綺麗でお嬢様っぽいがかなりの大食漢である。
「エリカ、屋台のものばかり食べているとあっという間にさっきの報酬なくなるよ」
路銀はそこそこはあるが、かといって贅沢を無制限にできるわけでもない。
「ダンジョンで一攫千金して、いろんな料理を食べてみたいですわぁ……はむはむ」
いつの間にか買った串焼きを食べながら、エリカは自分の夢を語りだした。
「夢かぁ……レイナはどんな夢がある?」
「ウチ? ウチの夢は錬金術の工房をおっきくすることやなぁ……錬金術師として大成したいねん」
レイナにも夢があったが、俺はどうなんだろう、異世界に転生して10年。
5年前、大した魔法が使えないといわれて貴族界を追放された。
冒険者になるために頑張ってみたものの、それはなんとなく冒険者になってみたいと思っただけである。
これからランクをとりあえず上げようと思っているけど、夢とはいえるものでもなかった。
俺の夢は……なんだろう……。
「おっと、ごめん!」
ぼうっと考えていると人とぶつかったが、その人影はどこかに消えていた。
「ぼーっとしてたら、あかんで?」
レイナに言われて、袖を引っ張られると懐が軽いことに気付く。
さっきのぶつかったときに掏られたようだ。
だが、問題ない俺の財布には《《鉄板》》を入れているのだから……。
〈磁力魔法:引力〉
財布の鉄板を意識してとらえると、ぐっと手元に引っ張った。
「にゃぁぁ!?」
財布が勢いよく俺の手に戻ってくるときに少女の声が雑踏の中から聞こえてくる。
俺たちが、その声の方へ駆けていくと倒れた猫耳少女の周りはたくさんの財布が転がっていた。
「やばい、逃げるのにゃ!」
驚いて倒れていた猫耳少女は起き上がると転がっている財布をそのままに裏路地の方へ駆けだす。
ここまで来たら逃がすわけにはいかない。
「いくぞ、俺たちでとらえないとまた被害がでる!」
「わかりましたわ」
「ウチはここで、衛兵に事情説明しとくな~」
俺とエリカは猫耳少女を追いかけ、レイナと別れた。
■レーヴェリヒト 路地裏
「やばい、やばいにゃ!」
あちしは急いで路地裏をかけていく。
スリに成功して気をよくしていたら、急に財布が引っ張られてこけてしまった。
初めての失敗で、このままでは衛兵につかまり投獄されてしまう。
「そうなったら、妹たちが困るのにゃ」
自分が育ったスラム街は盗みや殺しが日常で起きていた。
その中であちしは盗みの才能に目覚めて、スリや商店からの盗みを行いスラムの血のつながっていない兄弟、姉妹にわけている。
ここで衛兵につかまったりしたら、その子たちは明日のご飯すらありつけないのだ。
「後ろから足音が二つ……しつこいにゃ、けど猫獣人を舐めるにゃ!」
壁をけって家の屋根まで上がり、追っ手を引きはがそうとした。
〈磁力魔法:加速〉
「捕まえたぁぁっ!」
「ふにゃぁぁ!」
そう簡単に上ってこれないだろうと思っていた屋根まで、少年が勢いよく飛んできてあちしを後ろから抱き着いてきた。
その時、おっぱいを鷲掴みされて、あちしは大きく叫んでから屋根の上に二人して転がる。
◇
「ヘンタイにつかまったのにゃ」
「不可抗力だって……」
屋根の上から路地裏に降りると、猫耳少女から冷たい視線を浴びせられる。
猫耳少女の手は鉄の棒を変形させて作った簡易手錠で塞いでいた。
「あらあら、そういうことがジュリアンはお好きなのですか?」
「そんなことはない!」
ニヤニヤと俺を見てくるエリカに反発してから、少女を尋問する。
「どうして財布を盗んでいたりしたんだ? あと名前を教えてくれ」
「あちしはリアにゃ。盗みはそうしなきゃ生きていけないからにゃ……だから、見逃してほしいのにゃ。スラム街の妹たちのご飯がなくなるのにゃ!」
へにょと耳と尻尾をへこませながらもリアは俺に懇願してくる。
「事情があるのか……じゃあ、代わりに体で払ってもらおうかな」
「にゃにゃにゃ!? やっぱり、ヘンタイにゃ!」
俺が何気なく言った言葉にリアは自分の体を守るように身を丸めて、尻尾と耳の毛を立てて、フーと威嚇しだした。
今のは俺の言い方が悪い……確かに薄い本のような発言である。
いや、そういいたくなるほどスラムで育ったという割にはリアの肉付きがいいのだが……いやいや、話を戻すのが先だ。
「いやいや、違う。そうじゃない、リアの身のこなしや獣人特有の危機察知能力を見込んで冒険者の仲間になってもらえないかなと」
「冒険者かにゃ? 衛兵に突き出されないならやってもいいにゃ」
「なら、決まりだな。妹分や弟分がいるなら使用人として俺が父さんに頼んで雇ってもらうよう頼んでみることもするよ」
俺はリアを仲間に入れるための交渉を続けている。
シュテルン商会の屋敷は広いし、俺がパーティメンバーと一緒に過ごすにしても部屋は余っているくらいだ。
俺が冒険者になってパーティメンバーを集められるDランクになったときに、住み込みで受け入れてくれるといっていたし、使用人を増やそうと考えていると話していたのを思い出したので、無碍にはされないだろう。
「どうだ? 悪い話じゃないだろ?」
「キミはあちしより年下に見えるけど、中身が大人なのにゃねぇ……あちしと妹たちがご飯食べれて安全になるなら申し出を受け入れるにゃ」
リアは俺を上から下まで見てから、仲間になることを了承してくれた。
俺とリアは握手を交わすと再び冒険者ギルドに向かう。
これで最低限のダンジョン攻略メンバーがそろった。
「明日からはダンジョンアタックだ!」
流れのままに俺以外が女性のメンバーになったが、気にしないことにする。
異世界でハーレムなんて、当たり前だろ?
■アダマンタイト鉱山跡地・鉱山階層
イーヴェリヒトのダンジョンはかつてアダマンタイトが出てきたとされる鉱山の跡地にできていた。
ファンタジー系の創作モノではミスリルと同じくらい有名な金属で、希少価値が高くSランク冒険者をアダマンタイト級などと呼ぶ場合もある。
ただ、跡地とあるくらいなので、ダンジョンの浅い階層ではアダマンタイトは出てきていなかった。
「アダマンタイトを見つけられたら大金持ちやね」
「一攫千金は夢があるのにゃ」
「たくさんのお金でたくさんのご飯を頂きたいものですわ」
うちのパーティの女性陣はお金が大好きらしい。
俺も嫌いではないが、ノリとしてはこんなものなんだろうか?
「今日は無理せずいけるところまで行って、戻ってこよう。できることなら10階層目を目標だね」
危なっかしいので俺は女性陣に注意を促してから、ダンジョンへ足を踏み入れた。
冒険者ギルドのエミリアさんからもらった地図は鉱山地帯の階層とその次の地底湖エリアまでの合計10階層分である。
もっと深いところまでギルドでは地図を持っているが、無茶をしないようにと持たされていなかった。
どれだけ無茶をするように見られているのだろうか……。
「まずは、軽く進んでいこう。エリカは明かりを頼んだ」
「かしこまりましたわ。光の精霊よ、ここに!」
エリカが手をかざすとウィル・オ・ウィプスが姿を現し周囲を照らした。
松明よりも明るく、熱くないし、手をふさがないのがいい。
「隊列は俺とリサが前衛で、エリカとレイナは後衛で。レイナはゴーレムを作って後ろからの襲撃警戒を中心に行ってほしい」
俺はリーダーらしく指示をだして、メンバーと共に鉱山地帯を進んだ。
崩れたトロッコなどが通路にあり、巨大な蝙蝠がでてくるのをエリカが弓で対処していく。
リサが早い段階で敵を察知してくれるのでかなり楽勝だった。
「リサが敵をすぐに見つけてくれるから、戦闘が楽でいいよ」
「本当にサクサク進められて助かっていますわ」
「それほどでも……あるのにゃ」
褒められ慣れてないかと思いきや、調子に乗ってキリリと決め顔をするリサにみんながほっこりする。
なんとなしに流れで集めたメンバーではあったが、パーティを組んでダンジョンアタックすることで信頼感や連帯感のようなものが生まれているようだった。
(やっぱり、冒険者はダンジョンに潜ってなんぼなのかな?)
街中で出される依頼も報酬がもらえるいいものだが、ソロでもできるものが多いし、毎日高額報酬の依頼があるわけでもない。
そうした場合、ダンジョンに潜ってモンスターを倒して素材を確保して査定してもらう方が効率がいいのは確かだ。
ドンドンと地下に進んでいくと、5階層目の奥で巨大な人の姿を見かける。
門番のように地下へ進む階段の前に立ちふさがっていたのはアイアンゴーレムだった。
「アイアンゴーレムはふつうであれば苦労する相手だろうが、俺にとっては実験対象だ。ちょっとだけ、一人でやらせてくれ」
仲間にそういって、俺は剣と盾を構えてゆっくりと間合いを詰めた。
磁力魔法の効果範囲にアイアンゴーレムをとられたことを感じる。
加速、引力などができるが、なかなか使うことがなく試せていない魔法をここでは試したかった。
|〈磁力魔法:斥力〉《マグネス:リパルション》
呪文を唱えると、アイアンゴーレムの腕がビキビキと悲鳴を上げながら引きちぎれた。
やはり、磁力は引力だけでなく、反発する斥力も使えるようである。
引力と斥力を使いこなすだけでもアイアンゴーレムはザコだ。
「そして、この引きちぎれた腕を……ロケットパァァンチ!」
〈磁力魔法:加速〉
引きちぎれた腕を加速させて飛ばし、アイアンゴーレムの頭部にぶつけて砕いた。
「よっし! 大成功!」
予想通りの動きになったことに俺はぴょんぴょん飛び跳ねるように喜んだ。
前世は工業高校の学生であったので、仮説と検証を行える実験大好き人間なのである。
「なんや、ウチは今、ジュリアンの年相応な姿をみてる気がするわ」
「奇遇ですわね、わたくしもですわ」
「あちしもそうにゃ、ジュリ坊は10歳にしては達観しすぎているのにゃ」
アイアンゴーレムを一人で倒して喜ぶ姿を見ていた三人の声に俺はハッとなった。
急に恥ずかしくなり、顔が熱を持つ。
「な、何見てるんだよ! ほ、ほら、コアを回収して次いくよ、次!」
ゴーレムのコアは高額で売れるらしい。
頭部だけを一撃で破壊したので、胴体にあるコアは綺麗なままのはずだ。
「はいな、ウチに任せとき」
ゴーレムを解体して、使えそうなものをちゃっかり回収しているのはレイナらしい。
気を取り直して、地底湖エリアに向けて俺たちは階段を下りた。
■アダマンタイト鉱山跡地・地底湖階層
「スゴイ……」
階段を降りると、切り立った崖のような場所であり、目の前には大きな湖が眼下に広がっている。
濁流が川となり、滝となって地底湖へ落ちていた。
異世界らしい雄大な景色に俺は言葉少なくなってる。
「ジュリ坊。敵の気配はないけど、とどまっていても時間がもったいないにゃ」
リサに突っ込まれた俺は隊列を組みなおして崖から地底湖の方へ降りていった。
鍾乳洞のような湿った空気が生態系を変え、モンスターも鉱山跡地とは違ったものになってくる。
最たるものがジャイアントスラッグだ。
「ナメクジでか!」
3mは越える大きさがゆっくり動いてくる。
「動きは遅いですが、油断なさらないでくださいまし。接近戦は酸性の溶解液の餌食になりますわ。サラマンダー、出番ですわ!」
エルフのエリカがジャイアントスラッグの特性を伝えると火の精霊サラマンダーを召喚して、火炎を飛ばしてジャイアントスラッグを焼いていった。
エリカは冒険者に憧れて、エルフの里をでたらしく文献を読み漁って知識を付けてきていたそうである。
腹ペコ以外でエリカの特徴を知れたのはよかった。
「遠距離攻撃ならいいんだな? じゃあ、これをやってみるか……投げつけただけだと、溶かされるから……」
〈磁力魔法:収束〉
俺は磁界をイメージして、それらを束にしてまとめ上げる。
その効果を宿すのは左手に装備してある盾だ。
ふわりと盾が浮き見えない糸のようなもので、ガントレットとつながれている。
「超〇磁ヨーヨー!」
左手をジャイアントスラッグに向けて振ると、盾が飛翔してジャイアントスラッグを打ち据えたかと思えば、俺の方へ戻ってきた。
「ぐぐぐ、これ、魔力の消耗量がすげぇ……」
俺はごっそり減っていく魔力を感じたので、魔法を解除して盾を装備しなおす。
魔力量は気にしなくてもいいが、一気に消耗しすぎると前のように鼻血が出て倒れかねない。
「よーよーなんて、聞きなれないものやけど……スゴイ技やね」
倒れたジャイアントスラッグから錬金術の素材にもなる粘液を小瓶に回収しながらレイナが俺に話しかけてきた。
まぁ、ヨーヨーなんてこの世界にはないだろうから仕方ないが、あんまり使いすぎると異世界転生のことがばれそうなので黙っておこうと俺は思う。
「ジャイアントスラッグも俺たちであれば十分倒せる相手だな、もう少し奥まですすもうか」
「敵の気配はないにゃ、安全に行けるとおもうにゃよ」
「いえ、精霊が嫌な予感がするといっていますわ。一旦休憩をとることをお勧めしますわ」
リサの進言にエリカが難色をしめした。
エリカの精霊は優秀なので、それを信じることにする。
「あっちで水を汲んでこよう。飲み水も補充しとかないと不安だからな」
地底湖へ向かって流れる川に近づき、水筒を傾けた。
そのとき、水中から水が触手のように伸びてきて、俺をつかんで川の中へ引きずりこむ。
「「「ジュリアン!」」」
背後から俺の名前を呼ぶ3人の声が聞こえた気がした。
■激流の中
俺は水中に引きずり込まれ、激流の中にいた。
気づいたときには水中深くまで引きずりこまれており、上を見ると水面が揺らいでいる。
水中で動こうとするが、縛られているようで動けず、息を止めるのもつらくなってきた。
(俺はここで死ぬのか?)
そんな気持ちが沸き上がってくる。
アイアンゴーレムに対して調子に乗っていたが、今の俺は10歳の体であり弱いことを改めて感じた。
学校の実験中に死んだと思ったら異世界に来て、5歳の時に貴族の家から追放された俺の人生はここまでなのか?
――嫌だ!――
夢を持ってないまま死ぬなんて嫌だ。
前世だって童貞のままだったし、異世界に来たんだからハーレムだって目指したい。
俺つえーだってやりたい。
――そうだ、俺は! もっと、この世界を楽しみたい!――
俺の心の奥に眠っていた本音が溢れてきた。
それとともに、魔力の高まりを感じる。
俺が8と言われた理由……それは……。
(仮説だが、ほぼ確定だろう。俺の本当の魔力は∞だ! ありったけの魔力を使って磁力範囲を拡大! ぶっ倒れようが関係ない! 死ぬよりましだ!)
――俺は生きる!――
薄れゆく意識の中で水の底に鉄鉱石の反応をとらえた。
俺を食い殺そうと、巨大な魚が迫ってくる。
|〈磁力魔法:斥力〉《マグネス:リパルション》
水の底の鉄鉱石と俺のブーツの間に斥力を発生させた。
ギュンと体が水中を突き進み、水面へと向かう。
水による縛り付けも振りほどき、水面から飛び出した俺は岸へと転がった。
「ゲホッ、グホッ……カハッ!」
地面に転がった痛みを感じるとともに飲み込んでいた水を吐き出す。
濡れた服が肌に張り付けて気持ち悪いが、戦闘が終わったわけではないので油断はできなかった。
「ジュリ坊はゆっくり休むにゃ、あとはおねーさんたちに任せるにゃ」
リサが俺の背中をさすりながら言うと、エリカとレイナが頷く。
「頼ん…だ」
その一言だけをつぶやくと俺は意識を失った。
■地底湖エリア 川岸
「敵は邪悪なる水の精霊ルサールカですわね。物理攻撃はたいして効果がないですわ」
「あちしかっこよく決めたのに出番ないのにゃ!?」
わたくしの言葉にリサさんはガーンとわかりやすいリアクションをしています。
活躍したいと思うのはわたくしも、おそらくレイナさんも一緒でしょう。
ジュリアンは子供ながらに達観していて、自分がみんなを引っ張らないとと気を張っていました。
冒険者としての経験は確かにないですが、一番の年上であるわたくしをもっと頼っていただきたいものですわ。
「クォォォォッ!」
水の精霊ルサールカが水で女性のような形をとり、髪の毛を触手のように伸ばして倒れているジュリアンさんを狙っていきます。
「ウンディーネ! 精霊の格の違いを見せるときですわ!」
|〈精霊魔法:水の刃〉《エレメス:ウォーターエッジ》
同じ水の精霊でも上位となるウンディーネを呼び出し、水の刃で触手を切っていきますわ。
切られたことで勢いがなくなったところをジュリアンさんをリサさんが抱きかかえて川から離れていきました。
ジュリアンさんが狙いであるならば、正解ですわ。
「姿を見せたのであれば、これが効くはずや、そーれっ!」
何かの瓶をレイナさんがルサールカに向かって投げつけました。
ルサールカは振り払おうと髪の毛で瓶を割るとジャイアントスラッグの粘液が溢れ、ルサールカの液体でできたからだを固めていきます。
こんなことが起きるなんて初めて知りました。
錬金術とは奥深いものですわ。
「固まったから物理攻撃もいけるはずや! やっちまいなー!」
「あちしに任せるにゃ、見せ場はもらったにゃ!」
レイナさんの声にジュリアンさんを置いて戻ってきたリサさんが地面をけって飛び上がり、猫獣人特有の素早い身のこなしでルサールカに迫りました。
|〈技能:風刃斬〉《スキル:ウィンドカッター》
短剣を風のように振るい、1秒間に5回の連続攻撃を行う攻撃スキルが放たれます。
攻撃を受けたルサールカが斬り裂かれて霧散しました。
「無事、戦闘終了のようですわね……皆様、お疲れ様でしたわ」
「おつおつや、このメンバー相性ええのかもな」
「ジュリ坊がつないだ縁だけじゃないかもにゃ……今日はお試しで潜ってみたけど、正式にパーティ登録するのかにゃ?」
「それについてはジュリアンが起きてからやね」
「ともかく、このままでは危ないですし、一度撤退ですわ」
ゆっくりと無事を労うことを後回しにダンジョンからの撤退を行うことになりましたわ。
まだ時間はありますもの、ゆっくり回りましょう。
■アダマンタイト鉱山跡地
「ん……」
「気づきましたのね?」
俺がゆっくり目を開けると銀色の髪の毛の中にとがった耳が生えていた。
そこで俺はエリカにおんぶされていることに気づく。
濡れている服がいつの間にか乾いているのは懐に入っていたサラマンダーのおかげらしい。
「エリカ……ありがとう」
どっと疲れてきたのか、それだけしか今は言えなかった。
それでもうれしそうにエリカの耳がピコピコと動く。
「ジュリ坊、気が付いたならパーティについてどうするにゃ? お試しで組んだから登録まではしてないと思ったはずにゃ」
先行しているリサがくるりと振り返りながら俺に訪ねてきた。
冒険者ギルドでパーティの登録を行わずにダンジョンへもぐりに来たのである。
ダンジョンとメンバーの様子見を兼ねてのことだった。
「戻ったら登録するよ……パーティ名は『エターナルホープ』だ」
「『永遠の希望』という意味ですわね。わたくしたちが希望になるような活躍をしていくのでしょうか?」
「俺がさ……貴族の中では属性魔法の使えない落ちこぼれなんだけど、活躍できるぞってのを示したいというのも……ある」
最後のほうは照れ臭くなって、俺はエリカの背中に顔をうずめた。
「ええやん、ええやん。ジュリアンと出会ってみてきているけど、落ちこぼれなんかやないで。ほんまジュリアンの魔法は面白いやつや」
レイナが回収してきた素材を自分の体よりも大きなリュックに入れてにっこりと笑う。
みんなが俺を認めてくれていてうれしかった。
「今後とも、よろしく……お願いします」
かっこよく決めたかったが、急に恥ずかしくなって俺はしおれながらつぶやく。
そういえば、気を失って運ばれてランク上がった初依頼に続き、初ダンジョンでもおんぶされて帰るなんて、かなりかっこ悪いな、俺……。
もっと、もっと頑張ろうと心に誓うのだった。
◇ ◇ ◇
■男子禁制酒場『薔薇の隠れ家』
「「「かんぱーい!」」」
木のコップがぶつかる音が室内に広がる。
各々が頼んでいた飲み物を飲み干すのを確認すると主催のレイナが仕切りだした。
ここ、薔薇の隠れ家の個室は消音の魔法がかかっているので、騒がしくしても他に迷惑がかからない。
「今日はウチの呼びかけに答えてもらってありがとさんや、ジュリアンにかかわっている女子を集めての第一回女子会をはじめよか」
レイナ曰く、ジュリアンについていろいろ語りたいと思って、メンバーに声をかけたとのことである。
そして、会場の薔薇の隠れ家はレイナの伝手で個室を借りれた。
レイナがどうして、こんな店を知っているのか気にはなったが秘密とごまかされる。
一番付き合いの長いメイドのミツキをはじめ、”鋼の守護者”から僧侶のエレナの2名が来てくれたのは大きかった。
「それにしても女子会ができるほど、ジュリアンくんは女性との交流が多いんですね」
ワインを口につけてエレナはニコニコと微笑む。
「ジュリアン様にお仲間が増えていることは実に喜ばしい限りです。私は冒険者ではないので、皆様から冒険でのジュリアン様のお話を聞けるのが楽しみです」
この中では見た目では最年長のミツキがミルクを飲んだ。
飲めなくはないようだが、メイドとして常に気を付けているらしい。
「わたくしとしてはジュリアンが昔から、あんなに達観していたのか気になりますわ。知識も同年代の人間とは違うものを感じることが多いですわ」
実年齢最年長のエリカがミツキに素朴な疑問をぶつけた。
その疑問は他のみんなも気になるのか、ミツキに視線が集中する。
「そうですね、私がジュリアン様の元に来たのがジュリアン様が3歳のころでした。話はじめた5歳のころから今と変わらない感じはしていますね」
見た目はだいぶ成長していますけど……と付け加えてミツキが話しを終えた。
「ジュリアンくんはイーヴェリヒトに来てから大人っぽくなった感じが強いですね」
ワインを追加で飲みながら、チーズを食べるエレナがジュリアンの初依頼のことを話だした。
自分が守ろうとしたが、結果的に戦闘で守ってもらったというのである。
「ダンジョンではジュリ坊子供っぽいところあったにゃ」
モグモグと料理を手に付けていたリサが会話に混ざってきた。
リサとジュリアンの出会いはいいものではなく、盗みを働いたところを捕らえられてからの縁である。
スラムで一緒に暮らしていた兄弟姉妹も屋敷に雇ってくれた恩から仲間になっているが、丁寧な対応をするタイプではなかった。
「たしかに、あのアイアンゴーレムとの戦闘で喜んでいたのは微笑ましかったですわ」
どういう状況なのか気になったエレナやミツキにエリカは質問を受けつつ答える。
ジュリアンを酒の肴に皆大盛り上がりであった。
当人がいたら、恥ずかしがってしまうだろうが、その姿もかわいく思える。
「ジュリアン本人がいないからこそ、話せるいろいろがあっておもろいなぁ、この会定期的に開いたら参加するん?」
「次回はリリアンさんもお誘いしたいですね。今日は用事があるといって不参加でしたけど……今、魔法都市へお師匠様を訪ねにいっているとか?」
レイナの問いかけに断ることはなかったが、一人エレナだけが今日不参加だったメンバーについて考えを巡らせる。
「魔法都市ですか、魔法学園にもジュリアン様の元婚約者がいらっしゃいましたが、今どうしているのでしょうか……」
「「「ジュリアン、婚約者いたの!?」」」
ミツキのさりげない呟きに、ガタッと椅子から立ち上がった女子達がミツキに詰め寄っていく。
「はい、今は双子の弟君であるフレデリック様の婚約者になられている
アリシア・ローレライ様になりますね」
「ぶふっ! ……ローレライ家って、公爵家やないか! 逆玉やなぁ」
意外な家の名前にレイナが飲み物をふきだした。
それをきっかけに色々な質問がミツキに飛び交い、予定していた女子会の終了時間をオーバーする。
女子会は店が閉店になる深夜まで盛り上がりながら、続いたのだった。
◇ ◇ ◇
「この景色は昔と一緒ね……」
リリアンは緑豊かな森林と静かな湖に囲まれた壮大な丘の上に城のような建物が見える。
エーテリオン魔法学院の存在感は魔法都市ルミナエアの街並みより目立っていた。
「師匠に呼び出されたのは……ジュリアンの件よね」
リリアンは定期報告として手紙を師匠であるハーフエルフのエリオットに書いていたが、ジュリアンの使う魔法に興味を持ち、直接話を聞きたいと呼び出しを食らったのである。
「まぁ、懐かしの母校訪問にもなるからいいけどね」
リリアンは一人納得すると、エーテリオン魔法学院に向けて歩きだした。
■エーテリオン魔法学院・庭園
在学中からエリオットは庭園で本を読んでいることが多かったので、リリアンも魔法学院に入ると庭園を目指す。
魔法学院の庭園はリラックス効果のある付与魔術をかけられていて、気分を落ち着かせる効果が高い。
この付与魔術をかけているのがエリオットなのだ。
「いた……師匠、お久しぶりです」
庭園の一角で、ハーブティを片手に本を読んでいたハーフエルフの青年に向けてリリアンは頭を下げる。
「やあ、リリアン。本当に久しぶりだね。ずいぶん大人っぽくなったね?」
「師匠が変わらなすぎですよ。ハーフエルフだからでしょうけど……」
リリアンは目の前にいる銀髪の青年を前にヤレヤレと肩をすくめた。
10代後半から20代前半くらいに見える細身の男だが、その年齢は200歳を超えている。
「種族的なものは僕ではどうにもならないからねぇ……さて、ここで話すことでもないから、僕の執務室にいこうか」
読んでいた魔法理論の本を閉じて、エリオットは歩きだした。
つかみどころのない飄々とした態度は以前からかわらない。
「今でも基本講義は四属性魔法を中心にしているんですか?」
「そうだね、それ以外では光と闇の属性からかな? 基本的にはこれらの元素魔法の素質を持っていることが大半だからね」
執務室に向かって、歩きながらリリアンはエリオットに尋ねた。
庭園から本館へ向かっていく中で、何人かの生徒とすれ違う。
リリアンには制服姿が眩しく映っていた。
10年ほど前までは自分も着ていたのが懐かしい。
「師匠……元素魔法を全く持っていないなんてことはありますか?」
「考えられないけれど、キミが教えてくれた少年は元素魔法の素質がまったくなかったんだよね?」
エリオットの執務室に入ったリリアンは風の魔法で外への音漏れを防いだ。
|〈風魔法:消音〉《ヴェントス:サイレンス》
「ジュリアンについてですが、私が見聞きした限りでは元素魔法は使っていません。今のダンジョンに潜るパーティからの報告もないですね。その子たちがいうにはジュリアンの魔法はジリョク魔法というそうです」
「ジリョク魔法……ですか」
執務室のテーブルをはさんだ椅子に二人は向かい合うように座って話をつづける。
「特殊な魔法ということはわかりましたが、元素魔法と違って魔力を現象にして使わないというのが珍しいケースですね。僕としても一緒に行動して観察したいものですよ」
リリアンからのレポートに目を通しながらエリオットは微笑む。
「師匠には一度、イーヴェリヒトに来てみてもらいたいです。魔法理論の論文の参考にもなると思いますよ」
リリアンからの要請にエリオットは目を光らせた。
「なるほど、確かにいいですね。その件については考えてみましょう。ただ、ジュリアン君を見に行くだけで学校の授業をあけるわけにはいかないので、理由を何か考えなければいけませんが……」
ふむとエリオットは顎に手を当てて思案をはじめる。
「師匠?」
「いえいえ、なんでもありませんよ……ただ、近々話がいくかもしれません」
「わかりました。せっかくなので、訓練所でちょっと後輩と遊んでっていいですか?」
「ほどほどにお願いしますよ」
話が終わり、リリアンはよっしと立ち上がると杖をクルリと回してふふふと笑った。




