第1話 魔力量8で無属性の落ちこぼれ
「それでは、これより魔法学園入学試験をはじめます。名前を呼ばれたものは順番にくるように」
試験官が居並ぶ生徒に声をかけて、ざわざわを周囲が動きだす。
四元素属性が一つだったり、複数だったりがわかり試験を受けた少年少女は一喜一憂していく。
「ジュリアンは家系的には火は当然よね? 他に水とか土があったらすごくよさそう」
「まぁ、そこはやってみてのお楽しみにかな?」
隣から長いプラチナブロンドの髪を揺らす空色の瞳の少女が話しかけてきた。
彼女の名前はアリシア・ローレライ。
親同士が決めた婚約者というやつだが、5歳という年齢で既に婚約者が決まっているというのは”前世”をもつ俺としては妙な感覚だ。
俺の名前はジュリアン・アイゼン。
ただし、今の名前であり、前世は北条伝次という工業高校生だ。
学校の実験中に爆発事故があって、気づいたら異世界に来ていたというパターンである。
「アリシア・ローレライ、前へ!」
「はい!」
バイバイと小さく手を振ってアリシアは試験官のいる壇上に進み魔力測定と属性を図る水晶に手を当てた。
水晶がまばゆく光り、赤、青、黄色などのカラフルなオーラのようなものが浮かぶ。
「おお、これは四元素すべての特性と魔力量も成人と変わらない10万ほどを持っているようですな。まさに天才といえましょう!」
試験官が思わず丁寧な口調になっている。
それもそのはずアリシアの家であるローレライは公爵家であり、王家の次に地位がたかい。
試験官は俺の家と同じ伯爵なので、扱い的に下手に出てしまうのは仕方ないだろう。
「全属性が使えるけど、火を一番に使いこなせるようになりたいな♪」
俺の隣に戻ってきたアリシアはうれしそうに微笑んだ。
うん、カワイイ。
たぶん、俺の家が火属性の家系だからお揃いになりたいということだろうと、前世アニオタの俺は予想する。
メインヒロインは彼女なので、適度に距離感を保ちつつイチャイチャしていきたい。
「ジュリアン・アイゼン、前へ!」
「は、はい!」
ニヤニヤと妄想をしているうちに名前を呼ばれたので前に進んだ。
魔法の水晶に手を当てて魔力を籠める。
異世界転生ものであれば、これでチートな実力があらわになって、学園ハーレムルートになるだろう。
「おお、これはすごい魔力量だ! 計測の数値が確定しない!?」
(そうだろう、そうだろう! さぁ、属性はなんだ? 光とか闇とかもありだよね)
水晶がまばゆい光を放ち期待に満ちた雰囲気が試験会場を包む。
しかし、試験官の顔はいぶかし気なものになった。
「魔力量はこれは、8? 属性は無属性ですな」
「はい?」
俺は某刑事ドラマの紅茶好き眼鏡刑事のような返事をする。
あれだけ派手な演出で8はないだろう。しかも属性は無属性ってどういうこと!?
「残念ですが、貴殿はエーテリオン魔法学園には入学できないようですな。ご両親とじっくりお話をしてください」
試験官にいわれ、俺はフラフラとした足取りで壇上を後にした。
周囲の男女からの視線が痛い。
これは、アリシアとの関係を妬んだものでなく、落ちこぼれを見る侮蔑の視線だ。
”前世”でも受けたことのあるものだから、忘れるわけがない。
「ジュリアン! だ、大丈夫だよ。水晶の調子が悪かったかもだし、属性がなくてもきっとなんとかなるよ!」
アリシアが励ましてくれるが、今はその励ましこそが痛い。
水晶の調子が悪いとしても8はないだろう。
この世界で魔力量8なんて、某アニメの戦闘力5と同じゴミだ。
「フレデリック・アイゼン! 炎属性に特化して、43万の魔力! 主席確定ですぞ!」
俺が自分のことに落ち込んでいたら、双子の弟が悪の親玉みたいな魔力をはじき出していた。
壇上から俺を文字通り見下して、鼻をフンとならしている。
だが、フレデリックに対して睨み返すことなんてできない。
実力差を見誤るほど馬鹿ではないのだ。
「とにかく、父上に報告と相談だな……」
俺は重い気持ちと共に試験後のことを考えるようにした。
異世界転移での学園ハーレムのルートはなくなったといえる。
そうであれば、次に考えるのは冒険者の方向だ。
しかし、5歳という年齢では冒険者登録はできないので、最低あと5年は貴族の家で過ごしたい。
そうでなければ人生ハードモード以上を5歳からはじめないといけないのはご免こうむる。
「私からもさ、おじさまに色々いうから……ね?」
アリシアの握ってくれた手の温かさが俺の心を少しだけ楽になった。
気づけば試験会場には俺とアリシアしかおらず、重い足取りで試験会場の出口へ進む。
「ジュリアン……無属性で、魔力8ということだったな?」
立派なカイゼル髭を蓄えた筋肉質の男……父上であるヴィクトール・アイゼンが試験会場から出てすぐに広場にいた。
父上の隣にはフレデリックがおり、すべて話していたことがわかる。
目頭を指でほぐした父上は俺に向かってゆっくりと言葉を紡いだ。
「ジュリアン……悪いがお前を私の跡取りにするわけにはいかない。家督はフレデリックが継ぐものとする。その他の処遇についてはここでは話せるものではない」
何かを耐えるような様子で温厚な父上が話をつづけた。
馬車に入り、話を聞いたところこの世界で属性はだいたい遺伝するものらしい。
父上は代々火属性の家系であり、母上は水属性だ。
つまり、無属性の俺が生まれるのはおかしいのである。
「ローレライ家との婚約も解消、代わりにフレデリックがアリシア嬢との婚約者になるだろう」
揺れる馬車の中、父上は俺とフレデリックに向けて話をしている。
俺はうつむき、その話を聞き流すだけだ。
反論なんかしても仕方ない。
今はただ、早く家について重苦しい馬車から解放されたい……ただ、それだけだった。
「お世話になります。ヴィルヘルムさん……いえ、これからは父さんかな?」
「はっはっはっ、呼び方は二人きりの時はご自由に。私も息子が欲しかったのでよかったですよ」
結論からいうと、俺はアイゼン家を追い出された。
母上の不貞問題が上がるかと思ったが、双子の弟のフレデリックが火属性の適正と膨大な魔力をもっていたことからそれはなくなった。
代わりに俺が出涸らしということで片付き、体裁を気にする父上の采配で何も持たされることなく門の外へ放り出されるところに声をかけてくれたのが御用商人のヴィルヘルム・シュタインである。
今はヴィルヘルムの馬車に相乗りしてヴィルヘルムの商館がある鉱山都市イーヴェリヒトへ向かっている最中だ。
馬車の中にはヴィルヘルムが俺の正面にいて、俺の隣には黒髪で黒い瞳のメイドがいる。
「それにしても、お前までついてくることなかったのに……」
「いえ、私はジュリアン様のお世話係なので、どこまでも一緒ですよ」
「ん……ありがとう」
微笑みを浮かべるメイドの名前はミツキ。
前世が日本人である俺には日本の美女の笑顔はぐっとくるものがあった。
東の国の出身といわれているいわゆる日本人顔なので特に気に入っていたメイドだった。
物心ついたときにはお世話係に指名して朝起こしてもらったり、夜添い寝してもらったりと幼年期の特権を生かして日々と過ごしている。
馬車に揺られ、宿場町や野宿をしながら、魔法都市ルミナエアから鉱山都市イーヴェリヒトへ向かっていた。
車もなければ飛行機も鉄道もない世界なので、移動に時間がかかる。
暇なこともあり、野宿の時などは護衛として雇った冒険者から話を聞くことも増えた。
護衛についている冒険者のパーティは中堅クラスであるCランク冒険者パーティで「鋼の守護者」という名前だ。
「なぁ、ちょうどこの辺はワイルドボアの縄張りやからうまい肉のために狩りせーへん?」
ある日の昼間、昼食休憩をとっている時に関西弁のような妙な訛りを使う狩人のフィンが俺らに提案する。
「狩り! 一緒に行きたい!」
ただの馬車旅に飽きていた俺はその提案に乗り、 ミツキのメイド服の裾を引っ張った。
「フィンといざというときのためにエレナが同行してくれ、俺とリリアンは
ヴィルヘルムをここで守っている」
鋼の守護者のリーダーのアーヴィンが指示をを出し、神官のエレナが立ち上がり、俺の隣に立ってくれる。
ミツキの反対側にいるので両手に花状態だ。
「よっしゃ、夕飯にワイルドボアのステーキをたらふく食わせてやるでー」
フィンは俺の頭をワシワシと撫でると森の方へ周囲を警戒しながら進んでいく。
「ワイルドボアのステーキは美味しそうだ……」
久しぶりのリッチな夕飯を意識すると俺のお腹がぐぅーとなった。
さっき昼食を食べたばかりだというのに現金なものだ。
「しっ! 静かに!」
先行するフィンが手で俺たちを制して、指でワイルドボアを指さす。
木の根かキノコを食べているのか、地面に口をつけてモグモグとしていた。
「動くんやないで……」
フィンがゆっくりと弓に矢をつがえて、集中した後で放つ。
放たれた矢がワイルドボアの頭に刺さり、ブモーと大きな声を上げた。
そのまま倒れるかと思ったが、刺さりが浅かったのかワイルドボアの顔がこちらを向き、勢いよくかけてくる。
「不味い! はよ、逃げるで!」
フィンが失敗を悟ると振り返り、俺たちを追い立てて走り出した。
ワイルドボアの脚力は人間のものよりも早く、彼我の距離はだんだんと縮んでいく。
「ぜぇ……ぜぇ……ま、不味い……うわっ!」
「キャッ!」
5歳の俺の体はあっという間にスタミナがつき、足がもつれて転んでしまう。
俺の手を引っ張っていたミツキも一緒に倒れこんだ。
バキバキと茂みを砕きながらワイルドボアが目の前に迫る。
(嘘だろ……こんなところで俺の二度目の人生終わるのか? 異世界でチートもハーレムも作れないまま終わるなんて嫌だ! 無属性魔法なんて何の役に……)
魔法のことを意識すると、俺が護身用に持っていたナイフに反応が見える。
《磁力魔法:加速》|《マグネス:アクセラ》
俺は頭に浮かんだ呪文を唱えてワイルドボアを睨んだ。
ビュンとナイフが浮かんで加速しワイルドボアを喉を貫いて頭部の方からナイフの切っ先が飛び出たところで止まる。
喉を貫いたことで、溢れた血が俺の顔にかかった。
ズシンと音と共にワイルドボアが横に倒れた。
「ジュリアン様……今のは?」
「わからないけど……今のが俺の魔法らしい」
磁力魔法という言葉が出てきた。
属性がないのも当然である。
(鉄をはじめとした磁性体がなければ使えない魔法か……研究をしてみる必要があるな)
「ジュリアン! お前すごいやないか!」
「スゴイ血じゃない、怪我はない?」
「これはワイルドボアの血だから大丈夫だよ」
振り返ったら、フィンがエレナと共によってくる。
心配かけたようだが、俺は何でもないと答えた。
5歳なのに達観しているかもしれないが、前世が高校生なのだからしょうがない。
その日の夜はワイルドボアのステーキをお腹いっぱい食べたが眠くはならなかった。
俺は興奮していたのだ。
魔法の問題が解決したのである。
次の問題は魔力8といわれていることだが、これについては《《ある可能性》》が俺の脳裏に浮かんでいた。
(俺の異世界チートはこれからだな……)
磁力魔法の効果範囲や使い方等いろんな実験をして冒険者になれる10歳まで過ごさなければならない。
俺は目を閉じて、無理にでも眠ることにした。
「―――様! ジュリアン様、朝ですよ? 今日は冒険者ギルドで冒険者登録に行く日ですよね?」
「ん……おはよう、ミツキ」
朝の眩しい光の中、微笑み浮かべるメイドの姿を確認すると俺は起き上がった。
初めて磁力魔法を使ってからすでに5年経って、今日は10歳の誕生日である。
「念願の冒険者になれるんだな」
「はい、それとお誕生日おめでとうございます。今日の夕飯は豪勢にするとヴィルヘルム様は言ってましたよ」
「それは楽しみだ! じゃあ、着替えるから朝食の準備していてね」
「かしこまりました」
ベッドから降りて、俺は着替える。
動きやすい服に皮鎧を着こむ。
その上で、鉄板の仕込まれた小手とブーツを付ければ完了だ。
冒険者登録のために実技試験があるとのことで、そのためである。
磁力魔法はこの5年間で試行錯誤をして使いこなせるレベルになってきたが、実戦経験でもっと磨いていきたいところだ。
「ワクワクしてきたな、まさに冒険日和だ」
窓から空を見上げればまばゆい太陽が輝いている。
グウゥと腹がなったので食堂で朝食を食べるために部屋を後にするのだった。
■冒険者ギルド受付
鉱山都市イーヴェリヒトの冒険者ギルドは立派な建物で、今日も人が多くごった返している。
酒場も併設されているので、朝っぱらからお酒を飲んでいる人もまばらだがいた。
夜勤上げの炭鉱夫や昨日から飲み明かしている冒険者だろう。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。新規のご登録ですか?」
酒場エリアから離れた場所にある受付に足を運ぶと眼鏡をかけたデキる事務員という様子の女性が対応してくれる。
やっぱり受け付けは女性に限るよな。
「はい、今日10歳になったので登録しにきました」
「ふふふ、元気がいいですね。実技試験がありますから後程担当のものに引き継ぎます。まずは登録のための情報記入をこちらにお願いいたします」
まとめられた茶色い長い髪を揺らし、色っぽく微笑む受付嬢の名前はエミリアといい、鉱山都市イーヴェリヒトの冒険者ギルドでは人気の受付嬢だ。
名前:ジュリアン・シュタイン
年齢:10歳
魔法適正:なし
特技:剣術、投擲
エミリアに手渡された紙に記入していく。
魔法適正は公称できるようなものがないので、なしとして置いた。
特技である剣術は「鋼の守護者」であるアーヴィンから学んだものであり、投擲は磁力魔法で一番ごまかしがきくので合わせて書いておいた。
「できました」
「ありがとうございます。では、こちらも実技の担当の準備ができましたので引継ぎますね。アレックスさん、ジュリアンさんを試験会場へ案内してください」
「おう、任せとけ。坊主、試験は厳しいが泣くんじゃねぇぞ?」
エミリアさんが振り返って声をかけると筋肉質ないかにも戦士な男が俺をニヤニヤと笑いながら見つめてくる。
「お手柔らかにお願いします」
アーヴィン以外では初めての手合わせに俺はワクワクを隠せないまま笑顔で答えた。
■冒険者ギルド実技試験会場
試験会場にたどり着くと、結構な人が俺とアレックスの試験を見ようと集まっていた。
10歳の新人がどこまでやるのか見定めるようである。
普通であれば、注目されることもないのだがイーヴェリヒトで有名な「鋼の守護者」が鍛えた新人ということが5年もあれば広まっていたのだ。
(アウェーじゃないだけいいかな……)
もちろん、試験の見学にはアーヴィンをはじめとした「鋼の守護者」のメンバーもいる。
フィンは朝なのに酒を飲みながら観戦していた。
「さすがは期待の新人だな……鋼の守護者に鍛えられたって実力見せてもらうぜ?」
アレックスは木剣を二本持ってきて、片方を俺のほうへ投げ渡す。
(そうか、試験だから真剣じゃないよな……アーヴィンとの手合わせも木剣だったのを忘れてた)
俺の磁力魔法は鉄をはじめとした磁性体に対して効果があるものだが、そうでなければ影響は出ない。
(だけども、そのために鉄入りのブーツと小手なんだよな)
フゥーと深呼吸をして木剣を構えた。
アレックスも同じように構える。
二人の距離は10メートルほど離れていて、一歩で近づける距離ではない。
「好きに打ってこい、そのうち筋や対応力をみて試験の結果とする」
アレックスが真剣なまなざしで俺に告げてきた。
「わかった。なら、遠慮なくいかせてもらう!」
ブーツを対象に《磁力魔法:加速》|《マグネス:アクセラ》をかける。
俺の一歩がアレックスの足元まで一気に加速して伸びた。
「でぇぇいっ!」
アレックスの腹を狙って横なぎの一発を当てる。
バシンと木剣が皮鎧を叩いた音だけが響き、試験会場が静かになった。
「今のは何だ……魔法じゃないようだが、特殊なスキルか?」
何が起きたかわからないアレックスが距離を取りながら再び構える。
(実は魔法なんだが、わざわざ明かすこともないか)
「身体強化のスキルみたいなもんです」
「そういうのも冒険者登録の情報に書いておけよ、パーティ探しに有利になる」
構えながらお互いに間合いを図った。
「今度はこちらから行くぞ!」
新人に一発もらったのが悔しいのか、少し荒っぽくなったアレックスが間合いを詰めて木剣で連撃を与えてくる。
アーヴィンと同じくらい鋭い剣戟でガードするのが精いっぱいだ。
しかもガードをするにしても力では推し負けるで、後ろに倒れないように足に力を入れる。
(10歳の子供に大人気なさすぎだろ!)
口には出さないが内心そう思いながら、結局俺のスタミナが尽きて膝をついたことで試験が終わった。
試験は合格、無事にFランク冒険者として登録がなされた。
■冒険者ギルド受付
「合格おめでとうございます。さっそく依頼を受けていきますか?」
「エミリアさん、ありがとうございます。はい、こちらの依頼お願いします」
俺は試験会場を後にして、受付に戻ると掲示板にあったDランクの依頼をエミリアに提出した。
俺の後ろには「鋼の守護者」の面々がいる。
「二つ上のランクではあるが、俺らが一緒に行く。ソロでやらせないから安心してくれ」
「鋼の守護者様が一緒に行かれるのであれば大丈夫ですね。受理させていただきます」
エミリアが困った様子で受理を渋っていたのを感じたのか、俺の後ろにいたアーヴィンが同行を申し出てくれた。
おかげで受理をしてもらい、俺の初依頼が決まる。
今日一日は長い、10歳の誕生日を楽しむためには”冒険”しなくちゃな。
「依頼内容はアルデン村の周辺に出てきたモンスター退治。確認されている限りはゴブリン種ですね。気を付けていってらっしゃい」
エミリアさんに笑顔で送りだされると、俺たちはイーヴェリヒトから北西に徒歩で1日にかかるアルデン村に馬車を借りて向かった。
誕生日の夕飯が用意されているのをアーヴィン達も知っているので、手を回してくれたらしい。
本当頼りになる先輩冒険者だ。
■アルデン村付近
アルデン村は人口150人くらいの小さな村で、小麦畑が村の周りに広がっている。
昼時なので、畑仕事をしている人はなく、村のあちこちから昼時で火を使っているのか白い煙があがっていた。
のどかな田舎らしい風景だ。
「モンスターに村が襲われているようではないな。周辺で確認されたのであれば森に潜んでいるか、いや……動きだしたようだ」
「馬車で来て正解だったわね。いきましょう」
御者をしていたアーヴィンが森の方から動いている集団を見つけ、リリアンが馬車から降りた。
「ゴブリンだからって油断せずにいつも通り、前衛は俺がやる。フィンとリリアンは弓や魔法で援護。ジュリアンは弱ったやつにとどめを指すことを中心に動いてくれ、エレナはジュリアンに防御魔法をかけて補佐を頼む」
アーヴィンの適格な指示を受けて「鋼の守護者」のメンバーは頷き一つで動き出した。
「ウォォォ! 俺はここだ!」
〈技能:挑発〉
アーヴィンのスキルが発動して、村の方へ進んでいたゴブリンたちの集団がアーヴィンの方へ寄っていく。
(重戦士らしいいいスキルだな)
MMOでいうところのタンクとして必要なスキルを持ってくれていることに俺は安心感を得た。
手堅いスキルとパーティ構成なので、俺は自分の役割を全うしようと動く。
長剣を抜いて、寄ってきたゴブリンに意識を向けた。
子供のような背丈だが、醜悪といって差し支えないほどの顔、近づくほどに嫌なにおいがしてくる。
ヒュンと矢が飛んできてゴブリンの腕や胴にあたる。
怪我をしたゴブリンがそれでも襲ってくるがアーヴィンが大きな盾ではじきかえしながら、槍で貫いた。
「トドメは任せたぞ」
「はい!」
俺はアーヴィンが次のゴブリンの攻撃を受け止めている間に長剣でゴブリンにトドメを指す。
頭部に突き刺さる長剣の感覚はこれから慣れていかなければいけないものだ。
(5年前は無我夢中でイノシシを倒したけど、ゴブリンは人型だからまた違うな……)
気持ち悪さがこみあげてくるのを俺は我慢して、寄ってきたゴブリンを自分からも斬り捨ててていく。
戦場の高揚のおかげか、気持ち悪さが薄れていった。
「ちょっと! 私の分も残してよ、得意の炎魔法がここじゃ使えないから出番少ないんだよ!」
|〈水魔法:水槍〉《ウンダ:ウォーターランス》
矢がなくなったフィンの代わりに魔法使いのリリアンが水の槍を飛ばしてゴブリンの頭を一撃で貫いた。
得意魔法じゃないといいながらも、命中精度も威力もすごいものである。
(リリアンさんはアイゼン家にいたら重宝されただろうなぁ……フレデリックやアリシアはどうしているんだろう)
リリアンの言葉に俺は5年前のことを思い返していた。
炎のたぐいまれない才能を得たフレデリックや四属性すべての魔法の適正があるアリシアは魔法学園で優秀な成績を収めているだろうし、父上の話からすれば二人は婚約者同士になったので、この先結婚するだろう。
(いや、昔の話だ。そのルートはなくなったんだから気にしちゃいけない)
頭を左右に振って思い出を振り捨てて、目の前の敵に集中した。
「大丈夫だな、村で一休みさせてもらってから帰るとしよう」
ゴブリンをすべて倒し終えたようで、アーヴィンが警戒を解く。
「ジュリアン君は初めての戦闘なのにケガもなく、えらいですね」
俺のそばに寄ってきたエレナが俺の頭をなでてくれた。
5歳のころからお世話になっているせいか、自分の子供のような接し方をしてくる。
長い金髪を三つ編みに整え、僧侶というには背徳的な豊満な体をしているエレナさんによられると恥ずかしさが先だった。
体は子供だが、中身は高校生である。
こんなエロいお姉さんにかまわれるのはうれしい反面、リアクションに困るのだ。
「え、エレナさん! 村にいきましょう! 返り血で汚れているので洗いたいですしっ!」
「じゃあ、私が洗ってあげますね」
俺は慌てて村に向かおうとするとエレナが別方向でかまってくる。
違う、そうじゃない……そうじゃないんだよ……。
■アルデン村 村長の家
「冒険者の方、村を守っていただきありがとうございます。一つ、お願いがございます。村で作ったフライパン等の鉄製品を売るための馬車を出そうと思っていたのです。イーヴェリヒトまでの護衛を頼めないでしょうか?」
昼食をすまし、帰り支度をしていていた俺たちに白髭を生やした村長が依頼を持ち掛けてきた。
「食料や休む場所を提供してもらった恩もあるから、護衛くらい構わないさ。依頼料は不要。正式な依頼としてギルドに通達する必要もない」
アーヴィンは村長の申し出を快く受けた。
リリアンやフィンはヤレヤレといった様子だが、エレナは嬉しそうに微笑んでいる。
「よくあることなんですか?」
「ええ、アーヴィンも小さな村の出身で冒険者として名を挙げた方ですから、手助けしたくなるんですよ」
「優しいんですね?」
「だから、鋼の守護者は高ランクの依頼よりかは小さな村や町の手助けをする中堅で居続けて依頼料が高額にならないようにしているんです」
確かに5年前から実力に比べてCランクのままなのはどうしてだろうかと思っていたが、エレナの説明で納得できた。
俺はこのパーティと知り合えてよかったと改めて思う。
■アルデン村入口
しばらくしてから、アルデン村の入口にアーヴィン達の馬車と荷物をたくさん積んだ村人の馬車が合流する。
荷物が多いため、イーヴェリヒトへの到着は少し夜になるかもしれないとのことだった。
「ミツキに心配かけちゃうなぁ……」
かといって、俺の誕生日だから早く帰るために村人の依頼を反故にするなんてことはいいだせない。
見た目は子供、中身は大人なので俺は空気を読めるのだ。
俺たちの馬車が先行し、村人の馬車が後ろからついてくる。
時折、離れすぎないように確認しながら街道をイーヴェリヒトに向かって進んだ。
「初めてモンスターを殺してみてどうだった?」
「食べるわけでもないのに殺す感覚がどういうものかわかりました」
馬車の中で揺られていると、リリアンが俺に声をかけてくる。
「魔法使いは直接命を奪う感覚は薄いけど、戦士は身近に感じるらしいからね。はじめはつらいけど慣れよ、慣れ」
「心配してくださってありがとうございます」
リリアンに向けて俺は頭を下げる。
ツンケンしたところがあるけども、面倒見はいいお姉さんなのだ。
「べ、別に心配したわけじゃないわよ……」
「まぁ、リリアンも初めて魔法でモンスターを燃やした時はブルブル震えとったからなぁ……」
「ちょ、ちょっと! フィン! それは言わないでよ!」
フィンに突っ込まれたリリアンが大きな杖でポカリとフィンの頭を叩く。
「おい、どうやらお客様のお出ましだ」
御者を務めていたアーヴィンが声をかけると視線の先に山の街道をふさぐように男たちが広がっている。
装備に統一感はなく、暴力を生業としているもの特有の強面な奴らはどうみても山賊のたぐいだ。
馬車の中で静かに戦闘態勢をフィンたちは整えていく。
(山賊退治か……モンスターの次は人の命を奪うことにもなれなくちゃいけないか)
俺は覚悟を決めて、アーヴィン達の対応を待つことにした。
■山の街道
「おい、馬車を止めて金と荷物を置いていきな。命だけは助けてやるぜ?」
「ヒャハハハ! この人数だから、無駄な抵抗するんじゃねぇぞ!」
頭の悪い挑発をしてくる山賊たちは馬車を逃がさないように囲い込みはじめた。
|〈火魔法:炎壁〉《イグニス:フレイムウォール》
だが、囲うように動いていた山賊たちの足元から炎の壁が立ち上がり、踏んだものは燃え、そうでないものは熱さに後ろに下がった。
動揺して下がった男たちに矢が次々と刺さっていく。
「たかが山賊が鋼の守護者を倒せると思わないでよね!」
「せやせや、ワイらが馬車内で控えていたのにも気づかないなんて、お粗末やで」
ギャアギャアと騒ぎ出す山賊たちのスキをついて、馬車から降りたリリアンとフィンが山賊へ攻撃を仕掛けていった。
馬車の中では俺にエレナが防御魔法をかけて、様子見を続けている。
「大丈夫ですからね? 人を殺めるのは覚悟がいりますから今すぐにやらなくていいですから……怖いなら私の手を握っていていいですから」
俺を優しく抱きしめながらエレナが耳元にささやいてきた。
戦闘に出さなかった理由がエレナのささやきでわかる。
(怖くないといえばウソになるが……ひどく冷静になれている自分もいるな)
〈土魔法:岩隆起〉
その時、馬車が大きく揺れて横倒しになった。
俺とエレナが叫ぶ間もなく地面に転がると馬車の外から低い男の声が聞こえてくる。
「いつまでかかってんだ。待ちくたびれたぜぇ」
「土魔法にその戦槌……傭兵の”アースハンマー”グスタフか!」
アーヴィンが苦々しい声を上げて、盾と槍を構えた。
「《《元傭兵》》な今は山賊の親分よ! お前ら、今のうちに態勢を整えてやっちまえ!」
「へい!」
グスタフの言葉に騒いでいた山賊たちが冷静さを取り戻していく。
俺は直感的にまずいと感じた。
グスタフという男は元傭兵というだけあって、人の扱いに慣れている。
それに魔法も使えるのが厄介だった。
「エレナさんは……気を失っているか」
俺を抱きしめて怪我しないようにしてくれていたため、エレナは馬車を襲った衝撃をもろに受けて気を失っている。
ならばと俺は這い出して、剣を手にグスタフを方を見た。
|〈磁力魔法:磁力増加〉《マグネス:マグネチャージ》
剣に磁力を何重にもまとわせるイメージでもって、剣を浮かせて剣先をグスタフへと向けた。
視線の先ではグスタフの戦槌をアーヴィンが盾で受けたものの吹き飛ばされ、へこんだ盾が地面に転がる。
トドメとばかりにアーヴィンの頭に向けて戦槌を振り上げたグスタフに向けて、加速してはなった。
〈磁力魔法:加速〉
「いっっけぇぇぇ!」
ドンと空気を割る音と共に飛んで行った剣がグスタフの肩口に深く刺さる。
アーヴィンに戦槌を振り下ろそうとしていたグスタフの体が揺らぎ、両手から戦槌が零れ落ちた。
頭部や心臓を狙って放つのが本来であれば正解だろうが、俺にはできなかった。
「今のは……くぅおぉぉっ!」
アーヴィンが体の痛みを耐えて立ち上がりグスタフに体当たりを仕掛けた。
倒れてたグスタフの肩の剣がより深く刺さる。
「グアァァァァ、貴様ぁぁぁ!」
グスタフが痛みに苦しみながらもアーヴィンに向けて手をかざし魔法を発動させよとした。
|<磁力魔法:引力>《マグネス:グラビティ》
鉄製のガントレットを付けていたグスタフの腕が引っ張られて、地面に転がっていた盾に向けられた。
|〈土魔法:石礫〉《テラ:ストーンバレット》
石礫が盾に向かって放たれて、不発に終わる。
|〈火魔法:火弾〉《イグニス:ファイアボール》
そのすきを狙って火の玉がグスタフの顔を焼き、命を刈り取った。
「親分がやられちまった!?」
「ひぃぃぃ!」
大半が負傷していたうえに、グスタフも倒されたことで山賊たちは戦意をくじかれて逃げ出していく。
「逃が……さない!」
頭が熱を持つが、山賊達を捕まえるために荷物になっていたフライパンなどを磁力魔法で飛ばして気絶させたり、骨折させて足止めをして行った。
行動不能になっていく山賊たちを見ていると、俺の口に熱い液体を感じた。
「ナニコレ、鼻、血?」
クラッとしたところを最後に俺はその場に倒れこむ。
散々な誕生日になってしまったな……。
◇ ◇ ◇
私たちがイーヴェリヒトのシュタイン家についたのは夜も更けてからでした。
ジュリアン君はまだ目が覚めないままで、ミツキさんの案内のままに二階のジュリアン君の部屋へ連れていき、ベッドへ寝かせます。
起こさないように部屋を後にしてから、私たち”鋼の守護者”のメンバーとミツキさん、ヴィルヘルムさんは一回の応接間に集まり報告と相談を行うことにしました。
「豪華な料理が無駄になってしまったようで申し訳ない……」
「そんなに謙遜しないでくれ、ジュリアンが無事に帰ってきてくれただけで十分さ」
ヴィルヘルムさんは頭を下げるアーヴィンさんに紅茶を進めながら答えます。
二人は付き合いが長いこともあって、親しげな口調なのが印象的でした。
私も紅茶を一口付けて、ほぅと一息つく。
私が気が付いたときには山賊との戦闘は終わっていて、鼻血を出してぐったりしているジュリアン君にフィンがポーションを飲ませて回復させていました。
「詳しい状況は聞かせてもらったのですが……見ていないので信じられませんね」
「あたしは見たわよ。魔力の流れも感じたから、普通の魔法じゃないわね」
私の疑問にリリアンさんがクッキーをかじりながら答えました。
「詠唱はマグネスといっていたから、四属性じゃない別系統の魔法よ。私も知らない魔法ね。私の師匠でもある魔法都市の賢者様とかなら知っているかもしれないけど」
「鉄製品を動かしたり、腕を操ったりしていたな。おかげでグスタフ相手に生きていたわけだが……ギルドにはそのまま報告はできなかったよ」
ジュリアン君の使った魔法を見ていたリリアンとアーヴィンが見たものを思い返していましたが、その顔は何とも言えない苦々しいものでした。
「実はな……ワイは黙っていたんやけど5年前にも、ジュリアンの魔法をみたんや」
「もしかして、あのワイルドボアのときのことですか?」
ミツキさんがぽつりとつぶやいたフィルさんに顔を向ける。
「あんときは、5歳の子がそんなことできるわけないと可能性を否定していたけどな。今日のを見るとあの頃から使えていて、鍛えていたんやと思う」
「ジュリアン様はたまに屋敷の屋内訓練所で鍛錬していました。危ないから近づかないようにといわれていましたので様子を見に行くこともしませんでしたが……」
ミツキさんがこの5年間のことを思い返し、少し項垂れています。
「魔法について黙っていた理由がわからないのが寂しいね」
話を聞いていたヴィルヘルムさんが出した言葉がこの場にいる全員の総意です。
私も寂しかったです。
5年間、一緒にお勉強をしたりご飯を食べたりしていたのに秘密を抱えていたことを知りました。
そのことも寂しいですし、理由がわからないことも寂しいです。
「話は変わるが魔力量は8といわれたそうだが、今日の戦いはどうみてもそんなレベルじゃなかったな」
「あたしもそう思う、総魔力量はもっとあるはずよ。今日の鼻血は一時的に大量の魔力を消費したことによる反動ね。じっくり寝て、体内の魔力の流れが整えば目覚めるわ」
リリアンさんの言葉に全員がよかったと口々にいいます。
彼女のスキルは魔力感知。対象の魔力量や魔力の流れが見えたり、魔力を持つ者の接近を知ることができたりと魔法使いとして相性のいいスキルです。
「ジュリアンが起きたら、また話を聞こう。本人が話してくれると嬉しいけども、強制はしない方向でね」
ほっほっほっとヴィルヘルムさんは笑顔を浮かべました。
ジュリアン君がどういう選択をしても尊重するという方向に私も賛成です。
「ジュリアン君のあの魔法ですが、使いこなしていくならSランクも狙えるかもしれませんね」
「”鋼の守護者”に入れて仲良くやっていきたかったが、そこに収まる器じゃないのは確かだな」
私の言葉にアーヴィンさんも同じようなことを思っていたようです。
「それでもまだ10歳なんですから、大人である私たちが支えませんとね。先輩冒険者としても」
「末恐ろしい10歳やなぁ……」
フィンさんの言葉にみんなが笑います。
大きな力を持つにはまだ幼いジュリアン君をこれからも支えようと私は決意を改めました。
「光と癒しの女神ルミナよ、ジュリアン君が元気になるよう見守ってください」
今の私にできることは神に祈ることだけです。
起きたら一杯かまってあげるようにしましょう。
まだまだ、子供ですからね。
◇ ◇ ◇
■ローレライ家・アリシアの部屋
眩しい朝日で目を覚ました私は懐かしい夢を見ていたことを思い出す。
それは5年前の魔法学院の入学試験のことだった。
「もう5年たっちゃったのね……」
あのとき、もっとわがままを言っていればよかったと今となっては思う。
その理由は……。
「おはようございます。お嬢様、本日はフレデリック・アイゼン様の誕生日会への出席となっておりますので、ご準備のほうをお願いいたします」
私の起床を見送っていたメイドがベッドへ近づいて一礼と共に要件を告げた。
「ねぇ……体調不良とかで欠席とかにできないかしら?」
「それは難しいご相談ですね。ローレライ家とアイゼン家で盛り上がっているお話ではございます」
「私の家のほうが爵位は上なのよね?」
「ですが、魔力量はアイゼン家のフレデリック様のほうが高いので旦那様がこの縁談を逃すとは思えません」
無表情気味なメイドの回答に私はため息を漏らすしかなかった。
婚約者がジュリアンだったころはアイゼン家との縁談は私が望んでいたベストだったのに……どうしてこうなったのだろう。
「政略結婚ということであれば、私が我儘いいすぎるわけにもいかないわね」
ローレライ家は優秀な魔術師の家系であり、そのため魔力量の高い配偶者を取り入れて、繁栄をしてきたのである。
だから、もう結果としてはしょうがないのだ。
ジュリアンの魔力量は8といわれていて、赤ん坊レベルに低かったので、幼い私は引いてしまった。
そのため、この5年間後悔している。
「いつまでも暗い顔をしているわけにはいかないわね。準備するわ」
ベッドから起き上がった私は誕生日会への準備をはじめた。
「お誕生日おめでとう、ジュリアン」
今日の誕生会の主催と双子の兄である失った人へのお祝いをそっと口にする。
■アイゼン家中庭・パーティ会場
シェフがその場で作る様々な料理に楽団が奏でる音楽、10歳の御曹司を祝うパーティとしてはかなり豪華なものがパーティ会場に広がっている。
(これがオレの望んでいたものだ!)
主役であるオレ―フレデリック・アイゼン―は周囲を見回して満足して頷く。
オレの魔力量は10歳で100万を超えて、一流の魔術師として既に宮廷からも注目されていた。
今日の10歳記念のパーティもそれらの顔つなぎの意味が大きい。
「能力はあっても使いどころがないのが問題だ」
「フレデリック様が魔法を使うときは戦争ような大きな舞台がふさわしいかと思います」
「今年から参加できるようになる魔導大会に参加するのも良いかもしれませんわ」
オレの同級生である、カスパー・リヒテンベルクとセレナ・ヴェルサイユが同意を示す。
5年間でオレの実力にひれ伏した右腕と左腕ともいえる存在達だ。
「フレデリック様、今日はご招待いただきありがとうございます」
綺麗な声に振り向けば、恭しく礼をするアリシアの姿がそこにある。
この5年間で綺麗な少女になった。
これから先、ますます綺麗になるだろうと誰もが予想できる。
「アリシア嬢こそ、来ていただきありがとうございます」
礼を返すが、爵位が上でも魔力量という実力ではオレが上でありこの国は魔力量がすべてを決めるのでオレの気持ちはいい気分だ。
ただ、オレの態度が気に入らないのかセレナがアリシアを一瞬だけ睨んだ気がする。
「《《今は》》婚約者でありますから、お祝いするのは当然ですよ。我が家からは『 フレイム・ルビーの指輪』を贈らせていただきます。きっと、フレデリック様の役に立つことでしょう」
にこりと微笑むアリシアだが、その笑顔は本気の笑顔でないことは生まれてから10年の交流でわかっている。
あいつの……ジュリアンに向けていた笑顔と違うのだ。
(必ず、必ずアリシアの心をものにして見せる! 今もいないのにオレの邪魔をしやがって!)
心の中で悔しさにドロドロとしたものが膨れ上がるが表面に出すことなくオレはパーティを楽しむことにした。
宮廷魔術師からのスカウトの話もあるし、今日は楽しいことが多いのだから。
◇ ◇ ◇
他で掲載している完結作品の転載で僕の処女作となっています。
なろうル-トを増やしていく可能性もあります。
楽しんでいただけたら嬉しいです。




