93話 トパーズのダンジョン10
剣戟が繰り広げられる。
コロッセオに剣と剣のぶつかり合う音が響き渡る。
「っ……!」
『ほっ』
数十の刃が交わった後、ラウンドは後方へと下がって距離をとり、攻撃方法を魔法へと切り替える。
「岩!」
前方に伸ばした掌の前に、先端がとがった鋭利な岩の塊が作られ、ドリルのように回転しながらトパーズのダンジョンへと向かう。
『岩!』
同時に、トパーズのダンジョンもラウンドと全く同じ行動をした。
コロッセオの中央で、岩と岩がぶつかり、花火のように弾ける。
「…………」
ラウンドは、再び岩を作る。
今度は、自分の周囲に十の岩を作り、同時に放つ。
が、トパーズのダンジョンもやはり同じ行動で、それを相殺する。
「鏡かよ」
『その感想は、とても正しいね』
トパーズのダンジョン。
誠実の試練。
その能力は誠実な事象を作り出すことであり、能力の一つに相手と同じ実力まで自分を落とすものがある。
互いに平等な条件下で戦うという、トパーズのダンジョンの描く誠実な戦いを実現するために。
ラウンドは、そのことにうすうす気づいていた。
確証こそないが、今目の前で起きている事象が、推測した能力であれば説明できたのだ。
そうであれば、次にラウンドが考えることは一つ。
剣の強さも、魔法の威力も、動きの速さも、使える技の種類も、なにもかもが同じ相手に勝つ方法とはいったい何か、と。
人間対人間であれば、環境という不確定要素が、運という不確定要素が、平等を崩し得る。
が、ここはトパーズのダンジョンの中。
自身がトパーズのダンジョンであれば、ここまでおぜん立てをしているのに、環境や運という不確定要素を取り除いていないとは到底思えなかった。
真にすべてが平等な状況。
『どうやって決着をつければいいのか、そう考えてないかい? 答えは単純、最後まであきらめなかった方が勝つんだよ』
「黙れ!」
ラウンドの思考を見透かしたように、トパーズのダンジョンは笑って言う。
最も、ラウンドの求めた応えまでは見透かせてはいないが。
「おお!!?? なんだこりゃ!!??」
コロッセオへの道を遮る鉄格子が殴られ、鈍い金属音が響く。
びくともしない鉄格子に、さらに三発の殴打が加えられる。
「開かねえ!! おい、お前!! ここ開けろ! !一人で戦いやがって!!ずりいぞ!!」
バリオンが叫んでいた。
「……彼女はまさか、一人であのヘラクレスの大群を倒してきたんでしょうか」
「いや、きっと戦いを回避しただけだと思いてえが……しなさそうだな」
オールドマインとオーバルが、何度も鉄格子を殴りつけるバリオンを見つめる。
ニ十回殴りつけた時点で、バリオンは鉄格子を破壊することを諦め、隣の階段を全速力で駆け上がった。
そのまま観客席まで移動し、観客席から飛び降りようとする。
が、見えない結界によって阻まれた。
「ここもか!!」
再び、結界を殴り、蹴り、剣で斬りつける。
が、結界はびくともしない。
他に何かないかとバリオンはきょろきょろと辺りを見回し、観客席に座るオールドマインたちと目が合った。
にやりと微笑んだかと思うと、全速力でオールドマインの前まで走り、その場で腕を組んで仁王立ちをした。
「おい!! ここで殺されたくなけりゃ、あの鉄格子開けろ!!」
オールドマインたちによって閉じられていると言わんばかりの的外れな命令に、オールドマインは溜息をこぼす。
「開けられませんよ。あの鉄格子はダンジョンの試練。開けれるとしたら、トパーズのダンジョンだけでしょう」
「そうか!! じゃあトパーズのダンジョンに開けさせろ!!」
「……ご自分でやってください」
「どこにいるかわからん!!」
再び溜息をこぼしたオールドマインは、静かにコロッセオの中央を――ラウンドと叩か言っているトパーズのダンジョンを指差す。
「あの餓鬼か!! おい!! そこの餓鬼!! 鉄格子開けろ!!」
バリオンはすぐに観客先から叫ぶが、トパーズのダンジョンは聞こえないかのように戦いを続けていた。
「おい!! こら!! 無視!! すんな!!」
というより、トパーズのダンジョンには、聞いている余裕がない。
対峙するラウンドと同等にまで実力を落としているトパーズのダンジョンにとっては、一瞬の油断が命取りになる。
それゆえ、バリオンの声に耳を傾け、戦いから目を離すことなどできないのだ。
『なんだか、騒がしく、なってきたね』
ラウンドは返答の代わりに、剣を叩き込む。
冗談から振り下ろされる剣を、トパーズのダンジョンは額の前に構えた剣で受け止め、押し返すように力を加える。
剣と剣の押し合いの中、トパーズのダンジョンは魔法を使い、自身の体の左右に炎の塊を作り、ラウンドへと放つ。
ラウンドは、あえて剣で押し負け、体が後方によろめくと同時に床を蹴って後方へと跳ぶ。
そして、トパーズのダンジョンから距離をとり、稼いだ時間で水の魔法を放ち、炎の魔法を消し去る。
『甘いよ』
炎の魔法を消し去った後の、勢いの落ちた水の魔法が、トパーズのダンジョンの一振りで霧散した。
代わりに、トパーズのダンジョンの体は水でぬれた。
ラウンドはすかさず、雷の魔法を放つ。
水でぬれた体には、その威力が倍増する。
『なるほど』
トパーズのダンジョンは、土の魔法で前方に壁を作り、それを防ぐ。
「ちっ」
『ちゃんと工夫してくるね』
まるで戦いの稽古でもつけられているかのような口ぶりに、ラウンドが露骨に顔をしかめる。
が、すぐに攻撃へと移ることはなく、冷静に状況を見渡す。
感情に任せた衝動的な攻撃は隙となり、返り討ちにされるだけだと理解をしているから。
『……こないのかい?』
それがわかるからこそ、トパーズのダンジョンも言葉で返す。
無茶な攻めはしない。
衝動的な行動が隙となって、返り討ちにされるのは、トパーズのダンジョンもまた同じなのだから。
「均衡崩れず、ですな」
「そうですね。正直、私もどうすればあのダンジョンを倒せるのかわかりません」
オールドマインとペアシェイプが盤面を考察する。
「吾輩なら、ゴーレムを召喚して」
「無理だろ。たぶん、同じゴーレムを出してくるぞ」
「むう……」
マーキーズも均衡を破るための策を練り、口に出すが、あっさりとオーバルに否定された。
「愛の力で(はぁと)」
「ねえよ」
「……お前らさっきから何の話してんだ?? んで、あの男はなにやってんだ?? 前の剣と違うじゃねえか?? あの大剣はどうした?? なんでわざわざ使いにくそうな剣を振ってやがんだ?? 手加減してんのか??」
状況を把握していないバリオンが、オールドマインたちの方へ疑問を投げかけてくる。
「使わないのではなく、使えないのですよ。トパーズのダンジョンに攻撃が通じるのは、あの剣だけなのです」
「んなわけねえだろ!!」
オールドマインの説明を、バリオンがばっさり切り捨てる。
躊躇いなく切り捨てたその行動に、根拠のわからないオールドマインは眉を顰める。
「斬れねえダンジョンなんてねえんだよ!! あいつ、ダンジョンそのものだろ?? ダンジョンが斬れねえんだとしたら、ダンジョンの一部も斬れねえはずだろ!!」
そう言って、バリオンは自身の剣で、思いっきり観客席を斬りつけた。
背もたれが真っ二つに割れ、ごとんと落ちる。
「……この観客席も……ダンジョンの一部?」
ペアシェイプの頭に浮かんだのは、ジルコンのダンジョンの出来事。
ジルコンのダンジョンでは、最後までジルコンのダンジョンを全滅させることはかなわなかった。
が、突然ダンジョンが崩壊を始め、自身はダンジョンの討伐を示す光に包まれて外へと出された。
その理由は、今の今までわからなかったが、考えるのをやめていたが、もしかするとダンジョンが作り出したものを破壊しても、ダンジョン自身にダメージを与えることになるのではないかと思い至る。
ダンジョンが作り出したものとはつまり、ジルコンのダンジョンではジルコンのダンジョン自身。
そして、このトパーズのダンジョンでは、数多の魔物と……。
「この観客席を破壊しましょう。これもダンジョンの一部です。もしかしたら、トパーズのダンジョンの力が弱まるかもしれません」
その提案に、オールドマインが、オーバルが、マーキーズが立ち上がる。
「どうせ暇ですし、やってみる価値はありますな」
「ああ、やってみるか」
「そうじゃな。吾輩、このままでは何もせぬままに終わるところじゃった」
そして、各々が攻撃を開始する。
並べられた椅子が、構成する床が、ところどころに立つ柱が、音を出して壊れていく。
「なんだかよくわからんが!! 破壊するなら俺様もやるぞ!!」
そこにバリオンが加わる。
「どうせ、これが最終階層ですしね」
ペアシェイプも魔法を暴発させ、最大威力で破壊していく。
コロッセオの中央からはずれた観客席で、もう一つの戦いが始まった。
「皆、頑張ってー(はぁと)」
攻撃役ではないハートは、その様子を応援しながら見守っていた。




