表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/141

84話 トパーズのダンジョン01

「お前ら、これはどういうことだと思う?」

 

 立ち止まっているにも関わらず、表示されるダンジョンまでの距離と方角が変化し続けるダンジョン・サーチャーを見て、ラウンドは幹部たちの意見を聞いた。

 

「おそらく、ですが、移動しているのでしょうな」

 

「それも、俺たちから離れる様にな」

 

「やっぱ、そう思うか」

 

 ダンジョン・サーチャーの変化が指し示すのは、逃亡。

 トパールのダンジョンは、地上を走り、ハンターたちから逃亡しているのだろうとラウンドたちは結論付けた。

 そして、その結論は当たっていた。

 

「ダンジョンが、人間から逃げるものなのでしょうか?」

 

 ペアシェイプが、率直な疑問を口にする。

 

 今までのダンジョンは、基本的に人間を待ち構えていた。

 見た目や試練の内容の違いこそあれ、人間と戦うために待ち構えていた。

 ガーネットのダンジョンだけは、積極的に人間へ攻撃を仕掛けていたが、それも人間と戦うという目的はぶれていなかった。

 誰も言葉にはしないが、人間と戦うことがダンジョンの本質だろうと思い込んでいた。

 

 が、トパーズのダンジョンは、その逆を動いている。

 人間から逃亡しているのだ。

 理由は、恐れなのか、それとも何かの作戦なのか、わからないが。

 

「追え。マーキーズ」

 

「了解じゃ!」

 

 マーキーズがゴーレムに命令を与えて、ダンジョン・サーチャーの示す方向へとゴーレムを走らせる。

 

「ペアシェイプ、トパーズのダンジョンはどこへ向かっている?」

 

「少々お待ちください」

 

 ペアシェイプは、胸元から丸まった地図を取り出して、床へ広げる。

 

「どこにしまってんだよ……」

 

 オーバルが、ペアシェイプの胸元と、取り出した地図を交互に見ながら呟く。

 ちなみに、見ていた時間は胸元のほうが長い。

 

 ペアシェイプの取り出した地図を囲むように、ラウンド、ペアシェイプ、オーバル、オールドマイン、マーキーズ、ハートが座る。

 

 ブリリアントの幹部以上が、今回の討伐の参加者だ。

 ラウンドが決定した。

 ガーネットのダンジョンが――第七位のダンジョンが、たった一人でティニー国を滅ぼし、ステップの幹部を追い詰めたという事実は、ラウンドに、幹部以上でなければこの先の戦いについてこれないとの判断を下させた。

 メンバーたちもうすうすわかってはいたようで、大きな抵抗もなく承諾した。

 

「現在地は、ここです」

 

 ペアシェイプが、地図を指差す。

 指した場所は、大陸の中央。

 

「私たちが、ギルドから出た時の、トパーズのダンジョンの位置はここです」


 次に、大陸の中央から南西に進んだ位置を指差す。

 

「そして、現在のトパーズのダンジョンの位置は、ここです」

 

 そのまま、指で地図の上をなぞり、大陸の中央から西に進んだ地点――ブッシュ国とデビス国の間で止めた。

 

「国は避けて動いているようだな」

 

 ラウンドは、トパーズのダンジョンの動きを見て、少なくともガーネットのダンジョンのように、国を襲うつもりはなさそうだと安堵した。

 が、逆を言えば、トパーズのダンジョンの動きの理由は、わからないままということだ。

 いっそ何を襲うつもりかわかれば、その場所へ先回りするなど、いくらでも方法はあるのだが。

 

「現状、追うしかないな。マーキーズ、悪いが任せるぞ」

 

「了解じゃ!」

 

 

 

 ブリリアントの移動する地点から北東を、ハリーウィンス国から発ったミックスの馬車が走っていた。

 五百人という大人数を運ぶ馬車は、合計百台にも及び、その進行音だけで周囲の小動物が逃げ出すほどである。

 すべての馬車には、ハリーウィンス国の国章がついており、そのうち隊長たちが乗る馬車は、黄金が所々に施されている。

 

 ひときわ輝く一台の馬車の中には、四人の隊長と一人の隊員が乗っていた。

 一番隊隊長、プリンセス。

 二番隊隊長、バリオン。

 四番隊隊長、フランダース。

 八番隊隊長、レイディエント。

 そして、四番隊隊員、トリリアント。

 

 トリリアントは、なぜ自分がこの馬車にいるのかわからず、終始固まっていた。

 ハリーウィンス国国王の妹プリンセス、ミックスの隊長バリオン、宮廷魔法団のトップフランダース、三人の横になぜかいつもいるレイディエント。

 ミックスの中でも特に力を持った三人の隊長と、残り一名に囲まれ、生きた心地がしなかった。

 一隊員でしかないトリリアントにとっては場違いでしかなく、これから始まるダンジョン討伐の恐怖よりも、速くダンジョン討伐が始まってこの空間から抜け出したいとの思いが勝っていた。

 

「そう、緊張するでない」

 

 フランダースが、そんな様子のトリリアントの肩に手を置き、優しく声をかける。

 

「ひゃい!? すみません!!」

 

 が、その優しい声でさえ、今のトリリアントにとっては唐突な罵声と変わらないほどの衝撃となる。

 裏返った声で、トリリアントは答えた。

 

「ふむ、しばらくそっとしておくか」

 

 フランダースは、その反応を見て、トリリアントの肩から手を放し、声をかけるのを辞めた。

 そして、バリオンの方へ目線を向ける。

 

「あ?? なんだ??」

 

 フランダースの視線に気づいたバリオンは、不機嫌そうにフランダースの方へ向く。

 すぐにでもダンジョンと戦えると喜び勇み、国を発ったにもかかわらず、一向にトパーズのダンジョンを発見したという報告が来ないどころか、トパーズのダンジョンが離れていくという報告が来たのだ。

 バリオンに対し、不機嫌になるなというほうが無理である。

 

「いや、なんでもない」

 

 フランダースは、バリオンへの共闘を打診していた。

 もちろん、ファイブ・ハリーウィンスの思惑は隠して、だ。

 ジルコンのダンジョンにて、バリオンがラウンドに何らかの感情を、おそらくは強者としての興味か出し抜かれたことへの恨みの抱いただろうことを利用し、バリオンとラウンドが戦える場を準備するという名目で。

 

 打診したときのバリオンは、ダンジョン討伐ができるという歓喜に脳が支配されており、フランダースの打診を考えておくの一言で一蹴した。

 そのため、改めて馬車の中で考えた結果を尋ねようとしたが、そもそもバリオンが周囲にばれないように結果を伝えるという器用さなどなく、そもそもする気はなく、さらに悪いことに機嫌が悪い。

 まともな回答が返ってくるとは思わず、フランダースは問うのを辞めた。

 

 そのまま次に、プリンセスへと視線を移す。

 

「なんで御座いましょう?」

 

 プリンセスは、即座に視線に気づき、笑顔で反応をした。

 僅かに顔を左に傾け、プリセンスの可愛さが一層増している。

 ただの兵であれば、心臓をドクンとときめかせたかもしれない。

 が、年齢が離れ、プリンセスが打算でその仕草を行っていることを知るフランダースの心臓は、平常を保った。

 

「いえ、これから向かうトパーズのダンジョンは、以前のジルコンのダンジョンよりもさらに難易度が高いダンジョンですので、不安などはないかと思いましてな」

 

「まあ」

 

 フランダースの心配の言葉に、プリンセスはパッと明るい表情を作って見せる。

 

「私は大丈夫で御座いますわ。この日のために、鍛錬は欠かして御座いませんから。それに、私を守ってくる、こんなに頼もしい方々がいらっしゃるので御座いますから」

 

 そういってプリンセスは、窓から外を見る。

 先頭を走るこの馬車についてくる、残り四十九台の馬車。

 自身を含め、五百人の兵たち。

 圧巻の光景である。

 そしてこの光景こそが、プリンセスの持つ戦力の象徴。

 

「そうですな。私も、この命に代えても御身を御守いたします」

 

「ありがとう御座います、フランダース」

 

 プリンセスは微笑みながら礼を言う。

 フランダースも、微笑みを返す。

 孫を眺めるような、穏やかな笑みで。

 

「それに、いざとなったら、これもあるで御座いますから」

 

 そう言いながら、プリンセスはポケットから石を取り出す。

 ダンジョンの討伐によって得た、ダンジョンの石。

 

「……それは、何が起こるかわからない危険な石です」

 

「存じておりますで御座います。なので、いざという時にしか使いませんで御座います。しかし、いざという時には、ためらいなく使いますで御座いますわ。私は、ハリーウィンス国の王族、民を守る存在で御座いますから」

 

 プリンセスは、取り出した石を、抱きしめる様に両手で握りこむ。

 この先の戦いを想像し、恐怖すべてを石に押し込める様に、強く優しく握りこむ。

 

「……そうですな」

 

 プリンセスに正しい覚悟があるならば何も言うまいと、フランダースは口を閉じた。

 

 ジルコンのダンジョンで、プリンセスは、ミックスの隊員たちは、ウロボロスの作りあげた循環する世界に閉じ込められた。

 あの時は、ラウンドとフランダースのウロボロス討伐により、幸いにも全員が助かった。

 莫大な時間と引き換えに、ではあるが。

 そんな状況においてなお、プリンセスは石の能力を使わなかった。

 理由は二つ。

 一つは、循環する世界の中で、時間感覚が奪われていたため。

 もう一つは、ミックスの隊員たちが、命の危機にあるか否かを判断できない状況だったため。

 

 もしもあの時の話に意味はない。

 もしもあの時の話をしたところで、過去は変わらない。

 だが、話そう。

 もしもあの時、プリンセスがダンジョンの石を使っていた場合、循環する世界の中から、ジルコンのダンジョンそのものを滅ぼした過去もありえたのだ。

 多くのミックスの隊員を犠牲に。

 

「この先に何があろうとも、我々は与えられた任務をこなすのみ、だな」

 

 トパーズのダンジョンに近づく感覚を肌で感じながら、フランダースは窓の外を眺めた。

 

 

 

 

 

「あれ……、私には……何もないのか……」

 

 レイディエントが、自分にしか聞こえないほど小さな声でつぶやいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ