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85話 トパーズのダンジョン02

 トパーズのダンジョンとの鬼ごっこは、一週間経過した今もなお続いていた。

 大陸を縦横無尽に走り回るトパーズのダンジョンは、それを追うブリリアントとミックスを翻弄し続けていた。

 しかし、ダンジョンが本気で逃げた場合、追いつけないのは当然のことである。

 ダンジョンは、食事も睡眠も必要とせずに走り回る。

 人間は、食事と睡眠のために時々止まる。

 いかに人間離れしたハンターという存在であったとしても、ブリリアントという過酷なハンターギルドの幹部であったとしても、ゼロにすることはできない。

 そのわずかな時間が、さらにトパーズのダンジョンとの距離を広げる。

 さらに言えば、荷物として持っている食料は、ダンジョンの中での食料として確保していた物だ。

 追いかけっこの間に食べてしまえば、当然補給が必要となり、近くの町や村で買い出しが発生する。

 それもまた、距離を広げる。

 

「マーキーズ、そろそろ限界か?」

 

「う、うむ。魔力がだいぶん減ってきた……。少し、休憩がしたいのじゃ」

 

「わかった。止まれ」

 

 ゴーレムが走るのをやめ、マーキーズがその場に座り込んで目を閉じる。

 

「あったかいお茶だよぉ(はぁと)」

 

 マーキーズの前に、ハートがお茶を差し出す。

 マーキーズの好きな、ぐつぐつと波打つほどに熱いお茶である。

 

「助かるぞ、ハート」

 

 マーキーズは目を瞑ったままお茶を受け取り、一口一口、ゆっくりと飲み始めた。

 

「はぁ~。生き返るのじゃ」

 

 その熱さがマーキーズの全身を温め、温泉にでも使っているようなリラックス感をマーキーズに与える。

 もっとも、あくまで与えられるのはリラックス感だけだ。

 体力も魔力も、回復するわけではない。

 

「ラウンド、また地図見てるの?(はぁと)」

 

 お茶を渡したハートは、そのまま地図を見つめるラウンドの横に移動し、腰を下ろす。

 ラウンドは、横目でハートを見た後、すぐに視線を地図に戻した。

 地図の、現在ラウンドたちがいる地点――大陸の西部へと。

 

 大陸の西部の端には国もなく、ただ大陸の端に海が広がるのみである。

 そで追い詰める予定だったが、トパーズのダンジョンは海岸線を沿って北東へ進み、大陸の北東を移動していた。

 

 カルティ国、ヴァンベル国の北側にある場所であり、その二国では緊急事態としていつもよりも多くの警備が敷かれているが、トパーズのダンジョンは二国に目もくれずに海岸沿いを進んでいる。

 

「追いつける気がしねえ」

 

 距離が縮まらないどころか広がっていくダンジョン・サーチャーを眺めながら、ラウンドは呟いた。

 

「二手に分かれるか」

 

「二手に(はぁと)?」

 

「ああ。挟み込む」

 

 ラウンドに理由はわからないが、トパーズのダンジョンは国を避けて移動している。

 ガーネットのダンジョンのみが国を襲撃したため、上位のダンジョンは国への攻撃ができるのかとも考えたが、今のところその気配はない。

 ならば、国と海岸の位置関係を利用し、一本道になる場所まで追い込み、二方向から追い込むのが最善と判断した。

 

 もっとも、問題はある。

 そもそもラウンドたちは人数が少ないため、その横を容易にすり抜けられることが予想される。

 ハートであれば、広域に結界を貼り、ある程度動きを制限することもできるが、それ以外のメンバーにはできない。

 

 とはいえ、それ以外に作戦も思いつかなかった。

 

「ミックスに、支援を頼むというのは?」

 

「やつらは国の命令しか聞かん」

 

 ペアシェイプの提案も、すぐにラウンドに却下される。

 仮に支援をとりつけたとしても、そのバックにいるハリーウィンス国への借りとなりことをラウンドは嫌う。

 ダンジョン討伐の妨げになる要求でもされれば、それだけ撲滅が遅れる。

 最悪の場合、ブリリアントの存続自体ができなくなる要求もあり得る。

 そうであれば、支援は悪手でしかない。

 

「確率が低かろうが、思いついた作戦をしらみつぶしにやっていく。トパーズのダンジョンを捕まえるまで。……ん?」

 

 唐突に、ダンジョン・サーチャーに表示される数値が止まった。

 それはつまり、トパーズのダンジョンが立ち止まったということを意味する。

 ラウンドは会話を中断て立ち上がり、マーキーズに向かって叫ぶ。

 

「マーキーズ! すぐにゴーレムを動かせ!」

 

「んぐ!?」

 

 状況を見ていなかったマーキーズは、ラウンドからの予想外の命令に驚き、思わず声を出した。

 目を開け、状況を確認する。

 ラウンドが向けてくるダンジョン・サーチャーの表示を見て、叫びの意味を理解する。

 

「トパーズのダンジョンの動きが止まった。この機は逃せん」

 

「了解じゃ。なんとか、やってみるのじゃ」

 

 休憩を求めたほどには魔力が減り、疲労も蓄積はしているが、マーキーズにとっても逃せない機会である。

 息を整え、体中から魔力をかき集め、ゴーレムに命令を下す。

 

「走るのじゃ! ドクターたけのこ博士!」

 

 

 

 

 

 トパーズのダンジョンは考える。

 自分がダンジョンとして生まれた意味を。

 自分の存在理由を。

 しかし、いくら考えても思い浮かぶことはなく、溜息をこぼす。

 目の前に広がる青い海は、そんな心を優しく撫でてくれるようだった。

 

『結局、意味なんてないんだろうな。ぼくの存在に』

 

 近づいてくる足音に気づき、立ち上がる。

 

『ならせめて、最期まで誠実でいたいな。約束は、守らないとね』

 

 足音のする方向へと振り向く。

 

 

 

 ゴーレムが、向かってきた。

 

 

 

「鬼ごっこは終わりか?」

 

 目の前に来たゴーレムの中から、ラウンドが飛び出し、トパーズのダンジョンの前に立った。

 次いで、他の幹部たちもその後ろへと並ぶ。

 

 黄色いおかっぱ頭のその女の子は、トパーズのダンジョンは、ラウンドたちをじっと見つめる。

 黄色い瞳と、額に浮き出る黄色いトパーズの石に、ラウンドたちの姿が映る。

 

『君は、なんのために生きてるの?』

 

「お前たちの撲滅だ」

 

『なるほどね。自分の感情に素直だ。……ぼくはそれを不誠実だと思ってたんだけど、もしかしたらそれも一つの誠実さなのかな?もう、考える時間はなさそうだけど』

 

 ラウンドは武器を手に持つ。

 トパーズのダンジョンに、速く飲み込めと促すように。

 トパーズのダンジョンが逃げ回っていた理由など聞く気はない。

 これから滅びゆくダンジョンに聞くことなどなにもない。

 

 トパーズのダンジョンの足元が光り、円状に広がっていく。

 光は、ラウンドたちを捉え、沈めていく。

 

 そして全身が沈み切ったとき、ダンジョンの中に立っていた。

 トパーズのダンジョン。

 

『真心のある生き方を。誠実の試練』

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