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83話 十二大ダンジョン07

 世界の中心の空洞には、一つのテーブルと十二の椅子が置かれている。

 十二の椅子のうち、五の椅子が埋まり、それぞれにダンジョンが座っている。

 

 トパーズのダンジョン。

 エメラルドのダンジョン。

 アレキサンドライトのダンジョン。

 サファイアのダンジョン。

 ルビーのダンジョン。

 

『ふん。大きな口を叩きおったが、所詮このざまよ』

 

 アレキサンドライトのダンジョンは、テーブルに片肘をつき、その掌に自身の頬を預けていた。

 不快を隠さない顔には、眉間にしわが寄っており、時折舌打ちを交えていた。

 

『そもそもなんだ、あの無様な戦い方は! 怒りのままに暴れまくったあげく、油断したところをつかれて、あっさりと滅んでしまうとは。恥さらしとはこのことよ』

 

 ガーネットのダンジョンの戦いを思い返し、アレキサンドライトのダンジョンは一層不快感を増す。

 ガーネットのダンジョンが滅んだことはどうでもいい。

 ダンジョンという存在が、こうも惨めな滅び方をしたことが、どうしようもなく耐え難かった。

 

『……ちっ!!』

 

 否、滅んだことはどうでもいいと頭では考えているのだが、アレキサンドライトのダンジョン自身にもわからない感情がこみ上げてくるのを感じた。

 この感情は何なのか。

 怒りなのか、悲しみなのか、不快なのか、同情なのか、すべてなのか。

 まったくわからない。

 それが、アレキサンドライトのダンジョンの不快感に止めを刺した。

 

『トパーズ!!』

 

『ひ!? は、はいぃ!!』

 

 机を殴りつけるとともに叫んだアレキサンドライトのダンジョンの怒声に、トパーズのダンジョンは涙目で振り向く。

 おどおどとした表情で、次の言葉を待つ。

 

『これで、十二大ダンジョンの半数が滅んだ』

 

『あ、そ、そうですね』

 

『人間どもは思っていることだろう。このまま、残り半分のダンジョンも滅ぼすことが可能であろう、と』

 

『あ、そ、そうかもしれませんね』

 

『だが!!!!』

 

 アレキサンドライトのダンジョンの拳が、再びテーブルに振り下ろされる。

 その声に、その殴打音に、トパーズのダンジョンは驚き、仰け反り、椅子から転げ落ちた。

 

『そんなことは許さぬ!! 人間風情が、ダンジョンに楯突くなど、到底許せることではない!!』

 

 肺の中の空気という空気を吐き切り、アレキサンドライトのダンジョンはぜえぜえと、肩で息をする。

 体外へと輩出しすぎた空気を補うように。

 もっとも、ダンジョンは空気がなくても生存ができる。

 肩で息をするという人間に似た行動に、生存機能としての役割はなく、魔物化したことによる副作用でしかない。

 振る舞いが生物に似るという副作用でしか。

 

 アレキサンドライトのダンジョンは、床に転がっているトパーズのダンジョンを見る。

 

『トパーズ』

 

『は、はい』

 

『余は、うぬに期待などしておらん。どうせ、うぬでは勝てぬ』

 

 失望した瞳で。

 興味を感じさせない瞳で。

 

『うぬは、ただ時間を稼げばよい。余が、余らが、戦い方を学ぶまでな』

 

 そう言いながら、アレキサンドライトのダンジョンは、トパーズのダンジョンとエメラルドのダンジョンを順に見た。

 

 十二大ダンジョンには、人類未踏のダンジョンが四つある。

 アレキサンドライトのダンジョン。

 サファイアのダンジョン。

 ルビーのダンジョン。

 ダイアモンドもダンジョン。

 

 人類未踏ということはつまり、その四体は未だかつて、人間と戦ったことがないということだ。

 それを経験不足のダンジョンととらえるべきか、それとも実力未知数の驚異のダンジョンととらえるべきか。

 

『ルビー、サファイア、つきあえ』

 

  アレキサンドライトのダンジョンは、二体のダンジョンを呼び、そのまま地面へと潜っていった。

 

『『面ど』』

 

『あ』

 

『あ』

 

 ルビーのダンジョンとサファイアの言葉が被る。

 

『サファイア、お先にどうぞ』

 

『そんな、ルビーお兄様こそお先にどうぞ』

 

『いやいやそんな』

 

『いえいえそんな』

 

『…………』

 

『…………』

 

『『じゃあ』』

 

『あ』

 

『あ』

 

『ええい、面倒くさい!! さっさと来んか!!』

 

 ルビーのダンジョンとサファイアのダンジョンは、とても嫌そうに顔を見合わせた後、同じく地面へと潜っていった。

 

 空洞に残ったのは、エメラルドのダンジョンとトパーズのダンジョン、二体のみ。

 

『アレキサンドライトのやつがすまぬな、トパーズ』

 

 エメラルドのダンジョンは、トパーズのダンジョンに近寄り、その頭を優しく撫でる。

 人間で言うと十二歳くらいの小柄な体は、撫でられることで徐々に震えが収まっていく。

 

『い、いえ。そんな。ぼくが役立たずなのは……ぼくが一番よく知っていますから……。えへへ』

 

 涙声で、しかしそれを必死に隠そうとする態度に、エメラルドのダンジョンは悲しそうな表情をする。

 が、かける言葉を見つけることはできず、そのまま撫で続けた。

 言葉は送れないが、せめて代わりに、気持ちだけでも届くように。

 

『トパーズ、私からも一つ、お願いをさせてくれないか』

 

 トパーズのダンジョンの頭の上から、優しい声が投げかけられた。

 

『は、はい。なんでしょう』

 

 

 

 

 

 トパーズのダンジョンは地面にもぐり、地上へと顔を出す。

 

 そこは八つの国が存在する大陸のちょうど真ん中。

 人間に認識することはできない、ダンジョンだけが認識できる、巨大な穴が空いている場所。

 この世界の下へと続く、唯一の場所。

 

『ここも、見納めかな』

 

 トパーズのダンジョンは、懐かしむように穴を眺める。

 穴を眺めながら思い返す。

 過去の記憶を。

 世界の中心の空洞で、他のダンジョンたちと語らった記憶を。

 わずか数人ではあったが、自分に挑んできた人間との戦いの記憶を。

 自分を倒した、ガーネットを名乗る人間との戦いの記憶を。

 その直後に、ガーネットがトパーズと名乗ったことは、自分の名前を名乗ったことは、思い返せば光栄でもあるし気恥ずかしい。

 走馬灯のように、過去の記憶が現れたは消えていく。

 

『そろそろ、行こうかな』

 

 穴に背を向け、歩き始める。

 死地へ。

 

 エメラルドのダンジョンからのお願いもまた、自身が敗北し、滅ぶことを前提のお願いであった。

 

 トパーズのダンジョンは、誰も自分の勝利など信じていないどころか、願ってもいないことを悟った。

 

 が、トパーズのダンジョンは、誠実であった。

 約束は守る。

 たとえ、最期に交わした約束であっても。

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