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80話 ガーネットのダンジョン08

 ラウンドは、自身の中に強い生命力が流れ込んでくるのを感じた。

 今までダンジョンを食したときは、ただまずいと言う感情だけがあった。

 ダンジョンは、もともと自然物。

 岩や土を食べるのと同じ味しかない。

 が、ガーネットのダンジョンには、生命力という付加価値があった。

 生命力は、生物が生存するためのエネルギー。

 生命力というエネルギー自体に味はないが、それが注ぎ込まれることによって刺激を受けたラウンドの脳は、錯覚の味を作り出す。

 思いがけず、濃厚で甘い、ケーキのような味を。

 生命力が注ぎ込まれるたび、ラウンドは自身の寿命が、腕力が、体力が、精神力が、高まっていくのを感じたたかっていくのを感じた

 

『しくじった……』

 

 一方のガーネットのダンジョンは、その様子を悔しそうに見つめていた。

 ガーネットのダンジョンの弱点をあげるならば、自身が膨大な生命力の塊であるため、自身を喰われたときにその生命力を喰った相手に奪われる、ということである。

 自覚していた弱点。

 が、それはあくまでもダンジョンに喰われた場合の話である。

 人間が喰ったとしても、ほとんどの人間は過剰な生命力を前に、体を維持することができなくなり、逆説的に死亡する。

 また、一部の過剰な生命力を体内に取り込めるほどの生命力を持った人間であっても、そもそも人間とダンジョンの生命力の質に差がありすぎ、取り込んだ生命力が人間の力に転嫁されることはない。

 

 ない、はずだった。

 

 別のダンジョンを既に取り込み、人間とダンジョンの生命力が共存する人間が相手でなければ。

 

『しくじった……』

 

 そして、人間とダンジョンの生命力が共存する人間の存在は、ガーネットのダンジョンであれば看破できたはずだった。

 生命力の試練を司るが故、相手の生命力を見抜くことができるガーネットのダンジョンであれば、ラウンドの体内に人間とダンジョンの生命力が共存していることを看破できたはずだった。

 もちろん、そんな可能性まで思いつくものか、というのは簡単で、それは事実である。

 が、相手の生命力を見るという選択肢を取らず、結果その可能性を見逃したのは、ガーネットのダンジョンの過ちともいえる。。

 

 ガーネットのダンジョンは、自身の行動を過ちと考えた。

 

 が、過ちに落ち込む暇はない。

 すぐに臨戦態勢へと移る。

 自身の生命力を奪ったラウンドのあらゆる能力が、一定の向上を見せることをしっていたから。

 

 ドンという地面を蹴る音とともに、ラウンドは矢のように空を駆けた。

 蹴った地面は、小型の爆弾が爆発した後のようにぼっこりと穴が空いており、そのの威力がうかがえる。

 ラウンドにとっても想定外の勢いであったが、空を駆けているわずかな時間で状況を飲み込み、その先――ガーネットのダンジョンへと意識を集中する。

 

『があっ!』

 

「はあっ!」

 

 ガーネットの拳と、弾丸のように飛ぶラウンドの大剣がぶつかり合う。

 先ほどまで互角であった両者であったが、今回は違う。

 ゆっくりと、ラウンドの大剣がガーネットのダンジョンの拳へと沈んでいった。

 ほんのわずかな傷である、

 鋭い葉っぱに指をこすり、表皮が斬れ、僅かに出血する程度の傷である。

 が、傷を負わせたという事実は残った。

 

『あ゛あ゛!!』

 

 ガーネットのダンジョンは腕を思いっきり降り、ラウンドを引きはがす。

 後ろへ吹き飛ばされたラウンドは、着地と同時に片手と片膝をつき、まるでクラウチングスタートのような恰好となり、即座に地面を蹴る。

 再び空を駆け、接近する。

 威力を理解し、適切な力配分を加えた蹴りは、先程よりも速くラウンドの体をガーネットのダンジョンの元へ運んだ。

 

『なっ!?』

 

 ガーネットのダンジョンが防御するよりも先に、迎え撃つよりも先に、ラウンドの大剣がガーネットのダンジョンの胸を斬り裂いた。

 左肩から右腰にかけて、ざっくりと。

 服が割かれ、表皮が割かれ、血か噴き出る。

 服も皮膚も、次の瞬間には塞がったが、その返り血は消えない。

 ラウンドは、腕にかかった血を舐め、大剣を振り上げる。

 

「死ね」

 

 ラウンドが振り下ろすと同時に、ガーネットのダンジョンが大きく後ろへ跳ぶ。

 ラウンドから距離をとる。

 

「回帰」

 

 が、次の瞬間には、ガーネットのダンジョンの体は、ラウンドの振り下ろした大剣の軌跡にあった。

 驚く暇もなく、ガーネットのダンジョンの顔が斬り裂かれる。

 

 二つに分かれた顔のまま、ガーネットのダンジョンの視界がラウンドの手に握られたアンモライトの石を捉える。

 

『あの時……!!』

 

 先ほど着地したときに拾い上げていたのだ。

 先ほど吹き飛ばされる方向を制御し、そこへ吹き飛ばさせたのだ。

 ガーネットのダンジョンの中で、行動がつながる。

 

「回帰」 

 

『またか!!』

 

 来ると分かっていれば防げないことはない。

 回帰される場所を予想し、大剣が届くだろう場所を予測し、自身の腕にて大剣を迎え撃つ。

 硬いガーネットのダンジョンの体であれば、ただ振るだけであれば、傷つく由もなかった。

 

 が、予想に反してガーネットのダンジョンの腕は斬り落とされた。

 防御の役目を果たすことはなく、あっさりと、すっぱりと、斬り落とされた。

 綺麗な断面の腕が、地面に落ちる。

 

 ガーネットのダンジョンは、半分なくなった自身の腕を、悪夢でも見るような目で見つめていた。

 

 ――何故?

 

 それだけが浮かぶ。

 自身を喰われたことにより、ラウンドの身体能力が向上し、大剣を使えば自身と拮抗するレベルであることは、ガーネットのダンジョンも認識している。

 それも十分に脅威で、驚くべきものではあったが、それはいったん外へ置いた。

 問題は、自身と拮抗するレベルの斬撃が、こうもあっさりと自身の腕を斬り落としたことである。

 拮抗が、完全に崩れていた。

 

 では、その原因は何か。

 血を舐めただけで、拮抗が崩れるレベルまであがるはずがない。

 戦いの中で成長したにしては成長しすぎている。

 そもそも、ガーネットのダンジョンの目に映るラウンドの生命力は、変わっていない。

 

『……変わっていない?』

 

 何かに気づき、首ごと振り返る。

 地面に横たわる、バゲットの方へと。

 

 バゲットの所有する石は、ゲルマニウム。

 ダンジョンの力を、生命力というエネルギーを吸い続ける能力を持つ。

 そしてそれは、発動していた。

 

 ラウンドの生命力は変わっていなかった。

 上がってなどいなかった。

 ただ、ガーネットのダンジョンの生命力が落ちていた。

 

『貴……様……!!』

 

 すぐにでもバゲットの元に行き、止めを刺してやりたいところだったが、それはできなかった。

 自身と互角の、既に互角以上のラウンドがいる以上、バゲットの元へ行くだけでも隙になる。

 

 事実、首ごと振り返るという隙は、見事にラウンドにつかれ、ガーネットのダンジョンの首が斬り落とされた。

 

『く、そおおおおおおおおお!!』

 

 さらに、胴体の再生を始めた首を、ラウンドが追撃する。

 首を失った胴体がぐらりと地面に倒れる間に、十回以上の斬撃を首へ叩き込む。

 

『…………!?…………!!』

 

 目が、耳が、口が、形を失う。

 何も見えず、何も聞こえず、何も話せないまでに。

 すぐに再生を始めるが、すぐに斬る。

 

「マスター!」

 

「ラウンド殿!」

 

「お前らも手伝え! 二度と再生させるな!」

 

 合流したオーバル、オールドマインと共に、追撃をする。

 どんな形になろうと、手を緩めることはない。

 その生命力がなくなるまで。

 

 

 

 

 

 

 ――口惜しや。

 

 闇の中で、ガーネットのダンジョンは嘆く。

 

 ――何も、何もできなかった。

 

 恨みに捕らわれて周りを見失い、己の全力を出せないまま負けたことを。

 

 ――かたきを、とれなかった。

 

 仲間への復讐が果たせなかったことを。

 

 

 

 この世界にはルールがある。

 ダンジョンだけが知るルールが。

 

 1.人間とダンジョンは、戦わなければならない。

 

 2.人間の勝利条件は、十二大ダンジョンをすべて倒すことである。

 

 3.ダンジョンの勝利条件は、人間を全て滅ぼすことである。

 

 4.人間は、地上に存在する任意のダンジョンに戦いを挑むことができる。

 

 5.ダンジョンは、地上の集落以外に存在する任意の人間に戦いを挑むことができる。

 

 6.ただし、十二大ダンジョンの戦う順は、序列の低い順とする。

 

 7.戦いは、ダンジョンが人間を飲み込み、ダンジョンの中で行う。

 

 8.ただし、一体のダンジョンが人間を全て滅ぼせると判断した場合、特別ルールとして地上で戦うことができる。

 

 9.戦いの決着がついたとき、勝者は願いを一つだけ叶えることができる。

 

 10.わからないことはゲームマスターに聞くこと。

 

 

 

 ――わっちの……願いは……。

 

 

 

 ガーネットのダンジョンは消滅した。

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