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81話 ステップ03

 地上に倒れるガーネットのダンジョンの体が、光の粒子になって消えていく。

 ラウンドは、消えていく体に近づき、その心臓に剣を突き立てる。

 引っこ抜かれた剣には、消えかけてなお脈打つ心臓が刺さっており、ラウンドは骨付き肉でも食べる様に、豪快にかぶりついた。

 弾力のある噛み応えのある部分と、噛む直前に消える部分が、今までにない感触を作り出す。

 

「……よくそんなもん食えるな」

 

 オーバルが少し引きながら、ガーネットのダンジョンの体とそれを食すラウンドの顔を見比べる。

 ガーネットのダンジョンは、ダンジョンではあるものの、見た目だけならば人間に近い。

 それが一層、ラウンドの行動を狂気的に見せた。

 

「生命力の塊だ。お前らも、食えるなら食っとけ」

 

「……いや、俺は……やめとくわ……」

 

 両手を振りながら一歩後ずさるオーバルの横で、オールドマインが逆に一歩前に出る。

 ラウンドは、ガーネットのダンジョンの体を突き刺し、その剣に刺した体の一部をオールドマインに差し出す。

 オールドマインは眉をしかめながらそれを受け取り、無言でかじりつく。

 オーバルは、ドン引きした表情で、さらに二歩後ずさる。

 

「……類を見ないまずさですな。ですが、なるほど。何やら力がみなぎってきますな」

 

 その味に不快感を示しながらも、飲み込んだ直後に襲ってくる高揚感に、力の向上を感じた。

 酒をかっくらった後のような全能感に加え、身軽になった体、僅かに盛り上がった筋肉と、明らかな変化があった。

 

「どれ、もう一つ……おや、時間切れですな」

 

 オールドマインが再び食そうと手を伸ばしたときには、ガーネットのダンジョンの体が完全に消滅した瞬間だった。

 残されたのは、額についていたガーネットの石のみ。

 

 きらきらと輝くガーネットの石が、いっそうに輝きを増す。

 そして、周囲に白い光の円が現れる。

 通常であれば、ダンジョンが人間を飲み込む際に使用する、白い光の円が。

 

「ん?」

 

「な!?」

 

「これは?」

 

 思えば、地上で戦うことができていたガーネットのダンジョンは、三人の常識に当てはめてもイレギュラーな存在だった。

 それゆえ、警戒を強め、武器に手をかける。

 

 が、警戒とは逆に、財宝を吐き出し始めた。

 ガーネットのダンジョンが貯め込んでいた莫大な財宝が、次から次へと目の前に積まれていく。

 

「そういや、アメシストのダンジョンも、こんな感じだったな」

 

 ラウンドは、警戒を解き、武器から手を放す。

 それを見て、オーバルとオールドマインも倣う。

 

「ラウンドー(はぁと)」

 

 財宝の出現は、その場にいる全員にダンジョンの討伐完了を伝えた。

 ハートがラウンドに駆け寄り、そのまま抱き着く。

 

「お疲れ様ぁ(はぁと)」

 

「ああ」

 

 送れて、ペアシェイプがしずしずと歩いてラウンドに近づく。

 

「お疲れさまでした、マスター」

 

「ああ」

 

 ラウンドがゴーレムの方に目をやれば、疲れながらも笑顔を見せるマーキーズの姿もあった。

 

「これで半分だ」

 

 十二大ダンジョンの六体目の討伐完了。

 討伐の折り返し地点。

 ほんの僅かに気が緩んだ自分に気づき、ラウンドは自身の顔を両手ではさむように叩く。

 

「いや、まだ半分だ」

 

 そして言葉を言いなおす。

 目的は撲滅。

 すべてのダンジョンを滅ぼすこと。

 折り返しごときで喜んでいる余裕はないと、自分に言い聞かせる。

 

 ともあれ、一つの戦いの区切りとして、ブリリアントの間の空気は、僅かに弛緩する。

 

 その後ろを、回復魔法を使える魔法使いたちが、ばたばたと走り回る。

 

「急いでバゲット様の治療を!」

 

「外傷もだが、体内から爆発したような傷があるぞ!」

 

「おそらく、エネルギーの吸い過ぎだ! 以前、許容量を超えてエネルギーを吸うと、エネルギーが体内で暴発するとおっしゃっていた!」

 

「出血もやばいぞ! 速く傷を塞げ!」

 

 ラウンドは、伏すバゲットをちらりと見た後、ハートに目を向ける。

 

「ハート、あいつにの回復を手伝ってやれ」

 

「はぁい(はぁと)」

 

 ラウンドの言葉に、ハートが小走りでバゲットの方へと向かう。

 

「自分から行かせるなんて、珍しいな」

 

 ステップのメンバーから頼まれるよりも前に、回復魔法の使えるハートを向かわせたことに、オーバルは珍しいものを見たような表情をしていた。

 

「功労者だ」

 

 実際、ラウンドが進んで他のギルドのために行動することは珍しい。

 相手が国であろうが興味を抱かず、言動も行動も変えない人間である。

 とはいえ、共に戦った人間に対しては、いくらかの対価を与える程度の義理はある。

 かつて、共闘したミックスに財宝の全てを置いていったように、その身を呈してガーネットのダンジョンからエネルギーを吸い続けたバゲットに対して、回復を手伝うという対価を与えた。

 

 地に落ちたガーネットの石を手に取り、メンバーに号令を出す。

 

「財宝を三割袋につめろ。撤収するぞ」

 

 今回のブリリアントの取り分は、ガーネットの石と三割の財宝。

 ラウンドの独断ではあるが、それが不相応な取り分ではないと判断したのか、バゲットの治療でそれどころではなかったのか、文句の声は上がらなかった。

 

 ラウンドたちは、財宝を集めた後、ゴーレムに乗り込んでティニー国を後にした。

 

「私たちの故郷……(はぁと)」

 

 小さくなっていく崩れた国を眺めながら、ゴーレムの中でハートは目を潤ませていた。

 

「生まれただけの町だ」

 

 ラウンドも、ちらりと眺めたが、すぐに目を閉じた。

 両手を後ろ頭に組み、足を組み、そのまま壁にもたれかかった。

 

「しばらく寝る」

 

 ラウンドが何を考えていたか、それは誰にも分らない。

 

 

 

 

 

 その後の話を少ししよう。

 

 ハンターギルド・ステップだが、バゲットとスクウェアステップは、後遺症もなく一命をとりとめたが、しばらくは絶対安静となった。

 行方不明になっていたエメラルドも、戦いが終結した一週間後にギルドへと戻って来た。

 曰く、ガーネットのダンジョンによって吹き飛ばされた先で、運悪く別のダンジョンに出くわし、ダンジョン討伐をするはめになっていたという。

 単独討伐ということに加え、ガーネットのダンジョンによる負傷もあり、討伐に一週間の時間を要してしまったらしい。

 とはいえ、エメラルドが帰還した日のステップは大騒ぎだった。

 負傷しているバゲットとスクウェアステップも、体を無理やり動かして、すぐにエメラルドの元へ参じたほどだ。

 

 次に、王都が消滅したティニー王国だ。

 あれから王族貴族、および王都の民の生存調査が続けられているが、現在は王都の民の三割がしたいとして発見され、残り七割の行方は依然として不明の状況である。

 その三割の中には、現国王も含まれていた。

 王位継承者のいずれかが生存していれば、その人間を次期国王とし、ティニー国の再興を図るだろうが、おそらく誰も生存していないだろうというのが他の七つの国の総意である。

 もっとも、誰一人として口には出していないが。

 

 水面下では、ティニー国そのもの、あるいはその資源を少しでも奪い取ろうと、国が動いているという話もある。

 現在、有利なのは、ティニー国と隣接するハリーウィンス国である。

 ティニー国に対して援軍を派遣したという実績もあり、ティニー国の復興を支援するという名目で、なし崩し的に属国化させることも可能であろう。

 次に有利なのは、ステップが拠点とするニカワ国である。

 ステップがガーネットのダンジョンを討伐したという功績は、そのままニカワ国が討伐したという功績とも解釈され、ニカワ国の実績は無視できない。

 が、ニカワ国は排他的な国であり、また自国内の資源で国を回していることもあり、ティニー国の資源を積極的に要求をしないだろう。

 その他の国は、援軍の派遣もなかったため、ハリーウィンス国とニカワ国に大きく劣る発言権しかない。

 

 結論、数度の会議を重ね、自国の利益になる発言を飛び交わすという建前を終えた後、ハリーウィンス国がティニー国を吸収するというのが、最も確率の高い未来である。

 

 

 

 

 

「興味がない」

 

 ハンターギルド・モースに呼び出されたラウンドは、フリード・リッヒの言葉を一蹴した。

 

 国同士の話は。先に述べた通り。

 が、個人を絡めると、ハリーウィンス国とニカワ国に並んでもう一組織、ハンターギルド・ブリリアントの発言権も無視できない。

 ステップと異なり、どの国にも拠点を置いていないブリリアントの功績は、どこかの国の功績と歯解釈されずに、そのままブリリアントの功績となる。

 それゆえ、ブリリアントがティニー国の新たな王族を希望すれば、すべてを却下することはできない。

 それが他国の王に、警戒心を与えていた。

 王族の血を引く者が王家を継いできたという王政の歴史を狂わせる、一滴の毒となりうるからだ。

 

 そのため複数の王族からラウンドの万が一の行動を止める様にと命が下ったフリード・リッヒは、ラウンドの発言に安堵していた。

 ティニー国について、一切の口出しをする気がないラウンドの発言に。

 

 「用件はそれだけか。俺は次の討伐の準備がある」

 

 フリード・リッヒの表情を見て、用件は済んだだろうと言わんばかりにラウンドは立ち上がり、速足で部屋を出ていった。

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