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73話 ガーネットのダンジョン01

「気分はどうだ、マーキーズ?」

 

「だいぶ良くなってきたのじゃ。迷惑をかけたのじゃ」

 

「気にするな」

 

 アクアマリンの討伐を終えたラウンドたちは、マーキーズのゴーレムに乗り込んで帰路についていた。

 マーキーズの体調が優れないこともあり、往路よりも時間がかかっているが、不満を抱えるメンバーは誰一人いない。

 今回のダンジョン討伐での振る舞いを反省する者、次のダンジョン討伐に向けて思考する者、自身の幸福を見つめなおす者、幸福の余韻に浸る者。

 それぞれがそれぞれに時間を使う。

 

 ラウンドが考えていたのは、当然ながら次のダンジョンのこと。

 ガーネットのダンジョン。生命力の試練。

 書物によると、ガーネットのダンジョンに出現する魔物は、異常に高い生命力を持つという。

 傷を負わせても驚異的な速度で回復する。

 すべての魔物が、治癒力を高める回復魔法をかけられ続けている状態、といえば近いだろう。

 つまりガーネットのダンジョンの攻略に求められるのは、回復などおこさせる間もなく、相手の生命を一撃で刈り取る、一撃必殺である。

 

「オーバル、オールドマイン、ハート、ペアシェイプ。来い」

 

 ラウンドは四人を呼び寄せ、自身の周囲へと座らせる。

 マーキーズを呼んでいないのは、次の討伐開始までにマーキーズが全快すると思っておらず、参加させる気はないとの意思表示である。

 それがわかるから、四人も、マーキーズ自身も何も言わなかった。

 

 ラウンドは、周囲に集めた四人に対し、自身のもつガーネットのダンジョンの情報と、それを攻略する方法――一撃必殺で魔物を倒して進むことを伝えた。

 

「まあ、それしかねえんじゃねえか?」

 

 オーバルが同意し、他の三人も頷く。

 

「であれば、戦闘のメインはラウンド殿、オーバル殿、ペアシェイプ殿の三名になりそうですな。私の技は一撃必殺と呼ぶには力不足ですし、皮膚が頑丈な魔物が相手だと持久戦になることも考え、ハート殿も後方支援が良いでしょうな」

 

 オールドマインの言葉に、四人が同意し頷く。

 

「方針は固まった。後は、誰を連れていくかだが」

 

 しばし、話は続く。

 気が付けば、ゴーレムはショメ国の国境付近にまで戻り、国境付近に立つ見張り用の塔が見えてきた。

 

「マスター、なにやら、塔が慌ただしそうです」

 

 ペアシェイプの視力が塔の様子を捉え、塔の中にいる兵たちがバタバタと騒いでいる様子を視認した。

 中には、ラウンドたちの乗っているゴーレムの方向を指差し、どこかへ連絡を始めた兵もいた。

 

「いつものことだ。気にするな」

 

 ゴーレム召喚士は希少な存在である。

 そのため、ゴーレムを見たことのない人間も多く、ゴーレムに乗って移動をしていると、魔物と勘違いされて攻撃を受けたことも少なくない。

 そのたび返り討ちにしていたため、ラウンドたちに実害はないが。

 塔の中が慌ただしいのも、ゴーレムを魔物と勘違いしているだけだろうと、ラウンドは気にも留めなかった。

 

 が、ゴーレムが塔に近づくと、その考えが間違いだったことに気づく。

 魔物と勘違いしているのであれば、塔の外には臨戦態勢の兵たちがずらりと並ぶはずである。

 しかし実際は、武装した兵が最低限の人数はいるものの、ゴーレムと戦うには足りなさすぎる武装と数である。

 塔に到着したゴーレムに駆け寄ってくる。

 

「ハンターギルド、ブリリアントの面々とお見受けする。ギルドマスター、ラウンドはいるか!」

 

「なんだ」

 

 呼びかけに応じて、ラウンドがゴーレムから顔を出す。

 周囲を見渡し、その様子から攻撃や捕獲を目的としたものではないと判断し、ゴーレムから飛び降りる。

 それに続くように、オールドマイン、ペアシェイプ、マーキーズも飛び降りる。

 

「オーバル、おぶって~(はぁと)」

 

「自分で飛べ!」

 

 着地に不安のあるハートを背負い、オーバルも飛び降りる。

 

 ゴーレムから降り立った六人に、最も高級そうな武装をした男が一人、近づいてくる。

 この塔の管理を任されている兵隊長である。

 その表情は、警戒と焦りを無理やりに隠し、冷静を装っていることがわかる。

 兵隊長は、ラウンドの顔が描かれている紙と目の前のラウンドを比べ、同一人物であると判断すると、少しだけ警戒を緩め、口を開く。

 

「ブリリアントのギルドマスター、ラウンドだな。私は」

 

「何の用だ?」

 

 兵隊長の言葉を遮り、ラウンドが用件を促す。

 言葉を遮られた兵隊長は、一瞬ムッととした表情を浮かべるも、事前に聞いていたラウンドの性格を思い出し、すぐに元の表情に戻る。

 兵隊長として多くの人間と触れてきた彼は、この程度の無礼であれば我慢することなど容易である。

 

「貴殿の力を借りたい。現在、八大国全体に緊急事態宣言が出ている」

 

「緊急事態宣言?」

 

「……厄災だ」

 

「厄災?」

 

 厄災。

 魔物が地上に現れ、街々を襲う出来事を指す。

 アメシストのダンジョンが厄災を引き起こしたことは、ラウンドの記憶にも新しい。

 

 ラウンドの頭に浮かぶのは、その原因。

 おそらくではあるが、ガーネットのダンジョンの能力により、魔物が地上に出現したのだろうと結論付ける。

 生命力の試練、といった名前からは、地上に魔物を出現させる能力と結びつけることはできなかったが、今は結びつけることが優先ではないと判断する。

 目線で、オーバルたち五人に目的地の変更を合図し、兵隊長に向き直る。

 

「いつからだ?」

 

「ちょうど三日前だ」

 

 三日前。

 ラウンドがアクアマリンのダンジョンを討伐した日と重なる。

 つまり、ガーネットのダンジョンが現れただろう日と重なる。

 厄災の原因がガーネットのダンジョンである確信が強まる。

 

「わかった、そこへ向かおう。場所はどこだ」

 

「ティニー国だ」

 

 自身の故郷の名前に、ラウンドの眉が少し上がる。

 同郷のハートに至っては、目を丸くし、両手で口を塞いでいた。

 二人に共通して思い出されるのは、故郷の村がダンジョンに襲われ、滅ぼされた過去である。

 ティニー国にかつて存在したその村は、今では跡形もない。

 

「糞みてえな記憶を思い出した」

 

 ラウンドが吐き捨てる。

 ラウンドには、既にティニー国に守るべきものはない。

 故郷だというそれだけの場所で愛着などないが、自身の最も不快な記憶と絡まる出来事だけに、いつも以上の不快さと恨みが、ガーネットのダンジョンに向けられる。

 

「で、魔物の数は?」

 

「……一体だ」

 

「ああ?」

 

 想定外の返答に、ラウンドの言葉が止まる。

 過去の厄災は、数千数万の魔物による大規模な襲撃であった。

 だからこそ、ハンターたちは広範囲への戦力分散を余儀なくされ、結果すべてを防ぎきることができず、大きな被害をもたらした。

 厄災の発生から三日経過しているということから、三日かけても倒し切れない数の魔物が発生していると認識していたラウンドには、想定外の回答だった。

 厄災が発生し、なおかつ三日間被害が収まっていないのであれば、他のハンターギルドも必ず動いているはずだ。

 ハンターは、世界法律によって国家からの命令に強制されない。

 とはいえ、全ての命令を無視できるわけではない。

 ダンジョンの討伐を避けるハンターギルド・ステップも、自国の防衛のみを考えるハンターギルド・ミックスも、ダンジョン討伐の命令が下りているはずである。

 

 が、魔物は討伐されていない。

 それはつまり、ステップとミックスのハンターたちでさえ、討伐しきることのできない魔物が出現しているということだ。

 生命力の試練の元に、討伐されないことに特化した魔物でも出現したのか、などと思考を巡らす。

 

「一体だと?」

 

 確認するように、ラウンドは兵隊長の言葉を繰り返した。

 

「その通りだ」

 

「どんな魔物だ?」

 

「……ダンジョンだ」

 

「は?」

 

 ラウンドの言葉が再び止まる。

 当然だ。

 ダンジョンは、地上での戦闘ができない。

 少なくとも、有史上、そんな出来事は存在しなかった。

 

「暴れている魔物は、ダンジョンそのものだ! 額に深紅色の石を埋め込んだ、女の姿をしたダンジョンだ!」

 

 だからこそ、現在起きている厄災が、過去に例を見ない厄災であるとすぐにわかった。

 ダンジョンが地上で戦った記録などない。

 ならば、ダンジョンが地上でどのように戦うのかを知るものはいない。

 完全なる未知。

 ハンターたちの知識も経験も、何一つ通用しない可能性がある未知である。

 ハンターたちが三日間かけても討伐できていないということは、その可能性が高い。

 

「わかった。ティニー国の現状を説明できる奴を一人寄こせ。続きはゴーレムの中で聞く」

 

 ラウンドは話を切り上げ、ゴーレムの方へと向かう。

 兵隊長はそれを確認すると、すぐさま兵たち方へ向き、一人の兵に指示を出す。

 指示を出された兵は、塔へと駆け、ゴーレムに乗り込む準備を始める。

 武器と食料、そして塔との連絡手段をひっさげ、ゴーレムの方へと向かう。

 兵が到着した頃には、ゴーレムの中に全員が乗り込み終えていた。

 

「乗るのじゃ」

 

 ゴーレムの掌が、兵の目の前に差し出される。

 恐る恐る掌に乗った兵は、このままゆっくりと掌が空を動き、自身が空を駆け抜ける様子を想像し、不謹慎にも少し興奮を得る。

 まるで、空を飛ぶ馬車ではないかと、胸が躍る。

 

 が、予想に反して掌は、兵を軽く握る。

 

「え?」

 

 そのまま手首のスナップをきかせて、ゴーレムに開いた窓に向かって投げられる。

 

「ええええええええええええええ」

 

 投石のように空を駆けた兵の体は、ゴーレムの中へと放り込まれ、オールドマインの手によってキャッチされる。

 

「全員乗ったな。マーキーズ、出せ」

 

「了解じゃ」

 

 そのまま、ゴーレムは歩を進める。

 ズシンズシンと音を出し、塔を離れていく。

 目指すはティニー国。

 

「さて、ではティニー国に着く前に、戦況を教えろ」

 

 振り向いたラウンドの目線の先、オールドマインの腕の中で、兵士は意識を手放していた。

 

「……気を失っていますな」

 

「ハート、回復魔法をかけてやれ」

 

「はぁい(はぁと)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 破壊しつくされた街の中。

 

 ガーネットのダンジョンは、逃げ惑う人々を見下ろす。

 

『醜く足掻け、矮小なる生命よ。生命力の試練』

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