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72話 十二大ダンジョン06

 世界の中心の空洞には、一つのテーブルと十二の椅子が置かれている。

 十二の椅子のうち、六の椅子が埋まり、それぞれにダンジョンが座っている。

 

 ガーネットのダンジョン。

 トパーズのダンジョン。

 エメラルドのダンジョン。

 アレキサンドライトのダンジョン。

 サファイアのダンジョン。

 ルビーのダンジョン。

 

『アクアマリンも逝ったようだな。幸運を与えてばかりで、きやつ自身に幸運などなかったらしい』

 

 アレキサンドライトのダンジョンの言葉に、ガーネットのダンジョンは何も言わない。

 俯き、手をそろえ、椅子に座っている。

 

『どいつもこいつも、ダンジョンであるということを何だと思っておる。何度人間に負ければ気が済むのだ。どれだけ余の顔に泥を塗れば気が済むというのか』

 

 アレキサンドライトのダンジョンは、ダンジョンであるというプライドが強い。

 そしてダンジョンとは、侵入してくる人間を退ける存在であるべきと考えている。

 特に、この場所にいるのは十二大ダンジョン。

 即ち、最高難易度を冠する十二のダンジョンのみである。

 それが、既に五のダンジョンが落ちた有様。

 あまりにも許すことができなかった。

 

『屍でも残るのならば、晒しあげてやるものを。全身が消滅するのでは、見せしめにも使えぬ。まっこと、一利もなきやつらぞ』

 

『その口閉じねば、わっちがぬしを屍にしてやるでありんす。アレキサンドライト』

 

『ああ?』

 

 ガーネットのダンジョンは、俯いたまま声を発する。

 怒気と殺意を混ぜた、苛烈な声。

 アレキサンドライトのダンジョンは、不快そうにガーネットのダンジョンを見る。

 

『ぬしは、いつもそうでありんす。仲間が滅んでも、いつも他人事のように』

 

『仲間だと?』

 

『そう、わっちらは、同じ存在――仲間でありんしょう?』

 

『馬鹿な、人間みたいなことを言いおって。余らはダンジョン。その存在理由など、挑んでくる人間を返り討ちすることのみだ。仲間などというつながりなど、ありはせんわ』

 

 アレキサンドライトのダンジョンは、鼻で嗤う。

 ガーネットのダンジョンの言葉が、あまりにも自身のもつダンジョンの在り方と違うがゆえに。

 自身を他の脆弱な――敗北し滅び去ったダンジョンと同列視されたことに呆れを抱いたゆえに。

 

『ぬしの、そういうところが……いつも!!』

 

 ガーネットのダンジョンは、怒りに染まった顔をあげる。

 アレキサンドライトのダンジョンを睨みつけたまま立ち上がり、テーブルを踏み越えて、その前面へと接近する。

 そして、手を振り上げる。

 

 アレキサンドライトのダンジョンは表情を崩さない。

 ダンジョンは、ダンジョン攻略でしか討伐することができず、その身を傷つけることとができないことを知っているからだ。

 人間からはもちろん、それがダンジョン同士であっても。

 

 ただし、特定の条件を満たせば、その限りではないことを、アレキサンドライトのダンジョンは失念していた。

 

 バチン。

 

 ガーネットのダンジョンの平手が、アレキサンドライトのダンジョンの頬を打ち払う。

 想定していなかった衝撃に、アレキサンドライトのダンジョンはそのまま椅子から落とされ、床に横たわった。

 未だに何が起きたかわからないといった表情を浮かべるアレキサンドライトのダンジョンの前に、ガーネットのダンジョンが立ち、見下ろす。

 

 冷たい床が、アレキサンドライトのダンジョンの頭を冷やす。

 目から入る光景が、肌から感じる感覚が、アレキサンドライトのダンジョンに現状を理解させていった。

 自分は殴り飛ばされ、床に横たわっている、と。

 

『貴様!!!!』

 

 アレキサンドライトのダンジョンは怒り、起き上がり、ガーネットのダンジョンの襟元を掴み上げた。

 ガーネットのダンジョンの足が床から離れ、宙ぶらりんの状態となる。

 そんな状態でなお、ガーネットのダンジョンの瞳は変わらず、冷酷にアレキサンドライトのダンジョンを見下ろしていた。

 

『わっちが殺してやるでありんす』

 

 冷静に、アレキサンドライトのダンジョンへ意思を伝えていた。

 

『なに?』

 

『ぬしの望み通り、わっちが人間を一人残らず殺してやると言っているでありんす』

 

『何を当たり前のことを』

 

『その代わり、わっちが人間を殺し切った暁には、一つ、わっちの願いを聞いてくりゃんせ』

 

 沈黙が流れる。

 アレキサンドライトのダンジョンにとっては、ガーネットのダンジョンの言葉は取引ですらない。

 ダンジョンが人間を殺し切るなど、当然の行いでしかないのだから。

 では、なぜ、わざわざこんな取引を持ち掛けるのか。

 ではなぜ、こんな取引を持ち掛ける前に、アレキサンドライトのダンジョンを攻撃したのか。

 なぜ、アレキサンドライトのダンジョンを攻撃できたのか。

 

『貴様……』

 

『わっちが殺すと、言うたでありんす』

 

 アレキサンドライトのダンジョンの手が下がり、ガーネットのダンジョンの足が床につく。

 

『願いとは何だ?』

 

『ダイヤモンドに、会わせてほしいでありんす』

 

 ダイヤモンドのダンジョン。

 十二大ダンジョンの序列一位にして、ダンジョンたちの生みの親。

 ガーネットのダンジョンは、ダイヤモンドのダンジョンと会ったことがない。

 望んだことはあったが、会う価値がないと一蹴された。

 十二大ダンジョンでダイヤモンドのダンジョンと会ったことがあるのは――会うことができるのは四体。

 ルビーのダンジョン。

 サファイアのダンジョン。

 アレキサンドライトのダンジョン。

 そして、エメラルドのダンジョンのみである。

 

『会って、どうする気だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガーネットのダンジョンは、地上を歩く。

 目的地へ向けて、歩を進めていく。

 遠目に見える目的地では、なにやら焦った雰囲気で人間が走り回り始めた。

 当然だろう。

 十二大ダンジョンの一体が向かってきているのだから。

 

 この後、兵がガーネットのダンジョンを囲むだろう。

 国に滞在するハンターたちがガーネットのダンジョンを囲むだろう。

 

『オパール、ぬしは才能に溢れながらも未熟な、やんちゃな弟でありんしたね』

 

 国を守るために、ガーネットのダンジョンに挑むだろう。

 

『ベリドット、ぬしは最期まで自分の意思に蓋をしてダンジョンであり続けた、聡明な妹でありんしたね』

 

 ガーネットのダンジョンは、地上にてそれを向かい打つだろう。

 

『アメシスト、ぬしは人間を愛しダンジョンに愛された、可愛らしい妹でありんしたね』

 

 それを見た人間たちは、驚くだろう。

 

『ジルコン、ぬしは無限の知識でわっちらを教育してくれた、聡明な弟でありんしたね』

 

 人間を飲み込むことなく戦う、ダンジョンの存在に。

 

『アクアマリン、ぬしは自分の身を厭わずに誰かの幸福を願い続けることができる、優しい妹でありんしたね』

 

 これから起きる戦争に。

 

『もう少しだけ、常夜で待っててくれやんせ。わっちが、ぬしらを蘇らせる。だから……』

 

 

 

 

 

 

『もう一度、皆で卓を囲みましょう』

 

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