35話 アメシストのダンジョン06
第四十階層、突入。
フロアボスはサイキックパンプキン。
アボートだけでなく、様々な超能力を使うパンプキン。
第四十階層でサイキックパンプキンを目にとらえた瞬間、唐突に視界から消える。
テレポーテーション。
次の瞬間、ハートの後ろに立ち、その首へと手を伸ばしていた。
「結界ぃ(はぁと)!」
結界が、その手を阻む。
「今度は自分も移動できんのか!」
オーバルが剣を抜き、サイキックパンプキンへ振る。
が、剣が当たる前に、サイキックパンプキンの姿は消える。
周囲を見渡すが、フロアに姿が見えない。
代わりに、影が一つ。
影の上を見上げると、サイキックパンプキンが宙に浮かんでいた。
サイコキネシス。
まるで吊るされた人形のように、だらりと力が抜けたような手足が赤く輝き、発火する。
パイロキネシス。
発火して生じた炎は、まるで蛇のように、ブリリアントのメンバーへ向かってくる。
「結界ぃ(はぁと)!」
それも防ぐ。
物理だろうが魔法だろうが、ハートの結界はすべてを防ぐ。
炎が結界をはいずり、煙が巻き起こり、視界が奪われる。
「御守が消えたのじゃ!」
マーキーズが叫んだのは、それと同時だった。
アボート。
「結界ぃ(はぁと)!!」
視界が奪われている。
どこへ結界を張ればいいか、視認できない。
ならばと、サイキックパンプキンのいた場所へ、やみくもに結界を張る。
どれか一つでも、サイキックパンプキンと御守の間に挟まれ、と祈りながら。
ガツン。
祈りは届き、煙の中から結界に何かぶつかる音が聞こえる。
「風の魔法!」
オールドマインが、風の魔法で煙を吹き飛ばす。
煙が晴れたフロアの中で、御守の無事を確認する。
「返すのじゃ!」
マーキーズは巨大なゴーレムを召喚し、その肩に乗ってサイキックパンプキンと同じ高さまで登る。
そして手を伸ばし、御守を奪い取る。
が、一時的な気休めでしかないことには気づいている。
再びアボートを使われれば、あっさりと御守を奪われるだろう。
確実に、自身の命を守るには。
マーキーズの手に続いて、ゴーレムの手が伸びる。
サイキックパンプキンを握りしめても、なお余裕のある巨大な手が。
「トリック・オア・トリート?」
その手が握りつぶす前に、サイキックパンプキンの姿は再び消えた。
そして、フロアの中央に現れた。
「……これで、第四十階層ですか」
オールドマインが、思わず呟く。
第四十階層のフロアボスは、第五十一階層以降で出現する。
通路にさ迷う、ただの魔物として。
第五十一階層以降のただの魔物に対し、ここまで弄ばれることに、ふがいなさを感じていた。
思い返せば、第四十階層以降のフロアボスを倒していたのは誰か。
オパールのダンジョンでジャイアントナイトスカルを倒したのはラウンドだ。
ベリドットのダンジョンでキングインキュバス、クイーンサキュバス、そしてサトリを倒したのもラウンドだと聞いている。
すべてがラウンドによるものである。
「我ながら、情けないですね」
オールドマイン。
職業は格闘家。
ハンターレベルは四十九。
つまり、四十五階層までのダンジョンを制覇した実績がある。
第四十階層のフロアボスも、倒した実績はある。
それでも目の前の相手に苦戦しているのはなぜか。
高齢によるものか。
並行してメンバーを指揮しているからか。
メンバー間の連携が足りていないからか。
一月という鍛錬の期間が短すぎたのか。
たとえどれか一つが真実だとしても、死ねば終わり。
言い訳は、言い訳としてさえ残らず、ダンジョンの中に取り残される。
ブリリアントのメンバー、全員の巻き添えと共に。
ふぅ、と一呼吸置く。
「マーキーズ、しばし指示を任せます」
「ぬ?」
ドンと床を蹴り、オールドマインが走る。
サイキックパンプキンは、近づいてくるその姿を楽しそうに眺め、その拳が触れる瞬間に姿を消し、オールドマインから離れた地点に現れる。
その姿を捉えるや否や、オールドマインは体を反転する。
足が、腰が。みしみしと悲鳴を上げる無理やりの反転。
床を蹴り、再び接近する。
そしてまた、サイキックパンプキンは消え、宙に浮く。
オールドマインも即座に飛ぶ。
オパールの石で瞬間的に足場を作り、蹴り、同じ高さまで届く。
突き出した拳は、またしてもからぶる。
が、それでもかまわない。
即座に次の居場所を空中から探し、足場を作り、蹴り、接近する。
いっそそのまま床に激突するのではないかという勢いで。
案の定テレポートで躱され、床に激突するも、秒を置かずに起き上がり、サイキックパンプキンへと接近する。
アボートを使うよりも早く。
繰り返す。
その拳が、あたるまで。
「体力勝負と行きましょうか」
ダンジョンの中では、魔物の魔力は無限。
能力が使えなくなることはない。
だが、体力はどうか。
判断力はどうか。
一時間三十分後。
オーバルの射程圏内にテレポートしてしまったサイキックパンプキンがオーバルの剣を顔に受ける。
そして、苦し紛れに逃げた先、テレポートした先は、オールドマインの射程圏内。
頭に踵を落とされ、そのまま砕け散った。
「やれやれ、時間をかけすぎましたね」
第四十階層、突破。
「しかし、次からがやっかいですな」
「そうなの(はぁと)?」
第四十一階層に出現する魔物のうち、一種類は予想がつく。
第三十階層のフロアボス、アボートパンプキンである。
第三十階層では、一体だったからこそ、大切なものを奪われても、ハートの結界で破壊を免れることができた。
では、これが何十といればどうだろう。
いかにハートと言えど、同時にアボートを使われると、どのアボートパンプキンの手元に移動しているかを探している間に、大切なものが破壊されるに違いない。
数とは、それほど厄介だ。
「一度立ち止まり、次の階層の作戦を練りましょう」
「でも、ゆっくりしてるとラウンドが……(はぁと)」
「ハート殿が生きていることが、ラウンド殿が生きている、何よりの証明でしょう。他のメンバーも同様です。もちろん急ぎ、焦るのは当然ですが、ここで一度立ち止まることが、最速の攻略になると思います。いかがでしょう」
オールドマインが周囲を見渡す。
「そうだな、俺は賛成だ」
オーバルがその場に腰を下ろす。
「吾輩もじゃ。何度死にかけたか」
マーキーズが腰を下ろす。
他のメンバーも、迷いながら腰を下ろしていく。
最後に残ったハートも、周りを見渡し、その場に腰を下ろす。
全員が座ったのを確認し、オールドマインが口を開く。
「最優先は、大切なものを奪われない方法です。それが無理であれば、奪われても破壊されない方法、または破壊される前に確実に取り返す方法を探さなければなりません。これができなければ、オーバル殿とマーキーズ殿はどこかで確実に死にます」
「そうだな」
「そうじゃの」
その場にいる全員が、頭をひねる。
アボートパンプキンの能力を防ぐ、都合のいい方法を考える。
「ラウンドがいたら、回帰の力で手元に戻せたのかも……(はぁと)」
「確かにそうですが、ないものねだりをしても仕方ありません」
つくづく、ラウンドがいない影響の大きなダンジョンである。
十分。ニ十分。
「剣をしっかりつかんでたら、剣ごと俺も飛ばされねえかな?」
「無理じゃろうな。吾輩の御守はしっかりと握っておったが、それでも盗られた」
「飛ばされた瞬間に、飛ばされた先で魔物を攻撃する魔法を仕込むとか」
「難しいかなぁ(はぁと)。時限式ならできるかもしれないけどぉ(はぁと)」
方法が思いつかないままに、時間だけが過ぎていく。
「私相手に使ってくれたら、ラウンドが飛んできたりしないかなぁ(はぁと)」
「人間は無理でしょうな。フロアボスも、ギルドメンバーを瞬間移動させ、盾にすることはしなかったですし」
時間だけが。
「……数時間だけなら、一つだけ方法があるかなぁ(はぁと)」
「なんです?」
「私の魔封じの結界ぃ(はぁと)。階層全体を覆って、魔法を全部使えなくしちゃうとか(はぁと)」
「階層全体!?そんなことが!?」
階層全体を覆う。
常人では決して不可能だろう魔法の規模に、その場の全員が驚く。
「その代わり、数時間しかもたないし、数時間後には魔力を使い切って何もできなくなっちゃうけど……(はぁと)」
「残り三十階層を数時間……なかなか厳しいリミットですね」
とはいえ、その強力な魔法をもってしても、現状を潜り抜けるのは厳しい。
後一手、何かが必要である。
「ハート、その魔封じの結界とやらは、吾輩のゴーレム召喚も封じられるものなのか?」
「封じられると思う(はぁと)」
「では、もう一つ。すでに召喚したゴーレムを、強制的に戻す類の物か?」
「それは、戻せないと思う(はぁと)。あくまで、魔法の使用を封じる結界だから(はぁと)」
「ふむ」
マーキーズが周囲のメンバーを見る。
「皆、命をかける覚悟はあるか?」
マーキーズの言葉に、緊張が走る。
ゴクリと、息を飲み込む音が聞こえる。
「吾輩が召喚したゴーレムに全員乗り込み、突っ走るのじゃ。幸い壁がない。穴を飛び越えれば、大幅なショートカットも可能じゃろう。数時間で、最終階層までたどり着いてやるのじゃ!」
「だが、このダンジョンは、道も狭いし脆い。ゴーレムで進むのはリスクが」
「その通りじゃ! 吾輩が一瞬でも操作を誤り、足を滑らせたら真っ逆さま! みんな仲良くゲームオーバーじゃ! しかし誤らなければ、一気に最終階層! どうじゃ、わくわくするじゃろう!」
叫ぶマーキーズの表情は、笑顔だった。
だが、額にも手にも、汗が溜まっている。
その覚悟があらわされていた。
「お前がそこまで覚悟を決めているなら、俺は付き合う」
「私もです。そうなれば、フロアボスは私とオーバルに任せていただきましょう。なに、どんな相手でも、五秒以内に片づけてみせますよ」
「私も賛成かなぁ(はぁと)。ラウンドに、早く会いたいし(はぁと)」
決意の固まる幹部をよそに、メンバーたちは血の気の引いた顔でそれを見ていた。
ハンターになった瞬間、命は捨てていると言葉では言った。
だが、即答できるほど、ではない。
「当然だが、ここに残りたいやつは残ってもいい。フロアボスのいないボスエリアは安全だしな」
オーバルが助け舟を出すが、そういう問題ではない。
これは覚悟だ。
幹部を――ブリリアントという組織を信用できるか否か、そういう覚悟の場面。
メンバーたちは、ちらちらと周囲を見る。
確認するように、牽制するように。
そして。




