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34話 アメシストのダンジョン05

 第三十階層、突入。

 

 人間の体の頭部が巨大なカボチャにすげ変わった外見の魔物が立っていた。

 体は、栄養失調を感じさせるほどにガリガリで、巨大な頭部と対比するとバランスが悪く、足元がおぼつかないのかふらふらとしている。

 頭部のカボチャには、目、鼻、口の部分がくりぬかれ、人間の顔にも見える。

 

「初めて見る魔物だな」

 

 オーバルが剣を構える。

 

「待て、吾輩の獲物じゃ!」

 

 マーキーズがゴーレムを召喚する。

 

 未知の魔物であれば、未知の能力を使う前に討てばいい。

 オーバルとマーキーズのゴーレムが走る。

 巨大なカボチャは、それを見つめ。

 

「トリック・オア・トリート?」

 

 そう一言呟いた。

 

「なんだって?」

 

「異国の言葉かのう?」

 

 魔物の言葉に気を止めることなく、二人は接近する。

 魔物は、表情を変えず、だがしかし確かにほほ笑んだ。

 二人の背中に、悪寒が走る。

 

「トリック!」

 

 魔物が叫ぶ。

 瞬間、オールドマインの手元から剣が消えた。

 マーキーズの手元から御守が消えた。

 大切なものが。

 そして、消えた二つは、次の瞬間に魔物の目の前に現れた。

 

 フロアボス、アボートパンプキン。

 一定範囲内に存在する物を、瞬間移動させる能力の魔物。

 

 アボートパンプキンの手が、剣と御守へ伸びる。

 

「結界ぃ(はぁと)!」

 

 気づいた瞬間、ハートがアボートパンプキンの前方へと結界を張る。

 アボートパンプキンの手が、結界にはじかれる。

 剣と御守が、床へ落下を開始する。

 

 オーバルとゴーレムが、空中でそれを拾い上げ、そのままアボートパンプキンへ攻撃する。

 オーバルが拾ったばかりの剣で頭部を横に切り裂き、ゴーレムが顔が半分なくなったアボートパンプキンを上から叩きつぶす。

 アボートパンプキンは、カボチャが砕けるようにバラバラになり、そのまま消滅した。

 

「……助かった、ハート」

 

「……うぬ。感謝するぞ、ハート。一瞬、死んだかと思うたわ」

 

「……はぁい(はぁと)」

 

 

 

 第三十階層、突破。

 

 第三十一階層、突入。

 

 

 

 通路には、たくさんのパンプキンの魔物がさ迷っていた。

 皆、大切なものをもつ者たちは、無意識にそれへと注意が向く。

 もしも、全てのパンプキンが、フロアボスのようにアボートを使えるとしたら。

 もしも、攻撃がパンプキンにあたるタイミングで大切なものをアボートされ、盾に使われたら。

 そう考えると、誰もうかつに動けない。

 金縛りにでもあったように固まる。

 

「大丈夫ぅ(はぁと)」

 

 周囲を見回した後、ハートは断言した。

 それを聞いた瞬間、オーバルは走った。

 最も近くにいたパンプキンへと。

 

「トリック・オア・トリート?」

 

 オーバルの接近に気づいたパンプキンが、問うてくる。

 オーバルは答えず、さらに接近する。

 

「トリック!」

 

 パンプキンは火を噴いた。

 オーバルは、地面を思いっきり蹴り、上へ回避する。

 そして、片足で着地し、同じ足で思いっきり地面を蹴る。

 パンプキンが、自分の避けた先へ振り向くその前に射程へと入り、その首を切り落とす。

 頭部のカボチャは地面に転がり、そのまま通路の外へ、闇の中へと落ちていった。

 

「はぁ……はぁ……。こいつは、物を瞬間移動させたりはできないのか?」

 

「混じっている可能性もあります。慎重にいきましょう」

 

 オーバルとオールドマインが、ハートの方へ振り向く。

 

「大丈夫よぉ(はぁと)。何がどこへ瞬間移動しようと、私が全部守るから(はぁと)!」

 

 十分な言葉だった。

 オーバルが、剣士のメンバー三人を連れて先頭を走る。

 

「では、我々は空を止めましょう。ハート殿に、余計な邪魔が入らぬように」

 

 オールドマインが、魔法使いのメンバー二人とともに、空を警戒する。

 

 ファイアーバット。

 空中を羽ばたくバットが、口から火を吐いてくる。

 遠距離からの攻撃。

 

 

 

 第三十一階層、突破。

 

 

 

 

 

 

『すごいね。あなた、ほんとうににんげん? もう、じゅうじかんいじょう、たたかいつづけてる』

 

 パンプキンを切り捨てるラウンドを、アメシストのダンジョンは拍手する。

 それは称賛。

 強者から弱者への称賛。

 ダンジョンからすれば、十時間戦い続けることなど造作もない。

 しかし、それを人間がこなすとなれば、多少の称賛もしたくなるというものだ。

 だが、ラウンドに応える余裕はなく、一瞬睨みつけるだけにとどまった。

 

『くすくす』

 

 その様子が面白いのか、アメシストのダンジョンが笑う。

 

 出現する魔物のレベルも上がり、すでに三割を倒し損ねている。

 多対一において、十分な戦果であるともいえるが、自分が止めるといった以上、ラウンドにとっては敗北である。

 だが、敗北に屈辱を感じる余裕も時間もない。

 次に出てくる魔物を倒さなければならない。

 すべての感情を横に置き、剣をふるう。

 魔法を放つ。

 

『そうね。そのがんばりにめんじて、ひとつだけ、しつもんにこたえてあげる』

 

 脈絡なく、そんな言葉が飛び出した。

 アメシストのダンジョンは無邪気で気まぐれ。

 ただの思い付きを、そのまま口に出し、行動する。

 得も損も考えない。

 

 ダンジョンの言葉に、ラウンドは耳を疑った。

 人間を滅ぼすことしか考えていないダンジョンが、人間に問いかける、そんな選択をすること自体があり得ないことだと認識していたからだ。

 一瞬、思考がそちらに奪われる。

 その横を、魔物がすり抜ける。

 

『やっぱ、やーめた』

 

 くすくす、とアメシストのダンジョンは笑う。

 

『やっぱ、こたえようかなー。ねえ、どっちがいい?』

 

 驚くほど饒舌に、驚くほど意味のない言葉を並べる。

 屈託のない笑顔で。

 

「滅べ」

 

 向けられない意識を向けて、動かせない口を動かして、精いっぱいにラウンドは一言を絞り出した。

 感情全てを乗せて。

 殺意すべてを乗せて。

 

『くすくす』

 

 アメシストのダンジョンは、ただ笑う。

 言葉に乗った感情を理解したからだ。

 感情が示す、ラウンドのダンジョンへの憎しみをを理解したからだ。

 

 

 

『うんうん。あなたがだんじょんを、とてもにくんでることはわかったわ。じゃあ、だんじょんのほろぼしかた、おしえようか?』

 

 ラウンドは、思わず耳を疑う。

 自分たちを滅ぼす方法を教えると、目の前のダンジョンが言っているのだ。

 一瞬気を取られ、肩に攻撃を受ける。

 

「ぐっ……!!」

 

『くすくす』

 

 そんなラウンドとは正反対に、アメシストのダンジョンは、気軽に口を開く。

 

『しんじつのあいを、もてばいいんだよ。しんじつのあいは、つねに、しょうりをあたえてくれるもの』

 

 一瞬でも、ダンジョンの言葉に耳を傾けようとした自分が馬鹿だった。

 それを言葉にする余裕はなく、睨みつけることが精いっぱいだった。

 

『くすくす』

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