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36話 アメシストのダンジョン07

 ショメ国のとある町は、魔物の襲撃を受けていた。

 ショメ国の兵士と、たまたまそこに居合わせたブリリアントのメンバーが、それを迎え撃っていた。

 彼らにとって不幸だったことは、幹部と上位メンバーが、アメシストのダンジョンに挑んでおり、不在であることだろう。

 

 パンプキンが、ファイアーバットが、続々と町へ向かってくる。

 

「トリック・オア・トリート?」

 

「トリック・オア・トリート?」

 

「トリック・オア・トリート?」

 

 あちらこちらから、魔物の声が聞こえる。

 

「トリック」

 

「トリック」

 

「トリック」

 

 そして、あちらこちらで人間を襲う。

 

「町には絶対に入れるな!」

 

「ここで迎え撃つぞ!」

 

 兵とブリリアントのメンバーは、互いに声をかけながら、防衛にあたる。

 国防のための組織とダンジョン討伐のための組織。

 目的は違うが、今だけは行動内容が一致していた。

 

 現時点での死傷者は、ゼロに抑えられていた。

 

 町へ侵入した魔物は、ゼロに抑えられていた。

 一部の魔物を、兵士が、ハンターが、取りこぼしたにもかかわらず、だ。

 

 より多くの人間がいる場所へ――町へ入れるというのに、魔物たちは壁を乗り越えようともせず、Uターンし、人間を襲う。

 ハンターを。

 

「……あの魔物たち、ブリリアントのやつらばかり襲ってませんか?」

 

 不自然な動きに、見張り台から戦況を見ていた兵が呟く。

 

「お前も、そう思うか」

 

 隣にいる隊長も、同意するように呟く。

 そして考える。

 魔物は、ブリリアントのハンターのみを襲っている。

 理由はわからないが、アメシストのダンジョンの試練が影響しているのではないかと。

 この仮説が正しければ、ブリリアントのメンバーを町から離れた場所に移動させればいい。

 それで町は守られる。

 ただし、仮説が間違っていた場合、町を守るための戦力をわざわざ町から離す行為につながり、魔物を町へ誘導するようにも見えてしまう。

 場合によっては、魔物を町へ誘導したとして厳しい罰が下されるだろう。

 それゆえに、隊長は現状維持に甘んじた。

 大丈夫だ、現在の体制でも、町への侵入を許していないと、自分に言い聞かせて。

 

 

 

 

 

 

 ハリーウィンス国の王都。

 ファントムウルフとファントムバットの大群……の死体が、至る所に転がっていた。

 国の紋章が縫い付けられた衣装を着たハンターたちが、その死体を足蹴りする。

 首から切り落とされた頭部に、剣を振り下ろす。

 血しぶきが飛び散る。

 剣が血でぬれる。

 それを自身の服にこすりつけて、ぬぐい取る。

 

 そして視線は、次の大群へと移る。

 

「雑魚しかいねえじゃねえかああああああああ!! ふざけてんのかあああああああああああああ!!」

 

 ハンターギルド・ミックスのマスターにして、ミックスの二番隊隊長バリオンは、不満そうに叫ぶ。

 叫びながらも、自身の横を通り抜けようとするファントムウルフの首根っこをつかみ、地面へ叩きつけ、その首をかじり切った。

 ビクンビクンと痙攣するファントムウルフを投げ捨て、先程かじり切った肉片をつばと共に吐き捨てる。

 

「へっへっへ。しかし姉御、襲撃してくる魔物、徐々に強くなってるでゲス。もう少し我慢すれば、きっともっと強い魔物と戦えそうでゲスよ」

 

「最初っからつええのが来いってんだよ!! ふざけてんのか!!」

 

「いたい!?」

 

 バリオンの拳骨が、近くにいた部下の頭部に落ちる。

 理不尽な暴力である。

 が、部下は気にした様子も見せず、むしろ恍惚とした表情を浮かべる。

 

「ああ~、バリオン様の拳~。オイラ、興奮してき」

 

「きめぇ!!」

 

 二度目の拳骨が落ちる。

 みぞおちに蹴りが入る。

 そして剣を振りあげる。

 

「待つでゲス!? バリオン様!? 剣はさすがに死んじゃうでゲ」

 

 柄が頭部に落ちる。

 

「ゲスふん!?」

 

「さて、もう一殺し、してくっか!! 早く来い、強い魔物おおおおおおおおおお!!!!」

 

 そのまま、地面にへ潰れたカエルのごとく倒れる部下を尻目に、魔物の群れへと突っ込んでいった。

 たからかな笑い声と共に。

 

 

 

「野蛮で御座いますわね」

 

「野蛮ですなぁ」

 

「神よ、汚れた言葉を一時使用する私を、どうかお許しください。……野蛮ですね」

 

 そんなバリオンを、ミックスのギルドから眺める三人がいた。

 一番隊隊長、プリンセス。

 四番隊隊長、フランダース。

 八番隊隊長、レイディエント。

 

 ミックスを構成する十の隊。

 その隊長たちである。

 ミックスのギルドマスターはバリオンであるが、同列の権限を持つ人間が、残り九人存在する。

 そのうちの三人が彼らである。

 

「この調子でいけば、町の被害をゼロに抑えることができそうで御座いますわね」

 

 プリンセスが優雅に言う。

 手に持っていたセンスをパチンと閉じて、テーブルの上に置かれている紅茶に手を伸ばす。

 赤茶色の紅茶には、金箔が浮かんでおり、高級感を出している。

 カップを持ち上げ、スッと口をつける。

 

「美味しいで御座いますわね」

 

 カタリとカップを置く。

 とても、現在国が魔物に襲われている状況とは思えないほどに、落ち着いている。

 

「あの程度なら、バリオンの敵ではございませんしなぁ。一応、私の魔法隊も控えておりますので、万が一の時も対応できるかと」

 

「素晴らしいで御座いますわね」

 

 フランダースの言葉に、プリンセスは称賛を送る。

 

「おお! やはり我が国は、神によって守られている。厄災ごとき、恐れるに足らないのだ。おお、神よ! 感謝いたします!」

 

 レイディエントは、胸の前で十字架をきり、神への祈りをささげる。

 

 ――くだらないで御座いますわね。

 

 そんな思いを、プリンセスは飲み込んだ。

 彼女は神を信じない。

 過去も未来も現在も、すべては人間が、自分の力で切り開くものだと信じているからだ。

 そう、望みは自分の力で叶えるもの。

 ハリーウィンス国の国王になるのに必要なものは、神でも祈りでもなく、自分の力であると。

 

「お代わりをいただけますで御座いますか?」

 

 ハリーウィンス国の第一王女にしてファイブ・ハリーウィンスの実妹。

 プリンセス・ハリーウィンスは、不敵に笑う。

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