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32話 アメシストのダンジョン03

 アメジストのダンジョンは、まるでおとぎ話に出てくる魔王城へ向かう道のようだった。

 左右に壁はなく、落ちたら底の見えない暗闇。

 絶命以外の結末がない。

 天井の代わりには、雲のかかった夜空と地上を照らす月。

 時々雷も鳴り響いている。

 月明かりを頼りに、地面にごつごつとした石が埋まっている荒れた足場を踏みつけながら、ブリリアントの一行は前に進んでいく。

 幸いなのは、通路の広さが五人が横並びに立っても落ちない程度にはあることと、壁がないので先が見通せるということだろう。

 

「またきた(はぁと)」

 

 もっとも、戦闘に十分な幅とはとても言いがたいが。

 

「ウルフは俺がやる!魔法使いの二人は、空のバットを落としてくれ!」

 

「「はい!」」

 

 先頭を守るオーバルが、向かってくるウルフを一刀両断する。

 愛用の剣……ではなく、オパールの石で創った、愛用の剣に似せた剣で。

 

 オーバルは、自身の剣を大切なものと設定されている。

 つまり、剣が壊れた場合、オーバル自身が死んでしまう可能性もあるのだ。

 どうなれば剣が壊れたとみなされるのか。

 折れたら壊れたとみなされるだろうが、刃こぼれしても壊れたとみなされるのか。

 弾き飛ばされて、通路の下の闇に落としてしまった場合はどうなるのか。

 魔法を受けたらどうなるのか。

 何もわからない。

 分からない以上、念を入れておくべきと判断し、オールドマインへと預けている。

 

「バットを撃退しました!」

 

「よし! 進むぞ!」

 

 周囲の魔物を討伐したことを確認し、オーバルは前進を促す。

 

「うぬぅ……ゴーレムさえ使えれば、こんなところすぐに……」

 

 道が狭く、脆く、おまけに壁がない。

 こんな場所で巨大なゴーレムを出してしまえば、不安定な足場のせいで立つこともままならない。

 壁もないので、壁で体を支えることもできず、足を滑らした瞬間、暗闇に落ちていくしかない。

 さらには、脆い道がゴーレムの重量に耐え切れず、そのまま崩れ落ちる可能性もある。

 巨大なゴーレムを使役するマーキーズにとって、不利なダンジョンともいえる。

 いや、マーキーズだけではない。

 

 ここでは、空から襲ってくる魔物の存在は、想像以上にやっかいだ。

 壁がない分、天井がない分、空での行動に制限がなく、縦横無尽に駆け巡ってくる。

 遠距離攻撃を持たないオーバルにとっても不利。

 オールマインも同様。

 攻撃魔法が得意ではないハートにとっても最適ではない。

 

「運がねえな」

 

 ラウンドかペアシェイプがいれば、もう少し楽に進めると思いながら、しかし顔には出さずに先導する。

 オーバルはブリリアントの副マスター。

 愚痴も不安も二の次で、最優先はダンジョンの攻略である。

 

 

 

 第一階層、突破。

 

 

 

「こいつら、やっぱ狙ってくるよな!」

 

 アメシストのダンジョンの厄介さは、空の魔物に有利だという点以外に、もう一つある。

 自分以外を狙ってくること。

 オーバルの剣に、マーキーズの御守。

 まるでどこにあるか見えているように、魔物はそこへ突撃してくる。

 

 

 

 第二階層、突破。

 第三階層、突破。

 第四階層、突破。

 

 

 

「好き嫌いを、言っている場合ではありませんな」

 

 下層に降りるにつれ、徐々に減るウルフの数。

 徐々に増えるバットの数。

 アメシストのダンジョンが学習したのだ。

 こいつらは空への攻撃手段が少ない、と。

 

 オールドマインもそれに気づき、溜息とともにオパールの石の力で魔法の杖を創り出す。

 オールドマインは魔法使いではない。

 なので、杖による補助がなければ、攻撃魔法を使えない。

 

 杖の先を向かってくるバットに向け、魔法を発動する。

 火球を放つつもりであったが、杖から離れた火球はすぐに形が崩れていき、火の粉のシャワーとなってバットに降り注いだ。

 

「ヂヂヂ」

 

 火を消そうと、バットの羽ばたきが強くなる。

 燃えたまま、バットは構わずオールドマインへ向かってくる。

 それを迎え撃ち、叩き落とす。

 

「やはり、魔法は少々無理がありますな」

 

 

 

 第四階層、突破。

 第五階層、突破。

 第六階層、突破。

 第七階層、突破。

 第八階層、突破。

 

 

 

 空からの襲撃に、イライラとした感情が募る。

 同時に、遠距離攻撃の手段を持つ魔物が、未だ出てきていないことに安堵も募る。

 もっとも、現在への安堵は、未来への懸念の裏返しではあるが。

 

 

 

 第九階層、突破。

 

 

 

 第十階層は、玉座の間のように、壁も床も石で組まれた、近代的なものだった。

 王城で見かける景色である。

 

「っらあああああああああ!!」

 

 オーバルは、フロアボスのジャイアントウルフを、心の中にため込んだいらいらを剣に乗せて叩き切る。

 悲鳴をあげさせることもなく、ジャイアントウルフを消滅させる。

 

「あああ!! 吾輩が倒したかったのじゃ!!」

 

 同じく、ゴーレムを使えないイライラを貯めこんでいたマーキーズから、抗議が上がる。

 ずっと召喚できなかったゴーレムを召喚し、イライラのままに拳を撃ち込む予定だったのだ。

 

「悪い悪い。ちょっと溜まっててな。次はマーキーズに任せるから、許してくれ」

 

「ぬう。本当じゃな? 約束じゃぞ?」

 

「ああ、約束だ」

 

 指切りを交わして、次の階層へ降りる。

 

 

 

 第十一階層、突入。

 

 

 

 到着とともに、ものすごい勢いでスピードバットが突っ込んできた。

 オーバルに向かって。

 オーバルの剣に向かって。

 オーバルは、反射的に剣を抜き、それを斬る。

 バットはうめき声とともに血しぶきを上げ、そのまま崖の下へと落ちていった。

 

「気をつけろ! 魔物が速度を上げてきた!」

 

 

 

 第十一階層、突破。

 第十二階層、突破。

 第十三階層、突破。

 第十四階層、突破。

 第十五階層、突破。

 第十六階層、突破。

 第十七階層、突破。

 第十八階層、突破。

 第十九階層、突破。

 

 

 

 フロアボスは、ジャイアントスピードバット。

 速さと大きさを併せ持つバットは

 

「んぬらあああああああああああ!!!」

 

 マーキーズの巨大ゴーレムの前に、一撃で沈んだ。

 

「お前の召喚するゴーレム、また一段とでかくなったな」

 

「ぬははは! 一か月の特訓の成果じゃ!」

 

 アメシストのダンジョンでは、まったく意味がないことを除けば、上々の成果である。

 

 

 

 第二十階層、突破。

 

 第二十一階層、突入。

 

 

 

 地上に、ファントムウルフとファントムバットが出現した。

 ファントム。

 幻影の名前を冠するこの魔物は、一定時間すべての攻撃をすり抜ける能力を持っている。

 物理攻撃も魔法攻撃も無意味。

 時間にすると、わずか十秒程度ではあるし、再度すり抜けるには三十秒ほどのインターバルを置かなければならない。

 そのうえ、すり抜ける能力の発動中はバット自身も攻撃ができないため、さして脅威ではないとされている。

 

 もっとも、戦うなら、の話であるが。

 

 逃亡するなら、目の前の相手との戦いを回避するなら、これほど都合の良い能力もない。

 

「ちくしょお!!」

 

『くすくす。もう、あきらめたら?』

  

 ラウンドの振り下ろす剣も、放つ魔法も、全てがすり抜ける。

 十秒が経過し、すり抜ける能力が切れた頃には、ラウンドの魔法攻撃が届かない距離。

 後は、悠々と目的地へ向かうのみである。

 

 魔物たちは向かう。

 ショメ国――ブリリアントのギルドへ。

 ハリーウィンス国の王都へ。

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