31話 アメシストのダンジョン02
魔物はダンジョンの中にしか生息しない。
ダンジョンの外には出ない。
ダンジョンが魔物化する前から、そういうものだった。
第一階層の魔物など、目の前に地上へ続く階段があるにもかかわらず、頑なにその階段を登ろうとしなかった。
馬鹿なハンターの一人が、魔物を捕まえて、無理やりダンジョンの外に出そうとしたが、外に出た瞬間に消滅したという話もある。
魔物はダンジョンの中でしか生息できない。
そう結論付けられた。
結論付けられていた。
だが過去に、それが破られたことがあった。
突然、魔物が地上に現れ、町を襲ったのだ。
人間を喰らう魔物、建物に侵入して物を破壊する魔物。
魔物への防衛を考えていなかった人間の町は、瞬く間に魔物の狩場となった。
人々は逃げまどい、泣き叫び、町は地獄絵図となった。
そして突然、魔物が消滅した。
まるで幻のように。
この原因は、未だに不明のままである。
人々は、再び魔物の襲撃があることに備えて、魔物への防衛を始めた。
この悲劇を繰り返さないように。
そして、この悲劇を決して忘れないように、人々はこの出来事に名前を付けた。
厄災と。
「あああああああああ!!!」
飲み込むべきハンターを全員飲み込み終えたというのに、白い光はなくならない。
飛び出してくる魔物は、狼型の魔物ウルフと、蝙蝠型の魔物バットだ。
地上へ、空へ、ラウンドの攻撃を避けて、どこかへ行こうと走る。
ラウンド自身も標的のため、ラウンドめがけて攻撃をしてくる魔物もいる。
それらの魔物を、剣で魔法で息の根を止める。
一体たりとも逃すわけにはいかない。
ブリリアントのメンバーはハンターだ。
しばらくは自衛できる。
だが、狙われているのが、ハンターの家族ならどうだ。
ただの物ならどうだ。
抵抗という言葉もなく、殺されるし壊されるだろう。
その瞬間、アメシストのダンジョンに入った誰かが絶命する。
ただの一体たりとも逃すわけにはいかない。
しかし、魔物の群れは一向に途切れる気配がない。
ダンジョンの中であれば、一階層当たりの魔物数には上限があり、全員倒せばそれで終わりだ。
オパールのダンジョンのように、ダンジョンの能力――創造の力で魔物を創り出してくる場合はその限りではないが、そうはいっても魔物を創り出す媒介さえ壊してしまえばそれ以上は増えなかった。
今、ラウンドの目の前でおきていることは、その比ではない。
文字通り、無限にわいてくるのだ。
そしてもう一つ、ラウンドには懸念があった。
現在、出現している魔物は、ウルフとバット。
どちらも、第一階層に生息する魔物だ。
もしかしたら、メンバーが下層に降りれば降りるほど、強い魔物が出てくる階層に降りれば降りるほど、地上に出現する魔物も強くなるのではないか、と。
「回帰!」
白い光のある場所へアンモライトの石の力を使ってはみたが、案の定何も起きなかった。
『むりだよ。かくがちがうからね』
アメシストのダンジョンは、それを見て笑う。
楽しんでいた。
苦しむラウンドを見ながら。
ハートからラウンドへ向かう真実の愛が、ラウンドの命を脅かしているという、その事実を見ながら。
感動していた。
『これぞ、しんじつのあい』
「この、くそ餓鬼……」
『くすくす』
既に、何時間が経過しただろうか。
一匹の魔物が、スピードウルフが、ラウンドの横を抜けた。
ウルフの倍は足が速い、スピードウルフ。
「ちぃ……!」
即座に魔法を放つが、バットが盾になるように集まり、魔法を止めた。
その隙に、スピードウルフは走る。
ラウンドの魔法が届かない距離まで。
『いっちゃったね』
「貴様……!!」
だが、追うわけにもいかない。
追うことなどできない。
今まさに出てくる、次の魔物も放っておくことなどできないのだから。
さらに一匹、スピードバットが抜ける。
バットの倍は飛行速度が速い、スピードバット。
スピードウルフは走る。
ブリリアントのメンバーがいる場所へ。
ショメ国のとある町の酒場――ブリリアントのギルドへ。
スピードバットは飛ぶ。
ブリリアントの幹部――ペアシェイプがいる場所へ。
ハリーウィンス国の王都へ。
「魔物だあああああああああああ!!!」
ショメ国が、それを知るのに、時間はかからなかった。
町の外を見張っていた兵士が、すぐさま周囲に声をかける。
見張り台はあわただしくなり、数人の兵士は急いで王都へと走る。
厄災の再来の可能性がある。
ただその一心で。
たった一体の魔物ではある。
だが、一体の魔物でさえ、ダンジョンの外にいることはありえない。
「そうえいば、今日はブリリアントのやつらがダンジョンに向かった日だったよな?」
一人の兵士の言葉が、そこにいる兵士全員に動揺を与える。
アメシストのダンジョンで、何かが起きている。
そう悟るのに、時間はかからなかった。




