19話 ベリドットのダンジョン03
ズシンズシンと、足音が響き渡る。
ダンジョンが崩れそうなほど乱暴に、それは前進する。
床も松明も人間も関係なく、進行方向にあるもの全てぶつかり、撥ね飛ばしていく。
「思い出したぞ。二年前、六歳にしてゴーレムを召喚した天才召喚士の噂……!! まさか、ブリリアントにいたとはな!!」
異形の存在を前にも、バゲットは恐れない。
思考は、目の前のそれをどう対処するか、それのみに没頭する。
ステップのメンバーを、ボウリングのピンのように撥ね飛ばすそれをどう対処するか。
とはいえ、ゴーレムといえど、魔力というエネルギーで動く物体でしかない。
ゴーレム召喚士の、マーキーズの魔力で。
ならば、吸い取ってしまえばいい。
そのエネルギーをすべて。
「吸え! ゲルマニ……ほげぇ!?」
「ちょ……きゃああ……!?」
だが、そのゴーレムは速すぎた。
バゲットがエネルギーを吸うより早く、バゲットの元にたどり着き、その全身を撥ね飛ばした。
ついでに、バゲットとつながっているスクウェアステップも巻き沿いで撥ね飛ばした。
「ぬははは! 見たか! 吾輩のゴーレム、つっぱりヤドカリ君の突進力を! 誰にもその進行を妨げることはできぬのじゃ!!」
「マーキーズ、名前は変えろ」
「何故じゃ!? 格好いいじゃろ!?」
マーキーズの召喚したゴーレム――つっぱりヤドカリ君は、ステップの前隊も撥ね飛ばし、ダンジョンの奥へと進んでいく。
「「チチチチ」」
奥へ行くにつれ、蝙蝠型の魔物――バットが増え、ゴーレムへ向かってくる。
「邪魔じゃ!どけい!
しかし、牙を突き立てることさえできない硬さを持つのゴーレムの前に、あっさりと退けられる。
次々とバットを退けるゴーレムの様子に、マーキーズは満足そうな笑みを浮かべる。
「ぬはははは!! 愉快愉快じゃ!!」
その表情は、年相応の、八歳の女の子のものである。
「マーキーズ、中に入るぞ。今後の計画を話す」
「ぬ? 了解じゃ、マスター」
マーキーズはゴーレムに開いた窓を塞ぎ、ゴーレムの中へと戻る。
ゴーレムの中にはぽっかりと空間が空いており、一つの机と四つの椅子が置かれている。
すべてが直方体の石の組み合わせでできているので、座ると冷たく固く、快適とはいいがたいが、ここがダンジョンの中であることを考えれば十分すぎる設備である。
ラウンドとマーキーズは、空いていた席へ座る。
「さて、全員揃ったな」
まるでギルドにいる様に、四人は座る。
しいて違う点は、ラウンドとマーキーズ、オーバルとハートの手首がつながっているため、距離が近いくらいであろう。
机の上にはハートがいれたお茶が並べられ、ラウンドがそれをすする。
「俺たちは、マーキーズのゴーレムでこのまま下層を目指す。フロアボスのいる階層だけは、ゴーレムから降りて戦闘が必要だろうが、それ以外なら問題ないだろ」
「うむ! このゴーレムは、第四十階層までであれば攻略の実績がある。大船に乗ったつもりでおるが良いぞ!」
「つまり、第四十一階層以降は、魔物の攻撃で破壊される可能性もあるわけか」
「マスター……。たとえそう思っても、女性への言い方と言うものがじゃな……」
ラウンドの言い草に、マーキーズは少し顔をしかめる。
とはいえ、ラウンドの性格などわかりきったもので、愚痴を一つこぼし、表情を戻す。
「ああ、それと、オーバルの力を貸してほしい。ベルドットのダンジョンは分かれ道がしばしばあるようでな、ぬしの勘でどちらに行くべきかを決めてほしいのじゃ」
「ああ、構わねえぜ」
お茶をすすりながら、今後の予定が決まっていく。
あまりにも穏やかな時間。
とても、外ではゴーレムが魔物を潰しながら進んでいるとは思えない。
第一階層、突破。
その時間、およそ十五分。
「後、八階層か。全員、二時間後まではゴーレムの中で自由にしていろ」
「マスター? 今さらっと、残りの八階層も十五分で攻略せよと言ったか?」
「つっても、俺は分かれ道に着いたときのために、待機とかなきゃなんねえし」
「吾輩は、ゴーレムの操縦がある」
「私は、ラウンドと一緒にいたい(はぁと)。けど、オーバルとつながってるから、ここから動けない……(はぁと)」
「…………」
第二階層、突破。
第三階層、突破。
第四階層、突破。
「チェックメイト」
「あぁ~(はぁと)!?また負けたぁ(はぁと)」
ハートが嬉しそうに落ち込む。
第五階層、突破。
第六階層、突破。
第七階層、突破。
「チェックメイトじゃ」
「……俺の負けか」
ラウンドが表情を変えずに敗北を宣言する。
第八階層、突破。
第九階層、突破。
第十階層、到着。
「「ヂヂヂヂ」」
フロアボスは、ジャイアントバット。
体長三十センチメートルのバットに対し、ジャイアントバットは一メートルもの大きさを持つ。
その体調の大きさに比例して、牙も長く鋭く、ただのバットでは牙の通らない獲物にも噛みつくことができる。
その巨大な体から繰り出される吸血は、もはや血だけでなく、血管さえも引きずり出すとさえ言われている、凶悪な魔物である。
「はい、ドーンじゃ」
「「ヂイイイイ!?」」
とはいえ、石を貫くには力が足りなかったようで、ゴーレムがそのまま撥ね飛ばした。
第十階層、突破。
ダンジョン突入から、およそ九十分後のことだった。




