18話 ベリドットのダンジョン02
ベリドットのダンジョンの中は、床も壁も天井も、不揃いな石が無理やり組み合わさって作られていた。
見ただけでは、耐久性など一切考慮されていないようにさえ思える。
しかし、そんな隙間だらけにもかかわらず、日の光は入らず、暗闇が辺りを覆っている。
唯一、通路上にところどころ設置された松明のみが光源である。
オパールのダンジョンのように絵画や像はなく、無機質な通路が続くのみである。
ベリドットのダンジョンに飲み込まれた一行は、通路の真ん中へと着地した。
進める先は前と後ろの二方向である。
どちらからも、微かに魔物の声が聞こえてくる。
「オーバル、どっちだ」
「前だ」
「ならば」
前進する、と言おうとした矢先、その言葉がバゲットの言葉にかぶせられ、かき消される。
「総員! 隊を組め!」
その言葉に反応し、ステップのメンバーたち百名が、横に縦に広がっていく。
進行方向に対し、縦六人、横十四人が並ぶ。
まるでラウンドたちの行く手を遮るように。
その前方にバゲットとスクウェアステップが立ち、さらに前方に縦二人、横八人の隊が並ぶ。
「何の真似だ?」
「ダンジョンを討とうとする君たちを、先行させるわけにはいかないのでね。後ろからゆっくりと着いてきてくれたまえ」
「そういうこと~」
悪びれもせずにバゲットとスクウェアステップが言う。
「邪魔だ」
「邪魔だな」
「邪魔ね(はぁと)」
「邪魔じゃのう」
ブリリアントの面々が、武器に手をかける。
「後隊、二十八名、反転。ブリリアントを止めろ」
号令とともに、二十八人のハンターがラウンド達に向き、対峙する。
個人主義のブリリアントに対し、ステップは団体主義である。
その隊のリーダー、今回であればバゲットとスクウェアステップの言葉に絶対的な指揮権があり、その言葉にそって行動する。
そのチームプレーによる強さこそが、ステップを三大ギルドの一角に押し上げた。
「たった三十人弱で、俺たちを止められるつもりか?」
ラウンドが剣を抜き、切っ先をステップに突きつける。
「もちろんですよ」
「「「キキ……キ……」」」
魔物の鳴き声が聞こえる。
ラウンドたちは、その声の聞こえる先に視線を向ける。
ダンジョンの床に。
バキバキと石を砕く音とともに、魔物が現れた。
骸骨の形をした魔物、スカルである。
それも、全身を巨大な鎧で包んだアーマースカルと、身長四メートルはある巨大なスカル、ジャイアントスカルである。
本来、アーマースカルは四十一階層以降、ジャイアントスカルは五十一階層以降で出現する魔物である。
それらが、何十体と現れた。
不思議なことに、全員の骨も鎧もところどころひび割れており、戦いに負けた直後にも見える様子である。
「ステップのネクロマンサー、お前がそうか」
「正解」
ステップのナンバー2、スクウェアステップ。
彼女はネクロマンサーであり、自分の倒した魔物をゾンビとして使役することができる。
ゾンビゆえ、魔物の体がもろくなっているという欠点はあるが、意思も痛覚もなくなり、生前ではできない動きができるという利点もある。
「オーバル、準備運動だ」
「了解」
ラウンドとオーバルが剣を取り、スカルたちを切り捨てていく。
彼らにとって、第一階層の魔物も、第四十一階層の魔物も、さしたる違いはない。
斬るのにどの程度の力がいるか、それだけの違いだ。
今回違うのは、ラウンドの手首がマーキーズに、オーバルの手首がハートにつながっていることくらいだろう。
そして、その横に、ステップのハンター二十八人が控えているということだろう。
ステップのハンターたち十四人が剣を取り、残りの十四人が杖を構える。
剣士部隊と魔法使い部隊、そしてスカルによる挟み撃ちである。
「ちょっと止まっててね(はぁと)」
が、それを見過ごすほど甘くはない。
ハートの結界魔法が、ステップのハンターとラウンドたちを区切る。
「結界魔法か。厄介ね」
スクウェアステップによる最善は、ここでラウンドたちを倒し、ダンジョンとの対話を邪魔されないことであった。
しかし、ラウンドたちの足止めにうまくいっている現状も、最善とはいえぬも望んだ展開ではあった。
倒してはまた現れる魔物に、ラウンドたちの動きは封じられた。
「よくやった、スクウェアステップ。では、俺たちは進もうか」
「オッケーよ、バゲット」
邪魔者を排除し、ステップは悠々とダンジョンの奥へ進んでいく。
魔物の声が近づく。
「「チチチチ」」
蝙蝠型の魔物、バットがダンジョンの奥から現れる。
人間の血を好むバットが、人間の匂いに惹かれて集まってきたのだ。
バットは吸血能力を持つ。
一度噛みつかれるとしばらく止まらない出血が起き、その血の匂いに反応してさらに多くのバットが群がってくる、厄介な魔物である。
そして、ベリドットのダンジョンの特徴だろう。
すべてのバットが雄と雌、対になって向かってくる。
「血を吸い取る魔物か。親近感がわくな」
ステップのナンバー2、バゲット。
職業は魔法剣士。
剣に魔法を付与して戦う。
そしてもう一つ、彼はダンジョンの石を所持している。
「吸え」
剣を掲げる。
バットに向けて、ダンジョンに向けて。
剣の切っ先が輝く。
「「チチチ……チ……?」」
途端に、バットたちの動きが鈍くなり、力なく床に落下していく。
周囲のダンジョンにも、ひびが入り始める。
バゲットは、ゲルマニウムの石を持つ。
その力は、周囲のダンジョンと魔物のエネルギーを吸収する力。
エネルギーを吸われたバットは次々と落ち、絶命していく。
「おお、さすがはバゲット様だ」
「魔物たちが次々と!」
バゲットの前に、数の利は関係ない。
すべてのバットが落ちたのを確認し、バゲットは剣を鞘に納める。
魔物は容易に倒せることが分かった。
ブリリアントも足止めに成功している。
ならば、後はゆっくりと進むだけ。
そう考え、後隊へと振り返る。
「では、進軍を開始す」
「バ、バゲット様ああああああああああ!?」
その声が届いたときには、それはバゲットの目に入っていた。
遅れて振り向いたスクウェアステップの目にもすぐに入った。
「なんだ……あれは……」
直方体の石を組みあわせて作られた、立方体の石の箱と、蟹の足のようなものが箱の左右に四本ずつ引っ付いた奇妙な物体が、スカルも後隊のハンターたちも吹き飛ばしてバゲットたちの方へと向かってきていた。
「どくのじゃあああああ!! うつけ者どもめがあああああ!!」
立方体には窓のような穴が空いており、穴からは女の子が顔をのぞかせていた。
ブリリアント所属ハンター、マーキーズ。
齢八歳にして、ハンターレベルを四十二まで上げた、早熟の天才ハンター。
職業、ゴーレム召喚士。




