14話 ブリリアント03
ティニー国、パロマの町。
ピカンの酒場。
現在のブリリアントの拠点である。
ラウンドによって貸し切られたうえ、ラウンド達がダンジョン討伐で酒場を離れていたため、昨日までは閑古鳥が鳴いていたが、今日は満席でにぎわっている。
「代金だ」
「うぇええ!? あ、ありがとうございます」
ラウンドが机に置いた、硬貨の詰まった袋を見て、ピカンの酒場の看板娘が目を丸くする。
総額にして、三億カラットの大金である。
カラットとは、八つの国で使用される共通の通貨であり、三億カラットは人間一人の平均的な生涯賃金である。
オパールのダンジョンの戦利品は、金銭的価値のある宝や研究的価値のある未知の道具など、あわせて十億カラットに上った。
並のダンジョンならば数百万~数千万カラットという事と比較すれば、途方もない額である。
ラウンドは、酒場の奥に用意させた幹部席に座る。
オーバル、ハート、オールドマイン、そしてマーキーズ、四人の幹部がそろっていた。
「……ペアシェイプは?」
「朝部屋に行ったら、探さないでくださいって置手紙が(はぁと)」
「そうか」
ラウンドは一言残すと、テーブルにダンジョン・サーチャーと日誌を置いた。
オールドマインがダンジョン・サーチャーをのぞき込む。
「……これを見る限り、次のベリドットのダンジョンもティニー国内にいるようですな」
「そうだ。モースに顔を出し終えたら、ベリドットのダンジョンを討つ」
ラウンドは、心底面倒そうに言う。
ダンジョンを討伐したハンターは、モースに顔を出し、ハンターレベルが昇格するか否かを確認するのがしきたりである。
面倒なのでてきとうなギルドメンバーに任せようともしたが、オパールのダンジョン討伐のメインがラウンドであるというギルドメンバーの総意により、しぶしぶとモースへ行くこととなったのだ、
「しかし、モースに顔を出して戻ってくるまで、数日程度では? さすがに、メンバーたちの疲労がとれていないと思われますが」
「問題ない。次のダンジョンは、俺とマーキーズの二人で行く。そっちの方が都合がいい」
そう言いながら、ラウンドは日誌をオールドマインの方へ差し出す。
日誌の開かれたページには、ベリドットのダンジョンを攻略したハンターの体験談が書かれていた。
ベリドットのダンジョンは、夫婦の幸福の試練。
男女ペアでなければダンジョンへ入ることができない。
男女ペアは一心同体であり、仲違いをした場合は石化し、片方が死ねばもう片方も死ぬ。
「縛りダンジョンですか」
ダンジョンの中には、特定の条件を満たさなければ入ることのできないダンジョンがあり、それを縛りダンジョンと呼ぶ。
今回のベリドットのダンジョンは、縛りダンジョンの一つであり、男女ペアでなければ入れないという制約を課されているのだ。
「なるほど。この条件だと、喧嘩になりそうですな」
ブリリアントは約百人のギルドメンバーを抱えるギルドであり、その男女比は九対一と偏っている。
メンバーを連れて行こうにも、十人の女性ハンターを、残り九十人の男性ハンターで取り合う構図である。
単純にダンジョン討伐へ同行したい者も、女性ハンターへの恋心で同行したい者も、平等に取り合いに参加することが予想される。
オールドマインは組織の亀裂を心配し、ラウンドは取り合いという時間の無駄を嫌っていた。
理由は違えど、結論は同じところにたどり着く。
「ふむ、オパールのダンジョンのように魔物の数がいると面倒ですが、マーキーズ殿がいればそこもカバーできそうですな」
「俺も異論はねえが、回復役にハートを連れてった方がよくねえか?」
「え、夫婦!? ラウンドとマーキーズが(はぁと)!? ラウンド、私は(はぁと)!?」
「ならオーバル、お前がハートと組んでついてこい」
「だそうだが、いいか、ハート?」
「うぅ……(はぁと)。ついて行けれないよりは……(はぁと)」
ラウンド、オーバル、オールドマイン、ハートの中で合意がとれ、ラウンドはマーキーズの方へ向く。
「マーキーズ、お前も問題ないな?」
「ふむ……」
マーキーズは、足をぷらぷらとさせながら、顎を手に乗せて考えるそぶりを見せる。
マーキーズは、ブリリアントの幹部にして、ギルド最年少の八歳の少女。
肩で切り揃えられた銀色の髪の毛と金色の瞳が、年齢にそぐわないミステリアスな雰囲気を醸し出している。
その雰囲気を強調するかのように、長袖にロングスカートの真っ黒なゴスロリファッションを身にまとい、魔女服のような黒いとんがり帽子をかぶっている。
平均よりも白い肌が、その黒さを一層引き立てている。
手に持った黒い傘をくるくる回しながら、ラウンドの目をじっと見つめ、溜息を一つつく。
「吾輩、年上よりも、年下の若いツバメを吾輩好みに調教するのが好きなんじゃけどのう……」
「お前の好みなど聞いていない」
「五歳下なぞ、涎が出るほどにドストライクじゃ」
「問題があるかないか答えろ」
「……まあ、これも任務じゃし、問題ないぞ。他でもないマスターの頼みとあらば、聞かぬわけにはいかぬしのう」
マーキーズは、くるくると回していた傘を止める。
「その代わり、一時的にとはいえ吾輩のペアとなるのじゃから、きちんと吾輩に愛情を注ぐんじゃぞ?」
「試練を達成できる程度にはな」
「え(はぁと)!? 愛情!? ラウンド、私にも(はぁと)!!」
「お前のペアはオーバルだ」
その後は日誌でベリドットのダンジョンについて確認し、ダンジョンの特性を四人で共有する。
「こんなもんでいいだろう。では、俺はモースへ行ってくる。俺がギルドに戻って着次第、ベリドットのダンジョンの討伐へ向かう。全員、準備をしておけ」
「ああ」
「はぁい(はぁと)」
「了解したのじゃ」
ラウンドは立ち上がり、ギルドの外へ向かおうとしたが、ふと何かを思い出して立ち止まる。
「オールドマイン」
「なんですかな?」
「これをお前に預ける」
そして、オパールの石を、オールドマインに向かって投げる。
オパールの石は、放物線を描いて、オールドマインの手に収まる。
「オパールの石……。ベリドットへのダンジョンへは持っていかないのですか? 強力な武器になると思いますが」
「使いこなせないものを持っていく方が恐い。俺たちがベリドットのダンジョンを攻略している間に、オパールの石の使い方を調べておいて欲しい。実験台が必要なら、ここへ行け。話は通しておく」
そう言いながら、ラウンドはオーバルに一枚の紙を渡す。
「承知しました」
「頼んだ」




