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13話 ステップ01

「宝を袋に詰めろ」

 

「その前に治療が先でしょ(はぁと)!?」

 

 ダンジョンが崩壊し、ブリリアントのメンバー全員が、地上へと帰された。

 大量の武器と財宝と共に。

 降り注ぐ太陽を浴びながら、メンバーたちは生還した事実を抱き合って喜んだ。

 ラウンドと幹部たち以外は。

 

 ハートは即座にラウンドの治療を開始する。

 オーバルとオールドマインは、あたりに散らばった宝や武器を、次々と袋へ詰め込んでいく。

 

「その石像も持ち帰れ。モースに解析させる」

 

「うっす」

 

 最終階層にあった石像も、道具として扱われるように、外へと放り出されていた。

 金銭的価値があるかはさておき、分析すればダンジョン討伐の役に立つ情報が手に入るかもしれない。

 まずは回収する。

 それだけだ。

 

 淡々と手を動かす幹部たちを見て、メンバーたちも急いで回収作業に合流する。

 

「ところでラウンド、最後のあれはなんだ?」

 

 回収を続けながら、オーバルはラウンドに最後の光景について問いかける。

 

「どれだ」

 

「アンモライトの石が砕かれた後の全部だ。ダンジョンの石は破壊できないって聞いてたから、破壊されたことにも驚いたが、破壊されたはずの石をお前が持っていたことも驚いた」

 

 ダンジョンを攻略したときに入手できるダンジョンの石は破壊できない。

 これは、人類が数十年かけて調査し、判断した結論である。

 物理的な攻撃、魔法による攻撃、自然による分解、壊すためにあらゆることを試し、まったく変化がなかったことで、そう結論付けていたのだ。

 

「破壊された理由は知らん。ダンジョン同士なら破壊できるのかもな」

 

 だが、オパールのダンジョンは、アンモライトの石を破壊した。

 それはラウンド達の目の前で起きた事実である。

 事実、破壊された直後に回帰の力を使おうとして、不発に終わっている。

 

「石が再生したのは、アンモライトの石の力だ」

 

 そして、もう一つ、石の再生については、ラウンドが検証により導き出していた仮説の一つである。

 ラウンドは、アンモライトのダンジョンを討伐した際、確かに砂への還ったはずのアンモライトのダンジョンが、突然背後に現れたことに疑問を持っていた。

 そして、仮説を立てた。

 回帰の力の発動は、意識的な発動だけでなく、特定の事象を契機とした自動発動もできるのではないかと。

 今回の場合、例えば『アンモライトのダンジョンが崩壊したことを契機に、アンモライトのダンジョンを崩壊する直前に回帰する』といった具合である。

 そして検証した。

 結果、生物の死を契機にその生物を死ぬ前に回帰させることは不可能だが、物の崩壊を契機にその物が壊れる前に回帰させることは可能、と結論付けた。

 最高の結論ではないが、悪くない結論であった。

 

 しかし、欠点もあった。

 同時に一つの物にしか契機づけできず、また一度の契機づけに一時間を費やす、燃費の悪さである。

 ラウンドは、その一枠を何に使うか考えた。

 自分の装備は買いなおせばいい。

 大剣には思い入れがあるものの、これも買いなおせばいい。

 壊れることで最も不利益を被るのは何か。

 そして、アンモライトの石そのものが最も不利益を被ると思い至った。

 

 魔物化したダンジョンの一部であったダンジョンの石は、果たして物として扱われるのか、そもそも破壊されないと言われている石が壊れることはあるのか、などと色々と考えはよぎったが、影響の大きさからアンモライトの石自身に使用した。

 

 結果、オパールのダンジョンに破壊されたアンモライトの石は、自動的に回帰され、ラウンドの手の中に戻ったのだ。

 

「ぎりぎりだったな」

 

「勝てばなんでもいい」

 

 もしもアンモライトの石が回帰しなければ、もしもえぐりとられたのが左腕でなく心臓だった、もしもオパールのダンジョンが人間の死を創造できていたとしたら。

 もしも、もしも、もしも。

 ラウンドが敗北する可能性も十分にあった戦いだったと言えるだろう。

 ラウンド自身もそれは理解しており、宝を回収しつつ、次を考えていた。

 より強く、より確実にダンジョンを討伐する方法を。

 

 

 

「ずいぶんと大量だな」

 

 思考を巡らせるラウンドに、突然声がかけられる。

 ブリリアントのメンバーの、誰でもない声。

 ラウンドは、剣に手をかけて振り返る。

 そこには、三人の男女が立っていた。

 中年と呼べる男性と、若い二人の男女。

 

 中年の男性は、にこにことほほ笑みながら、近づいてくる。

 歩くたび、左右に二つずつある海苔巻きのようなカールと腰に帯刀する剣が、上下にぴょんぴょんと揺れる。

 金色の装飾が施された、エメラルド色のテーラードジャケットとスラックスという装いは、どこかの貴族を思わせる。

 その左右を歩く男女もまた、色違いの装いで、男性は白で、女性は黒で

全身を包んでいた

 

 見知った中年男の顔に、ラウンドは剣から手を放す。

 

「てめぇか、何の用だ」

 

 彼らはハンターギルド・ステップの一員。

 ステップとは、三大ギルドの一角に君臨するギルドである。

 十年前、ダンジョンの魔物化に伴い発足した。

 ブリリアントより歴史があるとはいえ、ギルドの中では若い部類である。

 しかし、歴史の浅さとメンバーの粗暴さゆえに三大ギルドとして適切なのかを疑問視されているブリリアントとは違い、組織として整ったステップにはそういったものがない。

 誰もが認める。三大ギルドの一角である。

 その理由こそが、ラウンドの前に立つ男、ステップのギルドマスター、エメラルドの存在である。

 

「貴様、レベル五十五風情がエメラルド様に対して無礼だぞ!」

 

「そうよ、エメラルド様に謝ってください!」

 

「誰だてめえら」

 

「「……!!??」」

 

 噛みついてくる二人の男女に、ラウンドが怪訝な表情で聞き返す。

 自分を知られていないことにプライドが傷つけられたのか、二人は顔を真っ赤にして口を開こうとする。

 

「よい」

 

 それを、エメラルドは手で制する。

 

 余談だが、エメラルドは、偽名である。

 彼の本名はありきたりな名前で、その名前を嫌って捨てたと噂されている。

 名前を捨てて以降、彼は難易度の高いダンジョンを攻略するごとに、そのダンジョンを自らの名前として名乗り始めた。

 名乗り始めたばかりの頃は、変な奴だと笑われもしたが、オパールと名乗り始めた頃から世間の風向きが変わった。

 十二大ダンジョンを落とせる実力者として、世間が認知し始めた。

 そして今、彼はエメラルドを名乗っている。

 十二大ダンジョンの一つ、八十の階層をもつエメラルドのダンジョンの名前を。

 

 ハンターレベル八十。

 エメラルドは、現ハンターの最高位である。

 

「ふっ。私にそんな口の聞き方をするのは、王族貴族の連中を除けば君と数人くらいのものだ、ラウンド」

 

「何の用だ?」

 

 ステップは、ダンジョンとの共存を掲げているギルドである。

 それゆえ積極的なダンジョンの討伐を行っておらず、オパールのダンジョンがいたこの場所へ来る理由は討伐以外である。

 

「ティニー国から依頼を受けたのだ。国内にオパールのダンジョンが現れたから、万が一の場合は共に戦ってほしい、とな。それで近くの町に待機をしていたのだが、突然ダンジョンの気配が消えたので、見に来たというわけだ」

 

「そうか、ご苦労なことだ」

 

「……余計なことをしてくれたものだな」

 

 エメラルドの表情が、微笑みから真顔に変わる。

 目の中には、いささかの怒りが見て取れる。

 

「十二大ダンジョンの一角が、落ちた。人間とダンジョン、今まで保たれていた均衡が崩れたのだ。君のせいでな。」

 

「はっ!均衡なんざ、最初からねえよ」

 

「あったさ。人間が町に攻め込んでくるダンジョンを討ち、ダンジョンが攻め込んでくる人間を討つ。これが均衡でなくて何なのだ」

 

「人間を討つ自体で論外だ。ダンジョンは絶対撲滅だ」

 

 ラウンドの目的は、ダンジョンの撲滅。

 そこに人間のためだとか、世界平和のためだとか、高尚な理由はない。

 私怨である。

 エメラルドの目的は、ダンジョンとの共存。

 ダンジョンに攻め込んで命を落とす人間の数と、ダンジョンを討伐して人間が受け取ることのできる利益を天秤にかけた。

 合理性である。

 

 エメラルドは、小さくため息をつく。

 

「まったく、君とはいつも話が合わんな」

 

「合わせる必要がない。正しさは結果にある」

 

 ラウンドがダンジョンを滅ぼせば、ラウンドの言葉が正しい。

 ラウンドが道半ばで死ねば、エメラルドの言葉が正しい。

 いつだって、正しさは生者が作る。

 

 エメラルドは身を翻し、町の方へと戻っていく。

 二人の男女も、ラウンドをにらみつけた後、エメラルドの背についていった。

 

「無駄な時間だったな。お前たち、宝を詰め終えたら運べ。ギルドへ帰還する」

 

 

 

 

 

「なんっなんですか、あいつ!」

 

 黒服の女性が憤る。

 

「まったくだ。ブリリアントのギルドマスターだか何だか知らないが、レベル五十五風情が偉そうに!」

 

 白服の男性も憤る。

 

「よしなさい、二人とも」

 

「しかしエメラルド様、こうも格下の奴らに舐められるとは」

 

 白服の男性――バゲットのハンターレベルは六十一。

 黒服の女性――スクウェアステップのハンターレベルは六十一。

 どちらも、ハンターレベルの上では、現時点でラウンドよりも上位のハンターである。

 それゆえに、エメラルドに対するラウンドの態度を見過ごせなかったのだ。

 格下のハンターの、敬意さえ感じられない言葉に。

 

「ふっ、格下……か」

 

 レベル八十のエメラルド。

 レベル五十五のラウンド。

 ハンターレベルだけ見れば、ラウンドはエメラルドに大きく劣る。

 だが。

 

「バゲット、スクウェアステップ。君たちはダンジョンを討伐する場合、何人で入る?」

 

「「え?」」

 

 二人は少し考える。

 

「俺は、十人くらいでしょうか」

 

「あたしは、百とか二百とかですね」

 

 思い描く最強のメンバーで攻める、少数精鋭を好むバゲット。

 敵に合わせて攻め手を変えながら攻める、数の利を好むなスクウェアステップ。

 どちらも間違っているとはいえず、ハンターの数だけ戦い方がある。

 

「普通のハンターならそうであろう。仲間と協力し、ハンターレベルをあげていく。しかし、ラウンドは単身でダンジョンを討伐し、レベルを五十五まであげている」

 

 二人は、何を言っているのか、しばらく理解できなかった。

 ダンジョンに一人で潜る、それがどれほど無謀なことか、知っているからだ。

 ダンジョンの一階層を攻略するのに、平均して二時間がかかると言われている。

 五十階層のダンジョンを攻略する場合、百時間だ。

 強いハンターは、平均の半分以下で攻略できることもあるが、それにしたって五十時間だ。

 二日と二時間。

 人間である以上、その間に食事が必要で、休憩が必要で、睡眠が必要である。

 相性の悪い魔物もいれば、連戦で疲労は確実に蓄積する。

 一人でダンジョン潜ることは、ハンターのセオリーからいってあり得ないことなのだ。

 

「私が彼の言動を不問にしているのは、彼の実力を認めているからだ。求める未来こそ違うがな」

 

 エメラルドは寛容である。

 対等な人間同士であれば、多少の口のきき方など些事と考える程度には。

 

「しかし、エメラルド様の言葉でも、とても信じられません。たった一人で……ダンジョンを……」

 

「普通の人間なら、まず無理だろうな。だが、彼は普通じゃない。だから強いのだろうがな……」

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