15話 モース02
「オパールのダンジョン討伐、おめでとうラウンド」
「ああ」
「……十二大ダンジョンの一角を落としたというのに、あまり嬉しそうではないな」
「まだ十二分の一だ」
モースのギルドの一室、ギルドマスターの部屋でラウンドとフリード・リッヒは向かい合っていた。
机には、宝石で装飾された白いカップが置かれており、中にはストレートテォーが注がれている。
高価な飲み物ではあるが、ラウンドはさっさと飲み干した。
「もう少し、味わって飲んではどうか?」
「いらん」
ラウンドは食事の楽しみを捨てている。
トレーニングの時間を割く食事を捨て、全てを完全栄養豆に切り替えた。
時間の大半を、自身が強くなるために使うために。
どれだけ高価な飲み物であっても、飲む時間そのものが、ラウンドにとって無意味な時間である。
「せっかちだな」
フリード・リッヒは、ラウンドの前方へ一枚の羊皮紙を渡す。
第六十五階層を制覇したラウンドに対する、ハンターランク六十五への昇格を通知する紙である。
ラウンドは、軽く目を通し、鞄へしまった。
「興味はなしか」
「ハンターランクはダンジョン討伐の役に立たない」
「そうか。では、興味のある話をしようか」
そう言って、フリード・リッヒは石のかけらを一つと数枚の紙を取り出す。
「これは?」
「君がオパールのダンジョンから持ち帰った、石像のかけらだ」
オパールのダンジョン討伐で得たいくつかの資源を、ラウンドはモースへと渡し、解析を依頼していた。
そのうちの一つが、最終階層でオパールのダンジョンが魔物の創造に使っていた石像である。
今後、オパールの石を使うにあたり、能力の解析のヒントになるのではないかという打算があった。
「それで?」
「うむ。これは石だ。何の変哲もない、ただの石だ。特別な何かはまったくない」
「なるほどな」
つまりは、ただの石を創造の媒介にできるということだ。
絵画や鎧もオパールのダンジョンの能力とは無関係の物だとすれば、石以外のあらゆる物が媒介にできる可能性もある。
また、オパールのダンジョン自身は、媒介なしに触手を生やしたり無を創造していたことより、本来は媒介さえ必要としない可能性さえある。
一方で、オパールのダンジョンは石像や絵画という媒介を多用していた。
媒介を使用しない場合、なんらかのデメリットがあったのか、それはまだわからない。
「検証だな」
ラウンドは、解析結果の書かれた紙をしまう。
「他に何かわかったことは?」
「今のところ、これだけだ」
「わかった。引き続き、解析を頼む」
「待て、ラウンド」
荷物を持ち、出口へと向かうラウンドを、フリード・リッヒは呼び止める。
「なんだ?」
「今からベリドットのダンジョンへ挑む気だな?」
「そのつもりだ」
フリード・リッヒは、ちらりと部屋の隅の机へ目をやる。
机の上には、ダンジョン・サーチャーが置かれており、ベリドットのダンジョンがいるだろうティニー国内までの距離と方角を示している。
ダンジョン・サーチャーは、二つのモードを持つ。
中に入れたダンジョンの石に応じて、次のランクのダンジョンまでの方角と距離を表示する、サーチモード。
そして、指定したダンジョン・サーチャーと同一の画面を表示する、リンクモード。
モースと三大ギルドは、それぞれダンジョン・サーチャーのリンクを実施しており、好きな時に他のギルドの状況を知ることができるのだ。
表向きは、協力体制という位置づけだ。
現在、モースのギルドマスターの部屋に置かれたダンジョン・サーチャーは、ブリリアントのもつダンジョン・サーチャーとリンクされており、フリード・リッヒはラウンドが既にベリドットのダンジョンの場所を把握していることを知ったのだ。
「なぜ、そんなに急ぐ。オパールの石の力は強力だ。解析結果を待って、その力を引き出せるようになってからでも遅くはあるまい」
「遅い。ダンジョンは一秒でも早く撲滅しなければならない」
そのままラウンドは、部屋を後にした。




