第八話
政宗が部屋でゆっくり休んでいたころ、外からどんどん!という足音が聞こえた。
すぐに誰かわかった。
「伊達殿ぉぉぉ!」
やはりだ。こんなにうるさい足音をたてられるのは、池田輝政しかいない。
お茶を少しすすったあと、大きく息を吐いた。
なんとなくだが、あの手の者とはあまり分かり合えない。
だが、ちゃんとした対応もせず帰すのも角が立つ。
ここは少しばかり対応しておこう。
「伊達殿!!」
伺いもせずに、襖を全開にして部屋に入ってきた。
心なしか目が血走っている気がする。
正直、恐ろしい。
「て、輝政殿」
予想をしていたものも、その様子に驚きは隠せなかった。
いや、誰も隠せないだろう。
「如何した」
それでも平静を装うことが出来るのは、さすが政宗というべきところなのだろう、おそらく。
輝政は失礼する、と一言断りをいれ政宗の前にどすん!と座った。
「実は、おやっ…ごほん!家康殿に言われてここに参った」
いつも呼んでいるであろうその呼び名は、今ここでいうにはふさわしくない。
そう思ったのだろう。
「伊達殿は何度も七並べをされていると。なれば、伊達殿がもつ全ての技をを、この某にも伝授して頂きたい。」
全て、家康の台本通りである。
決まりを説明したさい、政宗が言った言葉を逆手にとり、上手く技を聞きだそうとしている。
いや、ここでいう技は悪計であろう。その意図も読み取った。だが、そうとすると一つの疑問が生まれる。
「それは池田殿が思うている言葉なのか?」
「当然、某の意思でもある」
少しマヌケな顔をみせながら、輝政も答えた。
輝政が考えたとは思えない。真っ直ぐの道しか見ていない輝政には悪計を考えるなど無理だろう。
「左様か」
少し食い気味にきいてくることを不思議に感じながらも、しっかりと答える。
「左様でござる。しかし、家康殿は少し変わったことを仰った。わざわざこの通りに言え、と某に暗記をさせたのでござる」
これも台本通りである。
様々な意図が隠された言葉に驚きを隠せず、片目しかない目を大きく開いた。
「どうされたのでござるか、政宗殿」
こんなに驚かれると思わなかった輝政は、またもやマヌケ顔だ。
「いやいや、何もない。まったく、戦上手な方だ」
そう言いながら口の端をあげながら自分の後ろに手を伸ばし、一枚の紙を渡した。
「これは…?」
「拙から家康殿へ文だ。誰にも見せず、すぐに渡してほしい」
頼まれたことに責任感を感じているのか、一度キリッとした顔になったのち、承った!と大きく返事をした。ちなみにだがこんな近い距離で大きな声を出す必要はないのではない。だが、輝政は出す。そういうやつなのだ。
あぁ、よろしく頼む、と政宗が返事した時にはもう、輝政はいなかった。




