第七話
会議が終わり、一段落したところ。
家康は一人で部屋にいた。
戦略を考える為だろう。
この遊戯をするのは誰もが初めて。
もう一度、決まりを確認する必要がある。
だが、経験が一度もないなか必ず勝てる方法など決まっている。
悪計を働くしかない。それは決まりだ。
だが、このことを儂が聞きに行っても一筋縄では教えてくれまい。
そもそも決まりは一度しか言わないと言っていたはずだ。
待てよ、大将と言っていたはずだ。
大将というと、家康と三成。
つまり、それ以外と人物はいいのか。
いや、いいのだ。
輝政に聞きに行かせよう。
さっそく、輝政を部屋に呼んだ。
「親父殿、お呼びですか」
また、少しばかり遅い。督姫のとこにいたのではないか、と家康は疑う。
少しイラついたが、今は怒っているときではない。
「輝政、政宗殿のところにいって決まりを聞いて来い」
家康の言葉に驚いた。
それはいけないのではないか、と思う。
決まりは一度しか言わないと言われたのだから。
「それならば、もう一度皆を集めるでござる」
こいつは本当の阿呆なのではないか、と家康は思う。
そんなことをしては、戦略の意味がないだろう。
「そんなことをしてはならん。決まりを聞くだけではなく、策もしっかり聞いてくるのじゃ」
「なっ!そんなことをしては西軍が不利になってしまいまする!この遊戯は、それをなくすために決められたものでござりましょう!」
こいつは本当の阿呆だ、と確信した。
「いいか、輝政。儂の話をよく聞け」
家康は命令するだけでは輝政は動かないと判断し、他のやり方で説得することにした。
「お前の言うことは最もじゃ。じゃが、もしこの戦に負ければどうなると思う」
「当然、腹を切ることになりましょう。でも某はその覚悟もありまする!」
顔を真っ赤にして、自分の武士の魂を話す。だが、家康にとってはどうでもいい。
「お前にその覚悟があることは十分わかっておるわ。儂が言いたいのはそのことではない。男は腹を切って終わるが、女子である督姫はどうじゃ」
はっとした顔をする輝政。
戦国の世では、跡継ぎである男は戦に負けたら腹を切るものである。
たとえ、それが赤ん坊であっても。
だが、女は比較的助かることが多く、城から逃げ出したり、勝者に引きとられることもあっただろう。
引き取られるならいいではないか、と思いがちだが、父親の仇に従うことになり、更にそれを養父とするのだから、屈辱以外の何者でもない。
ちなみにの話だが、戦国一の美女・お市の娘である茶々は弟も父も母も殺した相手の側室になった。
彼女にとったら死ぬ方がマシな程の屈辱だっただろう。
この合戦でもし、東軍が負けた場合、督姫はどうなるのか。
「大事な愛娘があの三成や大谷に好き放題されるなど、儂は堪えられん」
「そ、某も、そのようなこと耐えられませぬ!」
何を想像しているのか、輝政は頭を真っ赤にして鼻血を出しながら、立ち上がる程までに興奮していた。
おそらく、怒りの感情もあるだろう。それに勝る感情もありそうだが。
「その為には勝たねばならん。そのためには戦略が必要、わかるな?」
「はい!」
勢いよく返事をする輝政。何故か笑っている。
もう、姫を守るヒーローにでもなったつもりなのだろうか。
「某は姫を守れる立派な男になりまする!親父殿、行ってまいります!」
「あぁ、よろしく頼んだ。ちゃんと儂が言う通りに言うのじゃ」
「はい!」
輝政の気合いはまた違うところに行っているが、まぁいいだろう。
家康の悩みを詰め込んだため息はすぐに消え、代わりに城を揺らす程の輝政がたてる足音が響いた。




