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【完結】流星の星霊術士  作者: 折尾リク
一章 七つの奇跡
7/48

日常

 学園に入学して一週間が経とうとしていた。ようやくこちらの生活にも、少しずつ慣れ始めてきたところだ。


 さて、今日も今日とて授業が始まる。


「星霊術は攻撃、防御、補助とその用途は多岐にわたるが、同時に最大の欠点がある。それは何か分かるかね?」


「星霊術では肉体を大きく回復させることができません。可能なのは、自己治癒力をわずかに強化する程度です」


 ハキハキとした、迷いのない答え。流石はクラス一の秀才、ステラだ。


「正解だ。これまで幾度となく回復の星霊術は研究されてきたが、芳しい結果は得られていない。それは何故か? 空気中の魔力自体に問題があるからだと、私は……」


 淡々と続く先生の講義を聞きながら、僕はふと両親のことを考えていた。


 もし、失った部位を再生させるような高度な回復術があれば、父さんは腕を失わずに済み、母さんの顔にも傷は残らなかったのだろうか……。


「――というわけだ。今日の授業はここまでにしよう。それと、明日は王都近郊の森で実戦形式の訓練を行う。そのつもりでな」


 言い終えると、先生はいつものようにそそくさと教室を去っていった。


「そういえばステラ、部活は何にするかもう決めたの?」


「うーん、いまいちピンとくるものがなくて……」


「『筋肉研究部』はどうだ?」


「それは、絶対嫌!」


 即座に拒絶。アランも冗談のつもりだろうが、ステラの反応は容赦なかった。


「でもよ、一週間以内に部活決めなきゃいけない決まりだろ? そろそろマズいぜ」


「アスターは『星霊研究部』にしたのよね?」


「うん、メグ先輩に、なかば強引に誘われて……」


「メグ先輩って……もしかして、あの『スピカ』の継承者の?」


「そうだけど……」


「星霊研究部って、今は何人いるの?」


「僕とメグ先輩だけだよ」


「……随分と親しいみたいね。ふーん、『メ・グ・先・輩』、ねぇ……?」


 ステラの声の温度が、あからさまに数度下がった。ジト目で睨まれて、僕は思わず身をすくめる。


「決めたわ! 私も星霊研究部に入部する!」


「えっ、いいの? 正直、あまりお勧めはしないけど……」


「い・い・の! 行くわよ、アスター!」


「……凄い気迫だ。これが『恋する乙女』ってやつか?」


 背後でアランがそんなことを呟いていた気がしたが、今の僕には振り返る余裕なんてなかった。


 ***


 部室の扉を開けるなり、メグ先輩が満面の笑みで僕たちを迎えてくれた。


「いやー、やっぱり来たね、ステラ・ミモザくん! 私のことをメグ先輩と呼ぶことを許可しよう! だから私も、君のことはステラくんと呼ばせてもらうよ!」


「メグ先輩には、負けませんから!」


「おや……なるほど、なるほど! そういうことなら受けて立とうじゃないか、ステラくん!」


 ニヤニヤと楽しそうに笑うメグ先輩。二人の視線が交差する間に、バチバチと目に見えない火花が散っているように見えるのは、僕の気のせいだろうか。


「と、ところで! 星霊研究部って具体的に何をするんですか?」


「特にはない! 何をするもしないも自由だよ。かつては幽霊部員もいたくらいだ。私は自身の研究を進めているが、君たちは数合わせとして名前を置いておくだけでも構わないさ」


 強気な物言いだった。けれど、その声の端には、どこか寂しげな響きが混じっている。


「数合わせだなんて言わないでください。せっかく同じ部活の仲間になったんです。僕も、メグ先輩の研究に協力します」


「私も協力するわ。数合わせなんて性分に合わないもの!」


「君たち……っ」


 メグ先輩は一瞬きょとんとした後、その大きな瞳にみるみるうちに涙を溜めていった。


「「め、メグ先輩!?」」


「……泣いてないよ! 多分、ドゥーちゃんが私の目に悪戯を仕掛けてきたのさ!」


「そんなことしてませんのー!」


 眩い光を放ちながらドゥーちゃんが現れ、即座に空中からツッコミを入れた。


「えっと……何、この星霊?」


「この子がドゥーベ、僕はドゥーちゃんって呼んでるんだ」


「えっへんですの!」


「可愛らしいわね、よろしくねドゥーちゃん」


「アスターくん、ステラくん、入部してくれて、本当にありがとう」


 メグ先輩が、今度は茶化さずに深々と頭を下げた。


「頭を上げてください、メグ先輩。僕たちはもう、仲間なんですから」


「そうよ、そんな殊勝な態度、調子が狂っちゃうわ」


 少し照れくさそうに笑うステラに、メグ先輩も屈託のない笑顔で応えた。


「二人とも、これからよろしくね!」


「これで廃部の危機は乗り越えたわけだな、メグ君」


 いつの間にか、ドアの前にブラーエ先生が立っていた。


「気配を消して入ってくるのはやめてくださいよ、先生! 二人が驚いているじゃないですか」


「性分なものでな。これで、ここが『変人同好会』などと揶揄されずに済むな」


 変人同好会……メグ先輩は少し強引なところがあるけれど、変人とまではいかないはず。となると、先生自身の自覚が……。


「何か失礼なことを考えていないかね、ハウト君?」


「いえ! 決して!」


 僕は冷や汗をかきながら、全力で否定した。


「ミモザ君も、苦労するだろうが精進したまえ。では、二人の入部届を出しに行ってくる」


「私たちも、今日は解散にしようか!」


 メグ先輩の合図で、僕たちはその場で解散となった。

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