決闘
講堂での入学式を終え、高等部一年生の星霊術士は専用の教室に集められていた。
この王立学園では貴族から平民まで広く門戸が開いている、と言うのは建前で、実際の所は隣国の軍事国家アストロ帝国に対抗するための人材育成機関である。
星霊術士には先天的な才能も必要なため、星霊術士クラスには平民も多い。
その中で一際目立つ存在がいた、そう赤髪の彼女だ。
「あなたは昨日の! そのっ、本当にごめんなさい!」
彼女は深々と頭を下げる。
「いいよ、気にしてないから」
ちょっと恥ずかしかったけれど、平謝りされては、こう答えるしかないだろう。
それにしても、どこかで見たことのあるような、懐かしいような……
「えっと、私の顔に何かついてるかしら?」
おっと、マジマジと見すぎたか。
「ちょっと! ステラさんに何頭を下げさせているのよ!」
急に取り巻きらしき女性が、僕にそう言い放つ。
「「いや、これには事情が」」
僕とステラさん? で彼女を宥めようとした。
「なんだか知らないけど、決闘よ! ステラさん、こんな奴やっちゃって下さいよ!」
「いや、決闘なんて私は……」
ステラさんも流石に困惑しているようだ。
「いいじゃないか、内部生と新入生の力を見るにはちょうどいい……」
いきなり背後から声がしたので、僕は振り向く、ライラさんに良く似た人物が立っていた。
その人はライラさんと瓜二つだが、眼鏡をかけている、そして顔色が明らかに悪く、正直不気味な雰囲気を醸し出していた。
「私の名はブラーエ、このクラスを受け持つ教師だ……」
もしかしてライラさんの弟?
「先生のお墨付きも頂いたことだし、早速決闘よ!」
取り巻きの彼女は息巻いていた。
「「どうしてこんなことに」」
僕とステラはうなだれた。
クラス全員で校庭に移動して、いよいよ決闘が始まる。
目立っちゃダメなのになぁ……仕方ない。
「はぁ、私の名はステラ・ミモザ! 一等星霊ミモザの使い手よ! 気は乗らないけどやるからには全力で行くわ!」
彼女は高々と宣言する。
ミモザの使い手、どれほどの実力なのだろうか?
「僕の名はアスター・ハウト! 星霊ドゥーベの使い手だ!」
流石にフォーマルハウトの名前を出す訳にはいかない、ドゥーちゃんの力だけで戦おう。
「ドゥーベ? 聞いたことない星霊ね」
そうなのか?
少しの違和感を覚えつつも、目の前の戦いに集中した。
「武器は木剣のみ、星霊術による攻撃は下位星霊術のみ許可する……それでは、始め!」
ブラーエ先生の合図とともに、彼女は猛スピードで突っ込んできた、そして目にも止まらぬ速さで斬撃を繰り出した。
こちらも星霊術で身体強化を行い、彼女の斬撃を受け止める。
凄い力だ、ミモザの力は伊達ではないと言うことか。
彼女の雨の様な斬撃を受け流しながら、時折カウンターを入れる、しかしその全てを彼女は華麗に受け止める。
埒が明かないと見たのか、彼女は星霊術を繰り出す、火球の連発と斬撃の嵐。
こちらも本気を出さないと負けそうだ。
いや? 目立ちすぎる訳にはいかないし、負けていいのか。
そんな事を考えつつ、彼女の攻撃を捌き続ける、とうとう彼女は痺れを切らしたのか、巨大な火球をこちらに放つ。
これは下位の星霊術なのか? だが丁度良いタイミングだ。
僕は軽く防御の星霊術を展開しながら、火球にワザとらしく当たってみせた、瞬間、火球は爆発を起こし、僕は派手に吹っ飛んだ。
「ステラさんの勝ちよ!」
取り巻きの女子が歓喜の声を上げる。
「ふむ……勝者ステラ・ミモザ君」
ブラーエ先生が宣言する。
「いやー、負けたよ、ステラさんは強いね」
「あなた、それ……」
ん? おっといけない、母さんから貰ったお守りを落としていた。
「後で話があるわ、談話室に来て」
そう言い残すと、彼女は去っていった。
話? なんだろう? もしかして手を抜いていたのがバレてたか?
「さて、今日はもう解散だ、また明日な……」
ブラーエ先生はそう言うと、そそくさと校舎に戻って行った。
「お前、やるな!」
急にクラスメイトの男子に話しかけられた。
「えっと……?」
「俺はアラン、アラン・ブラウンだ! 一等星霊の使い手にあれだけやれるのは凄いぜ!」
彼はジャックおじさん並みに大きい、それに制服の上からでも分かる位、筋肉がある。
「そうかな? 負けちゃったけどね」
ステラさんは強い、本気を出しても簡単に勝てる相手ではないだろう。
「星霊術での身体強化、見事だったぜ」
「ありがとう、そうだ僕も自己紹介しないと、アスター・ハウト、アスターでいいよ」
「おう、それじゃ俺もアランでいいぜ! ヨロシクな! アスター」
「こちらこそ、よろしく! アラン」
こうして僕は、決闘を終え、初めての友人ができたのだった。
談話室に入る、そこにはすでにステラさんがいた、他に人はいないようだ。
「単刀直入に聞くわ、あのお守り、誰から貰ったの?」
「誰って? 母さんだけど」
何でそんな事を聞くのだろう?
「そ、その人の名前は?」
彼女はどこか緊張と期待が入り混じったような声で僕に問いかける。
「ソフィアだけど……ってステラさん?」
彼女の目に涙が、何故だろうか?
「生きてた……ソフィアお姉ちゃん! お姉ちゃんは元気なのよね?」
「母さん? 元気すぎるくらいだよ」
彼女は安堵した表情をして、何かを僕に見せた。
「これ、僕のと同じお守り……?」
随分とボロボロになっているが、確かに同じお守りに見える。
「と言う事は、あなたフォーマルハウトなんでしょ?」
バ、バレた!? 不用意に母さんの名前を出したからか?
「隠さなくてもいいわよ、何か訳があるんでしょ」
「う、うん」
隠しても無駄なようだ、それに彼女も言いふらしたりはしないだろう。
「うん? アスター・フォーマルハウト? うーん?」
彼女は唸っているが、今度はどうしたんだろう?
「あーっ!」
急に声を上げるものだから僕はビックリした。
「アスターって、孤児院にお姉ちゃんとよく来ていたよね!」
孤児院? 確かに王都に住んでいた頃はよく母さんと行ってたな……ん?
「ステラさんって、あのステラか! 確かに少し見覚えがあると思っていたんだ!」
僕とステラは幼馴染だったのだ、戦争が終わってからは、会う機会がなかったけど。
「お姉ちゃんは生きていたし、幼馴染とは再会できたし、今日は良い日ね!」
彼女は上機嫌そうだ。
「僕もステラさんと再会できて嬉しいよ」
変な再会の仕方だったことには目を瞑っておこう。
「ステラよ」
「えっ?」
「私もアスターって呼ぶから、昔みたいにステラって呼んで」
彼女は顔を赤らめながら、そう言った。
「改めてよろしく、ステラ」
僕は微笑みながら、言った。
「何ニヤニヤしてるのよ、アスター!」
「ニヤニヤなんてしてないよステラ」
僕たちの笑い声が談話室に響いていた。
お姉ちゃんが生きてた、幼馴染とも再会した。
「嬉しいよ、嬉しいはずなのに」
お姉ちゃんは、私を見捨てたの? いいや違う、きっと何か理由があるはず。
「お姉ちゃんは、私を捨ててない、捨ててない……」
私は自分にそう言い聞かせるように呟いた。




