最後の号令
王国に現れた『聖女』、その奇跡に対抗するため、我が帝国は『邪神』と取引をした。
邪神の名はデミウルゴス。その『知識』によって我が帝国は急速に発展した。
ヤツのもたらす機械やシステムを次々と導入し、臣民の生活は格段に向上した。
聖女の奇跡によって我が国が滅ぼされるかもしれない――そう恐怖した我は、右腕である暗殺者を仕向けた。しかし結果は失敗。次に邪神は、ギルドカードシステムによって王国を支配することを提案してきた。
その結果も失敗に終わった。あと一歩で王国を掌握できるはずだったというのに。
……その頃からだ、邪神の要求が苛烈さを極めていったのは。
まずは美女を献上しろと要求してきた。従わざるを得なかった、逆らえば国が亡ぶ。
その次は、ダミーに改名しろと言われた。身代わりや木偶の坊を意味する名前らしいが、名前を変えるぐらいなら、別に構わない。
我は賢帝とまで言われていた皇帝だった。だが、聖女の奇跡を恐れるあまり、あまりにも愚かな選択をしてしまった。
臣民に不幸をもたらし、邪神にいいように使われる。そんな皇帝に価値などない。
我が右腕までもが、正気を失って消えた。これも、すべては邪神の仕業なのか……?
宮中は正気を失ったものばかり。このままでは、我も正気が失われるのも遠くないうちに……。
魔人国のクーデターが鎮圧されたようだ。また邪神に呼ばれている、何の用だ……?
我が名はダミー
我が名はダミー
我が名はダミー
***
皇帝が懐からマイクのようなものを取り出し、そして帝都中に号令をかけた。
「我が名はダミーではない! 皇帝カストルである! 我が臣民よ、アスター・フォーマルハウトと協力し、邪神デミウルゴスを撃て!」
そう皇帝が叫んだ瞬間――。
帝都中が歓喜に沸いた。賢帝の帰還、邪神討伐の号令。
皇帝が僕に微笑んだ、その時だった――。
皇帝の心臓をヤツの手が貫いた。
血を大量に吹き出し、崩れ落ちる皇帝。その死に際の言葉を僕は聞き逃さなかった。
「帝国を……世界を……頼む……」
そして、夜空に浮かぶ満月が雲に隠れ、ヤツがその姿を現した。




