司令塔での戦い
セーフハウスに戻ると、黒装束の男はすでに帝国の一般兵士の服装に着替えていた。
「早かったな、もうショッピングはいいのか?」
男が少し僕たちをからかうように語りかける。
「献上品にされた少女たちは、どうなったんですか?」
僕は真剣な表情で男に詰め寄る。
「デミウルゴスの献上品にされれば、あいつのいる異界に送られ、玩具にされ、捨てられる……」
男は険しい表情で僕たちに告げた。
デミウルゴスはこの世界の敵だ。僕はそう確信した。
「奴は帝国の臣民を生贄にして、本体を降臨させようとしている。タイムリミットは今日の深夜だ。それまでに皇帝の精神支配を解き、『アルテミス』のコントロールを奪う必要がある」
「なぜ、アルテミスのコントロールを奪取する必要があるんですか?」
ただの一兵器にすぎないアルテミスが、デミウルゴスの降臨とどう関係しているのだろうか……。
「アルテミスには、人々を生贄にする力がある。今日は満月、アルテミスの力が最大になる時だ。最大出力でデミウルゴスを降臨させるってわけだ」
「皇帝の精神支配はどうやって解除する?」
男は少し考え込むと、美香の方を向いた。
「俺にやったみたいに、聖女の奇跡で解除する。皇帝が正気に戻り、アルテミスを奪取すれば、デミウルゴスが降臨することはないだろう」
「美香、できそう?」
「うーん……暗殺者さん、あなたの名前を教えて」
美香は突然、男の名前を尋ねた。
「俺に名前はない。好きに呼べ」
美香は「うーん」と唸りながら男の名前を考えている。
「じゃあ、クロで!」
「俺が黒装束だったからか……?」
「違うよ、カッコいいじゃん、クロって!」
美香は目を逸らしながらも、力説している。
「まあいい。なんで名前なんか付けようとした?」
「クロさん、私たちを信用できますか?」
「別に、ただの協力関係……っ!?」
美香の顔つきが『聖女』のものへと変わる。
「わかった、我が主に誓って。お前たちを信用しよう」
美香の疑似奇跡は、信じる心がなければ発動しない。だからこそ、クロに自分を信じさせたのだろう。
***
「もう時間がない。手短に作戦を話すぞ。アルテミスには防衛機構がある。それはアルテミス内部ではなく、司令塔で管理している。まずは司令塔を叩いてシステムをダウンさせる。その後、アルテミスに接近してコントロールを奪う。いいな!」
クロの説明に、僕たちは力強く頷いた。
僕たちは、アルテミスがある帝都内の基地に侵入した。
司令塔に急ぐ僕たち。クロが持つ的確な情報のおかげで、帝国兵の厳重な監視網をすり抜けることができた。しかし、司令塔の内部に潜入した直後から、帝国兵の激しい抵抗に遭う。
「侵入者か! 警報を鳴らせ!」
「させん!」
クロは星霊術を使い、警報を鳴らそうとした兵士を優先して仕留めていく。おかげで、僕たちは目前の敵に集中することができた。
クロの放つ星霊術は、これまでに見たことがないものだった。影を操る星霊術――その技を駆使して、次々と敵を無力化していく。
人を傷つけることにまだ抵抗はあったが、デミウルゴスが降臨すれば、被害はその比ではない。僕は心を鬼にして、ただ剣を振るった。
「この先だ」
クロの案内で、司令塔の最深部にたどり着く。
窓の外にはアルテミスの姿があった。アルテミスは戦車のような見た目をしていたが、かなり巨大で、ちょっとした小山のようだった。
「システムをダウンさせる、誰か手伝ってくれ!」
「私がやるよ!」
メグとクロが制御装置を操作する。その間、僕たちは入り口を見張っていた。
ジリリリリと警報が鳴り響く。ついに気付かれたようだ。
「まだ時間がかかりそう!?」
「あと二分くらい……」
その時、アルテミスの主砲がこちらを向いた。そして、何やら不快な駆動音を鳴らし始める。
まさか、司令塔ごと僕たちを葬るつもりか!?
「まずいわよ、メグ! アルテミスがこっちを狙ってる!」
「遥斗、どうしよう!?」
ステラと美香に動揺が広がる。
「よし、システムダウン完了! 急いで脱出するよ!」
メグが叫んだ、その瞬間だった――。
アルテミスの不快な音がピタリと止み、主砲が放たれた。
凄まじい光を放つ弾頭が僕たちに向けて迫る。そして、僕たちの眼前は眩い閃光に覆い尽くされた。




