末路
王宮の四方から眩い光の柱が立ち上がる――その瞬間、僕と先生は不敵に笑った。
「なんだ、この光は!? なに笑っていやがる!?」
動揺するウラヌスの右腕を、僕はいとも簡単に跳ね飛ばした。
「なんだと……そんな馬鹿な!? その強さ、どういうことだ!」
ウラヌスは激痛に右肩を押さえながら、僕に叫ぶ。
「さあね、お前が弱くなったんじゃない?」
その言葉を聞いたウラヌスが、わなわなと怒りに震えた。
「舐めやがって、さっきまで逃げ回っていた分際で……!」
ウラヌスの左拳が僕に迫る。だが、完全に軌道を見切っていた僕は、それを紙一重で躱してみせた。
「遅いな。これがお前の本来の実力?」
見れば、ウラヌスの背後の暗黒のオーラが消え失せている。やはり外界から力を得ていたのだろう。
「俺は魔人王だ、最強なんだ!」
ウラヌスは上位魔法を連発するが、さっきまでとは違い、威力も精度も格段に低い。
「くそっ、何故当たらん!?」
僕は隙だらけのウラヌスの左腕も跳ね飛ばした。圧倒的な力の差に絶望し、膝を折るウラヌス。
僕たちの勝利だ――そう確信した、その時だった。ウラヌスの口からヤツの名前が飛び出した。
「デミウルゴス様! 俺に再び力を!」
ウラヌスは、すでに消滅したはずのヤツの名前を叫んだ。
「どういう意味だ!」
僕がウラヌスに詰め寄った瞬間――ウラヌスの身体が木端微塵に弾けた。
デミウルゴスが生きている……!? このクーデターの黒幕は、デミウルゴスなのか?
「どうやら、私たちの勝利のようだな……」
呆然とする僕に、先生がフラフラになりながらも近づいてきた。
「そう……ですね」
ウラヌスの野望は喰い止めたが、それ以上の問題が浮上してきた。――デミウルゴス。悪意の塊のような存在。ヤツの性格からして、必ず再び戦うことになるだろう。
僕は不安に駆られ、目の前の勝利の余韻に浸ることができなかった。
***
その後、魔人国はクーデターの後処理に追われていた。
新たなる魔人王に推挙されたのは、なんと四魔将の満場一致でブラーエ先生――もとい、プルートだった。
「俺は王とか柄じゃねぇし」
「私も仕える立場の方がいいです」
「興味なーし」
「私では力不足ですから」
四魔将はそれぞれ理由を付けて、先生に厄介な仕事を押し付けたようだ。
「仕方がないか。ただし、条件がある」
「条件?」
四魔将が首を傾げる。
「この子たちが卒業するまでは待ってくれ」
先生は最後まで、僕たちの先生でいたいようだ。微笑みながら僕たちの方を見つめていた。
先生にそこまで大切に思われていることが、たまらなく嬉しかった。
僕たちも、先生の言葉に思わず笑顔になった。
***
僕たちはそれから一週間ほど、魔人国に滞在した。
最終日の今日は、なんと四魔将や先生とともにピクニックだ。
「これが、魔人国の世界樹ですか。王国のものとほとんど変わりませんね」
圧倒されるような巨大な世界樹。空気中の魔力も心なしか濃く感じる。
「そうだね。ふっ、それにしても、フォーマルハウト君とこうしてピクニックに行くなんて、想像もつかなかったよ」
先生が自然な笑顔を浮かべる。けれど身体はボロボロのはずなのに、無理をして来たんじゃないかと少し心配になった。
「そんな顔をするな。前にも言ったが、私の生命力を甘く見るなよ」
先生は不安そうな僕の顔を見て察したのか、すかさず冗談で場を和ませる。そして真剣な表情になって僕を見つめた。
「フォーマルハウト君。君たちが来てくれなかったら、魔人国はウラヌスに完全に支配されていただろう。本当にありがとう」
先生は深々と頭を下げる。そんなに真剣に感謝されると、なんだか恐縮してしまう。
「先生は僕の大切な人ですから。大切な人たちを守る――それが僕の誓いですから」
先生は頭を上げ、僕に最高の笑顔を見せた。
「君たちは、私の自慢の生徒だ」
その言葉を聞いて、胸の奥が誇らしい気分で満たされていく。
魔人国を、先生を救えて、本当に良かった。
「あー! アスターくんが今度は先生とイチャついてる!」
メグの声が、和やかな空気を一変させた。
「ちょっと、アスター! 先生のことが、す、すすすす好きなの!?」
「先生だめー! 遥斗は私のなんだから!」
ステラと美香は動揺のあまり、とんでもないことを口走っている。
「あらあら、みんな仲良しね」
カレンは大人の余裕を感じさせる微笑みを浮かべている。アースの指導の賜物だろうか。
「ははははは!」
そんな賑やかな彼女たちを見て、僕と先生は同時に笑い出した。
こんな毎日が、永遠に続けばいいのに。
だが、ウラヌスの遺した言葉――デミウルゴスが生きている可能性は、僕の脳裏に強く焼き付いて離れなかった。




