魔将ウラヌス
僕たちが四魔将の信頼と絆を得たと確信した、その時だった。
突如として美香の左手が光を放ち始めた。僕たちが驚愕して美香の方を見つめると、彼女はかつての『聖女』の顔になっていた。
「これは、アマツの『疑似奇跡』……。信仰心――、いや、皆さんの信じる心が、私の力を覚醒させたのです」
疑似奇跡か。世界樹の時、アマツさんはすでに『七つの奇跡』を使い切っていたはずだ。ポラリス教団の彼女を信じる心が、世界樹を再生させたのだろうか……。
「もっとも、今の力では大した奇跡は起こせませんが……」
美香は左手を擦りながら、申し訳なさそうにしている。
「ブラーエ先生の怪我を治すことはできない?」
僕は美香に提案した。ウラヌスへの反撃に先生の力を借りることができれば、百人力だ。
美香の表情がパッと明るくなる。そして、右手で胸をポンと叩いた。
「それぐらいならできそう! お願い、ブラーエ先生の怪我を治して!」
美香の左手から光が消え、代わりに先生の足がぼんやりと光を帯びた。
「治っているな……」
先生が驚きつつ、ぽつりと呟いた。
「よし、これで戦力アップだな!」
「にわかには、信じがたいですが……」
「綺麗な光だったわねー」
「慈愛の賜物でしょうか……」
四魔将は、それぞれ違った反応を見せる。先生は美香に優しく微笑み「ありがとう」と一言告げてから、すぐに真剣な表情に戻った。
「さあ、これで盤面には駒が一つ増えたわけだが……マーキュリー、作戦を」
先生の指示を受け、マーキュリーが作戦を告げる。
「魔将と弟子で組んで、王宮の周りの四方を占拠します。我々が術を使う間の護衛を頼みます。そして、術が発動するまで、フォーマルハウト君とブラーエは王宮に乗り込み、ウラヌスの足止めを。術が発動すれば、我々の勝利は確実です」
つまり僕は、先生と組んでウラヌスと直接対峙するわけだな。責任重大だ。
僕がプレッシャーに押しつぶされそうになっていると、先生が肩を軽く叩いた。
「作戦通りにいけば、必ず勝てる相手だ。そう気負うな」
先生の言葉で、僕の緊張の糸が程よく解れていった。
「作戦決行は、今日の深夜。警備が手薄なうちに一気に叩くぞ!」
マーキュリーの号令に、僕たちは強く頷いた。
絶対に勝つ。そう心に誓って。
***
深夜になり、作戦が決行された。
僕たちは五組に分かれ、それぞれ持ち場へ急ぐ。裏路地を通り、最短距離で王宮を目指した。
音もなく王宮に忍び込む。クーデターを行った主戦派の魔人は、マーキュリーが流した「真実の中に偽情報を混ぜた噂」によって攪乱されていた。士気も、クーデター直後とは思えないほど低い。
「行くぞ、フォーマルハウト君。この先にウラヌスがいる」
先生に促され、僕はウラヌスの待つ、王宮の最深部に突入した。
「ネズミが紛れ込んだみたいだな……」
こいつがウラヌス……!?
ウラヌスはジュピターより小柄だが、爆発的な魔力を秘めていることが、空気の振動を通じてビリビリと伝わってくる。その禍々しい魔力は、あのデミウルゴスのものに酷似していた。
ウラヌスの背後に、暗黒のオーラが立ち込めている。見続けているとそのまま呑み込まれそうなほどにどす黒い。
「よく見たら、負け犬のプルートじゃないか。わざわざ殺されに戻って来たのか?」
ウラヌスが顔を歪めて笑い、先生を嘲笑う。
「私が何の勝算もなしに、お前に会いに来ると……?」
先生もウラヌスを見下した目で挑発する。その瞬間、ウラヌスの顔から余裕の色が消え失せた。
「そんな目をするな! 俺は魔人王だぞ! 小僧が一人増えたくらいで、俺に勝てるとでも思っているのか!」
先生は心底呆れた様子で、まるでゴミを見るような視線のまま言葉を続ける。
「魔人王がどこにいるんだ? 私には駄々をこねるガキしか見えないがね」
その言葉を聞いた瞬間、激昂したウラヌスが地を蹴った。
「死ね!」
「ふっ……」
僕と先生は、間一髪のところでウラヌスの拳を躱した。
こいつは強い……っ! 油断したら一瞬であの世行きだ。
僕は星霊術で身体と剣を限界まで強化した。そして、ウラヌスに一瞬で肉薄し、その喉元に一閃を放つ。
「ふっ、効かねぇよ、そんなもん!」
ウラヌスの反撃が僕に迫る。だが、その拳は僕に届く前に、先生の放った魔法によって軌道を逸らされた。
「私とも踊ってくれないか?」
先生は余裕綽々な表情で、さらにウラヌスを挑発する。その態度に、さらに激怒するウラヌス。
そうだ、今はまだ倒す必要はない。結界が発動するまで、時間を稼ぐんだ。
僕と先生は連携して、ウラヌスを翻弄する。痺れを切らしたウラヌスは上位魔法を連発して、僕たちを力任せに潰しにかかってきた。
「おいおい、王宮ごと破壊するつもりか? ウラヌス」
「うるせえ! さっさと、小僧もろとも死ね!」
ウラヌスが放つ多種多様な魔法。その圧倒的な手数の多さに、僕たちはジリジリと消耗させられていく。
「もらった!」
疲労し、一瞬動きの鈍った僕の眼前に、ウラヌスの拳が迫る。そして――。
「危ない!」
――先生が僕の盾になり、ウラヌスの拳を正面から受けた。先生はそのまま吹き飛び、壁に激しく叩きつけられる。
「先生!」
僕の叫びに、先生は血を吐きながらも「大丈夫だ」と不敵に笑った。
「ふん、手こずらせやがって。じっくり血祭りにしてやるぜ!」
ウラヌスは勝利を確信したのか、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。
――その時、王宮の四方から眩い光の柱が立ち上った。
僕と先生が、ウラヌスに対して不敵な笑みを返す。
さあ、反撃開始だ!




