師弟
ステラたち四人と、魔将四人がそれぞれ一対一で特訓を行うこととなった。
ステラにはマーズが、メグにはマーキュリーが、カレンにはアースが、そして美香にはヴィーナスがついて特訓を開始した。
「どこからでもかかってきな!」
マーズはよほど自信があるのか、構えることすらしない。それがステラの闘志に火をつけた。
「涼しい顔でいられるのも今のうちよ!」
ステラは星霊術で身体能力を強化し、一気に間合いを詰めて斬撃を放つ。しかしマーズは避けようともしない。ステラの剣は、マーズの肌に触れる寸前でピタリと止まった。
「殺す気で来い……!」
マーズが周囲の空気をビリビリと震わせるほどの殺気を放つ。ステラはたまらず距離を取り、「そういうこと……」とぽつりと呟いて、その表情を覚悟の決まった真剣なものへと変えた。
「行くわ……っ!」
ステラが再び猛スピードで接近し、今度は首元を狙って鋭い斬撃を放つ。だが、マーズはそれを大剣でやすやすと受け流した。その瞬間、ステラは宙へと舞い、逆方向から斬りかかる。マーズは見切ったと言わんばかりに、最小限の動きでそれを躱した。
「まだまだ……っ!」
ステラは空中で身体を一回転させ、火の中位星霊術をマーズに向けて乱射する。しかし、その猛攻すらマーズには一切当たらない。
そして――着地したステラの喉元へ、マーズの大剣が一振りのうちに突きつけられた。
「くっ、私の負けね……」
俯いて悔しがるステラの肩を、マーズが豪快に叩いた。
「お前の欠点は、切羽詰まると星霊術の正確さを欠くところだな! 他はなかなか良かったぜ」
弱点を見事に指摘され、ステラは驚きを隠せない様子で思わず叫んだ。
「師匠……!」
「し、師匠……!? そんな柄じゃねぇが……まあ、まだまだ時間はあるからな。みっちり鍛えてやる、覚悟しとけ!」
「押忍、師匠!」
ステラが燃えている。マーズに任せておけば、彼女の強さは格段に上がるだろう。
一方、こちらはメグとマーキュリー。戦闘ではなく何やら話し合いをしているようだ。
「戦闘において、こちらの力が劣る場合、君ならどうする?」
「うーん、弱点を突くとか?」
「まあ、惜しい。正解は『相手の嫌がることを徹底的にやる』さ。そうしてできた隙を狙うんだよ」
マーキュリーの眼鏡がキラリと光り、不敵にニヤリと笑う。
「ふふふ、戦闘では『何でもあり』ということですね、師匠!」
メグも彼に合わせるようにニヤリと笑みを浮かべた。……ちょっと怖いな。
「師匠、か。ふっ……じゃあ、今から僕と模擬戦闘をしよう。君の実力をみせてもらうよ」
マーキュリーに促され、二人の戦闘が始まった。何でもありの戦いという言葉に、僕は少し警戒しながらその様子を眺めていた。
――すると突然、背後から誰かに抱き着かれた。この柔らかい感触は……。
「遥斗!」
「美香、何をやってるんだ?」
みんな修行の最中だぞ、ふざけている場合じゃない――と言葉が喉元まで出かかった、その時だった。
「やっぱり、女の子は好きな人と一緒にいる時が一番強くなれるのよー」
ヴィーナスの声がした。真剣な修行の最中なのだから真面目にやってほしいのだが……。
「この子の力、凄いわよ。『愛の力』……というよりは『絆の力』ね。他者の想いを一つに束ねることができるみたい……」
ヴィーナスが僕の耳元で囁く。そんな様子を見て、美香が頬をぷくっと膨らませた。
「ヴィーナスさん、遥斗に近づきすぎー! だめー!」
慌ててヴィーナスを引きはがす美香。それにしても『想いを束ねる』か……。
「ははは、じゃあ今度は向こうで戦闘訓練しましょうか」
「はーい、ししょー」
美香とヴィーナスは賑やかに離れていった。
今度はカレンの方へ目を向ける。……なぜか、カレンとアースは抱き合っていた。
「誰かを『守りたい』と強く思う心が、より強固な結界を作り出すことができるのです」
「だんだん、掴めてきた気がします、師匠」
結界の星霊術の特訓だろうか。思えば、僕たちもかつて結界には苦労させられた思い出がある。
ステラやアランと行った実戦訓練。あの時は分断されて本当に大変だった。そういえば、あの後は連携訓練も結局できないままだったな。
(そうだ、今は時間があるし、タイミングを見てみんなと連携訓練をしておこう)
「みんな飲み込みが早いな。正直、悔しいくらいだよ」
そんなことを考えていると、いつの間にかブラーエ先生が隣に来ていた。
「ブラーエ先生も、本当は教えたくてウズウズしているんじゃないですか?」
僕が冗談めかして言うと、先生は彼女たちを優しい目で見つめた。
「……大事な教え子を盗られたみたいで、少し複雑な気分だな」
先生はそう漏らすと、僕を見て不敵に笑った。
***
激しい修行を終え、四人とも見違えるほどに成長を遂げた。魔将たちの指導は、それほどまでに有用なものだったのだ。
「そういえば先生、この魔法を見てくださいよー」
メグが隠し通路で見つけた魔法書のメモを先生に手渡す。先生はそれを注意深く確かめた。
「これは……結界の術式だな。しかも、魔将クラスが四人がかりでようやく発動できる規模の魔法だ……」
「何の結界なんですか?」
僕が問いかけると、先生とメグは相談し始めた。しばらくして、結論が出たようだ。
「メグ君の遺物の知識。そこから導き出した結論だが、これは外の世界――つまり外界からの影響を遮断する結界らしい」
「外界ですか……」
アメオ様のいるような世界のことだろうか……?
先生は言葉を続けた。
「私の見立てでは、ウラヌスはその外界から力を得ている可能性が高い。ヤツの力が突如として跳ね上がったことにも、これなら説明がつく」
「つまり、この結界を使えば……」
先生はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「ウラヌスにも余裕で勝てる、ということだな」
話を聞きつけたのか、そこへ四魔将が現れた。全員、やる気に満ちあふれた表情をしている。
「これでウラヌスに一泡吹かせてやれるぜ!」
「反撃の時ですね」
「美しい勝利をこの手に掴むわ」
「魔人国に平穏が戻るのですね」
――頼もしい四魔将の協力と信頼を得て、ウラヌスへの反撃がいま、始まる!




